毎日がプリンセスパーティー

「「ハートフラワー?」」

タネタネの国に遊びに来ていたファインとレインはゴーチェルから『ハートフラワー』なるものの名前を聞いて声を揃えて首を傾げた。

「花びらが真っ赤でハートの形をしていて、それを好きな人に渡すと恋が叶うっていう噂があるの」
「本当!?ねぇそれってどこにあるの!!?」

恋のおまじないと聞いて黙っていられるレインではない。
興奮しながら瞳を輝かせて聞くもハーニィが困り顔で首を横に振った。

「ハートフラワーはどこか特定の場所に咲いてる訳じゃないの。だから見つけるのは簡単じゃないわ」
「そうなのね・・・」
「でもさ、アタシ達こうやって色んな所に行ってるからひょっとしたら偶然見つけるかもよ?」
「それもそうね!これからは他の国に行く時はハートフラワーも咲いてないか探しましょう!」
「うん!」
「頑張ってね、二人共。応援してるわ」

イシェルがファインとレインに声援を送ると二人は「ありがとう!」と元気よくお礼を述べるのだった。






そして翌日。

「見て!ハートフラワーだわ!!」
「本当だ!しかも二つもある!!」

宝石の国に行く道すがら、二人は偶然も偶然、ハートフラワーを二つも見つけた。
ゴーチェルの言う通り花びらは真っ赤でハートの形をしていてとても可愛らしかった。
二人はそれを躊躇いなく摘み取るとレインがプーモを見て確認をする。

「ねぇプーモ、このお花ってハートフラワーよね?」
「間違いありませんでプモ。花びらは赤く、形もハートでプモ」
「やったわ~!!これをブライト様に渡せば私はブライト様と両想いになれるのね!!」
「ですがそのまま手渡しても埋もれてしまいそうでプモ・・・」

とある一群を見てプーモがげんなりしたように呟く。
見れば偶然城下に来ていたブライトが沢山の女性に囲まれて花束を渡されていた。
その姿には流石のレインも呆然として口を開いたまま固まり、隣に立つファインは困ったように眉根を寄せる。

「ちょっと工夫して渡さないとダメそうだね」
「ですが包んだりリボンを付けた程度ではダメでプモ。もっと目立つようにしなければ」
「う~ん、フラワーボックスにして贈るのはどうかな?でも他のお花を入れると折角のハートフラワーが埋もれちゃうから代わりにお菓子を入れるの!」
「それではフラワーボックスではなくてお菓子ボックスでプモ」
「でもその案、使えるかもしれないわ!」

漸く動き出したレインがファインの案に賛同する。
意外なその賛同にプーモは驚いた。

「れ、レイン様、本当にお菓子ボックスを贈るのでプモ?」
「ファインが言ったような物を少しアレンジしたものよ。ねぇファイン、チョコレートが美味しいお店ってどれかしら?」
「あそこのお店だよ!」
「あそこね、ありがとう!ちょっと待ってて!」

レインはファイン一押しのお店目掛けて一目散に走り去る。
その背中を見送って一分後、お店の扉が開いてスキップをしながらレインは戻って来た。
手にリボンのラッピングが施された箱を手に持って。

「お菓子を買ってどうするの?」
「こうするのよ」

レインは手に持っていたハートフラワーの茎をリボンの下に滑り込ませて優しくリボンに絡ませた。
そして絡ませた部分はハートフラワーで上手く隠してチョコレートの箱に可愛らしい飾りを作ってみせた。

「どうかしら?」
「うんうん!良いと思うよ!」
「素晴らしいでプモ!」
「ありがとう!これなら他の人と違うし目立つしブライト様の手元に残る事間違い無しね!早速渡してこなくっちゃ!二人共行きましょう!」
「あ、アタシはいいや!ちょっとブラブラしたいしさ!」
「そう?」
「そんな訳だからプーモ、レインと行ってきてくれる?」
「分かりましたでプモ」
「それじゃあこのオモチャ屋さんの前で待ち合わせしましょう」
「うん!頑張ってね!」

ファインはプーモと共にブライトを囲む女性の輪に飛び込んでいくレインに手を振るとホッと息を吐いた。
一緒にブライトの所に行かなかったのには理由があった。

(エクリプス、来てるかな?)

謎の少年、エクリプス。
ファインとレインを付け狙う彼にファインは密かに想いを寄せていた。
しかしこのハートフラワーをプレゼントしたいと言えば絶対にレインとプーモに反対される為、何とかして一人になる口実を作ったのだ。

(あっちにいるかな?)

もたもたしている時間はない。
早く渡して戻ってこなければレインとプーモにエクリプスに会おうとしているのがバレてしまう。
ファインは自分の勘を頼りにエクリプスがいそうな場所を求めて歩き出した。
建物の陰や路地裏などを覗き見るもどこにもその姿はなく。
今日は来ていないのかと諦めかけた頃、ファインはとある動物を見つける。

「あ、レジーナ!」

エクリプスの相棒・レジーナが人気の少ない木の下で待機しており、ファインはすぐに駆け寄って頭を撫でてあげた。

「久しぶり、レジーナ!元気にしてた?」

返事をするようにレジーナはファインに頬擦りをする。
ファインはくすぐったそうに笑うとキョロキョロと辺りを見回した。

「ねぇレジーナ、エクリプスは一緒じゃないの?」

しかしレジーナは首を横に振る。
どうやら今は一緒ではないらしい。
どうしたものかと思案しているとレジーナがファインの持っているハートフラワーを食べようとして、ファインは慌ててそれを高く持ち上げて遠ざけた。

「わぁ~ダメダメ!これは餌じゃないよ!エクリプスへのプレゼントなんだから!」

言葉を理解したのか、それともくれないと理解したのか、レジーナはそれ以上ハートフラワーを追いかける事はしなかった。
とりあえずの危機が去った事に安心しながらファインは改めてどうするかを考えた。
レジーナの手綱に付けても気付かれない可能性が高い上に手綱を振るったり走り中で花が散ってしまう恐れがある。
鞍の上に置こうかとも思ったがエクリプスが戻ってくる間に滑り落ちてしまうだろう。
そうなると残る候補はあと一つ。

「ここ・・・しかないよねぇ」

レジーナの餌を入れている小さな入れ物。
こちらもこちらで見つけてもらえる可能性は低いが安全な事に変わりはない。
それにたとえ気付かれなくてもエクリプスの傍で静かに寄り添ってくれるならばそれでいい。
密かに想いを寄せているものの、まだこれを恋と呼んでいいか分からないでいるファインにはそのくらいが丁度良かった。

「じゃあね、レジーナ。エクリプスに宜しくね」

ファインは最後にレジーナの頭を軽く撫でると待ち合わせのオモチャ屋へと戻って行った。
それから数十秒経過した所で近くの建物に隠れていたエクリプスが姿を現し、レジーナの元に歩み寄った。

「アイツ、行ったか?」

主人の問いにレジーナは素直に頷く。
相変わらず賢い相棒である。

「アイツ、何を入れてったんだ?」

遠くから様子を窺っていた為にファインがエサ入れに何を入れたのかまでは把握出来ていなかった。
なので蓋を開けて中身を確認し、その中に入っていたハートフラワーを見つけてエクリプスは首を傾げる。

「花・・・?」

知識豊富なエクリプスでもハートフラワーについては知らなかった。
見た事もない珍しいその花に知識欲を刺激されたものの、それでも何故、唐突に花を贈られたのかエクリプスにはその意味を知る事が出来なかった。

「・・・相変わらず訳の分からない奴だ」

溜息を吐いてハートフラワーをエサ入れの中に戻す。
その直後に背後で神秘的な音が聞こえたので振り返ってみると上空におひさまの国の紋章が現れ、ふたご姫と精霊のプーモがワープする瞬間を見た。
恐らく用事を済ませておひさまの国に帰ったのだろう。

「今日はここまでだな」

一人呟いてエクリプスはレジーナに跨り、故郷の月の国への帰還した。


その後、ハートフラワーについて調べた彼が撃沈したのは言うまでもない。








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