かくれんぼの魔女
シンディーに帰りの馬車を出してもらった四人は馬車に揺られながらロイヤルワンダープラネットを目指していた。
ファインの向かい側にはシェイドが、レインの向かい側にはブライトが座っている。
「そういえばシンディーさんが提示した次のかくれんぼの内容にアッドが泣いてたよね」
「ええ。確か『キリキリ星で一日以内にシンディーさんを見つける事。再チャレンジはいつでも可能』っていう内容だったと思うけど」
「キリキリ星は一年中晴れる事のない霧に包まれた星だ」
「しかも霧が深くて底なし沼とか得体の知れない生物が生息してたりで結構危険な星だって噂があったと思うけど」
「「うわぁ・・・」」
お別れの時にアッドから哀愁を感じていたファインとレインだったがその原因を知って同情の籠った声を漏らす。
かなり厳しい条件にシンディーは本当にアッドと恋愛する気があるのだろうかと疑問に思う二人だった。
「そういえば二人はシンディーさんから手紙を貰ってたよね?中身はなんて書いてあるんだい?」
「あ、そういえば」
「確認しなきゃね」
レインは封筒を開けると二つに折り畳まれた便箋を開き、ファインがそれを横から覗く。
しかしその内容は到底口に出来るものではなく、二人は顔を赤らめると手紙を引っ込ませて誤魔化した。
「たたたた大した事は書いてないわ!」
「そうそう!負けて残念だったね~みたいな!?」
「嘘付け」
「ううう嘘じゃないよ!?」
「あ、そういえばシンディーさんからケーキについて何か書いてあったような」
「ええっ!?ちょっと見せて!?」
「はい」
レインは便箋の片方を持つと便箋の一番下に描かれてるメモ書きをファインに見せた。
それに目を走らせたファインは内容を理解すると涙を流して項垂れた。
「うぅ・・・アタシのケーキ・・・」
「なんて書いてあったんだ?」
「シェイドの作ったケーキはシンディーさんとプリンスアッドが美味しくいただきますって」
「ああ、アレか」
「ケーキぃ・・・アタシのケーキぃ・・・」
「よしよし、泣かないの。恨むならシェイドを恨みなさい。汚い手を使ってファインを罠に陥れようと悪意を込めてケーキを作った極悪人なんだから」
「一番悪意を込めてるのはお前だろ」
「大丈夫だよ、ファイン。シェイドがまたケーキを作ってくれるって」
「はぁっ!?」
「本当!!?」
シェイドが驚くのとファインが涙を止めて期待を込めた瞳で見上げるのはほぼ同時だった。
しかしブライトは悪びれなく続ける。
「別にいいだろう?ケーキの一つや二つくらいまた作ったって」
「だからって勝手に決めるな!」
「シェイド、ケーキ作ってくれないの・・・?」
しょんぼりと悲しそうで寂しそうなファインの声音にシェイドは内心狼狽える。
それと同時にシェイドは霧の中で聞いたファインの言葉を思い出す。
『シェイドの作ったバナナムーンケーキがいいんだもん』
『アタシ、あれだけは特別だなぁ』
ファインがこうして残念そうにするのは単純にケーキが食べられないのと同時に『シェイドが作ったケーキ』が食べられないからだろう。
正直に言うとシェイド自身、満更でもない。
しかし今回散々振り回された事を考えると説教やペナルティを出したいくらいだった。
(・・・まぁ、それとこれは別にしてやってもいいか)
「・・・・・・今度、作ってやってもいいぞ」
「本当!!?」
ボソッと呟けば途端に希望を得たようなキラキラとした笑顔に変わるファインは相変わらず現金である。
しかしそんな彼女に惹かれたのは自分だ、しょうがない。
「絶対だよ!約束だよ!」
「ああ、分かってる」
「ゆびきりしよ!ゆびきり!」
小指を差し出してくるファインにシェイドは仕方ない、といった風を装いながら小指を同じように差し出してファインのそれにそっと絡める。
「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはーりせんぼんのーます!ゆびきった!」
ファインの小指が離れるや否やシェイドはすぐに手を引っ込めて顔を背けた。
じんわりと小指に残る温度がシェイドの心臓を煩く鳴らす。
喜びを露わにするファインの姿がそれを助長させた。
「撮れたかい?レイン」
「ええ、バッチリですわ、ブライト様」
「おい、何撮影してるんだ」
「これは次の学園ほのぼのニュースで取り上げるべき案件ね」
「ふざけるな!」
怒るシェイドをブライトが「まぁまぁ」と宥めながら遮り、レインはそそくさとビデオカメラを背中に隠した。
「ところでレイン、今度音楽室を借りてピアノの演奏をしようと思うんだけど聴きに来ないかい?」
「いいんですか!?」
「勿論だよ。レインに聴いて欲しいんだ」
そう、ほかならぬレインに。
ブライトは心の中でそう付け足す。
『私はもう一度ブライト様のピアノの演奏を聴きたいわ』
『でも途中からだったのが残念ね。また最初から聴きたいわ』
ブライトの胸に霧の中で聞いたレインの言葉が蘇る。
演奏を最初から聴けなくて残念そうにするレイン。
そんなレインの為なら何度だってピアノを弾くと誓ったあの言葉は嘘じゃない。
ブライトは本当にレインの為なら何でもしてあげたい気持ちだった。
「じゃ、じゃあ、あの!わ、私も・・・ゆびきりしてもらっていいですか!?」
「いいよ」
レインが差し出した小指にブライトはするりと自分の小指を絡ませるとレインと共に歌を口ずさむ。
「「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはーりせんぼんのーます!ゆーびきった!」」
「キャー!ブライト様とゆびきりしちゃったー!」
頬を赤らめてくねくねと体を揺らしながら喜ぶレインにファインは引き気味に「落ち着いて・・・」と宥める。
対するブライトはレインと絡めた小指をもう片方の手で大事そうに包んだ。
離れてもなお残る温度がブライトの心を温かくする。
さて、話がまとまった所でシェイドとブライトは纏う空気を甘いものから厳しいものに変えると冷たく二人を見据えた。
「ところでブライト、二人への罰ゲームは何にするか決めたか?」
「そりゃあ勿論!」
「「え?罰ゲーム・・・?」」
それまでの幸せの雰囲気から一転。
ファインとレインは目をぱちぱちと瞬かせると『罰ゲーム』という言葉を繰り返すように呟いた。
するとシェイドの目は鋭く細められ、ブライトの浮かべる笑顔に黒い影が差した。
「今回はあのかくれんぼの魔女が勝手に巻き込んできたとはいえ、ゲームはゲームだった訳だ」
「ゲームに負けたら当然罰ゲームが必要だよね」
「そ、れ、は・・・」
「あ、の・・・」
嫌な予感がしてファインとレインは滝のように汗をかく。
しかしシェイドもブライトも容赦はしなかった。
「知らない奴についていった事、散々逃げ回った事、およそプリンセスがやる事とは思えないお転婆をやらかした事、これらの迷惑をかけた分だけペナルティも付けさせてもらうぞ」
「散々振り回されたり肝を冷やされたり驚かされたり僕達大変だったんだからね」
「覚悟しろ。今回の騒動は見逃してやらないからな」
「それに僕達言ったよね、許さないって」
「「ご、ごめんなさ~い!!」」
雪がしんしんと降り積もるロイヤルワンダープラネットの夜空にふたご姫の謝罪がどこまでも透き通るように響き渡るのだった。
『ファインとレインへ
かくれんぼお疲れ様。後半戦は勝てなくて残念だったわね。でもそれでいいと言ったのにはちゃんと理由があるの。それはね、貴女たちにとって特別な人がちゃんと貴女たちを見つけられたから。『とっておきのご褒美』はもしも貴女たちの特別な人が貴女たちを最後まで見つけられなかった時の為の『恋のおまじない』をかけてあげる予定だったの。でも舞踏会で人混みに邪魔されようとも、私達が全力で逃げても、たとえ霧の中に紛れても諦めず最後まで貴女たちの特別な人は貴女たちを見つけて捕まえたわ。だから『恋のおまじない』は必要ないってこと。だってこんなにも愛してもらっているのだから。これからも特別な人と仲良くね。 シンディーより
P.S.
ファインの特別な人が作ったケーキは私とアッド様が責任をもって食べておくわね』
END
ファインの向かい側にはシェイドが、レインの向かい側にはブライトが座っている。
「そういえばシンディーさんが提示した次のかくれんぼの内容にアッドが泣いてたよね」
「ええ。確か『キリキリ星で一日以内にシンディーさんを見つける事。再チャレンジはいつでも可能』っていう内容だったと思うけど」
「キリキリ星は一年中晴れる事のない霧に包まれた星だ」
「しかも霧が深くて底なし沼とか得体の知れない生物が生息してたりで結構危険な星だって噂があったと思うけど」
「「うわぁ・・・」」
お別れの時にアッドから哀愁を感じていたファインとレインだったがその原因を知って同情の籠った声を漏らす。
かなり厳しい条件にシンディーは本当にアッドと恋愛する気があるのだろうかと疑問に思う二人だった。
「そういえば二人はシンディーさんから手紙を貰ってたよね?中身はなんて書いてあるんだい?」
「あ、そういえば」
「確認しなきゃね」
レインは封筒を開けると二つに折り畳まれた便箋を開き、ファインがそれを横から覗く。
しかしその内容は到底口に出来るものではなく、二人は顔を赤らめると手紙を引っ込ませて誤魔化した。
「たたたた大した事は書いてないわ!」
「そうそう!負けて残念だったね~みたいな!?」
「嘘付け」
「ううう嘘じゃないよ!?」
「あ、そういえばシンディーさんからケーキについて何か書いてあったような」
「ええっ!?ちょっと見せて!?」
「はい」
レインは便箋の片方を持つと便箋の一番下に描かれてるメモ書きをファインに見せた。
それに目を走らせたファインは内容を理解すると涙を流して項垂れた。
「うぅ・・・アタシのケーキ・・・」
「なんて書いてあったんだ?」
「シェイドの作ったケーキはシンディーさんとプリンスアッドが美味しくいただきますって」
「ああ、アレか」
「ケーキぃ・・・アタシのケーキぃ・・・」
「よしよし、泣かないの。恨むならシェイドを恨みなさい。汚い手を使ってファインを罠に陥れようと悪意を込めてケーキを作った極悪人なんだから」
「一番悪意を込めてるのはお前だろ」
「大丈夫だよ、ファイン。シェイドがまたケーキを作ってくれるって」
「はぁっ!?」
「本当!!?」
シェイドが驚くのとファインが涙を止めて期待を込めた瞳で見上げるのはほぼ同時だった。
しかしブライトは悪びれなく続ける。
「別にいいだろう?ケーキの一つや二つくらいまた作ったって」
「だからって勝手に決めるな!」
「シェイド、ケーキ作ってくれないの・・・?」
しょんぼりと悲しそうで寂しそうなファインの声音にシェイドは内心狼狽える。
それと同時にシェイドは霧の中で聞いたファインの言葉を思い出す。
『シェイドの作ったバナナムーンケーキがいいんだもん』
『アタシ、あれだけは特別だなぁ』
ファインがこうして残念そうにするのは単純にケーキが食べられないのと同時に『シェイドが作ったケーキ』が食べられないからだろう。
正直に言うとシェイド自身、満更でもない。
しかし今回散々振り回された事を考えると説教やペナルティを出したいくらいだった。
(・・・まぁ、それとこれは別にしてやってもいいか)
「・・・・・・今度、作ってやってもいいぞ」
「本当!!?」
ボソッと呟けば途端に希望を得たようなキラキラとした笑顔に変わるファインは相変わらず現金である。
しかしそんな彼女に惹かれたのは自分だ、しょうがない。
「絶対だよ!約束だよ!」
「ああ、分かってる」
「ゆびきりしよ!ゆびきり!」
小指を差し出してくるファインにシェイドは仕方ない、といった風を装いながら小指を同じように差し出してファインのそれにそっと絡める。
「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはーりせんぼんのーます!ゆびきった!」
ファインの小指が離れるや否やシェイドはすぐに手を引っ込めて顔を背けた。
じんわりと小指に残る温度がシェイドの心臓を煩く鳴らす。
喜びを露わにするファインの姿がそれを助長させた。
「撮れたかい?レイン」
「ええ、バッチリですわ、ブライト様」
「おい、何撮影してるんだ」
「これは次の学園ほのぼのニュースで取り上げるべき案件ね」
「ふざけるな!」
怒るシェイドをブライトが「まぁまぁ」と宥めながら遮り、レインはそそくさとビデオカメラを背中に隠した。
「ところでレイン、今度音楽室を借りてピアノの演奏をしようと思うんだけど聴きに来ないかい?」
「いいんですか!?」
「勿論だよ。レインに聴いて欲しいんだ」
そう、ほかならぬレインに。
ブライトは心の中でそう付け足す。
『私はもう一度ブライト様のピアノの演奏を聴きたいわ』
『でも途中からだったのが残念ね。また最初から聴きたいわ』
ブライトの胸に霧の中で聞いたレインの言葉が蘇る。
演奏を最初から聴けなくて残念そうにするレイン。
そんなレインの為なら何度だってピアノを弾くと誓ったあの言葉は嘘じゃない。
ブライトは本当にレインの為なら何でもしてあげたい気持ちだった。
「じゃ、じゃあ、あの!わ、私も・・・ゆびきりしてもらっていいですか!?」
「いいよ」
レインが差し出した小指にブライトはするりと自分の小指を絡ませるとレインと共に歌を口ずさむ。
「「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはーりせんぼんのーます!ゆーびきった!」」
「キャー!ブライト様とゆびきりしちゃったー!」
頬を赤らめてくねくねと体を揺らしながら喜ぶレインにファインは引き気味に「落ち着いて・・・」と宥める。
対するブライトはレインと絡めた小指をもう片方の手で大事そうに包んだ。
離れてもなお残る温度がブライトの心を温かくする。
さて、話がまとまった所でシェイドとブライトは纏う空気を甘いものから厳しいものに変えると冷たく二人を見据えた。
「ところでブライト、二人への罰ゲームは何にするか決めたか?」
「そりゃあ勿論!」
「「え?罰ゲーム・・・?」」
それまでの幸せの雰囲気から一転。
ファインとレインは目をぱちぱちと瞬かせると『罰ゲーム』という言葉を繰り返すように呟いた。
するとシェイドの目は鋭く細められ、ブライトの浮かべる笑顔に黒い影が差した。
「今回はあのかくれんぼの魔女が勝手に巻き込んできたとはいえ、ゲームはゲームだった訳だ」
「ゲームに負けたら当然罰ゲームが必要だよね」
「そ、れ、は・・・」
「あ、の・・・」
嫌な予感がしてファインとレインは滝のように汗をかく。
しかしシェイドもブライトも容赦はしなかった。
「知らない奴についていった事、散々逃げ回った事、およそプリンセスがやる事とは思えないお転婆をやらかした事、これらの迷惑をかけた分だけペナルティも付けさせてもらうぞ」
「散々振り回されたり肝を冷やされたり驚かされたり僕達大変だったんだからね」
「覚悟しろ。今回の騒動は見逃してやらないからな」
「それに僕達言ったよね、許さないって」
「「ご、ごめんなさ~い!!」」
雪がしんしんと降り積もるロイヤルワンダープラネットの夜空にふたご姫の謝罪がどこまでも透き通るように響き渡るのだった。
『ファインとレインへ
かくれんぼお疲れ様。後半戦は勝てなくて残念だったわね。でもそれでいいと言ったのにはちゃんと理由があるの。それはね、貴女たちにとって特別な人がちゃんと貴女たちを見つけられたから。『とっておきのご褒美』はもしも貴女たちの特別な人が貴女たちを最後まで見つけられなかった時の為の『恋のおまじない』をかけてあげる予定だったの。でも舞踏会で人混みに邪魔されようとも、私達が全力で逃げても、たとえ霧の中に紛れても諦めず最後まで貴女たちの特別な人は貴女たちを見つけて捕まえたわ。だから『恋のおまじない』は必要ないってこと。だってこんなにも愛してもらっているのだから。これからも特別な人と仲良くね。 シンディーより
P.S.
ファインの特別な人が作ったケーキは私とアッド様が責任をもって食べておくわね』
END