毎日がプリンセスパーティー

「うっ・・・ぅぅ・・・レイン・・・」

夜、涙の滲む声が聞こえてふと目を覚ます。
気配に敏感で眠りが浅いシェイドはすぐに起き上がると声の主―――先日の結婚式で妻となったファインを見やる。
ファインは自分に背中を向けて寝ており、とめどなく涙を溢れさせては枕を濡らしていた。
そしてしきりにファインの最愛の片割れであるレインの名前を呟いていた。

「ファイン、ファイン」

躊躇う事なくシェイドはファインの肩を掴んで優しく揺らす。
何度か揺らすと濡れた長い睫毛がピクリと動き、それから涙で潤む赤い瞳が開かれてこちらを振り返った。

「ん、ぁ・・・あ、れ・・・シェイド・・・?」
「大丈夫か?」
「なにが・・・?」
「また泣いてた」
「えっ!?ウソッ!?」

ファインは慌てて起き上がるとすぐに自分の目元を拭った。
そして涙の濡れた感触を指先に苦笑いを溢す。

「あ、はは・・・また泣いちゃってたんだ・・・」
「しかもまたレインの名前を呼びながら泣いてたぞ」
「・・・そっか・・・」

寂しそうに小さく笑ってファインは俯く。
ファインは生まれた時からずっとレインと一緒で仲良く過ごして来た。
それこそ楽しい時も辛い時も星や宇宙の命運がかかっている時でもどんな時でも一緒だった。
けれど大人となったファインはシェイドの下に、レインはブライトの下に嫁いだ。
念願叶った一途に想い続ける人との結婚。
王族なので当然国を挙げての式となり、各国のプリンセスやプリンスは勿論、民からも大いに祝福された。
勿論ファインとレインも幸せで胸がいっぱいだった。
しかしそれらの幸せと引き換えに失ったのが『姉妹として過ごす時間』である。
幼い頃はその時間は無限に続くものだと思っていた。
けれど大人になっていくにつれ、時間は無限ではなく有限と知り、結婚するまでの間は一緒にいられる時間を大切にして過ごした。
式を挙げてそれぞれの下に行った後も寂しくて泣いたが、いつまでも泣いている訳にはいかない、もう泣かないと決めた。
決めた筈なのに結局また泣いてしまっているようである。
しかも寝ている時に無意識に。

「どんな夢を見ていたんだ?」
「ううん、覚えてない」
「そうか。だがその様子だとレインと離れる夢を見たんだろう。覚えてない方がいいかもしれないな」
「そうだね・・・」

寂しそうに、そして頼りなさげに頷くファインにシェイドは「仕方ない」と心の中で苦笑すると腕を広げた。

「ファイン、こっちに」
「う、うん・・・!」

途端に顔を赤らめて羞恥心から躊躇いがちに腕の中に体を預けてくるファイン。
付き合い始めた頃は手を繋ぐ事さえ恥ずかしがって逃げていてばかりだったのに、こうして恥ずかしそうにしながらも体を預けてこれるようになったのはかなり前進したと言えよう。
シェイドはファインを優しく抱き締めるとあやすようにポンポンと背中を叩く。

「今度、宝石の国に行く用事がある。ファインも一緒に行こう」
「うん。ありがとう、シェイド・・・明日もお仕事で大変なのに起こしてごめんね」
「お前が謝る事じゃない。それに俺にも責任がある」
「え?何で?シェイドは何も悪くないよ?」
「お前がレインを思い出して寂しさで泣いてしまう程俺の愛情が足りてないって事だ。俺で満たしてやれば寂しがってる暇もないだろ?」
「あ、あの、シェイーーー」

瞬間、ベッドにボフンと押し倒されて組み敷かれる。
逃げ惑う手はあっという間に絡め取られてしまう。
そして視界いっぱに広がるはそれはそれは楽しそうに意地悪く笑うシェイドの顔。
ファインは顔を引き攣らせながら最後の抵抗を試みる。

「シェ、シェイド、明日もお仕事だし・・・」
「中途半端に起こされると上手く寝られないんだ。仮に寝られたとしても地味に引き摺る事が多い」
「で、でも今からしても時間はあまり―――」
「確かに十分とは言えないな」
「ほら!」
「だから明日の夜もやるぞ」
「ええっ!!?」
「当たり前だ。こんな短時間で満足出来る訳がないだろ」
「だだだだからってシェイ―――」

翌日の夜、本当に第二ラウンドが開始されるのであった。







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