毎日がプリンセスパーティー
本日は月の国でパーティーが開かれる事となった。
招待されたファインはミルキーと共に早速料理に飛びつき、その間レインはブライトとの歓談に夢中になっていた。
ちなみにシェイドはというと、主催側という事もあって招待客の対応に追われていた。
ミルキーはプリンセスであるものの、まだ幼いという事で対応の必要はないと言われている事もあってファインと共に自由な時間を満喫するのだった。
もっとも、シェイドからあるお願いをされている事もあって対応の必要はないと言われていたのだが。
「ん~!お肉美味しい~!」
「ほっぺが落ちちゃう~!」
二人揃って頬に手を当てて柔らかくジューシーなお肉の味に蕩ける。
最早見慣れた光景に誰も気にする者はいなかった。
「こう美味しいとワインが飲みたくなっちゃうよ~!すいません、赤ワインを頂いてもいいですか?」
「どうぞ、プリンセス様」
ファインはたまたま通りかかったボーイに赤ワインを注文するとボーイはトレイの上に乗せていたグラスを一つ手に取り、それをファインに渡した。
「ありがとうございます」と、ファインは軽く礼を述べると早速グラスを傾けてワインを口の中に流し入れた。
「ふぅ・・・!やっぱりお肉には赤ワインだね~!」
「そうなの?」
「うん!あのね、お肉は赤ワインと相性が良くてお魚は白ワインと相性が良いんだよ!」
「ふ~ん。いいな~」
「ミルキーも大人になったら飲めるようになるから大丈夫だよ」
「ファイン、その時は一緒に飲んでくれる?」
「もっちろんだよ!それで次は何食べる?」
「あれにしましょう!」
別のテーブルにある料理を指差してファインと共にそちらへ移動する。
食べたい料理があったから移動するのは事実だったがそれとは別にファインに近付こうとする貴族の男性がいた為、それから逃げる目的もあった。
そしてそれこそがシェイドからお願いされた事である。
その後もミルキーはファインに近付こうとする男性に気付いてはテーブルを移動していたがその合間にファインがワインを沢山飲んでしまい、とうとう移動が難しくなって男性の接近を許してしまう。
「えへへ、のみすぎちゃった~」
「大丈夫でございますか?プリンセスファイン様」
「ファインの事ならご心配なく。私が見ていますので」
ぴしゃりと跳ねのけるようにしてミルキーは語気を強くして言い放つ。
しかし男はミルキーを子供と舐めてかかっているのか余裕の態度で言い返してくる。
「ですがここまで酔っていてはプリンセスミルキー様の手に余りましょう。それではお料理に手を付けられますまい。私がファイン様を介抱致しますのでミルキー様は―――」
「結構です!」
「まぁまぁミルキーおりるいて・・・あの、アタシはだいじょーぶれすから・・・ミルキーとへやにいきますのれ・・・」
「何を申しますか。それだけ顔を真っ赤にして呂律も碌に回っていなくては危険というもの。ささ、私の腕にお掴まりになって―――」
「その必要はございません」
フラフラと倒れかけたファインの体を突如として一人の男が後ろから抱き留める。
黄色のローブと夜空色の髪と瞳の男性―――シェイドだ。
頼もしい人物の登場にミルキーの顔は一瞬にして明るくなり、ファインもふにゃりと表情を緩めた。
「お兄様!」
「あ~しぇいろ~」
「誰がしぇいろだ。全く、こんなに飲んで・・・迷惑をかけたね、ミルキー」
「ううん、全然へーきよ!」
「お客様にもご迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした。プリンセスファインは僕とミルキーが介抱致しますのでどうぞパーティーをごゆっくりお楽しみ下さい。行くよ、ミルキー」
「はい、お兄様!」
男に一切の口を挟ませずにシェイドはミルキーを伴ってファインを支えながら歩き始める。
その際、牽制するような鋭い視線を男に向けると男は「ひっ!?」となんとも情けない悲鳴を漏らして後退るのだった。
「もっと目立つ婚約指輪の方が良かったか?ブライトみたいにデザインを凝ったものにするとか」
「そんなものは関係ありませんよ。みんな分かって言い寄ってるだけです」
「だよな・・・」
シェイドの部屋のソファの上でファインの左手の薬指で光る三日月の意匠を施した婚約指輪を見つめながらシェイドは溜息を吐く。
ブライトがレインに贈った婚約指輪はかなり凝ったデザインをしていたのに対してシェイドがファインに贈った婚約指輪はかなりシンプルなデザインだった。
けれどファインはそれらを気にするでもなくただただ嬉しそうに幸せの涙を流しながらも何度も「ありがとう」と口にして指輪を受け取ってくれた。
婚約指輪を贈り、婚約の儀を執り行った事でファインとシェイドの将来的な婚姻が決定的なものになってファインに言い寄る男は大幅に減ったものの、完全にいなくなる事はなかった。
篩にかけても残るものは残るのだと改めて実感してシェイドは忌々し気に眉間に皺を寄せる。
「どいつもこいつも良い度胸をしている」
「本当ですよ。お兄様からファインを奪おうだなんて命知らずにも程があります」
「その通りだ」
「しかもその目的の殆どがファインが綺麗だからってだけじゃなくて、愛人にする事でおひさまの国と月の国の両方の情報を引き出させようとするだなんて下劣にも程があります!」
「ミルキー、いつかお前もこうなるだろうから十分に気を付けるんだぞ」
「勿論です!」
ファインを挟んで隣に座るミルキーは力強く頷き、その頼もしさを感じてシェイドの表情が少しばかり緩む。
結婚前のプリンセスに浮気を持ち掛けてプリンセスが元々住んでいた国と嫁ぎ先の国の情報を引き出そうと目論む貴族や他の星の王族はままいる。
その手には乗るまいとファインとレインは勿論、シェイドやブライト、ミルキーはそういった者に対してはガードを固くしていた。
いつもは何とかして切り抜けていたのだが今回はファインが招いて起こりそうになった危機に呆れ、抱き寄せるようにして支えている肩に力を入れて掴むとシェイドはぼやくようにして呟く。
「全く・・・酔っ払って自分から隙を作っていたら世話ないな」
「・・・ごめん・・・なさい・・・」
「ん?起きてたのか?」
「ファイン、大丈夫?」
返ってくると思ってなかった反応にシェイドは僅かに瞳を見開き、ミルキーは心配そうにしながらファインの手を握って見上げる。
ファインは未だに顔を赤くしたままシェイドの肩に頭を預けてフワフワとした口調で続けた。
「きょう・・・いやなしせん・・・たくさんあったから・・・みるきーにめーわくかけたくなくて・・・」
「別にいいのに・・・」
「もしかして酔ったフリをして抜け出そうとしたのか?」
「うーうん・・・あたし、うそへただから・・・ほんとうによわなきゃって・・・でも・・・ちょーせいまちがっちゃって・・・ごめんなさい・・・」
「はぁっ・・・これだから馬鹿正直な奴は・・・」
「それがファインの良い所ですよ。ねぇファイン、お兄様の事好き?」
「だぁーいすき・・・シェイドじゃなきゃ・・・いやだよ・・・」
ぎゅっ・・・と腕に絡みついて甘く囁いてくるファインにシェイドは内心ドキリとする。
が、次の瞬間には呑気な寝息が聞こえて来て一気に脱力した。
「酔っ払いめ・・・」
「でもお兄様、ファインはお兄様が大好きでお兄様じゃないと嫌って言ってたわ。浮気の心配なんてこれっぽっちもないですよ」
「当然だ。ファインは浮気が出来るような性格じゃないし、そもそもさせるつもりもない」
「キャー!お兄様の独占宣言よ~!」
「あのなぁ・・・」
自分の両頬を包んではしゃぐ妹にシェイドはこれ見よがしに溜息を吐くが面倒になったのでそれ以上の事を言うのをやめた。
それよりも再度ファインの左手の薬指で光る婚約指輪をぼんやりと眺める。
(早く結婚したいな・・・)
結婚をしても言い寄る者は現れるだろうが今よりも数は更に減るだろう。
何よりも安心感が違う。
もう一度ファインの体をしっかり支えながらシェイドは遠き結婚式の日に思いを馳せるのだった。
END
招待されたファインはミルキーと共に早速料理に飛びつき、その間レインはブライトとの歓談に夢中になっていた。
ちなみにシェイドはというと、主催側という事もあって招待客の対応に追われていた。
ミルキーはプリンセスであるものの、まだ幼いという事で対応の必要はないと言われている事もあってファインと共に自由な時間を満喫するのだった。
もっとも、シェイドからあるお願いをされている事もあって対応の必要はないと言われていたのだが。
「ん~!お肉美味しい~!」
「ほっぺが落ちちゃう~!」
二人揃って頬に手を当てて柔らかくジューシーなお肉の味に蕩ける。
最早見慣れた光景に誰も気にする者はいなかった。
「こう美味しいとワインが飲みたくなっちゃうよ~!すいません、赤ワインを頂いてもいいですか?」
「どうぞ、プリンセス様」
ファインはたまたま通りかかったボーイに赤ワインを注文するとボーイはトレイの上に乗せていたグラスを一つ手に取り、それをファインに渡した。
「ありがとうございます」と、ファインは軽く礼を述べると早速グラスを傾けてワインを口の中に流し入れた。
「ふぅ・・・!やっぱりお肉には赤ワインだね~!」
「そうなの?」
「うん!あのね、お肉は赤ワインと相性が良くてお魚は白ワインと相性が良いんだよ!」
「ふ~ん。いいな~」
「ミルキーも大人になったら飲めるようになるから大丈夫だよ」
「ファイン、その時は一緒に飲んでくれる?」
「もっちろんだよ!それで次は何食べる?」
「あれにしましょう!」
別のテーブルにある料理を指差してファインと共にそちらへ移動する。
食べたい料理があったから移動するのは事実だったがそれとは別にファインに近付こうとする貴族の男性がいた為、それから逃げる目的もあった。
そしてそれこそがシェイドからお願いされた事である。
その後もミルキーはファインに近付こうとする男性に気付いてはテーブルを移動していたがその合間にファインがワインを沢山飲んでしまい、とうとう移動が難しくなって男性の接近を許してしまう。
「えへへ、のみすぎちゃった~」
「大丈夫でございますか?プリンセスファイン様」
「ファインの事ならご心配なく。私が見ていますので」
ぴしゃりと跳ねのけるようにしてミルキーは語気を強くして言い放つ。
しかし男はミルキーを子供と舐めてかかっているのか余裕の態度で言い返してくる。
「ですがここまで酔っていてはプリンセスミルキー様の手に余りましょう。それではお料理に手を付けられますまい。私がファイン様を介抱致しますのでミルキー様は―――」
「結構です!」
「まぁまぁミルキーおりるいて・・・あの、アタシはだいじょーぶれすから・・・ミルキーとへやにいきますのれ・・・」
「何を申しますか。それだけ顔を真っ赤にして呂律も碌に回っていなくては危険というもの。ささ、私の腕にお掴まりになって―――」
「その必要はございません」
フラフラと倒れかけたファインの体を突如として一人の男が後ろから抱き留める。
黄色のローブと夜空色の髪と瞳の男性―――シェイドだ。
頼もしい人物の登場にミルキーの顔は一瞬にして明るくなり、ファインもふにゃりと表情を緩めた。
「お兄様!」
「あ~しぇいろ~」
「誰がしぇいろだ。全く、こんなに飲んで・・・迷惑をかけたね、ミルキー」
「ううん、全然へーきよ!」
「お客様にもご迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした。プリンセスファインは僕とミルキーが介抱致しますのでどうぞパーティーをごゆっくりお楽しみ下さい。行くよ、ミルキー」
「はい、お兄様!」
男に一切の口を挟ませずにシェイドはミルキーを伴ってファインを支えながら歩き始める。
その際、牽制するような鋭い視線を男に向けると男は「ひっ!?」となんとも情けない悲鳴を漏らして後退るのだった。
「もっと目立つ婚約指輪の方が良かったか?ブライトみたいにデザインを凝ったものにするとか」
「そんなものは関係ありませんよ。みんな分かって言い寄ってるだけです」
「だよな・・・」
シェイドの部屋のソファの上でファインの左手の薬指で光る三日月の意匠を施した婚約指輪を見つめながらシェイドは溜息を吐く。
ブライトがレインに贈った婚約指輪はかなり凝ったデザインをしていたのに対してシェイドがファインに贈った婚約指輪はかなりシンプルなデザインだった。
けれどファインはそれらを気にするでもなくただただ嬉しそうに幸せの涙を流しながらも何度も「ありがとう」と口にして指輪を受け取ってくれた。
婚約指輪を贈り、婚約の儀を執り行った事でファインとシェイドの将来的な婚姻が決定的なものになってファインに言い寄る男は大幅に減ったものの、完全にいなくなる事はなかった。
篩にかけても残るものは残るのだと改めて実感してシェイドは忌々し気に眉間に皺を寄せる。
「どいつもこいつも良い度胸をしている」
「本当ですよ。お兄様からファインを奪おうだなんて命知らずにも程があります」
「その通りだ」
「しかもその目的の殆どがファインが綺麗だからってだけじゃなくて、愛人にする事でおひさまの国と月の国の両方の情報を引き出させようとするだなんて下劣にも程があります!」
「ミルキー、いつかお前もこうなるだろうから十分に気を付けるんだぞ」
「勿論です!」
ファインを挟んで隣に座るミルキーは力強く頷き、その頼もしさを感じてシェイドの表情が少しばかり緩む。
結婚前のプリンセスに浮気を持ち掛けてプリンセスが元々住んでいた国と嫁ぎ先の国の情報を引き出そうと目論む貴族や他の星の王族はままいる。
その手には乗るまいとファインとレインは勿論、シェイドやブライト、ミルキーはそういった者に対してはガードを固くしていた。
いつもは何とかして切り抜けていたのだが今回はファインが招いて起こりそうになった危機に呆れ、抱き寄せるようにして支えている肩に力を入れて掴むとシェイドはぼやくようにして呟く。
「全く・・・酔っ払って自分から隙を作っていたら世話ないな」
「・・・ごめん・・・なさい・・・」
「ん?起きてたのか?」
「ファイン、大丈夫?」
返ってくると思ってなかった反応にシェイドは僅かに瞳を見開き、ミルキーは心配そうにしながらファインの手を握って見上げる。
ファインは未だに顔を赤くしたままシェイドの肩に頭を預けてフワフワとした口調で続けた。
「きょう・・・いやなしせん・・・たくさんあったから・・・みるきーにめーわくかけたくなくて・・・」
「別にいいのに・・・」
「もしかして酔ったフリをして抜け出そうとしたのか?」
「うーうん・・・あたし、うそへただから・・・ほんとうによわなきゃって・・・でも・・・ちょーせいまちがっちゃって・・・ごめんなさい・・・」
「はぁっ・・・これだから馬鹿正直な奴は・・・」
「それがファインの良い所ですよ。ねぇファイン、お兄様の事好き?」
「だぁーいすき・・・シェイドじゃなきゃ・・・いやだよ・・・」
ぎゅっ・・・と腕に絡みついて甘く囁いてくるファインにシェイドは内心ドキリとする。
が、次の瞬間には呑気な寝息が聞こえて来て一気に脱力した。
「酔っ払いめ・・・」
「でもお兄様、ファインはお兄様が大好きでお兄様じゃないと嫌って言ってたわ。浮気の心配なんてこれっぽっちもないですよ」
「当然だ。ファインは浮気が出来るような性格じゃないし、そもそもさせるつもりもない」
「キャー!お兄様の独占宣言よ~!」
「あのなぁ・・・」
自分の両頬を包んではしゃぐ妹にシェイドはこれ見よがしに溜息を吐くが面倒になったのでそれ以上の事を言うのをやめた。
それよりも再度ファインの左手の薬指で光る婚約指輪をぼんやりと眺める。
(早く結婚したいな・・・)
結婚をしても言い寄る者は現れるだろうが今よりも数は更に減るだろう。
何よりも安心感が違う。
もう一度ファインの体をしっかり支えながらシェイドは遠き結婚式の日に思いを馳せるのだった。
END