飾り立てるもの
何とか思考回路の復活を果たした四人はハーミィの誘導の元、最初の撮影会場を目指して移動していた。
ウェディングドレスは重く動き辛く、ファインとレインはシェイドとブライトの腕に掴まりながら歩いている。
ちなみに二人のドレスの裾は二名のスタッフが持ち上げている。
「ウェディングドレスって・・・」
「意外に歩き辛いのね・・・」
「ファイン様、レイン様、躓かないようにしっかりとシェイド様とブライト様の腕に掴まって下さいね」
「「は、はい・・・」」
ハーミィがクスクスと冷やかすように言うとファインとレインは顔を赤らめて小さく俯く。
その時に僅かに腕に掴まる手の強さが増したがシェイドもブライトも敢えて動じないように努めた。
さっきから慌てたり焦ったりしているので少しくらいカッコつけたいのだ。
「最初はこちらのお部屋で一組ずつお写真を撮らせていただきます。まずはレイン様とブライト様からお願い致します」
「は、はい!」
「分かりました」
到着した撮影会場には花嫁が座る為であろう背もたれの無い椅子が一つ置かれていた。
まずは花嫁と花婿の記念撮影と言った所だろう。
指名されたレインはブライトに手を引かれて配置に着く。
しかし緊張で顔が強張っていて表情が硬い。
傍に立つブライトの表情が変わらず柔らかい為に尚更レインの緊張でガチガチの顔が際立った。
「レイン、顔が硬いよ~?」
「だ、だって・・・!」
「ほらほら、笑顔笑顔!」
「こ、こう?」
「ぷっくく・・・!レインってば変な顔~!」
「もう、ファイン~!」
レインの緊張を解そうとファインが茶化すもレインの表情は益々硬くなるばかり。
これにはスタッフたちも苦笑いを溢していて「リラックスですよ~」やら「息を吸って力を抜いて~」と優しい言葉を投げかけていた。
しかし意識すればするほど逆にレインの緊張は高まっていく。
見兼ねたブライトがクスッと笑うとレインの両手を握って優しく語り掛けた。
「目を瞑って、レイン」
「は、はい?」
「大きく息を吸って・・・吐いて・・・」
「すー・・・はー・・・」
「頭の中に好きなスイーツを思い浮かべて?」
「好きなスイーツ・・・プリン、ケーキ・・・えへへ」
「えへへ」
「お前まで思い浮かべてどうする」
「あ、ファインが全部食べちゃった」
「えぇーっ!?」
「ご馳走様ー!」
「想像の中で食べるな」
「うぅ・・・私のスイーツ・・・」
「ごめんね~レイン。食べちゃった~」
「でも実はそれはお供え物だったんだ・・・」
「お供え物?」
「え?」
「そう、それはとある凶悪な幽霊を鎮める為のお供え物だったんだ。それを食べてしまったファインには今夜、恐ろしい出来事が―――」
「うそぉーーーーー!!!??」
「どんな事が起きるんですかー!?」
涙目になって絶叫しながらシェイドにしがみつくファインと瞳を輝かせてウキウキしながら先を促すレイン。
その顔に先程までの緊張はもう欠片も残っていなかった。
それを確認してブライトはニッコリと微笑む。
「レイン、緊張は解れたかい?」
「え?あ、言われてみれば・・・」
「じゃあ撮影に集中しようか」
「はい!ありがとうございます、ブライト様」
レインは感謝と嬉しさの籠った笑顔で礼を述べるとカメラマン達の方を向き直った。
期待と幸福を称えた自然な表情のレインにカメラマン達は満足そうにすると姿勢や立ち位置に関して指示を出し始める。
フラッシュが何度も焚かれてはブライトとレインを照らす。
それから10分くらいして二人の撮影は無事に終わった。
「では、次はファイン様とシェイド様、お願いします」
「行くぞ」
「ねぇ、アタシどうなっちゃうの?呪われちゃうの?」
「ブライトのホラ話を間に受けるな」
「ホラ話じゃなくて妄想と言ってくれないか」
「それもそれでどうなんだ・・・」
「うぅ・・・」
「それよりもカメラに集中しろ。ケーキを食べる時間が遅くなっても知らないぞ」
「あ、そうだった!」
ケーキと聞いて途端に背筋を真っ直ぐに伸ばしてカメラに集中するファインにシェイドは軽く溜息を吐く。
ところがファインの顔も緊張で硬くなっており、カメラマンから「もう少しリラックスしてくださーい」と声をかけられる。
しかしファインもファインで先程のレインと同様、上手く緊張を解せずにいた。
「ファインも凄く緊張してるわよ」
「だってぇ・・・」
「ホラ、笑顔笑顔!」
「こう?」
「フフフ、ファインったら変な顔」
「え〜?」
「さっきとまるっきり立場が逆転してるな」
これもふたご故なのか。
仕方ない、と言った風にシェイドは息を吐くとファインの肩に手を置いた。
「ファイン、この間花を植えただろう?アレ、もうすぐ咲きそうなんだ」
「本当!?」
「ああ、だから時間のある時に見にくるといい」
「行く行く!部活の助っ人頼まれても時間作って絶対見に行くね!」
「待ってるからな。それより前を向け。カメラマンがこっちを見ろって言ってるぞ」
「はーい!」
学園でシェイドが世話をしてる庭園の話題でファインは一瞬で緊張を忘れて幸せそうな表情に変わる。
これぞベストショットだと言わんばかりに何度もカメラのシャッターが下される。
そして満足の行く写真が何枚か撮れたのか、カメラマンはカメラから顔を上げると「ありがとうございましたー!」と終わりを意味する挨拶をした。
そこに椅子をもう一つ持ってきたハーミィがやって来てファインに言う。
「お疲れ様です、ファイン様。失礼ですが椅子を動かしますので一度お立ちいただいて宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
ファインは立ち上がって椅子の後ろに立つとハーミィによるセッティングが行われた。
真ん中に置かれていた椅子は真ん中から右に、ハーミィが持ってきた椅子は真ん中から左に置かれる。
それからハーミィは一旦椅子から距離を取ると椅子の全体的な位置を確認し、それからまた少し動かして言った。
「お手数ですがファイン様は右側に、レイン様は左側の椅子に座っていただけないでしょうか?ふたごの姉妹様のツーショットの後にプリンス様達も加わって四人で撮影させていただきます」
「私達のツーショットですって!」
「撮ろうよレイン!」
「とびっきりの笑顔で!」
「「撮っちゃおう!!」」
ファインとレインはハイタッチをするとハーミィに指定された椅子にそれぞれ座り、宣言通りとびきりのスマイルを見せて撮影に臨んだ。
それぞれのペアで撮影する時は緊張していたのに二人一緒となるとやはりこの姉妹は強い。
でもそれが少しだけ悔しいという想いはシェイドとブライトの胸の奥にしまわれるのだった。
「とても素敵な笑顔ですよ、ファイン様レイン様!さぁシェイド様、ブライト様、お二人も加わって下さい!」
ハーミィの指示の元、シェイドはファインの後ろに、ブライトはレインの後ろに立つ。
するとそれまで満面の笑顔だったファインとレインは少しだけ寂しさの含んだ表情でお互いを見やった。
「今は撮影だけど・・・」
「本当に結婚式を挙げたらこれが最後の姉妹揃っての撮影になっているのね・・・」
「お前たちは何の為に撮影に来てるんだ?」
「二人共、笑顔は?」
「「そうだった!!」」
「アタシ達はこれから結婚する人達に勇気を与える為に撮影に来たんだもんね!」
「そうよ!それなのに私達が悲しい顔してたら勇気を与えるどころか結婚を躊躇させちゃうわ!」
「「だから笑顔笑顔!ね!」」
シェイドのぶっきらぼうな言葉とブライトの優しい言葉で本来の目的を思い出した二人はそれまでのセンチメンタルな気持ちを心の隅に追いやると先程の姉妹のツーショットと同じ、いやそれ以上のとびきりスマイルをカメラに向けた。
そのスマイルは今までで一番幸せと希望に満ちていて見る者に勇気と夢を与える事間違いなしだとカメラマンは後に語ったという。
「お疲れ様です、ファイン様、レイン様、シェイド様、ブライト様。このスタジオでの撮影はこれで終了となります。この後はフラワーシャワーの撮影をしつつ『プラチナチャペル』へ移動してそこでまた撮影をさせていただきます」
「ええっ!?『プラチナチャペル』って花に囲まれた屋外のチャペルで高い階段を新郎新婦で登っていくとその先には神父さんがいて神父さんの後ろには海が広がってるっていうロマンチックで有名なあの『プラチナチャペル』ですか!?」
「あ、スイッチ入っちゃったかも」
「止めて来い」
しかし時既に遅し。
レインの暴走と妄想は走り出したら止まらない。
「ドレスを着たまま階段を登るのが大変だから新郎新婦で手を繋いで登るけどそれが二人の仲をより深めてい行くのよね!そして登った先にある海は二人の愛の広さを現すと言われる程でその海が美しければ美しい程二人の愛も美しいという噂もあるのよ!まさかそんな憧れの『プラチナチャペル』に行けるだなんてこれは夢なのかしら!?いいえ現実よ!それもブライト様と!ウフ、ウフフ・・・!」
一人有頂天になりながら幸せに浸るレイン。
それはフラワーシャワーの撮影時でも続いており、妄想に浸っているとはいえ幸せな表情に変わりはないという事で一発撮りで終わった。
「レイン・・・」
「唯一の救いはブライトが全く気にかけていない点だな」
「だね・・・」
後ろでレインの暴走を見せつけられていたファインとシェイドはやや疲れたような表情をしていた為、一度だけの撮り直しとなった。
さて、フラワーシャワーの撮影を終えた二組はハーミィに誘導されてプラチナチャペルへと向かった。
しかし移動の最中にもカメラのシャッター音がちょくちょく鳴って三人にちょっとした緊張感を持たせる。
レインだけ未だに夢の中にいるがとても幸せそうなので特に注意や軌道修正が入る事はなかった。
プラチナチャペルは高く大きな白い壁に囲まれており、正面の入り口は重厚で大きな木製の扉で閉じられていた。
そして扉の両脇には小さなベルが設置されており、ハーミィともう一人のスタッフがベルの前に立って同時に紐を引っ張った。
すると優雅で上品なベルの音が鳴り響き、同時に木製の扉がゆっくりと開かれていく。
「「わぁ・・・!!」」
開かれた扉の向こう、大理石の石畳の通り道の上に敷かれたレッドカーペットとその左右に咲き乱れる調和のとれた色とりどりの広大な花畑。
そしてレッドカーペットの道の先にある程よい長さの階段。
撮影の為もあって流石に神父はいなかったがその後ろに広がる大きな海を眺められるのでむしろ好都合だろう。
瞳を輝かせる二人の後ろでハーミィがシェイドとブライトに一言。
「階段から降りる時にプリンセス様をお姫様抱っこして降りれますでしょうか?」
「「出来ます」」
「「え?」」
サラッと次なる爆弾投下がされ、それを跳ね返したシェイドとブライト。
そして見事にそれはファインとレインの元に落ちて爆発し、二人の目を点にさせる。
ハーミィの言った言葉の意味とそれに二人が即答したという事実が未だ受け止めきれず固まるファインとレインを他所にハーミィが次なる指示を出す。
「ではまず最初にレイン様とブライト様でヴァージンロードを歩いていただきます。階段を登る時はしっかりと分かりやすく手を繋いで下さいね」
パチッと意味ありげにハーミィがウィンクをするとレインは途端に顔全体を赤く染め上げた。
さっきまで妄想に浸っていたとはいえ、いざその時になるとやはり緊張してしまう。
(ど、どうしましょう〜!?)
「お手をどうぞ、プリンセスレイン」
レインが内心あたふたと焦っていると横からブライトが腕を出してエスコートを申し出て来た。
一度ごくりと生唾を飲み込むとレインは「は、はい!」と緊張を含んだ声で返事をして掴まった。
そのまま二人並んでゆっくりとカーペットの上を歩いて行く。
ただの撮影会の筈なのに優しい風が吹いてそれに揺らされる花がまるで祝福してくれているようだった。
「歩くスピードは速くないかい?レイン」
「あ、だ、大丈夫です・・・!」
「もしも速かったらいつでも言ってくれていいからね。男性と女性じゃ歩幅が違うから」
「あ、ありがとうございます、ブライト様・・・!」
喜びと舞い上がる気持ちと嬉しさと緊張で胸の鼓動がドクドクと煩い。
この音がブライトに聞こえていないかと焦ってしまう。
色んな感情や考えが頭の中をグルグルと駆け巡る中、とうとう階段の前に到着してしまう。
ヴァージンロードは長かった筈なのにもう到着してしまったのかとレインは内心驚いた。
「ここからは手を繋いで行くんだよね」
「そ、そうです!」
「なら―――プリンセスレイン」
「はい・・・!ブライト様!」
お互いに手を差し出し合い、指を絡ませてぎゅっと握り合う。
レインの胸が最大限まで高鳴った。
「一段ずつゆっくり登ろうか」
「はい!」
一段一段ゆっくりと確実に階段を登る。
ドレスの所為で歩きにくくてバランスが上手くとれないが握ってくれているブライトの手が上手に力を入れて支えてくれるので苦労する事はなかった。
(幸せの階段ってきっとこの事を言うのね・・・!)
階段の一段一段が愛しい。
二人で鳴らす靴の音は祝福の鐘のよう。
気付けばドレスに足を取られず軽やかに登る自分がいた。
ただの撮影会の筈なのに本当の結婚式のように錯覚してしまうのはやはり本格的な衣装や会場の所為だろう。
そうだ、きっとそうだ、と自分に言い聞かせてチラリとブライトの方を見る。
すると丁度ブライトと視線が合ってしまい、お互い一瞬だけ階段を登る足が止まる。
それから僅かに頬を赤くしてはにかみながらブライトが一言。
「なんだか本当の結婚式のようで緊張するね」
ブライトが同じ事を考えていたのを知ってレインは愛しい衝撃に言葉を失う。
いつもだったら目をハートにして舞い上がるのに今はそれすらも通り越してただ同じように頬を染めてはにかみ、必死に頷く事しか出来なかった。
想いは伝わったようでブライトは「じゃあ行こうか」と小さく促すとまた笑った。
手を放す事なく最後まで階段を登りきると見渡す限りの美しい青い海が二人を迎えた。
「凄い・・・!とっても綺麗・・・!」
「レインの髪の色と同じくらい美しいね」
「や、やだわブライト様ったら・・・!」
「本当の事を言ったまでさ」
「あ、あぅ・・・」
感情の処理が追い付かなくなったレインはとうとう思考回路がパンクしてしまい、ボンッと頭から湯気を出す。
辛うじて残った緊急予備回路がスタッフの「はい、そこで向き合ってくださーい」という言葉を受け止めてレインを動かす。
いつもの癖で自然と顔を上げるとルビーのような瞳とかち合ってしまい、羞恥心からさっと顔を俯かせてしまった。
「目を逸らさないで、レイン」
「だ、だって・・・」
「僕はレインの瞳が見たいな」
「そんなの・・・ズルいわ、ブライト様」
「今更気付いたのかい?僕はとってもズルいよ」
「ああ、もう・・・!」
レインは小さく頬を膨らませると羞恥で潤む瞳をブライトの瞳に合わせた。
その瞬間、レインのエメラルドグリーンの瞳にブライトが心を奪われてしまったという事実をレインは知らない。
互いに互いの瞳の美しさに見惚れて無意識に見つめ合う。
スタッフに「もういいですよ~!」と声をかけられて漸くハッと我に返った。
けれどお互いに照れ臭くて視線をあちこちに彷徨わせ、その最中でまた目が合って互いに噴き出した。
「なんだかおかしいね」
「ええ、本当に・・・!」
「はいじゃあ次、お姫様抱っこして階段を降りてくださーい」
「あ、はい、分かりました」
(きたーーー!?)
ブライトと結婚気分に浸っている間に忘れていた事を思い出してレインは内心慌ててどうしようどうしようダンスを踊る。
が、そんなレインの心内など露知らずブライトが手を添えて来る。
「失礼、プリンセスレイン」
「ぶ、ブライト様!?あ、あの!!?」
動揺しているレインなどさらりとスルーしてブライトは文字通りひょいっと軽々とレインをお姫様抱っこした。
レインの頭の中で嵐が巻き起こる。
「あああああのあの!わわ、わたわたし、おも、い・・・!」
「そんな事ないよ。花びらと錯覚しそうになってしまったくらいさ」
「ううううそですそんな・・・!」
「僕は嘘なんて言わないよ。レイン、僕の目を見て?」
「はひゅっ・・・!」
真っ直ぐなブライトの瞳に射抜かれてレインはとうとうショートする。
もう今死んでもいいような気がしてきた。
「しっかり掴まってて」
「は、はい・・・!」
おずおずとブライトの首に腕を回すと「もう少し強くていいよ」と言われたのでその通りに力を込める。
するとブライトは満足そうに頷いて階段をゆっくりと降り始めた。
演出の為か祝福の鐘が厳かに鳴り響き、風に吹かれて宙を舞う花畑の花びらが二人の世界を彩る。
まるで夢のような空間にレインはそれまでの羞恥心を忘れてうっとりとその雰囲気に浸った。
大好きで憧れのブライトの腕の中、意外と言っては失礼かもしれないがブライトの腕はとてもがっしりとしている。
だが剣術を心得ており、フェンシング部にも所属して精を出して練習に励んでいるのだからそれも当然だろう。
その逞しい腕にレインは益々酔いしれた。
その間にもブライトはまるで本当に一凛の花を手に持っているかのようにトントントンと階段を軽やかに降りて行く。
それは降りきった後も続いており、優雅に華やかにレッドカーペットの上を歩いていた。
そうして大きな木製の扉を抜けた所で甘やかな世界は終わりを告げるのだった。
「レイン様、ブライト様、お疲れ様でした。とても素晴らしいお写真が沢山撮れました!ありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ貴重な体験をさせていただきました。楽しかったね、レイン」
「ふぁ?」
「あ、レインまだ夢の中だ」
「しばらくは帰ってこないだろうな」
「それでは次はファイン様とシェイド様、お願いします」
ハーミィの後ろで未だ夢見心地のレインを降ろし、支えるブライトを横目で見届けてファインはシェイドと共に正面に立つ。
これから自分もレインと同じように歩くのかと思うと緊張で体が固まった。
どんな顔をして歩けばいいのかと内心で困った困ったダンスを踊っていると横からグイッとぶっきらぼうに腕が出された。
「行くぞ」
「・・・うん!」
いつものぶっきらぼうで無愛想で、でも少しだけ照れ臭さの混じったシェイドの声にファインは知らず緊張を解され、素直に頷いてその腕を取って歩き始めた。
スタッフの仕事は驚くほど早く、風が吹いた事でレッドカーペットの上に舞い降りていた花びらはいつの間にやら片付けられており、真新しいレッドカーペットの道が出来上がっていた。
シェイドと共にその第一歩を踏み出した瞬間、二人を取り巻く世界が明るく照らし出された・・・気がした。
(レインが浮かれてた気持ちが分かるかも・・・なんか落ち着かないよ~!)
入り口からシェイドと一緒に浮かれるレインを苦笑しながら見ていた。
一緒にいるブライトも満更でもない様子でいるものだから見ているこっちが熱いくらいだった。
自分はそういったものには無頓着だしシェイドもそういう雰囲気を好むようなタイプではないのでああはならないだろうと思っていた。
それが今ではどうだ、レインとブライトの甘い残り香に中てられたかのように気持ちがフワフワと浮きそうになる。
そういった気持ちに不慣れなファインは気を紛らわすように花畑に目を向けた。
小さいながらも一つ一つが命を体現するかのように力いっぱい花びらを広げる様子はファインの浮足立つ心を落ち着かせてくれる。
「お花、綺麗だね」
「ああ。丁寧な手入れがされてるのが分かるな」
「結婚式で使うんだもんね。使う人たちがハッピーになれるように気持ちを込めてお世話をしてるんだろうね、きっと」
「恐らくな。業者単位でやっているとはいえ、見事だ」
「アタシはクレソンさんと・・・シェイドがお世話してる庭園も同じくらい綺麗だと思うよ。二人が心を込めて育ててるのが見てて凄く良く伝わって来るんだ」
「・・・そう、か。だが最近はお前も手伝ってくれてるからお前のお陰でもあるな」
「そんな、アタシなんて大した事してないよ!本当にお手伝いで水やりしてるだけで・・・」
「俺もクレソンさんも結構助かってるけどな」
「そ、そう?」
「シフォンに頼んでお前の放課後の予定に庭園の助っ人を組み込んでもらおうか検討してるくらいだ」
「し、シェイドからの依頼だったらいつでも受け付けてるよ!だから遠慮なく―――」
依頼して!と言いかけた所でファインはドレスの裾を踏んで前のめりに倒れそうになる。
「わわっ!?」
「っ、と!」
バランスを崩したファインの腕を寸での所で引っ張り、シェイドは鮮やかに転倒を防ぐ。
「気を付けろ」
「ご、ごめ~ん」
チラッとカメラマンのいる方向に目を向けてみると両手を使って大きな丸を作られたので撮影の方に支障はなかったようで胸を撫でおろす。
それからファインの方を見下ろしてやれやれといった風に息を吐いた。
「相変わらずお前はそそっかしいな」
「だってぇ」
「レインがいても必ず転ぶしな」
「まぁアタシがレインを引っ張って走ってるからね。レインの方は不可抗力だよ」
「全く―――誰かが見てやらないとな」
真っ直ぐに見つめられ、そう告げられる。
「っ・・・!」
ドクン、と胸が大きく高鳴って息が止まる。
『誰か』が『誰』なんてのは聞き返すまでもない。
でも本当かどうか自信がなくて見つめ返すが夜色の瞳は揺らがなかった。
「行くぞ」
一分くらい見つめ合っていただろうか、暫くして僅かに染まった頬を誤魔化す為か、シェイドは照れを含んだ声でそう言って前を向くとファインが掴んでいる腕をぐいっと引っ張った。
少しだけよろめいたがファインは今度は転ばず、そっとシェイドの横顔を盗み見た。
撮影を意識してか瞳はキリリと細められているが頬は未だ赤い。
でもきっと自分はシェイドの二倍は赤くなっていると自信を持って言えた。
その証拠に今の自分の顔は燃えるように熱い。
少しばかり俯いてしまったが注意が入らなかったのがせめてもの救いだった。
長く続くと思われていたヴァージンロードはやはりすぐに終わりを迎えてしまい、とうとう階段の前に到着してしまう。
「確か手を繋ぐんだったよな」
「そ、そうだね・・・」
「・・・ほら」
照れ臭そうにしながらもシェイドは優しい眼差しでファインを見ながら手を差し出してくる。
「うん・・・!」
ファインも嬉しそうに頷き、シェイドの手に自分の手を重ねて、それから指を絡め合った。
(シェイドの手・・・おっきい・・・!)
女の自分とは明らかに違う大きくてゴツゴツとしている無骨なシェイドの手。
そこでファインは改めてシェイドが男性であるという事を意識して心の中で慌てて、焦って―――そしてシェイドという『男性』についての第一歩を知った。
今まで恋なんて興味なかったし男の子だって同性の友達感覚だった。
そんな男の子の中でも特別だったのがシェイドだ。
しかしそうは言ってもまだ気持ちとして意識している段階であってシェイドが一人の男性であるとはあまり認識していなかった。
それがたった今、手を絡め合った事でファインは紛れもなくシェイドは『男』なのであると改めて知った。
その事実がどうしようもなくファインの羞恥心を煽り、体を震わせる。
「大丈夫か?」
「ふぇ?何が・・・?」
「体が震えてるぞ」
「だだ、大丈夫だよ!そ、それより階段登らなきゃ・・・」
「転ばないようにゆっくりな」
「う、うん・・・」
ぎこちなく頷いてファインはシェイドと共に階段を登り始める。
ちゃんと気を付けていたので躓いたりバランスを崩す事はなかったがやはりドレスの所為で少し動きづらかった。
そうして苦労の末に登りきった先に広がる大海原の光景にファインは緊張を忘れて目を奪われる。
「わぁ!綺麗~!!」
「凄いな。まさに絶景っていう言葉が当て嵌るな」
隣でシェイドが感心したように感想を口にする。
海は広くキラキラと輝いており、まるで二人の事を祝福しているかのようにさざ波が響いていた。
「はーい、向き合ってくださーい」
二人して海に見惚れているとスタッフに促されてしまい、慌てて指示に従って向き合う。
シェイドはファインを見下ろし、ファインは素直にシェイドを見上げて真っ直ぐに視線を合わせる。
いつもだったら照れてすぐに逸らしたり首元の方を見るのだが今のファインは不思議とそういう気持ちに駆られなかった。
それはこのプラチナチャペルの雰囲気によるものなのか、それとも海を眺めた事で気が落ち着いたからか。
どちらにせよ、シェイドの瞳を真っ直ぐ見つめられてファインは内心喜びで溢れていた。
シェイドの方もファインを見つめる瞳は優しく、愛しさが込められていた。
どのくらい見つめ合っていたのだろう、スタッフが少しおかしそうに笑いながら「もういいですよ~!」と声をかけてきたところで漸く二人は我に返るのだった。
「お、終わったな・・・」
「そ、そうだね・・・!」
「次は階段を降りるんだったな・・・ファイン、暴れるなよ」
「え?・・って、ちょっ!?」
シェイドはファインの返事を待たずファインを軽々と抱き上げた。
そういえばお姫様抱っこをして降りるのだと思い出したファインはわたわたと慌てる。
「まままま待ってよシェイド!あ、アタシ重いでしょ!?」
「そうだな、ドレスの重さも加わって尚更重いな」
「うっ・・・そこは嘘でも軽いって言ってよぉ・・・」
「俺はブライト程優しくないんでな。それより落ちないようにしっかり掴まってろ」
恐る恐ると言った様子でシェイドの首に腕を回して「こう?」と尋ねると「ああ」と頷いてシェイドは階段をゆっくりと降り始める。
「怖くないか?」
「ううん、平気。シェイドこそ大丈夫?階段降りたら下ろしていいよ?」
「ブライトは最後までレインを運んだのに俺が最後までお前を運べないとかあり得ないだろ」
「あはは!シェイドって意外に負けず嫌いな所があるんだね」
「うるさい」
けれどこれはつまり、最後までお姫様抱っこで運んでくれるという意味で。
その事がファインには何よりも嬉しかった。
自分を抱き上げる腕が逞しくて、頼もしくて、気持ちがふんわりと浮くのが心地良かった。
この時間がずっと続けばいいのに、なんて思っていたらシェイドの歩くスピードが落ちるのを感じてファインは気遣わし気な瞳でシェイドを見上げる。
「シェイド、大丈夫?疲れちゃった?」
「いや・・・ゴールに辿り着くのが勿体ないと思ってな」
「え・・・?」
「もう少しこのままでもいいだろ?」
優しい瞳、穏やかな笑顔。
そんなものを見せられてはファインは頷く事しか出来ない。
「うん!」
ぎゅっとシェイドが苦しくないように抱きついてぽそぽそと小さな声で話しかける。
声を小さくしたのは距離があるとはいえ、レイン達に聞かれると恥ずかしいと思ったからだ。
「今更だけどシェイドって体鍛えてるよね」
「本当に今更だな」
「えへへ。それに鞭や剣も扱えて器用だよね。教えてもらっちゃおうかな」
「そんな事したらまたプリンセスらしくないプリンセスだって言われて叱られるぞ」
「だって面白そうだもん。それにカッコいいしさ」
「お前は強くならなくていい。ただのお転婆姫でいろ。俺の役目を奪うな」
「役目?」
「プリンセスを守るのもプリンスの役目だ」
「シェイド・・・!うん!」
「とはいえ、ブラッククリスタルキングの元に行くお前を見送る事しか出来なかったがな」
「アタシは嬉しかったよ。それに言ったでしょ?シェイドが応援してくれるならパワー百倍だよって。シェイドが応援してくれるだけでアタシはどれだけでも頑張れるんだ」
「そうか・・・お前の力になれたようで何よりだ」
「シェイドはアタシにとって力の源だよ」
「そんなに褒めても何も出ないぞ」
「ハッピーくらいは出て来るでしょ?」
「さぁ、どうだろうな?」
「絶対そうだよ!」
少し意地悪な笑みを浮かべたらとびきりの笑顔を返された。
言われた通り、褒められて心の中でハッピーが生まれたのは揺るがない事実で少し悔しい。
でも、今だけは素直に完敗を認めようと口元を緩めるシェイドだった。
扉の向こうに到着した後、レインとブライトに冷やかされたのは言うまでもなかった。
続く
ウェディングドレスは重く動き辛く、ファインとレインはシェイドとブライトの腕に掴まりながら歩いている。
ちなみに二人のドレスの裾は二名のスタッフが持ち上げている。
「ウェディングドレスって・・・」
「意外に歩き辛いのね・・・」
「ファイン様、レイン様、躓かないようにしっかりとシェイド様とブライト様の腕に掴まって下さいね」
「「は、はい・・・」」
ハーミィがクスクスと冷やかすように言うとファインとレインは顔を赤らめて小さく俯く。
その時に僅かに腕に掴まる手の強さが増したがシェイドもブライトも敢えて動じないように努めた。
さっきから慌てたり焦ったりしているので少しくらいカッコつけたいのだ。
「最初はこちらのお部屋で一組ずつお写真を撮らせていただきます。まずはレイン様とブライト様からお願い致します」
「は、はい!」
「分かりました」
到着した撮影会場には花嫁が座る為であろう背もたれの無い椅子が一つ置かれていた。
まずは花嫁と花婿の記念撮影と言った所だろう。
指名されたレインはブライトに手を引かれて配置に着く。
しかし緊張で顔が強張っていて表情が硬い。
傍に立つブライトの表情が変わらず柔らかい為に尚更レインの緊張でガチガチの顔が際立った。
「レイン、顔が硬いよ~?」
「だ、だって・・・!」
「ほらほら、笑顔笑顔!」
「こ、こう?」
「ぷっくく・・・!レインってば変な顔~!」
「もう、ファイン~!」
レインの緊張を解そうとファインが茶化すもレインの表情は益々硬くなるばかり。
これにはスタッフたちも苦笑いを溢していて「リラックスですよ~」やら「息を吸って力を抜いて~」と優しい言葉を投げかけていた。
しかし意識すればするほど逆にレインの緊張は高まっていく。
見兼ねたブライトがクスッと笑うとレインの両手を握って優しく語り掛けた。
「目を瞑って、レイン」
「は、はい?」
「大きく息を吸って・・・吐いて・・・」
「すー・・・はー・・・」
「頭の中に好きなスイーツを思い浮かべて?」
「好きなスイーツ・・・プリン、ケーキ・・・えへへ」
「えへへ」
「お前まで思い浮かべてどうする」
「あ、ファインが全部食べちゃった」
「えぇーっ!?」
「ご馳走様ー!」
「想像の中で食べるな」
「うぅ・・・私のスイーツ・・・」
「ごめんね~レイン。食べちゃった~」
「でも実はそれはお供え物だったんだ・・・」
「お供え物?」
「え?」
「そう、それはとある凶悪な幽霊を鎮める為のお供え物だったんだ。それを食べてしまったファインには今夜、恐ろしい出来事が―――」
「うそぉーーーーー!!!??」
「どんな事が起きるんですかー!?」
涙目になって絶叫しながらシェイドにしがみつくファインと瞳を輝かせてウキウキしながら先を促すレイン。
その顔に先程までの緊張はもう欠片も残っていなかった。
それを確認してブライトはニッコリと微笑む。
「レイン、緊張は解れたかい?」
「え?あ、言われてみれば・・・」
「じゃあ撮影に集中しようか」
「はい!ありがとうございます、ブライト様」
レインは感謝と嬉しさの籠った笑顔で礼を述べるとカメラマン達の方を向き直った。
期待と幸福を称えた自然な表情のレインにカメラマン達は満足そうにすると姿勢や立ち位置に関して指示を出し始める。
フラッシュが何度も焚かれてはブライトとレインを照らす。
それから10分くらいして二人の撮影は無事に終わった。
「では、次はファイン様とシェイド様、お願いします」
「行くぞ」
「ねぇ、アタシどうなっちゃうの?呪われちゃうの?」
「ブライトのホラ話を間に受けるな」
「ホラ話じゃなくて妄想と言ってくれないか」
「それもそれでどうなんだ・・・」
「うぅ・・・」
「それよりもカメラに集中しろ。ケーキを食べる時間が遅くなっても知らないぞ」
「あ、そうだった!」
ケーキと聞いて途端に背筋を真っ直ぐに伸ばしてカメラに集中するファインにシェイドは軽く溜息を吐く。
ところがファインの顔も緊張で硬くなっており、カメラマンから「もう少しリラックスしてくださーい」と声をかけられる。
しかしファインもファインで先程のレインと同様、上手く緊張を解せずにいた。
「ファインも凄く緊張してるわよ」
「だってぇ・・・」
「ホラ、笑顔笑顔!」
「こう?」
「フフフ、ファインったら変な顔」
「え〜?」
「さっきとまるっきり立場が逆転してるな」
これもふたご故なのか。
仕方ない、と言った風にシェイドは息を吐くとファインの肩に手を置いた。
「ファイン、この間花を植えただろう?アレ、もうすぐ咲きそうなんだ」
「本当!?」
「ああ、だから時間のある時に見にくるといい」
「行く行く!部活の助っ人頼まれても時間作って絶対見に行くね!」
「待ってるからな。それより前を向け。カメラマンがこっちを見ろって言ってるぞ」
「はーい!」
学園でシェイドが世話をしてる庭園の話題でファインは一瞬で緊張を忘れて幸せそうな表情に変わる。
これぞベストショットだと言わんばかりに何度もカメラのシャッターが下される。
そして満足の行く写真が何枚か撮れたのか、カメラマンはカメラから顔を上げると「ありがとうございましたー!」と終わりを意味する挨拶をした。
そこに椅子をもう一つ持ってきたハーミィがやって来てファインに言う。
「お疲れ様です、ファイン様。失礼ですが椅子を動かしますので一度お立ちいただいて宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
ファインは立ち上がって椅子の後ろに立つとハーミィによるセッティングが行われた。
真ん中に置かれていた椅子は真ん中から右に、ハーミィが持ってきた椅子は真ん中から左に置かれる。
それからハーミィは一旦椅子から距離を取ると椅子の全体的な位置を確認し、それからまた少し動かして言った。
「お手数ですがファイン様は右側に、レイン様は左側の椅子に座っていただけないでしょうか?ふたごの姉妹様のツーショットの後にプリンス様達も加わって四人で撮影させていただきます」
「私達のツーショットですって!」
「撮ろうよレイン!」
「とびっきりの笑顔で!」
「「撮っちゃおう!!」」
ファインとレインはハイタッチをするとハーミィに指定された椅子にそれぞれ座り、宣言通りとびきりのスマイルを見せて撮影に臨んだ。
それぞれのペアで撮影する時は緊張していたのに二人一緒となるとやはりこの姉妹は強い。
でもそれが少しだけ悔しいという想いはシェイドとブライトの胸の奥にしまわれるのだった。
「とても素敵な笑顔ですよ、ファイン様レイン様!さぁシェイド様、ブライト様、お二人も加わって下さい!」
ハーミィの指示の元、シェイドはファインの後ろに、ブライトはレインの後ろに立つ。
するとそれまで満面の笑顔だったファインとレインは少しだけ寂しさの含んだ表情でお互いを見やった。
「今は撮影だけど・・・」
「本当に結婚式を挙げたらこれが最後の姉妹揃っての撮影になっているのね・・・」
「お前たちは何の為に撮影に来てるんだ?」
「二人共、笑顔は?」
「「そうだった!!」」
「アタシ達はこれから結婚する人達に勇気を与える為に撮影に来たんだもんね!」
「そうよ!それなのに私達が悲しい顔してたら勇気を与えるどころか結婚を躊躇させちゃうわ!」
「「だから笑顔笑顔!ね!」」
シェイドのぶっきらぼうな言葉とブライトの優しい言葉で本来の目的を思い出した二人はそれまでのセンチメンタルな気持ちを心の隅に追いやると先程の姉妹のツーショットと同じ、いやそれ以上のとびきりスマイルをカメラに向けた。
そのスマイルは今までで一番幸せと希望に満ちていて見る者に勇気と夢を与える事間違いなしだとカメラマンは後に語ったという。
「お疲れ様です、ファイン様、レイン様、シェイド様、ブライト様。このスタジオでの撮影はこれで終了となります。この後はフラワーシャワーの撮影をしつつ『プラチナチャペル』へ移動してそこでまた撮影をさせていただきます」
「ええっ!?『プラチナチャペル』って花に囲まれた屋外のチャペルで高い階段を新郎新婦で登っていくとその先には神父さんがいて神父さんの後ろには海が広がってるっていうロマンチックで有名なあの『プラチナチャペル』ですか!?」
「あ、スイッチ入っちゃったかも」
「止めて来い」
しかし時既に遅し。
レインの暴走と妄想は走り出したら止まらない。
「ドレスを着たまま階段を登るのが大変だから新郎新婦で手を繋いで登るけどそれが二人の仲をより深めてい行くのよね!そして登った先にある海は二人の愛の広さを現すと言われる程でその海が美しければ美しい程二人の愛も美しいという噂もあるのよ!まさかそんな憧れの『プラチナチャペル』に行けるだなんてこれは夢なのかしら!?いいえ現実よ!それもブライト様と!ウフ、ウフフ・・・!」
一人有頂天になりながら幸せに浸るレイン。
それはフラワーシャワーの撮影時でも続いており、妄想に浸っているとはいえ幸せな表情に変わりはないという事で一発撮りで終わった。
「レイン・・・」
「唯一の救いはブライトが全く気にかけていない点だな」
「だね・・・」
後ろでレインの暴走を見せつけられていたファインとシェイドはやや疲れたような表情をしていた為、一度だけの撮り直しとなった。
さて、フラワーシャワーの撮影を終えた二組はハーミィに誘導されてプラチナチャペルへと向かった。
しかし移動の最中にもカメラのシャッター音がちょくちょく鳴って三人にちょっとした緊張感を持たせる。
レインだけ未だに夢の中にいるがとても幸せそうなので特に注意や軌道修正が入る事はなかった。
プラチナチャペルは高く大きな白い壁に囲まれており、正面の入り口は重厚で大きな木製の扉で閉じられていた。
そして扉の両脇には小さなベルが設置されており、ハーミィともう一人のスタッフがベルの前に立って同時に紐を引っ張った。
すると優雅で上品なベルの音が鳴り響き、同時に木製の扉がゆっくりと開かれていく。
「「わぁ・・・!!」」
開かれた扉の向こう、大理石の石畳の通り道の上に敷かれたレッドカーペットとその左右に咲き乱れる調和のとれた色とりどりの広大な花畑。
そしてレッドカーペットの道の先にある程よい長さの階段。
撮影の為もあって流石に神父はいなかったがその後ろに広がる大きな海を眺められるのでむしろ好都合だろう。
瞳を輝かせる二人の後ろでハーミィがシェイドとブライトに一言。
「階段から降りる時にプリンセス様をお姫様抱っこして降りれますでしょうか?」
「「出来ます」」
「「え?」」
サラッと次なる爆弾投下がされ、それを跳ね返したシェイドとブライト。
そして見事にそれはファインとレインの元に落ちて爆発し、二人の目を点にさせる。
ハーミィの言った言葉の意味とそれに二人が即答したという事実が未だ受け止めきれず固まるファインとレインを他所にハーミィが次なる指示を出す。
「ではまず最初にレイン様とブライト様でヴァージンロードを歩いていただきます。階段を登る時はしっかりと分かりやすく手を繋いで下さいね」
パチッと意味ありげにハーミィがウィンクをするとレインは途端に顔全体を赤く染め上げた。
さっきまで妄想に浸っていたとはいえ、いざその時になるとやはり緊張してしまう。
(ど、どうしましょう〜!?)
「お手をどうぞ、プリンセスレイン」
レインが内心あたふたと焦っていると横からブライトが腕を出してエスコートを申し出て来た。
一度ごくりと生唾を飲み込むとレインは「は、はい!」と緊張を含んだ声で返事をして掴まった。
そのまま二人並んでゆっくりとカーペットの上を歩いて行く。
ただの撮影会の筈なのに優しい風が吹いてそれに揺らされる花がまるで祝福してくれているようだった。
「歩くスピードは速くないかい?レイン」
「あ、だ、大丈夫です・・・!」
「もしも速かったらいつでも言ってくれていいからね。男性と女性じゃ歩幅が違うから」
「あ、ありがとうございます、ブライト様・・・!」
喜びと舞い上がる気持ちと嬉しさと緊張で胸の鼓動がドクドクと煩い。
この音がブライトに聞こえていないかと焦ってしまう。
色んな感情や考えが頭の中をグルグルと駆け巡る中、とうとう階段の前に到着してしまう。
ヴァージンロードは長かった筈なのにもう到着してしまったのかとレインは内心驚いた。
「ここからは手を繋いで行くんだよね」
「そ、そうです!」
「なら―――プリンセスレイン」
「はい・・・!ブライト様!」
お互いに手を差し出し合い、指を絡ませてぎゅっと握り合う。
レインの胸が最大限まで高鳴った。
「一段ずつゆっくり登ろうか」
「はい!」
一段一段ゆっくりと確実に階段を登る。
ドレスの所為で歩きにくくてバランスが上手くとれないが握ってくれているブライトの手が上手に力を入れて支えてくれるので苦労する事はなかった。
(幸せの階段ってきっとこの事を言うのね・・・!)
階段の一段一段が愛しい。
二人で鳴らす靴の音は祝福の鐘のよう。
気付けばドレスに足を取られず軽やかに登る自分がいた。
ただの撮影会の筈なのに本当の結婚式のように錯覚してしまうのはやはり本格的な衣装や会場の所為だろう。
そうだ、きっとそうだ、と自分に言い聞かせてチラリとブライトの方を見る。
すると丁度ブライトと視線が合ってしまい、お互い一瞬だけ階段を登る足が止まる。
それから僅かに頬を赤くしてはにかみながらブライトが一言。
「なんだか本当の結婚式のようで緊張するね」
ブライトが同じ事を考えていたのを知ってレインは愛しい衝撃に言葉を失う。
いつもだったら目をハートにして舞い上がるのに今はそれすらも通り越してただ同じように頬を染めてはにかみ、必死に頷く事しか出来なかった。
想いは伝わったようでブライトは「じゃあ行こうか」と小さく促すとまた笑った。
手を放す事なく最後まで階段を登りきると見渡す限りの美しい青い海が二人を迎えた。
「凄い・・・!とっても綺麗・・・!」
「レインの髪の色と同じくらい美しいね」
「や、やだわブライト様ったら・・・!」
「本当の事を言ったまでさ」
「あ、あぅ・・・」
感情の処理が追い付かなくなったレインはとうとう思考回路がパンクしてしまい、ボンッと頭から湯気を出す。
辛うじて残った緊急予備回路がスタッフの「はい、そこで向き合ってくださーい」という言葉を受け止めてレインを動かす。
いつもの癖で自然と顔を上げるとルビーのような瞳とかち合ってしまい、羞恥心からさっと顔を俯かせてしまった。
「目を逸らさないで、レイン」
「だ、だって・・・」
「僕はレインの瞳が見たいな」
「そんなの・・・ズルいわ、ブライト様」
「今更気付いたのかい?僕はとってもズルいよ」
「ああ、もう・・・!」
レインは小さく頬を膨らませると羞恥で潤む瞳をブライトの瞳に合わせた。
その瞬間、レインのエメラルドグリーンの瞳にブライトが心を奪われてしまったという事実をレインは知らない。
互いに互いの瞳の美しさに見惚れて無意識に見つめ合う。
スタッフに「もういいですよ~!」と声をかけられて漸くハッと我に返った。
けれどお互いに照れ臭くて視線をあちこちに彷徨わせ、その最中でまた目が合って互いに噴き出した。
「なんだかおかしいね」
「ええ、本当に・・・!」
「はいじゃあ次、お姫様抱っこして階段を降りてくださーい」
「あ、はい、分かりました」
(きたーーー!?)
ブライトと結婚気分に浸っている間に忘れていた事を思い出してレインは内心慌ててどうしようどうしようダンスを踊る。
が、そんなレインの心内など露知らずブライトが手を添えて来る。
「失礼、プリンセスレイン」
「ぶ、ブライト様!?あ、あの!!?」
動揺しているレインなどさらりとスルーしてブライトは文字通りひょいっと軽々とレインをお姫様抱っこした。
レインの頭の中で嵐が巻き起こる。
「あああああのあの!わわ、わたわたし、おも、い・・・!」
「そんな事ないよ。花びらと錯覚しそうになってしまったくらいさ」
「ううううそですそんな・・・!」
「僕は嘘なんて言わないよ。レイン、僕の目を見て?」
「はひゅっ・・・!」
真っ直ぐなブライトの瞳に射抜かれてレインはとうとうショートする。
もう今死んでもいいような気がしてきた。
「しっかり掴まってて」
「は、はい・・・!」
おずおずとブライトの首に腕を回すと「もう少し強くていいよ」と言われたのでその通りに力を込める。
するとブライトは満足そうに頷いて階段をゆっくりと降り始めた。
演出の為か祝福の鐘が厳かに鳴り響き、風に吹かれて宙を舞う花畑の花びらが二人の世界を彩る。
まるで夢のような空間にレインはそれまでの羞恥心を忘れてうっとりとその雰囲気に浸った。
大好きで憧れのブライトの腕の中、意外と言っては失礼かもしれないがブライトの腕はとてもがっしりとしている。
だが剣術を心得ており、フェンシング部にも所属して精を出して練習に励んでいるのだからそれも当然だろう。
その逞しい腕にレインは益々酔いしれた。
その間にもブライトはまるで本当に一凛の花を手に持っているかのようにトントントンと階段を軽やかに降りて行く。
それは降りきった後も続いており、優雅に華やかにレッドカーペットの上を歩いていた。
そうして大きな木製の扉を抜けた所で甘やかな世界は終わりを告げるのだった。
「レイン様、ブライト様、お疲れ様でした。とても素晴らしいお写真が沢山撮れました!ありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ貴重な体験をさせていただきました。楽しかったね、レイン」
「ふぁ?」
「あ、レインまだ夢の中だ」
「しばらくは帰ってこないだろうな」
「それでは次はファイン様とシェイド様、お願いします」
ハーミィの後ろで未だ夢見心地のレインを降ろし、支えるブライトを横目で見届けてファインはシェイドと共に正面に立つ。
これから自分もレインと同じように歩くのかと思うと緊張で体が固まった。
どんな顔をして歩けばいいのかと内心で困った困ったダンスを踊っていると横からグイッとぶっきらぼうに腕が出された。
「行くぞ」
「・・・うん!」
いつものぶっきらぼうで無愛想で、でも少しだけ照れ臭さの混じったシェイドの声にファインは知らず緊張を解され、素直に頷いてその腕を取って歩き始めた。
スタッフの仕事は驚くほど早く、風が吹いた事でレッドカーペットの上に舞い降りていた花びらはいつの間にやら片付けられており、真新しいレッドカーペットの道が出来上がっていた。
シェイドと共にその第一歩を踏み出した瞬間、二人を取り巻く世界が明るく照らし出された・・・気がした。
(レインが浮かれてた気持ちが分かるかも・・・なんか落ち着かないよ~!)
入り口からシェイドと一緒に浮かれるレインを苦笑しながら見ていた。
一緒にいるブライトも満更でもない様子でいるものだから見ているこっちが熱いくらいだった。
自分はそういったものには無頓着だしシェイドもそういう雰囲気を好むようなタイプではないのでああはならないだろうと思っていた。
それが今ではどうだ、レインとブライトの甘い残り香に中てられたかのように気持ちがフワフワと浮きそうになる。
そういった気持ちに不慣れなファインは気を紛らわすように花畑に目を向けた。
小さいながらも一つ一つが命を体現するかのように力いっぱい花びらを広げる様子はファインの浮足立つ心を落ち着かせてくれる。
「お花、綺麗だね」
「ああ。丁寧な手入れがされてるのが分かるな」
「結婚式で使うんだもんね。使う人たちがハッピーになれるように気持ちを込めてお世話をしてるんだろうね、きっと」
「恐らくな。業者単位でやっているとはいえ、見事だ」
「アタシはクレソンさんと・・・シェイドがお世話してる庭園も同じくらい綺麗だと思うよ。二人が心を込めて育ててるのが見てて凄く良く伝わって来るんだ」
「・・・そう、か。だが最近はお前も手伝ってくれてるからお前のお陰でもあるな」
「そんな、アタシなんて大した事してないよ!本当にお手伝いで水やりしてるだけで・・・」
「俺もクレソンさんも結構助かってるけどな」
「そ、そう?」
「シフォンに頼んでお前の放課後の予定に庭園の助っ人を組み込んでもらおうか検討してるくらいだ」
「し、シェイドからの依頼だったらいつでも受け付けてるよ!だから遠慮なく―――」
依頼して!と言いかけた所でファインはドレスの裾を踏んで前のめりに倒れそうになる。
「わわっ!?」
「っ、と!」
バランスを崩したファインの腕を寸での所で引っ張り、シェイドは鮮やかに転倒を防ぐ。
「気を付けろ」
「ご、ごめ~ん」
チラッとカメラマンのいる方向に目を向けてみると両手を使って大きな丸を作られたので撮影の方に支障はなかったようで胸を撫でおろす。
それからファインの方を見下ろしてやれやれといった風に息を吐いた。
「相変わらずお前はそそっかしいな」
「だってぇ」
「レインがいても必ず転ぶしな」
「まぁアタシがレインを引っ張って走ってるからね。レインの方は不可抗力だよ」
「全く―――誰かが見てやらないとな」
真っ直ぐに見つめられ、そう告げられる。
「っ・・・!」
ドクン、と胸が大きく高鳴って息が止まる。
『誰か』が『誰』なんてのは聞き返すまでもない。
でも本当かどうか自信がなくて見つめ返すが夜色の瞳は揺らがなかった。
「行くぞ」
一分くらい見つめ合っていただろうか、暫くして僅かに染まった頬を誤魔化す為か、シェイドは照れを含んだ声でそう言って前を向くとファインが掴んでいる腕をぐいっと引っ張った。
少しだけよろめいたがファインは今度は転ばず、そっとシェイドの横顔を盗み見た。
撮影を意識してか瞳はキリリと細められているが頬は未だ赤い。
でもきっと自分はシェイドの二倍は赤くなっていると自信を持って言えた。
その証拠に今の自分の顔は燃えるように熱い。
少しばかり俯いてしまったが注意が入らなかったのがせめてもの救いだった。
長く続くと思われていたヴァージンロードはやはりすぐに終わりを迎えてしまい、とうとう階段の前に到着してしまう。
「確か手を繋ぐんだったよな」
「そ、そうだね・・・」
「・・・ほら」
照れ臭そうにしながらもシェイドは優しい眼差しでファインを見ながら手を差し出してくる。
「うん・・・!」
ファインも嬉しそうに頷き、シェイドの手に自分の手を重ねて、それから指を絡め合った。
(シェイドの手・・・おっきい・・・!)
女の自分とは明らかに違う大きくてゴツゴツとしている無骨なシェイドの手。
そこでファインは改めてシェイドが男性であるという事を意識して心の中で慌てて、焦って―――そしてシェイドという『男性』についての第一歩を知った。
今まで恋なんて興味なかったし男の子だって同性の友達感覚だった。
そんな男の子の中でも特別だったのがシェイドだ。
しかしそうは言ってもまだ気持ちとして意識している段階であってシェイドが一人の男性であるとはあまり認識していなかった。
それがたった今、手を絡め合った事でファインは紛れもなくシェイドは『男』なのであると改めて知った。
その事実がどうしようもなくファインの羞恥心を煽り、体を震わせる。
「大丈夫か?」
「ふぇ?何が・・・?」
「体が震えてるぞ」
「だだ、大丈夫だよ!そ、それより階段登らなきゃ・・・」
「転ばないようにゆっくりな」
「う、うん・・・」
ぎこちなく頷いてファインはシェイドと共に階段を登り始める。
ちゃんと気を付けていたので躓いたりバランスを崩す事はなかったがやはりドレスの所為で少し動きづらかった。
そうして苦労の末に登りきった先に広がる大海原の光景にファインは緊張を忘れて目を奪われる。
「わぁ!綺麗~!!」
「凄いな。まさに絶景っていう言葉が当て嵌るな」
隣でシェイドが感心したように感想を口にする。
海は広くキラキラと輝いており、まるで二人の事を祝福しているかのようにさざ波が響いていた。
「はーい、向き合ってくださーい」
二人して海に見惚れているとスタッフに促されてしまい、慌てて指示に従って向き合う。
シェイドはファインを見下ろし、ファインは素直にシェイドを見上げて真っ直ぐに視線を合わせる。
いつもだったら照れてすぐに逸らしたり首元の方を見るのだが今のファインは不思議とそういう気持ちに駆られなかった。
それはこのプラチナチャペルの雰囲気によるものなのか、それとも海を眺めた事で気が落ち着いたからか。
どちらにせよ、シェイドの瞳を真っ直ぐ見つめられてファインは内心喜びで溢れていた。
シェイドの方もファインを見つめる瞳は優しく、愛しさが込められていた。
どのくらい見つめ合っていたのだろう、スタッフが少しおかしそうに笑いながら「もういいですよ~!」と声をかけてきたところで漸く二人は我に返るのだった。
「お、終わったな・・・」
「そ、そうだね・・・!」
「次は階段を降りるんだったな・・・ファイン、暴れるなよ」
「え?・・って、ちょっ!?」
シェイドはファインの返事を待たずファインを軽々と抱き上げた。
そういえばお姫様抱っこをして降りるのだと思い出したファインはわたわたと慌てる。
「まままま待ってよシェイド!あ、アタシ重いでしょ!?」
「そうだな、ドレスの重さも加わって尚更重いな」
「うっ・・・そこは嘘でも軽いって言ってよぉ・・・」
「俺はブライト程優しくないんでな。それより落ちないようにしっかり掴まってろ」
恐る恐ると言った様子でシェイドの首に腕を回して「こう?」と尋ねると「ああ」と頷いてシェイドは階段をゆっくりと降り始める。
「怖くないか?」
「ううん、平気。シェイドこそ大丈夫?階段降りたら下ろしていいよ?」
「ブライトは最後までレインを運んだのに俺が最後までお前を運べないとかあり得ないだろ」
「あはは!シェイドって意外に負けず嫌いな所があるんだね」
「うるさい」
けれどこれはつまり、最後までお姫様抱っこで運んでくれるという意味で。
その事がファインには何よりも嬉しかった。
自分を抱き上げる腕が逞しくて、頼もしくて、気持ちがふんわりと浮くのが心地良かった。
この時間がずっと続けばいいのに、なんて思っていたらシェイドの歩くスピードが落ちるのを感じてファインは気遣わし気な瞳でシェイドを見上げる。
「シェイド、大丈夫?疲れちゃった?」
「いや・・・ゴールに辿り着くのが勿体ないと思ってな」
「え・・・?」
「もう少しこのままでもいいだろ?」
優しい瞳、穏やかな笑顔。
そんなものを見せられてはファインは頷く事しか出来ない。
「うん!」
ぎゅっとシェイドが苦しくないように抱きついてぽそぽそと小さな声で話しかける。
声を小さくしたのは距離があるとはいえ、レイン達に聞かれると恥ずかしいと思ったからだ。
「今更だけどシェイドって体鍛えてるよね」
「本当に今更だな」
「えへへ。それに鞭や剣も扱えて器用だよね。教えてもらっちゃおうかな」
「そんな事したらまたプリンセスらしくないプリンセスだって言われて叱られるぞ」
「だって面白そうだもん。それにカッコいいしさ」
「お前は強くならなくていい。ただのお転婆姫でいろ。俺の役目を奪うな」
「役目?」
「プリンセスを守るのもプリンスの役目だ」
「シェイド・・・!うん!」
「とはいえ、ブラッククリスタルキングの元に行くお前を見送る事しか出来なかったがな」
「アタシは嬉しかったよ。それに言ったでしょ?シェイドが応援してくれるならパワー百倍だよって。シェイドが応援してくれるだけでアタシはどれだけでも頑張れるんだ」
「そうか・・・お前の力になれたようで何よりだ」
「シェイドはアタシにとって力の源だよ」
「そんなに褒めても何も出ないぞ」
「ハッピーくらいは出て来るでしょ?」
「さぁ、どうだろうな?」
「絶対そうだよ!」
少し意地悪な笑みを浮かべたらとびきりの笑顔を返された。
言われた通り、褒められて心の中でハッピーが生まれたのは揺るがない事実で少し悔しい。
でも、今だけは素直に完敗を認めようと口元を緩めるシェイドだった。
扉の向こうに到着した後、レインとブライトに冷やかされたのは言うまでもなかった。
続く