飾り立てるもの
「「パンフレットの撮影?」」
放課後のロイヤルワンダー学園の職員室で呼び出されたファインとレインはタンバ・リンから説明を受けると二人同時に首を傾げた。
「そうです!今、ロイヤルブライダル社の方がお見えになっていて是非とも二人に結婚式のパンフレットのモデルになって欲しいと仰ってるんです」
「ロイヤルブライダル社ですって!?」
「え?レイン知ってるの?」
「知ってるも何も超有名なブライダル企業よ!その企業が用意するドレスや式場はどれも最高レベルで満足度NO.1と名高いの!その中でも一番人気があるのが『エメラルドの教会』っていう永遠の愛を約束してくれる教会でお値段はトップクラスだけど誰もが憧れる教会ですっごく人気で5年先は予約でいっぱいなのよ!!」
瞳を輝かせながら捲し立てるように早口でレインが説明する。
流石は恋に恋する乙女、こういう事に関しては知識豊富だ。
ファインは一瞬呆気に取られたものの、目をぱちぱちと瞬かせると思った事を口にした。
「へ~。でもアタシたちは結婚するとしたら国で挙げるから関係なくない?」
「何言ってるの!ロイヤルブライダル社は段取りとか会場の飾りつけの提案もしてくれるしなんならドレスのデザインも請け負ってくれるのよ!それに後でこっそり二人きりでエメラルドの教会で式を挙げるっていう手もあるし!」
「え?二人きりで?」
「そうよ!そういう風にしてる王族も少なくないみたいよ」
「ふ~ん」
「それで先生!そのロイヤルブライダル社の方は今どこにいらっしゃるんですか!?」
「今は応接室で教頭先生が対応して下さってます。一緒に行きましょうか」
「「はい!!」」
本当は学園長見習いに昇格した教頭先生だが、学園長とも呼べず、かと言って学園長見習いは呼びにくい上に本人が『見習い』の部分を特に嫌がるので結局は教師生徒一同、教頭先生と呼んでいるのであった。
それはさておき、応接室へ案内してくれるタンバ・リンの後について行く上機嫌のレインと、とりあえずは楽しそうだと思ってニコニコなファイン。
やがて応接室に到着するとタンバ・リンが扉をノックして呼びかけた。
「教頭先生、ファインとレインを連れてきました」
「うむ、通したまへ」
「失礼致します」
「「失礼致します」」
タンバ・リンの後に続いてファインとレインもお辞儀しながら部屋の中に入る。
すると下座にはレインと同じくらい上機嫌な教頭がおり、上座には営業マン風のスーツを着た綺麗な女性が座っていた。
「教頭先生なんかご機嫌だね」
「相手の方が綺麗な女性だからじゃない?それにロイヤルブライダル社っていう超有名企業の方が訪問に来た訳だし」
「これこれ、プリンセスがそんな寒そうな所に立つんじゃない。ほら、こちらに来て座りなさい」
((うわ・・・))
ファインとレインの小声での会話を地獄耳の教頭が聞き逃す筈はない。
普段ならここで減点カードを切っている所だがそれもせずまるで良い人かのようにソファに勧めてくるその態度にファインもレインも引き気味になる。
前から分かっていた事であるがこの教頭は本当に綺麗な女性と権力に弱いらしい。
こんな大人にはなるまいと心に誓うファインとレインだった。
「失礼致します。おひさまの国のファインと」
「レインです」
二人は教頭がどいたソファの前に来るとプリンセスらしく女性の前で挨拶をした。
女性は立ち上がると綺麗な角度でお辞儀をして挨拶を返す。
「お初にお目にかかります、プリンセスファイン様、プリンセスレイン様。わたくしはロイヤルブライダル社営業一課のハーミィと申します。本日はお時間を頂き誠にありがとうございます。こちら名刺になります。どうかお掛け下さい」
「「失礼致します」」
ファインとレインは女性―――ハーミィから名刺を受け取るとソファに座った。
名刺の端には青い花の模様が散らされており、中々にオシャレだ。
ハーミィは背筋を真っ直ぐ立てるとファインとレインを見ながらテキパキと説明を始めた。
「本日ご訪問させていただいた理由はファイン様とレイン様に我が社の発行する結婚式のパンフレットのモデルをお願いしたいからにございます。お二人はこのロイヤルワンダー学園に伝わるソレイユベルに認められしグランドユニバーサルプリンセス。祝福の力をもってブラッククリスタルキングなるものを退治した話は我が社でも非常に話題となっております」
「この話結構広まってるみたいだね」
「そうねぇ。自分達じゃ全然実感がないけど」
「そこで祝福の力を持つプリンセスであるお二人に是非とも我が社のパンフレットのモデルをしていただきたいのです。どうか結婚をする方たちに夢と希望を与えて欲しいのです」
「夢と希望かぁ」
「結婚って言葉で聞くだけでも素敵なイメージが湧くけどパンフレットとか見るとよりそれが具体的になるのよね!私もパンフレットを見てはブライト様との結婚式の想像がより具体的になるの〜!レイン、とうとうこの日が来たね。はい、ブライト様!ああ、ウェディングドレスを着たキミは天使だ、女神だ、僕は一生キミを離せそうにないよ!さぁ、永遠の愛を誓ってくれ!なーんてなーんて!!いや〜んもう!!」
「落ち着いて・・・」
両手で自分の頬を包み、瞳をハートにして暴走するレインの服を引っ張りながらファインが諫める。
そんな風に結婚に夢見るレインの姿を見たハーミィは少しだけ肩の力を抜くとそれまでの営業トークとは一転して本音のようなものを語った。
「・・・結婚とは一口に言っても様々な想いを抱えて臨む方たちが沢山いらっしゃいます。その中にはレイン様のように夢や希望などを抱く方たちもいれば不安や躊躇いを抱く方たちもいます。そんな方たちの為にも祝福の力を使うお二人にあやかって宇宙の祝福があるようにと勇気付けたいのです。式に臨む方たちが少しでも愛と幸福に包まれるようにと祈りを込めてパンフレットを作りたいのです。どうかお力添えいただけますでしょうか」
恐らくその目で沢山の結婚式を見届けて来たのだろう。
そう思える程にハーミィの話には重みと説得力があった。
確かに結婚というのは幸せばかりではない。
ファインやレインのような王族ともなれば政略結婚なんてのは普通にある。
その政略結婚を受ける者たちは望まない結婚に涙する事さえあるだろう。
けれども中には国の為、民の為と自分に言い聞かせて受け入れる者もいる。
いつかのミルロがそうなりかけたように。
せめてそうした者たちの結婚やその後が幸せであるようにと祈りたい、と言うハーミィの想いにファインとレインの心が動かない筈はなかった。
「ハーミィさん」
「そのお話」
「「是非、受けさせて下さい!!」」
ファインとレインは身を乗り出す勢いでハーミィの依頼を受け入れた。
これにはハーミィも驚き、そして笑顔になる。
「本当ですか!?ありがとうございます!どうか宜しくお願いします!!」
「「こちらこそ!!」」
「うむうむ、よくぞ引き受けた。それでこそ我が校の生徒だ。存分に役立ち、いつか私とホワイト学園長がエメラルドの教会で式をスムーズに挙げられるようにしっかり恩を売っておくんだぞ」
ファインとレインの背後に立った教頭が小さな声で耳打ちしてきて二人は顔を顰める。
「なんだか白けちゃった」
「ホント、台無しよね」
式を挙げる云々依然にホワイト学園長のハートを掴んでから出直してこい、というセリフは心に留めておいた。
「ファインとレインがロイヤルブライダル社のパンフレットのモデル!?」
ハーミィと細かい打ち合わせを終えた二人は早速教室でふしぎ星のプリンセス一同とレモンとシフォンと偶然遊びに来ていたビビンにその事を話した。
それ聞いて最初に声をあげたのがリオーネだった。
「えへへ、そうなんだ〜」
「グランドユニバーサルプリンセスの祝福にあやかって是非って言われたの」
「凄いわね、二人共」
「パンフレットが出来上がるのが楽しみだわ」
ミルロが二人を褒めてタネタネプリンセスは口々にパンフレットが出来上がるのが楽しみだ、とか、どんな風になるのだろうと想像を膨らませる。
「ちなみに撮影場所はどこでするの?」
「それが聞いて!エメラルドの教会でするのよ!」
「エメラルドの教会ですって!!?」
ソフィーの質問にレインが答えるとアルテッサが大きな声で反応を示した。
そして興奮気味に質問を重ねる。
「そ、その撮影会はわたくしたちも参加出来ないんですの!?見学という事で同行する事は!?」
「神聖な教会だし、あんまり人が多いと他のスタッフさんたちが集中出来ないからそれはダメって言われたわ」
「ピュピュとキュキュもプーモが控え室で面倒を見るって事でギリギリ許してもらえたしね」
「まぁそうですの。それは残念ですわね」
「ええやないか!アウラーと結婚する時に利用すればええやろ!」
「お、大きな声で恥ずかしい事を言わないでくれます!?」
「そうですよレモン!それにどうしてアルテッサとお兄様の中に私もいないの!?」
「何で貴女も混ざろうとしてるの!」
「ええ加減にせぇや!」
アルテッサ・ソフィー・レモンのいつもの漫才に一同は笑う。
ひとしきり笑った所でファインとレインは顔を赤くしながら俯き、レインがもじもじとしながら口を開く。
「そ、それでね、実は・・・」
「どうしたの?ファイン、レイン?顔が赤いわよ?」
二人の様子に気がついたシフォンが尋ねる。
「あ、アタシ達は花嫁として撮影するんだけど・・・」
「当然花婿さん役も必要になるでしょう?」
「そうね。結婚式の主役は花嫁と言われているけど花婿がいなきゃ成り立たないものね」
「それで・・・花婿さんは・・・」
「私達の好きな人を連れて来ていいですよって・・・」
「撮影に協力してくれるお礼に・・・」
「ツーショット写真を沢山撮ってくれるって・・・」
「良かったじゃない!ファインとレインの好きな人ってシェイドとブライトでしょう?」
「おおお大きな声で言わないでよシフォン!!」
「もうやだわシフォン!もっと大きな声で言ってちょうだい!」
「ふしぎふしぎ!双子なのに好きな人の話になると反応が全く正反対になるわね!」
顔を真っ赤にして焦るファインと両手で頬を包みながら嬉しそうにするレインを見てその反応の違いを興味津々に不思議がるシフォン。
しかし、その後ろでビビンの瞳が怪しく光った。
「ちなみにだけど、そのロイヤルブライダル社の人ってのはもう帰っちゃったの?」
「まだいるんじゃないかな?」
「ええ、教頭先生がついでにっていつかホワイト学園長と結婚式を挙げる時の仮プランを決めたいとか何とか言って引き留めてたと思うわ」
「なにしてんねんあの教頭・・・」
「まさに取らぬ狸の皮算用ですわね!それとも絵に描いたぼた餅かしら?」
「どのみち気の早い話ですこと・・・」
「まぁいいわ。まだいるなら都合が良いわね」
「何をする気ですの?ビビン」
「ウフフ、実はね―――」
ビビンはアルテッサとソフィーとレモンを教室の端に手招きするとこれからやらかそうとしている事を三人にこっそりと話した。
普段なら内容を聞いたアルテッサが呆れた表情を浮かべるのだが、今回に限っては瞳を輝かせ、また悪戯っ子のような表情を浮かべてビビンの話した内容に賛同の意を示した。
ソフィーやレモンは言うまでもなくノリノリだ。
「貴女にしては中々良い案を思いつくじゃありませんの」
「にしては、は余計よ!」
「こうしてはいられないわ!善は急げですよ。行きましょう、アルテッサ、レモン!」
「ほなみんな!そういう事で!」
ビビンはレモン・アルテッサ・ソフィーの三人を連れ立って教室を出て行く。
三人が一体何を企てているのか分からず残された一同はただ首を傾げるばかり。
しかしその直後、廊下からソフィーの声が響いた。
「あら、シェイド様にブライト様!」
「シェイド!?」
「ブライト様!?」
つい先程話題に上っていた意中の人物の名前を聞いてファインとレインは飛び上がる。
「ご機嫌よう、ソフィー、アルテッサ、レモン、ビビン」
「あら、お兄様にプリンスシェイド。丁度良い所に会いましたわね。ファインとレインがお二人に話があるって言ってそこの教室で待っていますことよ」
「話?何だ?」
「自分らで聞きに行ったらええわ。アタシらは用があるさかい」
「ま~たね~!」
会話はそこで終わり、四人の少女の足音が遠ざかっていく。
代わりに二人の少年の足音が近付いて来てファインとレインの胸の鼓動が次第に忙しなく脈打つ。
そうして教室の扉がガラリと開かれ、ブライトとシェイドが顔を出した。
「やぁ皆さん、お揃いで」
「ファインとレインはいるか?」
「「は、はい!?」」
名前を呼ばれて二人は顔を真っ赤にしながら軽く肩を跳ね上がらせる。
二人と話しやすいようにリオーネたちがスペースを空けるとそこにシェイドとブライトが入って話しかけて来た。
「さっきアルテッサからレインとファインから話があるって聞いたんだけど何だい?」
「え、えっと・・・実は・・・」
「私達、ロイヤルブライダル社に結婚式のパンフレットのモデルを依頼されたんです」
「ロイヤルブライダル社の?へぇ、それは凄いね」
「ふしぎ星始まって以来最もプリンセスらしくないプリンセスと呼ばれたお前達が結婚式のパンフレットのモデルか」
「う、うるさいよシェイド!」
「さっき打ち合わせをしてきたんですけど花婿さん役は私達の方で決めて良いって言われたんです。それで、あの・・・」
「ん?どうしたんだい?」
「わ、私は・・・ブ、ブライト様がいいな・・・って・・・」
人差し指と人差し指の先を合わせて赤くなっている顔を俯かせるレイン。
期待と不安で心臓はバクバクだ。
対して指名されたブライトはパチパチと瞳を瞬かせるとニッコリと笑みを浮かべて頷いた。
「僕でよければ喜んで引き受けるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、勿論だよ」
「嬉しい・・・!聞いたファイン!?ブライト様がいいよって言ってくれたわ!」
「良かったね、レイン!」
「次はファインの番よ!!」
「う、うんっ!?」
満面の笑みのレインに肩を叩かれてファインは過剰に反応してしまう。
チラリとシェイドの方を見上げれば視線の合ったシェイドに小さく首を傾げられファインは慌てて俯く。
それからレインと同じように人差し指と人差し指の先をツンツンとぶつけながらもじもじと小さな声で話し出す。
「あ・・・アタシは・・・・・・シェイド、に・・・お願い、したい・・・・・・な・・・」
「俺でいいのか?」
「・・・シェイドが・・・・・・いい・・・」
殆ど蚊の鳴くような声で答えるファインの声をシェイドはしっかりと聞き取り、僅かに視線を逸らしながら照れ臭そうに一言。
「・・・俺がいいならいいぞ」
「ホント!!?」
「二度も言わせるな」
「あ、ありがとう!レイン!レイン!!」
「ええ、良かったわね、ファイン!」
感極まってファインはレインの名前しか呼べなくなるが言わんとする事を察したレインはまるで自分の事のように嬉しそうな表情でファインの手を握った。
幸せそうにする姉妹に対して周りから生温かい視線を送れらたブライトは照れ臭そうに笑みを浮かべ、シェイドは落ち着かない気持ちになるのだった。
続く
放課後のロイヤルワンダー学園の職員室で呼び出されたファインとレインはタンバ・リンから説明を受けると二人同時に首を傾げた。
「そうです!今、ロイヤルブライダル社の方がお見えになっていて是非とも二人に結婚式のパンフレットのモデルになって欲しいと仰ってるんです」
「ロイヤルブライダル社ですって!?」
「え?レイン知ってるの?」
「知ってるも何も超有名なブライダル企業よ!その企業が用意するドレスや式場はどれも最高レベルで満足度NO.1と名高いの!その中でも一番人気があるのが『エメラルドの教会』っていう永遠の愛を約束してくれる教会でお値段はトップクラスだけど誰もが憧れる教会ですっごく人気で5年先は予約でいっぱいなのよ!!」
瞳を輝かせながら捲し立てるように早口でレインが説明する。
流石は恋に恋する乙女、こういう事に関しては知識豊富だ。
ファインは一瞬呆気に取られたものの、目をぱちぱちと瞬かせると思った事を口にした。
「へ~。でもアタシたちは結婚するとしたら国で挙げるから関係なくない?」
「何言ってるの!ロイヤルブライダル社は段取りとか会場の飾りつけの提案もしてくれるしなんならドレスのデザインも請け負ってくれるのよ!それに後でこっそり二人きりでエメラルドの教会で式を挙げるっていう手もあるし!」
「え?二人きりで?」
「そうよ!そういう風にしてる王族も少なくないみたいよ」
「ふ~ん」
「それで先生!そのロイヤルブライダル社の方は今どこにいらっしゃるんですか!?」
「今は応接室で教頭先生が対応して下さってます。一緒に行きましょうか」
「「はい!!」」
本当は学園長見習いに昇格した教頭先生だが、学園長とも呼べず、かと言って学園長見習いは呼びにくい上に本人が『見習い』の部分を特に嫌がるので結局は教師生徒一同、教頭先生と呼んでいるのであった。
それはさておき、応接室へ案内してくれるタンバ・リンの後について行く上機嫌のレインと、とりあえずは楽しそうだと思ってニコニコなファイン。
やがて応接室に到着するとタンバ・リンが扉をノックして呼びかけた。
「教頭先生、ファインとレインを連れてきました」
「うむ、通したまへ」
「失礼致します」
「「失礼致します」」
タンバ・リンの後に続いてファインとレインもお辞儀しながら部屋の中に入る。
すると下座にはレインと同じくらい上機嫌な教頭がおり、上座には営業マン風のスーツを着た綺麗な女性が座っていた。
「教頭先生なんかご機嫌だね」
「相手の方が綺麗な女性だからじゃない?それにロイヤルブライダル社っていう超有名企業の方が訪問に来た訳だし」
「これこれ、プリンセスがそんな寒そうな所に立つんじゃない。ほら、こちらに来て座りなさい」
((うわ・・・))
ファインとレインの小声での会話を地獄耳の教頭が聞き逃す筈はない。
普段ならここで減点カードを切っている所だがそれもせずまるで良い人かのようにソファに勧めてくるその態度にファインもレインも引き気味になる。
前から分かっていた事であるがこの教頭は本当に綺麗な女性と権力に弱いらしい。
こんな大人にはなるまいと心に誓うファインとレインだった。
「失礼致します。おひさまの国のファインと」
「レインです」
二人は教頭がどいたソファの前に来るとプリンセスらしく女性の前で挨拶をした。
女性は立ち上がると綺麗な角度でお辞儀をして挨拶を返す。
「お初にお目にかかります、プリンセスファイン様、プリンセスレイン様。わたくしはロイヤルブライダル社営業一課のハーミィと申します。本日はお時間を頂き誠にありがとうございます。こちら名刺になります。どうかお掛け下さい」
「「失礼致します」」
ファインとレインは女性―――ハーミィから名刺を受け取るとソファに座った。
名刺の端には青い花の模様が散らされており、中々にオシャレだ。
ハーミィは背筋を真っ直ぐ立てるとファインとレインを見ながらテキパキと説明を始めた。
「本日ご訪問させていただいた理由はファイン様とレイン様に我が社の発行する結婚式のパンフレットのモデルをお願いしたいからにございます。お二人はこのロイヤルワンダー学園に伝わるソレイユベルに認められしグランドユニバーサルプリンセス。祝福の力をもってブラッククリスタルキングなるものを退治した話は我が社でも非常に話題となっております」
「この話結構広まってるみたいだね」
「そうねぇ。自分達じゃ全然実感がないけど」
「そこで祝福の力を持つプリンセスであるお二人に是非とも我が社のパンフレットのモデルをしていただきたいのです。どうか結婚をする方たちに夢と希望を与えて欲しいのです」
「夢と希望かぁ」
「結婚って言葉で聞くだけでも素敵なイメージが湧くけどパンフレットとか見るとよりそれが具体的になるのよね!私もパンフレットを見てはブライト様との結婚式の想像がより具体的になるの〜!レイン、とうとうこの日が来たね。はい、ブライト様!ああ、ウェディングドレスを着たキミは天使だ、女神だ、僕は一生キミを離せそうにないよ!さぁ、永遠の愛を誓ってくれ!なーんてなーんて!!いや〜んもう!!」
「落ち着いて・・・」
両手で自分の頬を包み、瞳をハートにして暴走するレインの服を引っ張りながらファインが諫める。
そんな風に結婚に夢見るレインの姿を見たハーミィは少しだけ肩の力を抜くとそれまでの営業トークとは一転して本音のようなものを語った。
「・・・結婚とは一口に言っても様々な想いを抱えて臨む方たちが沢山いらっしゃいます。その中にはレイン様のように夢や希望などを抱く方たちもいれば不安や躊躇いを抱く方たちもいます。そんな方たちの為にも祝福の力を使うお二人にあやかって宇宙の祝福があるようにと勇気付けたいのです。式に臨む方たちが少しでも愛と幸福に包まれるようにと祈りを込めてパンフレットを作りたいのです。どうかお力添えいただけますでしょうか」
恐らくその目で沢山の結婚式を見届けて来たのだろう。
そう思える程にハーミィの話には重みと説得力があった。
確かに結婚というのは幸せばかりではない。
ファインやレインのような王族ともなれば政略結婚なんてのは普通にある。
その政略結婚を受ける者たちは望まない結婚に涙する事さえあるだろう。
けれども中には国の為、民の為と自分に言い聞かせて受け入れる者もいる。
いつかのミルロがそうなりかけたように。
せめてそうした者たちの結婚やその後が幸せであるようにと祈りたい、と言うハーミィの想いにファインとレインの心が動かない筈はなかった。
「ハーミィさん」
「そのお話」
「「是非、受けさせて下さい!!」」
ファインとレインは身を乗り出す勢いでハーミィの依頼を受け入れた。
これにはハーミィも驚き、そして笑顔になる。
「本当ですか!?ありがとうございます!どうか宜しくお願いします!!」
「「こちらこそ!!」」
「うむうむ、よくぞ引き受けた。それでこそ我が校の生徒だ。存分に役立ち、いつか私とホワイト学園長がエメラルドの教会で式をスムーズに挙げられるようにしっかり恩を売っておくんだぞ」
ファインとレインの背後に立った教頭が小さな声で耳打ちしてきて二人は顔を顰める。
「なんだか白けちゃった」
「ホント、台無しよね」
式を挙げる云々依然にホワイト学園長のハートを掴んでから出直してこい、というセリフは心に留めておいた。
「ファインとレインがロイヤルブライダル社のパンフレットのモデル!?」
ハーミィと細かい打ち合わせを終えた二人は早速教室でふしぎ星のプリンセス一同とレモンとシフォンと偶然遊びに来ていたビビンにその事を話した。
それ聞いて最初に声をあげたのがリオーネだった。
「えへへ、そうなんだ〜」
「グランドユニバーサルプリンセスの祝福にあやかって是非って言われたの」
「凄いわね、二人共」
「パンフレットが出来上がるのが楽しみだわ」
ミルロが二人を褒めてタネタネプリンセスは口々にパンフレットが出来上がるのが楽しみだ、とか、どんな風になるのだろうと想像を膨らませる。
「ちなみに撮影場所はどこでするの?」
「それが聞いて!エメラルドの教会でするのよ!」
「エメラルドの教会ですって!!?」
ソフィーの質問にレインが答えるとアルテッサが大きな声で反応を示した。
そして興奮気味に質問を重ねる。
「そ、その撮影会はわたくしたちも参加出来ないんですの!?見学という事で同行する事は!?」
「神聖な教会だし、あんまり人が多いと他のスタッフさんたちが集中出来ないからそれはダメって言われたわ」
「ピュピュとキュキュもプーモが控え室で面倒を見るって事でギリギリ許してもらえたしね」
「まぁそうですの。それは残念ですわね」
「ええやないか!アウラーと結婚する時に利用すればええやろ!」
「お、大きな声で恥ずかしい事を言わないでくれます!?」
「そうですよレモン!それにどうしてアルテッサとお兄様の中に私もいないの!?」
「何で貴女も混ざろうとしてるの!」
「ええ加減にせぇや!」
アルテッサ・ソフィー・レモンのいつもの漫才に一同は笑う。
ひとしきり笑った所でファインとレインは顔を赤くしながら俯き、レインがもじもじとしながら口を開く。
「そ、それでね、実は・・・」
「どうしたの?ファイン、レイン?顔が赤いわよ?」
二人の様子に気がついたシフォンが尋ねる。
「あ、アタシ達は花嫁として撮影するんだけど・・・」
「当然花婿さん役も必要になるでしょう?」
「そうね。結婚式の主役は花嫁と言われているけど花婿がいなきゃ成り立たないものね」
「それで・・・花婿さんは・・・」
「私達の好きな人を連れて来ていいですよって・・・」
「撮影に協力してくれるお礼に・・・」
「ツーショット写真を沢山撮ってくれるって・・・」
「良かったじゃない!ファインとレインの好きな人ってシェイドとブライトでしょう?」
「おおお大きな声で言わないでよシフォン!!」
「もうやだわシフォン!もっと大きな声で言ってちょうだい!」
「ふしぎふしぎ!双子なのに好きな人の話になると反応が全く正反対になるわね!」
顔を真っ赤にして焦るファインと両手で頬を包みながら嬉しそうにするレインを見てその反応の違いを興味津々に不思議がるシフォン。
しかし、その後ろでビビンの瞳が怪しく光った。
「ちなみにだけど、そのロイヤルブライダル社の人ってのはもう帰っちゃったの?」
「まだいるんじゃないかな?」
「ええ、教頭先生がついでにっていつかホワイト学園長と結婚式を挙げる時の仮プランを決めたいとか何とか言って引き留めてたと思うわ」
「なにしてんねんあの教頭・・・」
「まさに取らぬ狸の皮算用ですわね!それとも絵に描いたぼた餅かしら?」
「どのみち気の早い話ですこと・・・」
「まぁいいわ。まだいるなら都合が良いわね」
「何をする気ですの?ビビン」
「ウフフ、実はね―――」
ビビンはアルテッサとソフィーとレモンを教室の端に手招きするとこれからやらかそうとしている事を三人にこっそりと話した。
普段なら内容を聞いたアルテッサが呆れた表情を浮かべるのだが、今回に限っては瞳を輝かせ、また悪戯っ子のような表情を浮かべてビビンの話した内容に賛同の意を示した。
ソフィーやレモンは言うまでもなくノリノリだ。
「貴女にしては中々良い案を思いつくじゃありませんの」
「にしては、は余計よ!」
「こうしてはいられないわ!善は急げですよ。行きましょう、アルテッサ、レモン!」
「ほなみんな!そういう事で!」
ビビンはレモン・アルテッサ・ソフィーの三人を連れ立って教室を出て行く。
三人が一体何を企てているのか分からず残された一同はただ首を傾げるばかり。
しかしその直後、廊下からソフィーの声が響いた。
「あら、シェイド様にブライト様!」
「シェイド!?」
「ブライト様!?」
つい先程話題に上っていた意中の人物の名前を聞いてファインとレインは飛び上がる。
「ご機嫌よう、ソフィー、アルテッサ、レモン、ビビン」
「あら、お兄様にプリンスシェイド。丁度良い所に会いましたわね。ファインとレインがお二人に話があるって言ってそこの教室で待っていますことよ」
「話?何だ?」
「自分らで聞きに行ったらええわ。アタシらは用があるさかい」
「ま~たね~!」
会話はそこで終わり、四人の少女の足音が遠ざかっていく。
代わりに二人の少年の足音が近付いて来てファインとレインの胸の鼓動が次第に忙しなく脈打つ。
そうして教室の扉がガラリと開かれ、ブライトとシェイドが顔を出した。
「やぁ皆さん、お揃いで」
「ファインとレインはいるか?」
「「は、はい!?」」
名前を呼ばれて二人は顔を真っ赤にしながら軽く肩を跳ね上がらせる。
二人と話しやすいようにリオーネたちがスペースを空けるとそこにシェイドとブライトが入って話しかけて来た。
「さっきアルテッサからレインとファインから話があるって聞いたんだけど何だい?」
「え、えっと・・・実は・・・」
「私達、ロイヤルブライダル社に結婚式のパンフレットのモデルを依頼されたんです」
「ロイヤルブライダル社の?へぇ、それは凄いね」
「ふしぎ星始まって以来最もプリンセスらしくないプリンセスと呼ばれたお前達が結婚式のパンフレットのモデルか」
「う、うるさいよシェイド!」
「さっき打ち合わせをしてきたんですけど花婿さん役は私達の方で決めて良いって言われたんです。それで、あの・・・」
「ん?どうしたんだい?」
「わ、私は・・・ブ、ブライト様がいいな・・・って・・・」
人差し指と人差し指の先を合わせて赤くなっている顔を俯かせるレイン。
期待と不安で心臓はバクバクだ。
対して指名されたブライトはパチパチと瞳を瞬かせるとニッコリと笑みを浮かべて頷いた。
「僕でよければ喜んで引き受けるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、勿論だよ」
「嬉しい・・・!聞いたファイン!?ブライト様がいいよって言ってくれたわ!」
「良かったね、レイン!」
「次はファインの番よ!!」
「う、うんっ!?」
満面の笑みのレインに肩を叩かれてファインは過剰に反応してしまう。
チラリとシェイドの方を見上げれば視線の合ったシェイドに小さく首を傾げられファインは慌てて俯く。
それからレインと同じように人差し指と人差し指の先をツンツンとぶつけながらもじもじと小さな声で話し出す。
「あ・・・アタシは・・・・・・シェイド、に・・・お願い、したい・・・・・・な・・・」
「俺でいいのか?」
「・・・シェイドが・・・・・・いい・・・」
殆ど蚊の鳴くような声で答えるファインの声をシェイドはしっかりと聞き取り、僅かに視線を逸らしながら照れ臭そうに一言。
「・・・俺がいいならいいぞ」
「ホント!!?」
「二度も言わせるな」
「あ、ありがとう!レイン!レイン!!」
「ええ、良かったわね、ファイン!」
感極まってファインはレインの名前しか呼べなくなるが言わんとする事を察したレインはまるで自分の事のように嬉しそうな表情でファインの手を握った。
幸せそうにする姉妹に対して周りから生温かい視線を送れらたブライトは照れ臭そうに笑みを浮かべ、シェイドは落ち着かない気持ちになるのだった。
続く