ピースフルパーティーと虹の蜜 後日談
待ちに待った夏休み。
故郷に帰れる事に生徒達は浮足立ち、しかし夏休みの宿題を前に気分を沈ませる。
それはファインもレインもそうであったが、ふしぎ星のみんなで一緒に夏休みの宿題をやろうの会が発足されて楽しみなイベントに変換された。
ちなみのこの会の発案者はアルテッサ。
宇宙の平和を守ったグランドユニバーサルプリンセスの二人が夏休みの宿題を忘れるなんて赤っ恥もいいところだから、と小言交じりに言ったのだ。
しかしそれはただの建前で、二人が笑われる所を見たくないからという優しさの裏返しであるというのは言わなくても皆が既に分かっている事であった。
そして現在はふしぎ星出身者の全員が寮のサロンに集まって夏休みの計画について話し合っている所である。
「この日は気球レースがあって朝から準備で忙しいから宿題は出来ないね」
「でもみんな、良ければ見に来てくれないか?僕とアウラーのどちらが勝つか予想しててよ」
「私は勿論ブライト様を応援してます!!」
「レイン、落ち着いて・・・」
目をハートにして身を乗り出すレインの服の裾をファインが引っ張る。
レインはいつだってブライトの事になると通常運転だった。
そこでふと、リオーネがある事を思い出してファインとレインに尋ねる。
「そういえば今年もエリザベータとファンゴは一緒に来るの?」
「ううん、エリザベータはセレブ星に帰るんだって」
「流石に二年連続で故郷に帰らない訳にはいかないものね」
「「ファンゴと一緒に」」
「え・・・」
「昨日アタシとレインで、また一緒にどう?って誘いに行ったんだけど」
「エリザベータが『父上と母上がファンゴに会いたがってるから』ってファンゴをセレブ星に連れて行く事にしたみたいなの」
「しかも荷物に縛り付けて」
「それをシャシャとカーラが無言で他の荷物と一緒に運んで」
この場の誰もが心の中でファンゴに合掌した。
同時に脳裏にありありとその時の光景が浮かんだ。
優雅に前を歩くエリザベータとその後ろを荷物を引っ張るシャシャと押すカーラ。
そしてファンゴはロープで荷物に縛り付けられ、顔を赤くしながら降ろせと喚き、もがくが聞き入れてもらえず抵抗虚しく連行されてしまう。
恋愛に関しては意外にも大胆で行動力のあるエリザベータだが、まさかここまでの事をするなどあのファンゴでも流石に考えが及ばなかっただろう。
夏休みが終わった後、二人は一体どんな顔で学園にやって来るのか色々な意味で楽しみである。
それはさておき、シェイドがある事を思い出して口を開く。
「そういえばミルキーが夏休みにみんなと遊びたいって手紙で言っていたんだ。海にも行きたいって言ってたんだがみんなはどうだ?」
「さんせーさんせー!」
「みんなで行きましょう!」
いの一番に賛成の声を上げたのはやっぱりファインとレインだった。
かと言って反対する者は誰一人としていなかったのでほぼ満場一致と言ってもいいだろう。
この流れに乗じてミルロも手を上げて意見を述べる。
「あの、人形の町もどう?ナルロが行きたいらしいの」
「いいねいいね、人形の町!」
「そっちも行きましょう!」
「人形の町かぁ。そういえばあんまり行った事がないなぁ」
「そうですわね、お兄様。ねぇアルテッサ、人形の町って絶叫マシーンが沢山あるのよね?一緒に沢山乗りましょうね!」
「絶対嫌ですわ!!」
のんびりと人形の町に思いを馳せるアウラーとソフィーに誘われて断固拒否するアルテッサ。
彼女は絶叫マシーンが苦手な為、顔を青くして拒否の意を示すのであった。
「ねぇ、みんなで花火を持ち寄って遊ぶのはどうかしら?それぞれの国で花火のタイプが違うって聞いたからきっと楽しいと思うの」
「素敵な案ね、ゴーチェル!とても楽しそうだわ!」
「タネタネ人サイズの花火ならピュピュとキュキュでも遊べますしね。僕達の方で用意しますよ」
「おお〜!ピュピュ、キュキュ、ソロ様やタネタネプリンセスの皆様方から花火を分けていただけるそうでプモ。今のうちにちゃんとお礼を言うでプモ」
リオーネがゴーチェルの案に賛成し、その後に続いたソロの言葉にプーモが感激してふたごの天使のピュピュとキュキュにお礼を言うように促す。
とても小さな天使であるが為に花火は持たせられないと思っていたがタネタネ人用の花火を分けてもらえるなら参加は可能だ。
最近は悪戯をする事もなくなり、ファインとレインとプーモの言う事をよく聞くようになったので花火で危険な悪戯をする事はないだろう。
プーモに促されたピュピュとキュキュはソロとタネタネプリンセスにお辞儀をして感謝の意を伝えた。
こうしてしっかりとお礼が言えるのもファインとレインとプーモの教育の賜物であろう。
「そういえば街に色んな星の花火を扱ってる店があるんだけどこれからみんなで買いに行くのはどうかな?花火で遊ぶ日にそれも使って遊ぶんだ」
「おお!素晴らしい考えですなブライト殿!このティオ、ついでに父上と母上へのお土産を買いたいのですが宜しいでしょうか?」
「うん、勿論だよ」
「アタシ達もお土産買おっか」
「そうね」
そんな訳でみんなで街にお土産を買いに行く事となった。
やはり夏休みだからか街に生徒の数は少なく、少し閑散としていたが大勢で来たので動きやすさを考えれば丁度良かった。
スケジュールとしてはまず最初に花火を買い、その次にお土産を選んで最後はみんなで昼食を摂って寮に戻るという流れだ。
花火の店では色んな星の花火を扱っている事に皆興奮を隠せずかなり盛り上がった。
ファインとレインなんかはしゃぎ過ぎて宇宙宅配で送らなければいけない程の花火を買ったくらいだ。
そのはしゃぎっぷりに皆が苦笑したのは言うまでもない。
現在はお土産タイムとなっており、それぞれであれこれと選んでいたがファインとレインはすぐに決まった。
ファインは本人イチオシのクッキーでレインは本人イチオシの紅茶セット。
これらは二人が前々から目をつけていたもので、お土産として買うならこれと決めていた物だ。
お土産選びも終わってベンチでまったりとみんなが終わるのを待っていた二人だったが、そこにシェイドが声をかけてきた。
「ファイン、ちょっといいか?」
「シェイド?どうしたの?」
「ミルキーへのお土産のお菓子を買いたいんだ。アドバイスをくれないか?」
「いいよ!喜んで!」
ベンチから飛び上がるとファインは声を弾ませて快諾した。
「ピュピュは僕達が見ていますでプモ」
「デート、楽しんできてね?」
「も、も〜!レイン!!」
耳元でこっそりと囁かれた言葉にファインは顔を真っ赤にして怒る。
しけしそんな顔をしてもレインはクスクスと笑うだけでなんの効果もない。
ファインはプイッと背を向けるとシェイドを促した。
「行こう、シェイド!」
「ああ?」
ファインがレインに何を言われたのか、何故顔を赤くして俯かせているのか分からないままシェイドはファインと共に並んで歩き始める。
ロイヤルワンダープラネットにも季節の概念はあり、夏の季節という事もあって日差しはやや強めで気温は高かった。
しかし元々が高温の砂漠の土地を持つ月の国出身のシェイドやメラメラの国の暑さを経験したファインからしてみればさして気になる程の温度ではなかった。
「クッキーならあのお店がお勧めだよ!マドレーヌならあっちのお店だし、夏の涼しさを感じるならあのお店のゼリーがいいかな。一緒に売ってる水ようかんもオススメだよ!」
「クッキーもいいが夏だからゼリーと水ようかんにするか」
「じゃあクッキーはアタシが買うね。アタシからミルキーへのお土産って事で!」
「ああ、悪いな。だが感謝する。ミルキーも喜ぶ」
「いいのいいの、友達だから!」
太陽のように屈託なく笑うファインにつられてシェイドも自然と笑みを溢す。
本当にミルキーは良い友達を持った、とファインの存在にシェイドは心から感謝をする。
しかし心の中でするだけではなく、ちゃんと形にしたものをシェイドは懐から取り出して差し出した。
「ファイン、これを」
「ん?何これ?招待状?」
「開けてみろ」
促されるままファインは招待状を受け取って中の便箋を取り出す。
そしてそこに書かれていた内容に驚いてシェイドを見上げる。
「これ・・・お茶会の招待状?」
「ああ。ミルキーがまたみんなでバナナパウンドケーキを食べたいって言っててな」
「えへへ、そっか・・・!」
思い出のバナナパウンドケーキ。
スケジュールの関係で少量しか採取出来ず、けれどもシェイドと一緒に育てた虹の蜜。
それを混ぜたバナナパウンドケーキはとても美味しく、ファインにとってもシェイドにとってもみんなにとっても特別な味がした。
ケーキを作る時はシェイドと一緒に作ったし、紅茶も一緒に用意して淹れた。
みんなで一緒に食べて口を揃えて「美味しい」と言ったあの時のお茶会は今でもファインの胸に美しい光を放ちながら刻まれている。
それはシェイドも同じで、人生で一番楽しくて特別なお茶会として記憶に刻まれていた。
まだ一人で活動していた頃、シェイドにとってお茶会なんてのは愛想笑いを浮かべて互いの近況を報告するだけのつまらない茶番だと思っていた。
けれどふしぎ星を救う中で皆と絆を深め、そしてファインと一緒に虹の花を育てて虹の蜜を採取し、お茶会を開いた事でその認識は変わった。
交流を深めれば深める程にそれぞれの人となりが分かると同時に信頼が深まり、自然と心を許せるようになった。
それに息抜きとしても悪くない。
特に、大切な存在の笑顔を見られるなら尚の事。
「ちなみにこの招待状を受け取るのはお前が一番最初だ」
「本当!?」
「あのバナナパウンドケーキを作るんだ、お前が最初で当然だろ」
「シェイド・・・!ありがとう!」
とびきりの笑顔と、とびきりの好意。
予想は出来ていたけれど実際にその反応を受けるとやはり己の身を襲うこそばゆさはとてつもないものがある。
しかしなるべく感情を表に出さないようにするのは得意なので笑みを溢す程度に留める。
本当だったらそれすらもしないのだが、したのはいつかレインに「嬉しいと思った時はちゃんと素直になること」と言われたから。
自分が笑う事で幸せになる人間がいるだの言われた時は訳が分からなかったが今なら分かる気がする。
何故なら今目の前で自分が笑みを溢した事でファインが更に幸せそうな笑顔を浮かべたから。
これに限らず、ファインはシェイドが楽しそうにしたり嬉しそうにすると同じような気持ちになっているのに最近気付いた。
それらを踏まえてこれからはファインに笑顔でいてもらう為にも素直に感情を表現しようと思った。
レインからの忠告もといアドバイスというのが少し気に食わないがこの際目を瞑ろう。
「あ、でもアタシ・・・バナナパウンドケーキの作り方忘れちゃった・・・」
「レシピのメモは残ってないのか?」
「勿論取っといてあるけど作り方のコツっていうか感覚をすっかり忘れてて・・・」
「それなら俺がメインで作るから問題ない。お前はアシストをしてくれ」
「いいの?」
「お前にメインをやらせて全員の口から火を噴かせる訳にはいかないからな」
「うっ・・・バレンタインチョコのやつまだ覚えてたんだ・・・」
「忘れられる事のない衝撃的な味だったからな」
「次は気を付けます・・・」
「次も危ない気がしてならないんだよな・・・歴史は繰り返すって言うだろ」
「ぐぅ・・・」
「せめてバナナパウンドケーキだけはまともに作れるように定期的に練習しておいたらどうだ?これから先も作る事になるんだからな」
「・・・!」
これから先も作る事になる、という事はまたお茶会を開いてみんなで食べるという事か、或いは二人だけで何かの時に食べる特別なスイーツになるという意味かもしれない。
どちらにせよ決定している未来である事に変わりはなかった。
その意味が分かってファインは頬を赤く染めると元気よく頷いた。
「そうだね!アタシ、バナナパウンドケーキだけは絶対にマスターするよ!それでまた次に作る時にはアタシがメインで作るからシェイドはアシストを宜しくね!」
「マスター出来てたらな」
「見ててよ!絶対にマスターするから!」
「一応は楽しみにしておこう」
言葉は捻くれていてもシェイドの表情は優しかった。
「お喋りはこの辺にして土産を買うとするか。みんなにお茶会の話もしないといけないしな」
「うん!」
幸せの空気を纏って二人一緒にお菓子のお店へ。
開いた時に鳴った店のドアベルの音はまるで笑顔溢れる充実した夏休みの足音のように響くのだった。
後日談 END
故郷に帰れる事に生徒達は浮足立ち、しかし夏休みの宿題を前に気分を沈ませる。
それはファインもレインもそうであったが、ふしぎ星のみんなで一緒に夏休みの宿題をやろうの会が発足されて楽しみなイベントに変換された。
ちなみのこの会の発案者はアルテッサ。
宇宙の平和を守ったグランドユニバーサルプリンセスの二人が夏休みの宿題を忘れるなんて赤っ恥もいいところだから、と小言交じりに言ったのだ。
しかしそれはただの建前で、二人が笑われる所を見たくないからという優しさの裏返しであるというのは言わなくても皆が既に分かっている事であった。
そして現在はふしぎ星出身者の全員が寮のサロンに集まって夏休みの計画について話し合っている所である。
「この日は気球レースがあって朝から準備で忙しいから宿題は出来ないね」
「でもみんな、良ければ見に来てくれないか?僕とアウラーのどちらが勝つか予想しててよ」
「私は勿論ブライト様を応援してます!!」
「レイン、落ち着いて・・・」
目をハートにして身を乗り出すレインの服の裾をファインが引っ張る。
レインはいつだってブライトの事になると通常運転だった。
そこでふと、リオーネがある事を思い出してファインとレインに尋ねる。
「そういえば今年もエリザベータとファンゴは一緒に来るの?」
「ううん、エリザベータはセレブ星に帰るんだって」
「流石に二年連続で故郷に帰らない訳にはいかないものね」
「「ファンゴと一緒に」」
「え・・・」
「昨日アタシとレインで、また一緒にどう?って誘いに行ったんだけど」
「エリザベータが『父上と母上がファンゴに会いたがってるから』ってファンゴをセレブ星に連れて行く事にしたみたいなの」
「しかも荷物に縛り付けて」
「それをシャシャとカーラが無言で他の荷物と一緒に運んで」
この場の誰もが心の中でファンゴに合掌した。
同時に脳裏にありありとその時の光景が浮かんだ。
優雅に前を歩くエリザベータとその後ろを荷物を引っ張るシャシャと押すカーラ。
そしてファンゴはロープで荷物に縛り付けられ、顔を赤くしながら降ろせと喚き、もがくが聞き入れてもらえず抵抗虚しく連行されてしまう。
恋愛に関しては意外にも大胆で行動力のあるエリザベータだが、まさかここまでの事をするなどあのファンゴでも流石に考えが及ばなかっただろう。
夏休みが終わった後、二人は一体どんな顔で学園にやって来るのか色々な意味で楽しみである。
それはさておき、シェイドがある事を思い出して口を開く。
「そういえばミルキーが夏休みにみんなと遊びたいって手紙で言っていたんだ。海にも行きたいって言ってたんだがみんなはどうだ?」
「さんせーさんせー!」
「みんなで行きましょう!」
いの一番に賛成の声を上げたのはやっぱりファインとレインだった。
かと言って反対する者は誰一人としていなかったのでほぼ満場一致と言ってもいいだろう。
この流れに乗じてミルロも手を上げて意見を述べる。
「あの、人形の町もどう?ナルロが行きたいらしいの」
「いいねいいね、人形の町!」
「そっちも行きましょう!」
「人形の町かぁ。そういえばあんまり行った事がないなぁ」
「そうですわね、お兄様。ねぇアルテッサ、人形の町って絶叫マシーンが沢山あるのよね?一緒に沢山乗りましょうね!」
「絶対嫌ですわ!!」
のんびりと人形の町に思いを馳せるアウラーとソフィーに誘われて断固拒否するアルテッサ。
彼女は絶叫マシーンが苦手な為、顔を青くして拒否の意を示すのであった。
「ねぇ、みんなで花火を持ち寄って遊ぶのはどうかしら?それぞれの国で花火のタイプが違うって聞いたからきっと楽しいと思うの」
「素敵な案ね、ゴーチェル!とても楽しそうだわ!」
「タネタネ人サイズの花火ならピュピュとキュキュでも遊べますしね。僕達の方で用意しますよ」
「おお〜!ピュピュ、キュキュ、ソロ様やタネタネプリンセスの皆様方から花火を分けていただけるそうでプモ。今のうちにちゃんとお礼を言うでプモ」
リオーネがゴーチェルの案に賛成し、その後に続いたソロの言葉にプーモが感激してふたごの天使のピュピュとキュキュにお礼を言うように促す。
とても小さな天使であるが為に花火は持たせられないと思っていたがタネタネ人用の花火を分けてもらえるなら参加は可能だ。
最近は悪戯をする事もなくなり、ファインとレインとプーモの言う事をよく聞くようになったので花火で危険な悪戯をする事はないだろう。
プーモに促されたピュピュとキュキュはソロとタネタネプリンセスにお辞儀をして感謝の意を伝えた。
こうしてしっかりとお礼が言えるのもファインとレインとプーモの教育の賜物であろう。
「そういえば街に色んな星の花火を扱ってる店があるんだけどこれからみんなで買いに行くのはどうかな?花火で遊ぶ日にそれも使って遊ぶんだ」
「おお!素晴らしい考えですなブライト殿!このティオ、ついでに父上と母上へのお土産を買いたいのですが宜しいでしょうか?」
「うん、勿論だよ」
「アタシ達もお土産買おっか」
「そうね」
そんな訳でみんなで街にお土産を買いに行く事となった。
やはり夏休みだからか街に生徒の数は少なく、少し閑散としていたが大勢で来たので動きやすさを考えれば丁度良かった。
スケジュールとしてはまず最初に花火を買い、その次にお土産を選んで最後はみんなで昼食を摂って寮に戻るという流れだ。
花火の店では色んな星の花火を扱っている事に皆興奮を隠せずかなり盛り上がった。
ファインとレインなんかはしゃぎ過ぎて宇宙宅配で送らなければいけない程の花火を買ったくらいだ。
そのはしゃぎっぷりに皆が苦笑したのは言うまでもない。
現在はお土産タイムとなっており、それぞれであれこれと選んでいたがファインとレインはすぐに決まった。
ファインは本人イチオシのクッキーでレインは本人イチオシの紅茶セット。
これらは二人が前々から目をつけていたもので、お土産として買うならこれと決めていた物だ。
お土産選びも終わってベンチでまったりとみんなが終わるのを待っていた二人だったが、そこにシェイドが声をかけてきた。
「ファイン、ちょっといいか?」
「シェイド?どうしたの?」
「ミルキーへのお土産のお菓子を買いたいんだ。アドバイスをくれないか?」
「いいよ!喜んで!」
ベンチから飛び上がるとファインは声を弾ませて快諾した。
「ピュピュは僕達が見ていますでプモ」
「デート、楽しんできてね?」
「も、も〜!レイン!!」
耳元でこっそりと囁かれた言葉にファインは顔を真っ赤にして怒る。
しけしそんな顔をしてもレインはクスクスと笑うだけでなんの効果もない。
ファインはプイッと背を向けるとシェイドを促した。
「行こう、シェイド!」
「ああ?」
ファインがレインに何を言われたのか、何故顔を赤くして俯かせているのか分からないままシェイドはファインと共に並んで歩き始める。
ロイヤルワンダープラネットにも季節の概念はあり、夏の季節という事もあって日差しはやや強めで気温は高かった。
しかし元々が高温の砂漠の土地を持つ月の国出身のシェイドやメラメラの国の暑さを経験したファインからしてみればさして気になる程の温度ではなかった。
「クッキーならあのお店がお勧めだよ!マドレーヌならあっちのお店だし、夏の涼しさを感じるならあのお店のゼリーがいいかな。一緒に売ってる水ようかんもオススメだよ!」
「クッキーもいいが夏だからゼリーと水ようかんにするか」
「じゃあクッキーはアタシが買うね。アタシからミルキーへのお土産って事で!」
「ああ、悪いな。だが感謝する。ミルキーも喜ぶ」
「いいのいいの、友達だから!」
太陽のように屈託なく笑うファインにつられてシェイドも自然と笑みを溢す。
本当にミルキーは良い友達を持った、とファインの存在にシェイドは心から感謝をする。
しかし心の中でするだけではなく、ちゃんと形にしたものをシェイドは懐から取り出して差し出した。
「ファイン、これを」
「ん?何これ?招待状?」
「開けてみろ」
促されるままファインは招待状を受け取って中の便箋を取り出す。
そしてそこに書かれていた内容に驚いてシェイドを見上げる。
「これ・・・お茶会の招待状?」
「ああ。ミルキーがまたみんなでバナナパウンドケーキを食べたいって言っててな」
「えへへ、そっか・・・!」
思い出のバナナパウンドケーキ。
スケジュールの関係で少量しか採取出来ず、けれどもシェイドと一緒に育てた虹の蜜。
それを混ぜたバナナパウンドケーキはとても美味しく、ファインにとってもシェイドにとってもみんなにとっても特別な味がした。
ケーキを作る時はシェイドと一緒に作ったし、紅茶も一緒に用意して淹れた。
みんなで一緒に食べて口を揃えて「美味しい」と言ったあの時のお茶会は今でもファインの胸に美しい光を放ちながら刻まれている。
それはシェイドも同じで、人生で一番楽しくて特別なお茶会として記憶に刻まれていた。
まだ一人で活動していた頃、シェイドにとってお茶会なんてのは愛想笑いを浮かべて互いの近況を報告するだけのつまらない茶番だと思っていた。
けれどふしぎ星を救う中で皆と絆を深め、そしてファインと一緒に虹の花を育てて虹の蜜を採取し、お茶会を開いた事でその認識は変わった。
交流を深めれば深める程にそれぞれの人となりが分かると同時に信頼が深まり、自然と心を許せるようになった。
それに息抜きとしても悪くない。
特に、大切な存在の笑顔を見られるなら尚の事。
「ちなみにこの招待状を受け取るのはお前が一番最初だ」
「本当!?」
「あのバナナパウンドケーキを作るんだ、お前が最初で当然だろ」
「シェイド・・・!ありがとう!」
とびきりの笑顔と、とびきりの好意。
予想は出来ていたけれど実際にその反応を受けるとやはり己の身を襲うこそばゆさはとてつもないものがある。
しかしなるべく感情を表に出さないようにするのは得意なので笑みを溢す程度に留める。
本当だったらそれすらもしないのだが、したのはいつかレインに「嬉しいと思った時はちゃんと素直になること」と言われたから。
自分が笑う事で幸せになる人間がいるだの言われた時は訳が分からなかったが今なら分かる気がする。
何故なら今目の前で自分が笑みを溢した事でファインが更に幸せそうな笑顔を浮かべたから。
これに限らず、ファインはシェイドが楽しそうにしたり嬉しそうにすると同じような気持ちになっているのに最近気付いた。
それらを踏まえてこれからはファインに笑顔でいてもらう為にも素直に感情を表現しようと思った。
レインからの忠告もといアドバイスというのが少し気に食わないがこの際目を瞑ろう。
「あ、でもアタシ・・・バナナパウンドケーキの作り方忘れちゃった・・・」
「レシピのメモは残ってないのか?」
「勿論取っといてあるけど作り方のコツっていうか感覚をすっかり忘れてて・・・」
「それなら俺がメインで作るから問題ない。お前はアシストをしてくれ」
「いいの?」
「お前にメインをやらせて全員の口から火を噴かせる訳にはいかないからな」
「うっ・・・バレンタインチョコのやつまだ覚えてたんだ・・・」
「忘れられる事のない衝撃的な味だったからな」
「次は気を付けます・・・」
「次も危ない気がしてならないんだよな・・・歴史は繰り返すって言うだろ」
「ぐぅ・・・」
「せめてバナナパウンドケーキだけはまともに作れるように定期的に練習しておいたらどうだ?これから先も作る事になるんだからな」
「・・・!」
これから先も作る事になる、という事はまたお茶会を開いてみんなで食べるという事か、或いは二人だけで何かの時に食べる特別なスイーツになるという意味かもしれない。
どちらにせよ決定している未来である事に変わりはなかった。
その意味が分かってファインは頬を赤く染めると元気よく頷いた。
「そうだね!アタシ、バナナパウンドケーキだけは絶対にマスターするよ!それでまた次に作る時にはアタシがメインで作るからシェイドはアシストを宜しくね!」
「マスター出来てたらな」
「見ててよ!絶対にマスターするから!」
「一応は楽しみにしておこう」
言葉は捻くれていてもシェイドの表情は優しかった。
「お喋りはこの辺にして土産を買うとするか。みんなにお茶会の話もしないといけないしな」
「うん!」
幸せの空気を纏って二人一緒にお菓子のお店へ。
開いた時に鳴った店のドアベルの音はまるで笑顔溢れる充実した夏休みの足音のように響くのだった。
後日談 END