ピースフルパーティーと虹の蜜 後日談
ふしぎ星が平和になってから雲を作る装置が安定し、それに伴って積み重なっていた問題は徐々に解消されていき、ヤームルの捌く政務の量も落ち着いてきて時間が出来るようになった。
その出来た時間でナルロが起きている時はナルロの相手をし、ナルロが寝ている時は寝顔を見てから面倒を夫であるパンプに任せてお茶をするなどして休憩をしている。
今日は大事な会合があったので最初からナルロをパンプに任せていたがそれも今は終わり、時間が出来たのでヤームルは一枚の手紙を持って廊下を歩いていた。
目的の部屋は勿論ナルロの部屋。
「ナルロ、起きてますか?」
ノックをして中に入ればミニカーで遊ぶナルロとそれを温かく見守るパンプの姿がそこにあった。
ナルロはヤームルを見るや嬉しそうに「マビーン!」と声を上げたのでヤームルも嬉しそうに笑みを溢す。
「楽しそうね、ナルロ。良い子にしてましたか?」
「ガビ~ン!」
「よっぽど気に入ったのか今日はずっとこれで遊んでいたぞ。まぁ、これも相変わらずお気に入りのようだが・・・」
そう言ってパンプはナルロの傍に置かれている高クオリティの女のお化けの人形に視線を移し、ヤームルも「あぁ・・・」と顔を引き攣らせる。
各国のプリンスとプリンセス全員で参加したおひさまの国の夏祭りでファインが当てた屋台の景品の人形をナルロはいたく気に入っていた。
部屋で遊ぶ時は必ずと言っていい程この人形で遊んでいる。
ミルロの話によればファインが当てた景品をナルロが気に入ったらしく、お願いをして交換してもらったとのこと。
こればっかりはファインを責める事は出来ないがそれにしたってよりにもよって何でこんなものを、と頭を抱えられずにはいられなかった。
「つくづく子供は分かりませんね・・・」
「ああ・・・だがまぁ、この子は色々な意味で強い子になると思うぞ」
「そうですね、なるべく前向きに捉えましょう。それよりもミルロから手紙が届きましたよ」
「おお、ミルロから?ナルロ、お姉様から手紙が届いたそうだぞ」
「ガビッ!?ガビ~ン!」
「はいはい、今読みますからね」
ヤームルがパンプの隣に腰を下ろすとナルロはすぐさまハイハイをしてヤームルの膝の上に乗り、ヤームルはそれを快く迎え入れた。
それからミルロらしい控え目で可愛らしい封筒を開けて中の便箋を取り出して広げ、読み上げた。
「拝啓 お父様、お母様、ナルロ、お元気ですか?私は変わらず無事で元気です。おひさまの国がロイヤルワンダー学園に来たのでご存知かもしれませんが学園にブラッククリスタルキングが現れて大混乱が起こりました。それによって私も学園の友達も囚われてしまいましたがファインとレインが身代わりになって助けてくれました。その後も二人はブラッククリスタルキングを恐れる事なく勇敢に立ち向かい、宇宙の平和を守ってくれました。本当に二人は強くて立派なプリンセスです。そんな二人が私にはとても誇らしくて、同時に友達でいる事がとても嬉しいです」
淀みなく読み上げられた手紙の内容にナルロは「ほぁー」と声を漏らし、パンプも嬉しそうに頷いた。
ふしぎ星を蝕んだブラッククリスタルの本体であるブラッククリスタルキングが現れ、ロイヤルワンダー学園を襲ったという報せを聞いた時にしずくの国や各国の王達に動揺が走った。
その時におひさまの国はプーモのテレプーモーションを応用してロイヤルワンダー学園に赴き、学園の生徒達の保護並びにプロミネンスの力でふたご姫の後押しをすると提案してきた。
可愛いプリンセスやプリンス、そして宇宙の危機を前に反対をする者はなく、各国の王達はおひさまの国に希望を託した。
おひさまの国がロイヤルワンダー学園に移動した事でふしぎ星から光が失われた事で民の間で混乱が起きたがそこは王家の腕の見せ所。
どの国も状況の説明としばらくの辛抱を民に願い、民もそれを承知した。
それに光は一つだけではない。
月の国のフルムーンの儚いながらも優しい光がふしぎ星を照らし、守った。
その後におひさまの国が戻ってきて無事にファインとレインがブラッククリスタルキングを打倒したと聞いた時はどこの国も安心と喜びが巻き上がったのは言うまでもない。
そしてそれはこのしずくの国とて例外ではなかった。
「ミルロもふたご姫も学園の友達も皆無事で良かったな」
「ええ、本当に。ナルロ、お姉様は無事でしたよ」
「パッカーン!」
「ああ、分かったぞ。ほら」
ナルロの要望に応えてパンプは懐からロケットペンダントを取り出すとそれをパカッと開いた。
お祭りの時に各国のプリンス達がプレゼントとして贈ってくれたロケットペンダント。
言われた通りナルロはペンダントにミルロの写真を入れてもらい、ミルロの顔を見たくなったらこうしてペンダントを開いてもらって嬉しそうに語りかけていた。
普段は政務中におんぶしてるヤームルが所持しているが、こうしてパンプが面倒を見ている時はパンプが所持して見せている。
ちなみに「パッカーン」というのはペンダントを開く時の音をナルロが真似ているもので、また変わった言葉を覚えたと苦笑しつつも、それでも少しずつ言葉を覚え始めたとヤームルもパンプも喜ばずにはいられなかった。
「もうすぐ夏休みだからまたミルロに会えるぞ、ナルロ」
「ガビーン!」
「あら、よく見たらまだ続きがありますね」
「ん?何て書いてあるんだ?」
「P.S.好きな人が出来ました。今度の夏休みに帰省したらお話しします。ですって」
「ぬ、ぬぁにーーーーーっ!?」
思ってもみなかった爆弾報告にパンプは驚愕し、反対にヤームルは「まぁまぁ」と優しく微笑む。
「宇宙中の王族が集まる学園ですもの。好きな人の一人や二人出来てもおかしくはありませんよ」
「だ、だからって早過ぎやしないか!?」
「そんな事はありませんよ」
「ハッ!?まさか悪い奴にたぶらかされたんじゃ・・・!?」
「ミルロはしっかりした子です。国の為に自分の気持ちを隠してしまう事はありましたが悪い人に騙される程愚かではありません。私達の娘なんですから」
「だ、だがそうは言ってもだな!」
「ふぁ~あ」
「あらナルロ、眠いの?それじゃあもうお昼寝しましょうね」
焦るパンプをそのままにヤームルは膝の上で大きな欠伸をしたナルロを抱き上げるとベビーベッドの上に横たえた。
眠たさで瞼が閉じそうになったナルロだったが、しかし顔を動かして視線を彷徨わせるとある物を探す。
「ガビ・・・」
「はいどうぞ、ナルロ」
「ガビ~ン・・・」
ナルロの探している物を察したヤームルはナルロが頭を乗せてる枕の斜め上に置いてあったクマの人形を傍に寄せてあげるとナルロは嬉しそうにそれを抱き締めた。
こちらはお祭りの日にプリンセス達から贈られたクマの人形。
元々ナルロはクマの人形が好きであったが、プリンセス達からの贈り物という事もあってこのクマの人形を大変気に入っていた。
寝る時にはこの人形がないとグズついてしまう程だ。
ナルロが寂しくないように、そして忘れないようにとプリンス達からはペンダントを、プリンセス達からはクマの人形を贈られてナルロが皆から愛されている事を実感してヤームルの心は温かくなる。
クマの人形を抱き締めて安心したように眠るナルロの寝顔を眺めている横でパンプが溜息を吐きながら隣に立つ。
「まさか夏休みに帰って来た時にいきなり結婚しますなんて言わないだろうな・・・」
「流石にそこまではいきませんよ。心配し過ぎですよ」
「そうは言ってもなぁ・・・せめてこのアルバムはナルロや友人達との写真だけで埋め尽くしてほしいものだ」
言いながらパンプはベビーベッドの上にアルバムを広げる。
そこに載っているのは夏祭りやそれ以降の入学するまでの間に友人達と楽しそうに笑うミルロとナルロの写真だった。
ちなみにナルロは他のみんなの顔を思い出したい時はこうしてアルバムを広げるようにせがんでいる。
このアルバムを広げる度にヤームルもパンプも微笑ましい気持ちでいっぱいになるのだが、どうやらパンプは今は複雑な気持ちでいっぱいのようだ。
アルバムにはまだ空白のスペースとページがあり、そこにミルロとその恋人の写真が載る事を考えて憂鬱になっているのだ。
その様子にヤームルはクスクスと笑みを溢すとパンプを励ました。
「でしたら夏休みにミルロが帰って来た時に沢山写真を撮りましょうか」
「うむ・・・一日に十枚は撮るぞ」
「フフフ、はいはい」
十枚と言わず二十枚か三十枚は撮りそうだと内心で笑いながらヤームルは休憩時間を満喫するのであった。
「ブブイ!」
月の国ではミルキーが一通の手紙を持って歩行器で廊下を飛行していた。
目指すは母親のムーンマリアがいる執務室。
メイドや兵士達に衝突しないようになるべく天井近くを飛んでいたミルキーは『執務室』と書かれたプレートを見つけると減速しつつ下降をした。
そして小さな拳で執務室の扉を叩く。
「バブ~」
「お入りなさい、ミルキー」
優しい声音での許可を貰うとミルキーはドアノブを押し開けて中に入る。
「バブ~!」
「どうしましたか?ミルキー」
「バブバブバブブ!」
「まぁ、シェイドからお手紙が?」
「バブブバブバ!」
「ええ、いいですよ」
手紙を読んでほしいとせがまれたムーンマリアは封を開けると便箋を取り出して広げた。
シェイドらしい綺麗で整った字の羅列にちょっとした安心感を覚えながらムーンマリアは淀みなく手紙を読み上げ始める。
「拝啓 母上、ミルキー、元気にしていますか?既にご存知かもしれませんが学園にブラッククリスタルの本体であるブラッククリスタルキングが現れる大事件が起こりました。友人は皆囚われ、解放条件としてファインとレインがみんなの身代わりとなってその身を差し出しました。みんなの為にと身代わりになる二人を僕は見送る事しか出来ませんでした。ブラッククリスタルキングに囚われて苦しむ二人を僕はただ見ている事しか出来ませんでした。唯一出来たのが二人の為にみんなで歌を歌う事でした。無力な自分がとても情けなくて悔しかったです。けれどブラッククリスタルキングを倒した後、ファインは歌に混じって僕の応援する声が聞こえた、ありがとうと笑ってくれました。ファインはとても強いです。僕も負けていられません。僕ももっと己に磨きをかけて彼女の隣に立つ者として頑張りたいと思います。それから、クレソンさんが改良を重ねて作ったハッピーフラワーが咲いたので写真を同封します。僕もファインも元気です」
読み終えてムーンマリアは封筒を開いて中に残っていた写真を一枚取り出す。
そこに写っていたのは手紙に書かれていたハッピーフラワーと思われる美しい花と、その後ろに立つシェイドとファインの姿。
二人共笑顔でとても幸せそうだった。
少しばかり距離が近いのは気の所為ではないだろう。
「シェイドとプリンセスファインは無事なようてすね」
「バブー!」
オーロラを読んで未来予知をしたムーンマリアはロイヤルワンダー学園が大きな危機を迎える事を知った。
どうするべきかすぐに占いを行ったところ、その日が訪れるまで体調を万全に整えるようにという結果が出た。
占いの結果に従ってムーンマリアが体調を整えていたその矢先、ブラッククリスタルキングが現れたという報せが入り、おひさまの国がふたご姫の援護と生徒達救出の為にロイヤルワンダー学園にワープすると宣言した。
ふしぎ星からおひさまの恵みという大きな光が一つなくなる事になるが光はもう一つある。
そう、月の国のフルムーンだ。
ムーンマリアは民への説明、ふしぎ星の夜を守る実働隊・ウルフムーン部隊の緊急派遣、そしてフルムーンの光を確かなものにする為に祈りを捧げた。
そこに月の国のプリンセスとしてミルキーも加わり、ひたすらにふしぎ星の安全とシェイド達の無事を願った。
その後、おひさまの国が帰還してブラッククリスタルキングが討伐されたという報せを聞いた時は安堵で胸がいっぱいになったのを今でも覚えている。
「そういえばもうすぐ夏休みでシェイドが帰ってきますね」
「バブバブ!バブブバブバブバブー!」
「ええ、沢山遊んでもらいなさい」
「バブバブバブバブ、バブブイ?」
「お友達と言うとプリンセスファインやプリンセスレインや他国のプリンセスですか?」
「バブ!」
「それは聞いてみないと分からないけれど、でもミルキーのお願いならきっとみんな聞いてくれますよ」
「バーブブイ!・・・ふぁ~ぁ」
「あらあら、もうお昼寝の時間ですね。お部屋に行きましょうか」
ムーンマリアが腕を広げるとミルキーは寝ぼけ眼になりながらその腕に飛び込んだ。
ふしぎ星が平和になり、ムーンマリアの体調も安定してきた事により、ムーンマリアは余裕のある時はこうしてミルキーを抱っこして部屋へ連れて行ってあげていた。
聡明でしっかりしていると言ってもミルキーはまだ赤ん坊。
今まで心配かけた分、しっかり甘やかしてお世話をしてあげたかった。
「バァブ・・・バブ・・・」
ムーンマリアの腕に抱かれて廊下を進む最中、ミルキーはポケットからお祭りの時にプリンス達から贈られたロケットペンダントを取り出して開いた。
中にはムーンマリアに入れて貰ったシェイドの写真があり、ミルキーは毎日ペンダントを開いてシェイドの顔を眺めて寂しさを埋めていた。
けれどもうすぐ夏休み。
会える日を楽しみにしながらミルキーはそっとペンダントを閉じると再びポケットの中にしまった。
「着きましたよ、ミルキー」
「バブ・・・ブブイ・・・」
ベビーベッドに降ろされたミルキーはネコの人形を抱き寄せると、それをぎゅっと抱き締めて目を閉じた。
お祭りの時にプリンセス達から贈られたネコの人形はミルキーのお気に入りで、寝るときは必ずこれを抱き締めて眠っている。
ミルキーの為にロケットペンダントを贈り、ネコの人形を贈ってくれたプリンスとプリンセス達にムーンマリアはいつも感謝していた。
お陰でそれらはミルキーの寂しさを紛らわせてくれている。
「おやすみなさい、ミルキー」
桃色の髪を優しく撫でてムーンマリアは静かに踵を返す。
と、そこで小さなテーブルの上にアルバムが広げられているのが目に入り、しゃがむとそれを眺めた。
お祭りやシェイド達が入学するまでの間に撮った沢山の写真。
赤ん坊ながらに食いしん坊なのでどの写真のミルキーも大体が何かを食べている。
それでも他のプリンセス達と笑っている姿はとても幸せそうで。
きっと手紙が届く少し前までこれを眺めていたのだろう。
そのうちにみんなに会いたくなって先程のように夏休みにみんなと遊びたいと言いだしたのだろう。
これはミルキーの為にも夏休みに城下でイベントがないか確認をしておかなければ。
(イベントか何か・・・なければお茶会でもいいですね。ミルキーがみんなと楽しく笑顔になれるなら何でも―――)
静かにアルバムを閉じて本棚にしまうとムーンマリアは立ち上がってミルキーの部屋を後にした。
それからミルキーの為にとあれこれ行事やイベントを確認したり、手紙でエルザに相談するなどいつもと変わらない穏やかな時間を過ごすのであった。
END
その出来た時間でナルロが起きている時はナルロの相手をし、ナルロが寝ている時は寝顔を見てから面倒を夫であるパンプに任せてお茶をするなどして休憩をしている。
今日は大事な会合があったので最初からナルロをパンプに任せていたがそれも今は終わり、時間が出来たのでヤームルは一枚の手紙を持って廊下を歩いていた。
目的の部屋は勿論ナルロの部屋。
「ナルロ、起きてますか?」
ノックをして中に入ればミニカーで遊ぶナルロとそれを温かく見守るパンプの姿がそこにあった。
ナルロはヤームルを見るや嬉しそうに「マビーン!」と声を上げたのでヤームルも嬉しそうに笑みを溢す。
「楽しそうね、ナルロ。良い子にしてましたか?」
「ガビ~ン!」
「よっぽど気に入ったのか今日はずっとこれで遊んでいたぞ。まぁ、これも相変わらずお気に入りのようだが・・・」
そう言ってパンプはナルロの傍に置かれている高クオリティの女のお化けの人形に視線を移し、ヤームルも「あぁ・・・」と顔を引き攣らせる。
各国のプリンスとプリンセス全員で参加したおひさまの国の夏祭りでファインが当てた屋台の景品の人形をナルロはいたく気に入っていた。
部屋で遊ぶ時は必ずと言っていい程この人形で遊んでいる。
ミルロの話によればファインが当てた景品をナルロが気に入ったらしく、お願いをして交換してもらったとのこと。
こればっかりはファインを責める事は出来ないがそれにしたってよりにもよって何でこんなものを、と頭を抱えられずにはいられなかった。
「つくづく子供は分かりませんね・・・」
「ああ・・・だがまぁ、この子は色々な意味で強い子になると思うぞ」
「そうですね、なるべく前向きに捉えましょう。それよりもミルロから手紙が届きましたよ」
「おお、ミルロから?ナルロ、お姉様から手紙が届いたそうだぞ」
「ガビッ!?ガビ~ン!」
「はいはい、今読みますからね」
ヤームルがパンプの隣に腰を下ろすとナルロはすぐさまハイハイをしてヤームルの膝の上に乗り、ヤームルはそれを快く迎え入れた。
それからミルロらしい控え目で可愛らしい封筒を開けて中の便箋を取り出して広げ、読み上げた。
「拝啓 お父様、お母様、ナルロ、お元気ですか?私は変わらず無事で元気です。おひさまの国がロイヤルワンダー学園に来たのでご存知かもしれませんが学園にブラッククリスタルキングが現れて大混乱が起こりました。それによって私も学園の友達も囚われてしまいましたがファインとレインが身代わりになって助けてくれました。その後も二人はブラッククリスタルキングを恐れる事なく勇敢に立ち向かい、宇宙の平和を守ってくれました。本当に二人は強くて立派なプリンセスです。そんな二人が私にはとても誇らしくて、同時に友達でいる事がとても嬉しいです」
淀みなく読み上げられた手紙の内容にナルロは「ほぁー」と声を漏らし、パンプも嬉しそうに頷いた。
ふしぎ星を蝕んだブラッククリスタルの本体であるブラッククリスタルキングが現れ、ロイヤルワンダー学園を襲ったという報せを聞いた時にしずくの国や各国の王達に動揺が走った。
その時におひさまの国はプーモのテレプーモーションを応用してロイヤルワンダー学園に赴き、学園の生徒達の保護並びにプロミネンスの力でふたご姫の後押しをすると提案してきた。
可愛いプリンセスやプリンス、そして宇宙の危機を前に反対をする者はなく、各国の王達はおひさまの国に希望を託した。
おひさまの国がロイヤルワンダー学園に移動した事でふしぎ星から光が失われた事で民の間で混乱が起きたがそこは王家の腕の見せ所。
どの国も状況の説明としばらくの辛抱を民に願い、民もそれを承知した。
それに光は一つだけではない。
月の国のフルムーンの儚いながらも優しい光がふしぎ星を照らし、守った。
その後におひさまの国が戻ってきて無事にファインとレインがブラッククリスタルキングを打倒したと聞いた時はどこの国も安心と喜びが巻き上がったのは言うまでもない。
そしてそれはこのしずくの国とて例外ではなかった。
「ミルロもふたご姫も学園の友達も皆無事で良かったな」
「ええ、本当に。ナルロ、お姉様は無事でしたよ」
「パッカーン!」
「ああ、分かったぞ。ほら」
ナルロの要望に応えてパンプは懐からロケットペンダントを取り出すとそれをパカッと開いた。
お祭りの時に各国のプリンス達がプレゼントとして贈ってくれたロケットペンダント。
言われた通りナルロはペンダントにミルロの写真を入れてもらい、ミルロの顔を見たくなったらこうしてペンダントを開いてもらって嬉しそうに語りかけていた。
普段は政務中におんぶしてるヤームルが所持しているが、こうしてパンプが面倒を見ている時はパンプが所持して見せている。
ちなみに「パッカーン」というのはペンダントを開く時の音をナルロが真似ているもので、また変わった言葉を覚えたと苦笑しつつも、それでも少しずつ言葉を覚え始めたとヤームルもパンプも喜ばずにはいられなかった。
「もうすぐ夏休みだからまたミルロに会えるぞ、ナルロ」
「ガビーン!」
「あら、よく見たらまだ続きがありますね」
「ん?何て書いてあるんだ?」
「P.S.好きな人が出来ました。今度の夏休みに帰省したらお話しします。ですって」
「ぬ、ぬぁにーーーーーっ!?」
思ってもみなかった爆弾報告にパンプは驚愕し、反対にヤームルは「まぁまぁ」と優しく微笑む。
「宇宙中の王族が集まる学園ですもの。好きな人の一人や二人出来てもおかしくはありませんよ」
「だ、だからって早過ぎやしないか!?」
「そんな事はありませんよ」
「ハッ!?まさか悪い奴にたぶらかされたんじゃ・・・!?」
「ミルロはしっかりした子です。国の為に自分の気持ちを隠してしまう事はありましたが悪い人に騙される程愚かではありません。私達の娘なんですから」
「だ、だがそうは言ってもだな!」
「ふぁ~あ」
「あらナルロ、眠いの?それじゃあもうお昼寝しましょうね」
焦るパンプをそのままにヤームルは膝の上で大きな欠伸をしたナルロを抱き上げるとベビーベッドの上に横たえた。
眠たさで瞼が閉じそうになったナルロだったが、しかし顔を動かして視線を彷徨わせるとある物を探す。
「ガビ・・・」
「はいどうぞ、ナルロ」
「ガビ~ン・・・」
ナルロの探している物を察したヤームルはナルロが頭を乗せてる枕の斜め上に置いてあったクマの人形を傍に寄せてあげるとナルロは嬉しそうにそれを抱き締めた。
こちらはお祭りの日にプリンセス達から贈られたクマの人形。
元々ナルロはクマの人形が好きであったが、プリンセス達からの贈り物という事もあってこのクマの人形を大変気に入っていた。
寝る時にはこの人形がないとグズついてしまう程だ。
ナルロが寂しくないように、そして忘れないようにとプリンス達からはペンダントを、プリンセス達からはクマの人形を贈られてナルロが皆から愛されている事を実感してヤームルの心は温かくなる。
クマの人形を抱き締めて安心したように眠るナルロの寝顔を眺めている横でパンプが溜息を吐きながら隣に立つ。
「まさか夏休みに帰って来た時にいきなり結婚しますなんて言わないだろうな・・・」
「流石にそこまではいきませんよ。心配し過ぎですよ」
「そうは言ってもなぁ・・・せめてこのアルバムはナルロや友人達との写真だけで埋め尽くしてほしいものだ」
言いながらパンプはベビーベッドの上にアルバムを広げる。
そこに載っているのは夏祭りやそれ以降の入学するまでの間に友人達と楽しそうに笑うミルロとナルロの写真だった。
ちなみにナルロは他のみんなの顔を思い出したい時はこうしてアルバムを広げるようにせがんでいる。
このアルバムを広げる度にヤームルもパンプも微笑ましい気持ちでいっぱいになるのだが、どうやらパンプは今は複雑な気持ちでいっぱいのようだ。
アルバムにはまだ空白のスペースとページがあり、そこにミルロとその恋人の写真が載る事を考えて憂鬱になっているのだ。
その様子にヤームルはクスクスと笑みを溢すとパンプを励ました。
「でしたら夏休みにミルロが帰って来た時に沢山写真を撮りましょうか」
「うむ・・・一日に十枚は撮るぞ」
「フフフ、はいはい」
十枚と言わず二十枚か三十枚は撮りそうだと内心で笑いながらヤームルは休憩時間を満喫するのであった。
「ブブイ!」
月の国ではミルキーが一通の手紙を持って歩行器で廊下を飛行していた。
目指すは母親のムーンマリアがいる執務室。
メイドや兵士達に衝突しないようになるべく天井近くを飛んでいたミルキーは『執務室』と書かれたプレートを見つけると減速しつつ下降をした。
そして小さな拳で執務室の扉を叩く。
「バブ~」
「お入りなさい、ミルキー」
優しい声音での許可を貰うとミルキーはドアノブを押し開けて中に入る。
「バブ~!」
「どうしましたか?ミルキー」
「バブバブバブブ!」
「まぁ、シェイドからお手紙が?」
「バブブバブバ!」
「ええ、いいですよ」
手紙を読んでほしいとせがまれたムーンマリアは封を開けると便箋を取り出して広げた。
シェイドらしい綺麗で整った字の羅列にちょっとした安心感を覚えながらムーンマリアは淀みなく手紙を読み上げ始める。
「拝啓 母上、ミルキー、元気にしていますか?既にご存知かもしれませんが学園にブラッククリスタルの本体であるブラッククリスタルキングが現れる大事件が起こりました。友人は皆囚われ、解放条件としてファインとレインがみんなの身代わりとなってその身を差し出しました。みんなの為にと身代わりになる二人を僕は見送る事しか出来ませんでした。ブラッククリスタルキングに囚われて苦しむ二人を僕はただ見ている事しか出来ませんでした。唯一出来たのが二人の為にみんなで歌を歌う事でした。無力な自分がとても情けなくて悔しかったです。けれどブラッククリスタルキングを倒した後、ファインは歌に混じって僕の応援する声が聞こえた、ありがとうと笑ってくれました。ファインはとても強いです。僕も負けていられません。僕ももっと己に磨きをかけて彼女の隣に立つ者として頑張りたいと思います。それから、クレソンさんが改良を重ねて作ったハッピーフラワーが咲いたので写真を同封します。僕もファインも元気です」
読み終えてムーンマリアは封筒を開いて中に残っていた写真を一枚取り出す。
そこに写っていたのは手紙に書かれていたハッピーフラワーと思われる美しい花と、その後ろに立つシェイドとファインの姿。
二人共笑顔でとても幸せそうだった。
少しばかり距離が近いのは気の所為ではないだろう。
「シェイドとプリンセスファインは無事なようてすね」
「バブー!」
オーロラを読んで未来予知をしたムーンマリアはロイヤルワンダー学園が大きな危機を迎える事を知った。
どうするべきかすぐに占いを行ったところ、その日が訪れるまで体調を万全に整えるようにという結果が出た。
占いの結果に従ってムーンマリアが体調を整えていたその矢先、ブラッククリスタルキングが現れたという報せが入り、おひさまの国がふたご姫の援護と生徒達救出の為にロイヤルワンダー学園にワープすると宣言した。
ふしぎ星からおひさまの恵みという大きな光が一つなくなる事になるが光はもう一つある。
そう、月の国のフルムーンだ。
ムーンマリアは民への説明、ふしぎ星の夜を守る実働隊・ウルフムーン部隊の緊急派遣、そしてフルムーンの光を確かなものにする為に祈りを捧げた。
そこに月の国のプリンセスとしてミルキーも加わり、ひたすらにふしぎ星の安全とシェイド達の無事を願った。
その後、おひさまの国が帰還してブラッククリスタルキングが討伐されたという報せを聞いた時は安堵で胸がいっぱいになったのを今でも覚えている。
「そういえばもうすぐ夏休みでシェイドが帰ってきますね」
「バブバブ!バブブバブバブバブー!」
「ええ、沢山遊んでもらいなさい」
「バブバブバブバブ、バブブイ?」
「お友達と言うとプリンセスファインやプリンセスレインや他国のプリンセスですか?」
「バブ!」
「それは聞いてみないと分からないけれど、でもミルキーのお願いならきっとみんな聞いてくれますよ」
「バーブブイ!・・・ふぁ~ぁ」
「あらあら、もうお昼寝の時間ですね。お部屋に行きましょうか」
ムーンマリアが腕を広げるとミルキーは寝ぼけ眼になりながらその腕に飛び込んだ。
ふしぎ星が平和になり、ムーンマリアの体調も安定してきた事により、ムーンマリアは余裕のある時はこうしてミルキーを抱っこして部屋へ連れて行ってあげていた。
聡明でしっかりしていると言ってもミルキーはまだ赤ん坊。
今まで心配かけた分、しっかり甘やかしてお世話をしてあげたかった。
「バァブ・・・バブ・・・」
ムーンマリアの腕に抱かれて廊下を進む最中、ミルキーはポケットからお祭りの時にプリンス達から贈られたロケットペンダントを取り出して開いた。
中にはムーンマリアに入れて貰ったシェイドの写真があり、ミルキーは毎日ペンダントを開いてシェイドの顔を眺めて寂しさを埋めていた。
けれどもうすぐ夏休み。
会える日を楽しみにしながらミルキーはそっとペンダントを閉じると再びポケットの中にしまった。
「着きましたよ、ミルキー」
「バブ・・・ブブイ・・・」
ベビーベッドに降ろされたミルキーはネコの人形を抱き寄せると、それをぎゅっと抱き締めて目を閉じた。
お祭りの時にプリンセス達から贈られたネコの人形はミルキーのお気に入りで、寝るときは必ずこれを抱き締めて眠っている。
ミルキーの為にロケットペンダントを贈り、ネコの人形を贈ってくれたプリンスとプリンセス達にムーンマリアはいつも感謝していた。
お陰でそれらはミルキーの寂しさを紛らわせてくれている。
「おやすみなさい、ミルキー」
桃色の髪を優しく撫でてムーンマリアは静かに踵を返す。
と、そこで小さなテーブルの上にアルバムが広げられているのが目に入り、しゃがむとそれを眺めた。
お祭りやシェイド達が入学するまでの間に撮った沢山の写真。
赤ん坊ながらに食いしん坊なのでどの写真のミルキーも大体が何かを食べている。
それでも他のプリンセス達と笑っている姿はとても幸せそうで。
きっと手紙が届く少し前までこれを眺めていたのだろう。
そのうちにみんなに会いたくなって先程のように夏休みにみんなと遊びたいと言いだしたのだろう。
これはミルキーの為にも夏休みに城下でイベントがないか確認をしておかなければ。
(イベントか何か・・・なければお茶会でもいいですね。ミルキーがみんなと楽しく笑顔になれるなら何でも―――)
静かにアルバムを閉じて本棚にしまうとムーンマリアは立ち上がってミルキーの部屋を後にした。
それからミルキーの為にとあれこれ行事やイベントを確認したり、手紙でエルザに相談するなどいつもと変わらない穏やかな時間を過ごすのであった。
END