ピースフルパーティーと虹の蜜 第七章~かざぐるまの国~

「「ハッピーハッピー大成功!!最後のパーティーも大成功!!」」

パーティーを終え、ランダによる閉会宣言が言い渡された後、ファインとレイン達プリンセスとプリンス一同はアウラーとソフィーの誘導で広間に向かっていた。
最高のグランドフィナーレと思い出を飾る事の出来たパーティーにファインとレインは上機嫌に繋いだ手を振りながら独特な歌をうたう。
いつもならここに創作ダンスもついてくるのだが今は移動中という事もあってそれもなかった。
今にもスキップしそうな勢いで興奮冷めやらぬ二人の様子は他のみんなも同じで、移動している最中にそれぞれ微笑み合いながらその満足感を共有していた。

「さぁみんな、ここが広間だよ」

大扉の前でアウラーとソフィーが立ち止まる。
目的地の到着に一番最初に喜んだのはファインとミルキーだった。

「わーい!パンだパンだー!」
「ブブ~イ!!」
「美味しい美味しいフーチーパン!・・・と、ケーキ?」
「バブ・・・?」
「え?ケーキ?」
「ケーキは用意してないわよ?」
「でもするよね?ケーキの匂い」
「バブ」

もしかしてフーチーがケーキを用意してくれたのだろうか?と目で話すようにアウラーもソフィーも顔を合わせる。
その横でファインとミルキーは鼻をひくひくさせながら扉の隙間から漂う甘い香りを嗅ぎ分ける。

「うーん、イチゴをふんだんに使ったケーキの香り・・・」
「バブブバブバブ」
「あ、ナッツの香りもする~!」
「バァブバブブ~!」
「確かに甘い香りはしますけど、どんなものかまで嗅ぎ分けられるなんてこの二人くらいなものですわね」
「変な特技を身に付けて全く・・・」
「ほらファイン、ミルキー、涎が出てるわよ・・・」

色々なお菓子の匂いに破顔するファインとミルキーにアルテッサが呆れ、シェイドとレインが溜息を吐く。
日に日に食べ物に対する嗅覚が鋭くなっていく妹にどうしたものかと頭を悩ませる兄と姉であった。

「大量にパンを作るって張り切っていらっしゃったからそんなに沢山のお菓子を作ってる余裕なんてないと思うけど・・・」
「とにかく入ってみようか」

張り切るフーチーの姿を思い出しながらソフィーがぼやき、アウラーが大扉に手を掛ける。
そして開け放たれた先にある光景に一同は驚きの声を上げた。

『わぁ・・・!!』

広間のテーブルに並べられていた色とりどりのお菓子とフーチーパン。
フーチーパンは出来立てのままカゴにバスケットに重ねられている物とサンドイッチが置かれていた。
しかし置かれていたお菓子はそれぞれにとって見覚えのあるものばかりで一同はすぐにそれらに駆け寄った。

「ねぇレイン、これってグレイスミルフィーユだよね?」
「ええ。苺をふんだんに使っているから間違いないわ!」
「しかもこのピンク色のイチゴは間違いなくグレイスストロベリーでプモ!」
「バブバブ、バブブバブバブ?」
「ああ、そうだな。これは間違いなくバナナムーンケーキだ」
「見て、ティオ。ボーマウンテンの麓でしか育たないとされるさくらんぼを使ったボーチェリーサヴァランよ」
「な、何故このような物がここに!?」
「この宝石を思わせるような最高級のフルーツを贅沢に使ったスイーツはまさしく・・・!」
「ああ、ジュエリートライフルだね」
「これはナツナッツワッフルですよね、姉上?」
「そうね。こんなにも香ばしくナッツと一緒に焼き上げたワッフルなんてそれしかないわ」
「レインボーフルーツポンチとナルロのミルクだわ」
「ガビ~ン!」

それぞれが言葉にしたスイーツは王宮御用達のスイーツであった。
レシピを教えればかざぐるまの国のシェフにも作れない事はないがレシピを教えたなどという噂は聞いていない。
それはアウラーとソフィーもそうで、机の上に並ぶ各王宮御用達のスイーツを前に不思議がるばかりであった。

「一体どういう事なのかしら?」
「父上が命じて作らせたのかな?」

「いいや、それはつい先程届けられたのだ」
「あ、父上!」

二人の疑問に答えるようにしてランダが広間の入り口に佇んでいた。
傍には王妃であるエレナが控えており、ワゴンを押してきているようだった。
かざぐるまの国の王と王妃の登場にアウラーとソフィー以外はすぐに居住まいを正すがランダが「楽にしてくれて構わん」と片手を挙げてそれを制する。

「つい先程届けられたってどういう事ですか?お父様」
「うむ。それらは各国の王達が諸君らの今日までの働きを労って使者に届けさせた物だ。最後までパーティーを盛り上げた事、そしてその最中にあの強盗団マッカロンの討伐をした事、誠にご苦労であった。各国の王達を代表して感謝と労いの言葉を贈ろう。プリンセス、そしてプリンス諸君、本当によく頑張った。諸君らはこの星の誇りだ」

威厳あるランダの言葉が一同の胸に重く響く。
プリンスとして、プリンセスとして、これ程の誉れはない。
一同の中で今日までの苦労と努力が報われるのだった。

「ついては今日は諸君らだけでパーティーを楽しむと良い。これまで頑張った分、存分に羽を伸ばすといい」
「かざぐるまの国の王宮御用達スイーツのかざぐるまムースも用意してありますから遠慮せずに食べて下さいね」

優しく言い放ちながらエレナが押してきたワゴンの上には人数分のムースが乗せられていた。
新たなスイーツの登場にファインとミルキーはまたも破顔しそうになるが、レインとシェイドの咎めるような視線でなんとかそれを抑えた。

「では、ゆっくりしていってくれたまへ。何かあったら遠慮なく声を掛けて欲しい」
『はい、ランダ王。お気遣いありがとうございます』

皆で声を揃えて礼を述べ、頭を下げる。
ランダ王は静かに頷くとエレナと共に広間から退出した。
それからたっぷり一分経過し、ランダとエレナの足音が聞こえなくなった後で一同は込み上げる笑みを隠さないまま顔を見合わせる。

「それじゃあ遠慮なく!」
「私達だけで盛り上がっちゃいましょう!」
『おー!』

ファインとレインが音頭を取り、皆は一斉に声を上げる。
それからテーブルの端に備え付けられていたグラスにオレンジジュースを注ぎ、どんどん配って行く。
皆の手に行き渡ったのを確認してファインとレインは頷き合うと今度は乾杯の音頭を取った。

「みんな!今日までお疲れ様!」
「今日は私達だけで思いっきり楽しみましょう!」
「「かんぱ~い!!」」
『かんぱーい!!』

部屋いっぱいに広がる元気で明るい声とぶつかり合うグラスの音。
ジュースを一口飲めばこれまでの苦労や頑張りを労るような甘くて優しい特別な味がした。
皆の中で一番苦労した件と言えばやはり強盗団マッカロンの討伐であっただろう。
それを除けばパーティーについては確かに準備などは大変であったが、みんなで一緒に楽しく臨めたのでそこまで大変だと思う事はなかった。
むしろ楽しかったとさえ思っている。
絆も友情もより一層深まり、大変意義のあるパーティーであると誰もが考えるのであった。

「さ〜て!どれから食べようかな〜?」
「ブイブ〜イ!」
「スイーツはお一人様お一つでプモよ」
「分かってるって!」
「バブ〜!」

瞳をこれ以上ないくらい輝かせるファインとミルキーの食いしん坊組をプーモが軽く宥める。
他の人の分まで食べたりしないのは分かってはいるがそれでも一応と言った所である。

「わぁ!このパン、アルテッサの言う通り美味しいわ!」
「フフ、でしょう?」
「ベストグゥプリンセスのアルテッサを満足させたパンだもの、当然よね!」
「ちょっ!?ソフィー!!!」
「ソフィー、ベストグゥプリンセスって?」
「それはね―――」
「言っちゃダメ〜!!」

フーチーパンの美味しさに感動するリオーネにアルテッサが満足そうに笑っているとソフィーがまたしても爆弾を投下する。
『ベストグゥプリンセス』なるものについて聞き返すミルロにソフィーが聞き返すとアルテッサは慌ててそれを妨害するのであった。

「そう言えばレインは制服の準備は出来た?」
「私達の方ではサンプルが届いたのよ」
「あら早いのね。私達の所ではもう少しかかるみたいなの」

ゴーチェルやハーニィを始めとしたタネタネプリンセスと一緒にナツナッツワッフルを食べながら制服についてあれこれと盛り上がるレイン。
ちなみにレインの制服は勿論ファインと色違いのお揃いで、デザインに関する注文は主にレインが入れている。
オシャレが大好きなので制服のデザインも拘っているのだ。

「いや〜色々あったね〜」
「マッカロンの討伐など大変でしたな!」
「まぁ、全てのパーティーを通しての一番のハイライトはなんと言っても」
「「「雪合戦の醜い争い」」」
「や、やだな〜みんな!もう昔の話じゃないか!ねぇシェイド!?」
「言われてるぞ、ブライト」
「キミ本当に図太いね!?」

ピースフル『スポーツ』パーティーを思い出してしみじみとするアウラーとティオとソロ。
恥ずかしい過去に焦るブライトであったが、しれっとブライト一人だけが恥ずかしいかったかのように擦りつけて来たシェイドに驚く。
流石は国や家族を守る為に長い間大臣と水面下でやり合っていた男、メンタルが違う。

「私のハイライトはみんなでスイーツを作った事かしら。色んな物を作ってとっても楽しかったわ」
「リオーネに一票~!」
「バブブ~!」
「お前達は楽しかったんじゃなくて食べたかっただけだろ」

パンを片手にリオーネに賛同するファインとミルキーにシェイドが鋭いツッコミを入れる。
ピースフル『スイーツ』パーティーはファインと酷い喧嘩をするキッカケのパーティーであったが本人はもうすっかり気にしていないらしい。
ここに続いてソフィーがまたしても爆弾を投下する。

「私のハイライトはなんと言っても鼻眼鏡をかけたまま『宇宙』するアルテッサね!」
「そ、ソフィー!『宇宙』って・・・あら、私・・・何かを思い出しそうな・・・」
「僕・・・も・・・」
「やや、私めも・・・」
「俺は・・・何を思い出そうとしている・・・?」
「わーわー!!みんな思い出しちゃダメだー!!」

『宇宙する』というキーワードを聞いて頭を抱えるアルテッサ・ソロ・ティオ・シェイドの『宇宙』組。
思い出してはならない忌まわしい記憶を思い出そうとして苦しむ四人をアウラーが必死になって宥めようとする。
あれからしばらく経った筈だが『宇宙』の残した爪痕は深いようである。
このままではいけないと思い、ミルロが慌てて話題転換を図る。

「わ、私もみんなでスイーツを作ったり絵を描いたりお祭りに行ってとっても楽しかったわ。今日もみんなで演奏をして凄く楽しかった。またみんなで何かしたいわね」
「だ、だったらもうすぐシェイドの誕生日だし何かプレゼントでも―――」
「今度お茶会を開いてそこで決めましょう!」
「そうね!今日はもう疲れたからまた今度にしましょう!」
「そうしましょう!」
「えっと・・・?」
「「「ねっ!?ブライト様!!」」」
「あ、うん?そう、だね・・・?」

イシェル・ゴーチェル・ハーニィ達タネタネプリンセスがブライトのセリフを遮る。
今ここでシェイドの誕生日の話をしてはボロが出てファインのサプライズ計画がバレてしまう恐れがある。
それは他のプリンセス達も感じていた事で、心の中でタネタネプリンセスの強引な話題転換に親指を立てて称賛を贈るのだった。
ちなみにシェイドはというと、アウラーの尽力もあって意識を取り戻したものの、朦朧としていたのでこの件については耳に入っていなかった。
一方のブライトは身の危険を感じてシェイドの誕生日に触れるのはやめてタネタネプリンセスの提案に便乗する方向に舵を切った。

「じゃ、じゃあお茶会はどこで開こうか?」
「おひさまの国で開きましょう!」
「今度はおひさまの国の美味しいパンをご馳走するね!」
「ちょ、ちょっと貴女達!!」

『宇宙』から意識を取り戻してなんとか状況把握をしたアルテッサはファインとレインの手を掴むと慌てて部屋の隅に走った。
それからブライトに聞こえないようにひっそりと声を潜める。

「いいの?虹の花の存在がバレるわよ?」
「大丈夫大丈夫」
「そうそう。お茶会を開く頃には多分採取してるだろうし、もし出来なくても部屋に持っていくよ」
「それよりもシェイドの誕生日の話題よ」
「なんとかならないかな?」
「う〜ん、避けるのは難しいですわね。とにかく貴女達は余計な事を喋らないようにするのよ」
「「は〜い」」
「プーモ」
「はいでプモ」
「この二人が余計な事を口走らないようにしっかりフォローするのよ」
「かしこまりましたでプモ」

傍に寄って来ていたプーモはアルテッサに命じられると頷いた。
ファインもレインもすぐにボロが出る性質なので細心の注意を払う必要があるだろう。
しかしその手のフォローは慣れているのでプーモにとっては大した事はなかった。
そんな風に四人で打ち合わせをしていると後ろからシェイドがやって来た。

「何を話してるんだ?」
「あ、シェイド!」
「べ、別に何も話していませんわよ!」
「それよりも『宇宙』はもう大丈夫?」
「レイン様!!」
「あ!いっけない!」

プーモがレインの発言を咎めるが時既に遅し。
シェイドとアルテッサはまたしても頭を抱え始める。

「『宇宙』は・・・大丈夫・・・じゃ、ない・・・」
「おかしな言葉の使い方・・・ではないですわね・・・」
「正しい意味で使わないと発症するようでプモ!!」
「大変大変!!」
「二人共しっかりして!!」

フラつくシェイドを咄嗟にファインが支え、アルテッサをレインが支える。
しかしアルテッサの瞳がまた虚になりかけたのでレインとプーモは慌ててテーブルの方に連れてってジュースと美味しいスイーツを食べさせに行った。
自分もそうした方が良いと判断してファインはシェイドを見上げる。

「シェイドもジュース飲んで落ち着こう?」
「いや、大丈夫だ、問題ない。それにしても『宇宙』という言葉を変な使い方をすると意識が遠のくのはどうしてなんだ?」
「あのね、世の中には知らなくて良い事もあるんだよ」
「そうだな、何故かは分からんがお前のその忠告に従った方が良い気がしてならない」
「それが生存本能って奴だよ、きっと」
「ところで渡したい物がある」
「渡したい物?」
「ああ」

「ほら」と言ってシェイドは懐から封筒を取り出した。
封筒には『招待状』と書かれており、首を傾けてその文字を呟きながら中身を取り出す。
中にはシェイドの誕生日パーティーに関する内容、つまりは招待を意味する文言が書かれていた。
その文面にファインはパッと表情を明るくすると興奮気味にシェイドを見上げた。

「こ、これ、シェイドの誕生日パーティーの招待状!?」
「ああ、この招待状を受け取るのはおまえが一番最初だ。この間ミルキーを祭りに一番に招待してくれただろ?その礼みたいなもんだ」
「お礼なんて別に気にしなくていいのに」
「来るだろ?」
「うん!来るなって言われても行くんだから!」
「人の部屋荒らしまくった時みたいにか?」
「うっ・・・まだ覚えてたんだ・・・」
「むしろ忘れる方が有り得ないだろ。いくら真相究明の為とはいえ、一国のプリンセスが他国のプリンスの部屋を荒らすなんて前代未聞だろ」
「シェ、シェイドだって・・・」
「何だ?」
「・・・」

言い返せなくて気不味さから歪んでいる顔をゆっくりと逸らす。
シェイドだってエクリプスと名乗って度々付き纏っていた癖に、と言いたかったがそれも国を守る為、ひいては大臣達から守る為であってファインやレイン程の暴挙ではない。
もっとも、二人が知らないだけでシェイドもおひさまの国に侵入していた事もあったのだが、それはシェイドだけが胸にしまっている秘密である。
だが少し苛め過ぎたかと内心小さく反省してシェイドは柔らかく微笑んでそれを許した。

「ま、昔の事だからどうでもいいな」
「そうそう!気にしな〜い気にしな〜い!」
「ちゃんと反省してるのか?」
「し、してるよ!!」

少しむくれて言ってみせてもシェイドは涼しく笑うだけ。
しかしそれでも良かった。
シェイドが一番にファインをパーティーに招待してくれた、その事実が何よりも嬉しかったからだ。
それにしても、今思い出してもシェイドの部屋に入って引き出しやタンスを漁るなど随分大胆な事をしたものだと内心苦笑せざるを得ないファインであった。







第七章~かざぐるまの国~ END
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