ピースフルパーティーと虹の蜜 第七章~かざぐるまの国~
今日で最後となるピースフルパーティー。
お題目は『ロマンティック』。
各国のプリンス・プリンセス達による演奏と、ふしぎ星の平和を掴んでくれたおひさまの国のふたごのプリンセスであるファインとレインによるダンスが披露される本パーティーは非常に期待されており、会場は沢山の招待客で賑わっていた。
その期待に応える為に用意した前座のパフォーマンスにはミラクルサーカスの一座の姿もあり、ランダ王の計画通り会場の熱は高まるばかり。
さて、控室ではファイン・レイン・アルテッサ・プーモを除いたプリンスとプリンセス達が楽器の最後の調整を行っていた。
特に異常もこれといった不都合もなく準備は万端の面々。
そこに勢いよく扉を開け放って満面の笑顔のファインとレインとアルテッサとプーモが戻って来た。
「お待たせー!」
「ナッチに会って来たわ!」
「なんとか間に合ったようですわね」
「遅れなくて良かったでプモ」
「やっと来たか」
口では呆れたように、けれど柔らかい表情でシェイドは呟く。
タネタネの国のグレイスストーンをミラクルサーカスの一座が持っている事を知ったファインとレイン達はグレイスストーンを探す事と、空中ブランコで飛べなくなったナッチを励ます為にまた飛べるようになる為の特訓に付き合っていた事がある。
その時の縁もあってナッチに挨拶したく、また、ナッチもファインとレイン達に会いたがっていた事からなんとか時間を割いて会いに行っていたのだ。
恐怖を克服してからのナッチの空中ブランコ芸は更に磨きがかかっており、感動で胸を満たした後、急いで戻って来た次第である。
トランペットを磨いていたアウラーは隣で同じようにフルートを磨いていたミルロを見て気さくに今の気持ちを吐露する。
「ピースフルパーティーも今日で最後だけど緊張するね」
「ええ、そうね。そろそろ本番だって思うと胸がドキドキするわ」
「ガビ~ン」
指揮者のミルキーが合図をしたらトライアングルを鳴らす役割を担っているナルロはトライアングルビーターを置くとミルロに向かって両手をバタつかせた。
抱っこして欲しい時の合図だ。
フルートを置いて抱っこしてあげるとナルロはミルロの肩を優しく叩いて来た。
それはまるで「大丈夫」と言わんばかりの優しさと頼もしさに溢れていて、それを悟ったミルロは柔らかく微笑むと「ありがとう、ナルロ」と囁いてナルロを優しく抱きしめるのだった。
「失敗は許されませぬなぁ・・・!」
「ほら落ち着いてティオ、深呼吸だよ」
ティンパニ―担当のティオはマレットを手に緊張で顔を赤くして震える。
そんなティオを落ち着かせようとマリンバ用のマレットを置いたブライトが深呼吸を促すが一、二回の深呼吸をさせた所で緊張が解れる様子はなかった。
少し時間がかかりそうである。
「大丈夫よ!失敗してもアルテッサが渾身の一発ギャグで場を収めてくれるわ!」
「そんな事する訳ないでしょ!!」
トロンボーンを抱えながらいつもの調子でソフィーが言い放つとグロッケンの最終調整に取り掛かっていたアルテッサが目を吊り上げてツッコむ。
この二人は緊張とは無縁そうである。
「プリンシェイド、プリンセスミルキーの様子が・・・」
「緊張でお腹が痛いのかしらの?」
「いや、単純にお腹が空いただけだ」
ヴァイオリン担当のソロとゴーチェルを始めとしたヴィオラ・チェロ・コントラバス担当のタネタネプリンセスがお腹を抑えて顔を青くする指揮者担当のミルキーを心配する。
しかし妹の事を誰よりも把握しているハープ担当のシェイドはポケットからクッキーの袋を開けるとそれをミルキーに渡してあげた。
目にも止まらぬ速さでミルキーはそれを受け取ると満足そうにクッキーを食べていくのであった。
「あぁ、何だか私も緊張してきちゃったわ・・・!」
「大丈夫だよリオーネ!」
「ええ!大丈夫大丈夫!」
クラリネットを置いてリオーネは緊張で逸る胸を両手で抑える。
そんなリオーネの手を片方ずつ握ってファインとレインが笑顔で励ます。
二人の笑顔と言葉はいつだってリオーネに勇気を与えてくれる。
今もそう、緊張で早鐘を打っていた胸は徐々に落ち着きを取り戻し、真っ白になりかけていた思考はクリアになっていく。
リオーネはほうっと息を吐くと弾けるような笑顔を二人に見せた。
「ありがとう!ファイン!レイン!」
リオーネの緊張が解れたのが分かるとファインとレインは安心したように顔を見合わせる。
そこに―――
「レイン、これを君に」
「ほら、ファイン」
ティオを落ち着かせたブライトがレインの頭に白い装飾を施した青い花を、シェイドがファインの頭に同じような白い装飾を施した赤い花を着けてあげる。
突然のサプライズプレゼントにファインもレインも目を白黒させて驚く。
「ブライト様!?」
「シェイド!?」
「僕達に合わせていつも通りのドレスで踊る事にしただろう?」
「せめて髪飾りだけでも着けて特別感を出そうって事でみんなで話してこっそり作っておいたんだ」
パーティーに向けて練習する中でメインで踊るファインとレインのドレスはエターナルソーラープリンセスを彷彿とさせるような特別なドレスを仕立ててそれを着るのはどうかという話が持ち上がった事がある。
しかしファインもレインもそれを良しとせず、最後まで皆と同じでありたいと願った為にその案は却下となった。
だが、そうは言っても少しだけでも平和の象徴として踊る二人が目立つようにと二人抜きでこっそりと話し合った結果、コサージュを贈ろうという事になった。
みんなでデザインを考え、作ってそれをパーティー直前にブライトとシェイドが代表で二人の頭に着けてあげる、そんな計画だった。
そしてその計画は大成功したようでファインとレインは驚きで未だに口を開けたまま固まっている。
そんな二人を見てリオーネがクスリと笑う。
「フフ、二人共驚いてるみたいね」
「サプライズは大成功ね!」
「ええ!頑張った甲斐があったわ」
ソフィーとミルロが喜びを分かち合うように両手でハイタッチを交わす。
「ファインもレインもよく似合ってるわ」
「私達全員で考えたんですもの。似合っていて当然ですわ」
イシェルがコサージュを着けた事で可愛らしくなった二人を褒め、アルテッサが勝気に言い放つ。
未だ呆然とする二人の前にミルキーが歩行器を操作して飛んでくる。
「バブバブ、バブバブバブバ?」
「プレゼント、気に入ってくれた?だって」
「気に入ったなんてものじゃないわ。とっても素敵だわ!ね?ファイン!」
「うん!アタシもレインもすっごく嬉しいよ!」
「「みんな、ありがとう!!」
心からの感謝を込めて幸せそうな笑顔を見せるファインとレイン。
その表情に一同も幸せな気分に満たされる。
ピースフル『デコール』パーティーに続いてとても素敵な宝物を貰い、それをずっと大切にしようと二人は心に決めるのだった。
「皆様大変お待たせ致しました。これよりピースフル『ロマンティック』パーティーを開催致します」
力強くも静かなランダの開会宣言に招待客は拍手をする。
最後を飾るパーティーに相応しく会場は美しく装飾されており、また、前座の盛り上がりもあって雰囲気は最高潮に盛り上がっていた。
その様子に内心満足しながらランダは続ける。
「本パーティーではプリンス・プリンセス一同による演奏に合わせておひさまの国のふたごのプリンセスがダンスを披露します。どうぞ最後まで楽しみ下さい」
簡単な説明を終えるとランダは家臣に視線で合図を送り、会場の灯りを落とさせる。
一瞬にして会場は暗闇に包まれたものの、すぐにステージだけがライトアップされて空席と譜面台を照らし出す。
進行役の家臣はマイクを片手に紙に一瞬視線を落としてから演奏者一同の名を読み上げる。
「それでは演奏者様のご紹介をさせていただきます。まずは月の国のプリンスシェイド様、プリンセスミルキー様」
舞台袖からシェイドが静かに歩み出て自分の席に向かい、ミルキーが指揮台の上に移動する。
その後に他も粛々と続いて行く。
「続いて宝石の国のプリンスブライト様、プリンセスアルテッサ様。しずくの国のプリンスナルロ様、プリンセスミルロ様。タネタネの国のプリンスソロ様、プリンセス一同様。メラメラの国のプリンスティオ様、プリンセスリオーネ様。そして我がかざぐるまの国のプリンスアウラー様、プリンセスソフィー様」
続々と姿を現すプリンス・プリンセス一同に送られる拍手。
そして―――
「最後に、おひさまの国のプリンセスファイン様、レイン様!」
ステージの上手からレインが、下手からファインが現れてスポットライトに照らされる。
コツコツとヒールを鳴らしながら距離を縮めるように互いに歩み寄る二人。
スポットライトも二人の動きに合わせて滑らかに移動し、二人が止まるのと同時にスポットライトも止まり、光が重なる。
二人はお辞儀し合うと一言。
「プリンセスファイン、私と踊っていただけますか?」
「プリンセスレイン、私と踊っていただけますか?」
「「なんちゃって!!」」
わざとらしく男性口調で言い放って無邪気に笑い合う二人。
舞台袖でファインとレインが躓いたりして失敗しないかとハラハラしながら見届けていたプーモは一瞬呆気に取られたが、おどけたような二人のやり取りに柔らかく笑みを溢す。
それは演奏担当のプリンス・プリンセス一同もそうで、予期していなかった二人のパフォーマンスに内心驚いたものの、それも二人らしいと思って緊張など忘れたかのように穏やかな気持ちで楽器を構える。
指揮棒を持ったミルキーが小さな声で「バブバブイ」と演奏開始の合図と共に棒を振るうと軽やかで楽し気なワルツが始まり、それと同時にファインとレインはお互いの手を取り合った。
「うふふ!」
「あはは!」
楽器の音とファインとレインがステップを踏む度に鳴り響く靴の音が奏でる希望の音色、平和の調べ。
ファインとレインの笑顔が輝いているのはスポットライトの光のお陰だけではない。
しかし輝いているのは何も二人だけじゃない、それは演奏しているプリンス・プリンセス一同も同じだ。
優雅でありながら思わずこちらも踊りたくなるような音楽を奏でる面々の表情は涼やかで楽しそうで優しかった。
演奏というのは一体感というものが求められる。
バラバラな心では絶対にどこかで不協和音が発生して聴くに堪えない耳障りな音が発生する。
けれどそれらが起こる事は一切なく、一体感以上の繋がりが感じられるのは偏にこれまで築かれた絆がそうさせているから。
互いを尊重し、歩み寄り、手を取り合う、そんな情景が聴く者見る者の中で浮かぶ。
そしてそれらの演奏はファインとレインのダンスと合わさって幸せを紡ぎ出す。
皆で繋ぐ希望、紡ぐ平和、生み出す幸せ。
良きものの連鎖とはこうして生み出されるのだと誰もが自然に思う。
会場の全ての者が魅入っている中、演奏している一同はチラリとファインとレインを見やる。
「えいっ!」
「それっ!」
まるで遊ぶように踊る二人。
いつもと変わらない二人。
瞳は輝いていて雰囲気はお互いへの愛に溢れている。
そこで一同は漸くファインとレインが二人だけで踊りたいと言いだした理由を何となく察し、同時に二人だけで踊らせて良かったとも思った。
自分を上手に躍らせる事が出来ると思うのはお互い。
遠慮がいらなくて自由な心でステップが踏めるのはお互い。
最高のフィナーレを飾りたいと願うのはお互い。
そんな胸焼けしそうな姉妹の愛と絆があったからこそ、ふしぎ星を救えたのだと最後を飾るこのパーティーで示す事が出来る。
ならば二人の為にも最後まで完璧に演奏してみせようじゃないか。
((それにしても悔しいなぁ・・・))
シンクロするように心の中で苦笑交じりの溜息を吐くのはシェイドとブライト。
自分達以上にあのファインやレインと良い雰囲気で踊れる者などいないと自惚れていたのに、まさかそれぞれの大切な片割れという強力なライバルの出現によって呆気なくその地位から突き落とされてしまうとは。
でもいつかきっと、次こそは何かを記念する大きなパーティーでダンスに誘ってライバル以上に躍らせてみせると誓うのだった。
「「はいっ!!」」
手を繋ぎ、空いている方の手を大きく横に広げて花のような笑顔で二人はポーズを決め、それと同時に演奏も終わりを迎える。
平和の象徴であるふたごのプリンセスによるダンスとそれを彩る各国のプリンスとプリンセス達による演奏は会場にいる全ての者の心に衝撃と感動を与え、会場いっぱいの拍手喝采を浴びた。
その拍手は止む事を知らず、一同は最高のグランドフィナーレを飾れたと鼻高々に笑うのだった。
続く
お題目は『ロマンティック』。
各国のプリンス・プリンセス達による演奏と、ふしぎ星の平和を掴んでくれたおひさまの国のふたごのプリンセスであるファインとレインによるダンスが披露される本パーティーは非常に期待されており、会場は沢山の招待客で賑わっていた。
その期待に応える為に用意した前座のパフォーマンスにはミラクルサーカスの一座の姿もあり、ランダ王の計画通り会場の熱は高まるばかり。
さて、控室ではファイン・レイン・アルテッサ・プーモを除いたプリンスとプリンセス達が楽器の最後の調整を行っていた。
特に異常もこれといった不都合もなく準備は万端の面々。
そこに勢いよく扉を開け放って満面の笑顔のファインとレインとアルテッサとプーモが戻って来た。
「お待たせー!」
「ナッチに会って来たわ!」
「なんとか間に合ったようですわね」
「遅れなくて良かったでプモ」
「やっと来たか」
口では呆れたように、けれど柔らかい表情でシェイドは呟く。
タネタネの国のグレイスストーンをミラクルサーカスの一座が持っている事を知ったファインとレイン達はグレイスストーンを探す事と、空中ブランコで飛べなくなったナッチを励ます為にまた飛べるようになる為の特訓に付き合っていた事がある。
その時の縁もあってナッチに挨拶したく、また、ナッチもファインとレイン達に会いたがっていた事からなんとか時間を割いて会いに行っていたのだ。
恐怖を克服してからのナッチの空中ブランコ芸は更に磨きがかかっており、感動で胸を満たした後、急いで戻って来た次第である。
トランペットを磨いていたアウラーは隣で同じようにフルートを磨いていたミルロを見て気さくに今の気持ちを吐露する。
「ピースフルパーティーも今日で最後だけど緊張するね」
「ええ、そうね。そろそろ本番だって思うと胸がドキドキするわ」
「ガビ~ン」
指揮者のミルキーが合図をしたらトライアングルを鳴らす役割を担っているナルロはトライアングルビーターを置くとミルロに向かって両手をバタつかせた。
抱っこして欲しい時の合図だ。
フルートを置いて抱っこしてあげるとナルロはミルロの肩を優しく叩いて来た。
それはまるで「大丈夫」と言わんばかりの優しさと頼もしさに溢れていて、それを悟ったミルロは柔らかく微笑むと「ありがとう、ナルロ」と囁いてナルロを優しく抱きしめるのだった。
「失敗は許されませぬなぁ・・・!」
「ほら落ち着いてティオ、深呼吸だよ」
ティンパニ―担当のティオはマレットを手に緊張で顔を赤くして震える。
そんなティオを落ち着かせようとマリンバ用のマレットを置いたブライトが深呼吸を促すが一、二回の深呼吸をさせた所で緊張が解れる様子はなかった。
少し時間がかかりそうである。
「大丈夫よ!失敗してもアルテッサが渾身の一発ギャグで場を収めてくれるわ!」
「そんな事する訳ないでしょ!!」
トロンボーンを抱えながらいつもの調子でソフィーが言い放つとグロッケンの最終調整に取り掛かっていたアルテッサが目を吊り上げてツッコむ。
この二人は緊張とは無縁そうである。
「プリンシェイド、プリンセスミルキーの様子が・・・」
「緊張でお腹が痛いのかしらの?」
「いや、単純にお腹が空いただけだ」
ヴァイオリン担当のソロとゴーチェルを始めとしたヴィオラ・チェロ・コントラバス担当のタネタネプリンセスがお腹を抑えて顔を青くする指揮者担当のミルキーを心配する。
しかし妹の事を誰よりも把握しているハープ担当のシェイドはポケットからクッキーの袋を開けるとそれをミルキーに渡してあげた。
目にも止まらぬ速さでミルキーはそれを受け取ると満足そうにクッキーを食べていくのであった。
「あぁ、何だか私も緊張してきちゃったわ・・・!」
「大丈夫だよリオーネ!」
「ええ!大丈夫大丈夫!」
クラリネットを置いてリオーネは緊張で逸る胸を両手で抑える。
そんなリオーネの手を片方ずつ握ってファインとレインが笑顔で励ます。
二人の笑顔と言葉はいつだってリオーネに勇気を与えてくれる。
今もそう、緊張で早鐘を打っていた胸は徐々に落ち着きを取り戻し、真っ白になりかけていた思考はクリアになっていく。
リオーネはほうっと息を吐くと弾けるような笑顔を二人に見せた。
「ありがとう!ファイン!レイン!」
リオーネの緊張が解れたのが分かるとファインとレインは安心したように顔を見合わせる。
そこに―――
「レイン、これを君に」
「ほら、ファイン」
ティオを落ち着かせたブライトがレインの頭に白い装飾を施した青い花を、シェイドがファインの頭に同じような白い装飾を施した赤い花を着けてあげる。
突然のサプライズプレゼントにファインもレインも目を白黒させて驚く。
「ブライト様!?」
「シェイド!?」
「僕達に合わせていつも通りのドレスで踊る事にしただろう?」
「せめて髪飾りだけでも着けて特別感を出そうって事でみんなで話してこっそり作っておいたんだ」
パーティーに向けて練習する中でメインで踊るファインとレインのドレスはエターナルソーラープリンセスを彷彿とさせるような特別なドレスを仕立ててそれを着るのはどうかという話が持ち上がった事がある。
しかしファインもレインもそれを良しとせず、最後まで皆と同じでありたいと願った為にその案は却下となった。
だが、そうは言っても少しだけでも平和の象徴として踊る二人が目立つようにと二人抜きでこっそりと話し合った結果、コサージュを贈ろうという事になった。
みんなでデザインを考え、作ってそれをパーティー直前にブライトとシェイドが代表で二人の頭に着けてあげる、そんな計画だった。
そしてその計画は大成功したようでファインとレインは驚きで未だに口を開けたまま固まっている。
そんな二人を見てリオーネがクスリと笑う。
「フフ、二人共驚いてるみたいね」
「サプライズは大成功ね!」
「ええ!頑張った甲斐があったわ」
ソフィーとミルロが喜びを分かち合うように両手でハイタッチを交わす。
「ファインもレインもよく似合ってるわ」
「私達全員で考えたんですもの。似合っていて当然ですわ」
イシェルがコサージュを着けた事で可愛らしくなった二人を褒め、アルテッサが勝気に言い放つ。
未だ呆然とする二人の前にミルキーが歩行器を操作して飛んでくる。
「バブバブ、バブバブバブバ?」
「プレゼント、気に入ってくれた?だって」
「気に入ったなんてものじゃないわ。とっても素敵だわ!ね?ファイン!」
「うん!アタシもレインもすっごく嬉しいよ!」
「「みんな、ありがとう!!」
心からの感謝を込めて幸せそうな笑顔を見せるファインとレイン。
その表情に一同も幸せな気分に満たされる。
ピースフル『デコール』パーティーに続いてとても素敵な宝物を貰い、それをずっと大切にしようと二人は心に決めるのだった。
「皆様大変お待たせ致しました。これよりピースフル『ロマンティック』パーティーを開催致します」
力強くも静かなランダの開会宣言に招待客は拍手をする。
最後を飾るパーティーに相応しく会場は美しく装飾されており、また、前座の盛り上がりもあって雰囲気は最高潮に盛り上がっていた。
その様子に内心満足しながらランダは続ける。
「本パーティーではプリンス・プリンセス一同による演奏に合わせておひさまの国のふたごのプリンセスがダンスを披露します。どうぞ最後まで楽しみ下さい」
簡単な説明を終えるとランダは家臣に視線で合図を送り、会場の灯りを落とさせる。
一瞬にして会場は暗闇に包まれたものの、すぐにステージだけがライトアップされて空席と譜面台を照らし出す。
進行役の家臣はマイクを片手に紙に一瞬視線を落としてから演奏者一同の名を読み上げる。
「それでは演奏者様のご紹介をさせていただきます。まずは月の国のプリンスシェイド様、プリンセスミルキー様」
舞台袖からシェイドが静かに歩み出て自分の席に向かい、ミルキーが指揮台の上に移動する。
その後に他も粛々と続いて行く。
「続いて宝石の国のプリンスブライト様、プリンセスアルテッサ様。しずくの国のプリンスナルロ様、プリンセスミルロ様。タネタネの国のプリンスソロ様、プリンセス一同様。メラメラの国のプリンスティオ様、プリンセスリオーネ様。そして我がかざぐるまの国のプリンスアウラー様、プリンセスソフィー様」
続々と姿を現すプリンス・プリンセス一同に送られる拍手。
そして―――
「最後に、おひさまの国のプリンセスファイン様、レイン様!」
ステージの上手からレインが、下手からファインが現れてスポットライトに照らされる。
コツコツとヒールを鳴らしながら距離を縮めるように互いに歩み寄る二人。
スポットライトも二人の動きに合わせて滑らかに移動し、二人が止まるのと同時にスポットライトも止まり、光が重なる。
二人はお辞儀し合うと一言。
「プリンセスファイン、私と踊っていただけますか?」
「プリンセスレイン、私と踊っていただけますか?」
「「なんちゃって!!」」
わざとらしく男性口調で言い放って無邪気に笑い合う二人。
舞台袖でファインとレインが躓いたりして失敗しないかとハラハラしながら見届けていたプーモは一瞬呆気に取られたが、おどけたような二人のやり取りに柔らかく笑みを溢す。
それは演奏担当のプリンス・プリンセス一同もそうで、予期していなかった二人のパフォーマンスに内心驚いたものの、それも二人らしいと思って緊張など忘れたかのように穏やかな気持ちで楽器を構える。
指揮棒を持ったミルキーが小さな声で「バブバブイ」と演奏開始の合図と共に棒を振るうと軽やかで楽し気なワルツが始まり、それと同時にファインとレインはお互いの手を取り合った。
「うふふ!」
「あはは!」
楽器の音とファインとレインがステップを踏む度に鳴り響く靴の音が奏でる希望の音色、平和の調べ。
ファインとレインの笑顔が輝いているのはスポットライトの光のお陰だけではない。
しかし輝いているのは何も二人だけじゃない、それは演奏しているプリンス・プリンセス一同も同じだ。
優雅でありながら思わずこちらも踊りたくなるような音楽を奏でる面々の表情は涼やかで楽しそうで優しかった。
演奏というのは一体感というものが求められる。
バラバラな心では絶対にどこかで不協和音が発生して聴くに堪えない耳障りな音が発生する。
けれどそれらが起こる事は一切なく、一体感以上の繋がりが感じられるのは偏にこれまで築かれた絆がそうさせているから。
互いを尊重し、歩み寄り、手を取り合う、そんな情景が聴く者見る者の中で浮かぶ。
そしてそれらの演奏はファインとレインのダンスと合わさって幸せを紡ぎ出す。
皆で繋ぐ希望、紡ぐ平和、生み出す幸せ。
良きものの連鎖とはこうして生み出されるのだと誰もが自然に思う。
会場の全ての者が魅入っている中、演奏している一同はチラリとファインとレインを見やる。
「えいっ!」
「それっ!」
まるで遊ぶように踊る二人。
いつもと変わらない二人。
瞳は輝いていて雰囲気はお互いへの愛に溢れている。
そこで一同は漸くファインとレインが二人だけで踊りたいと言いだした理由を何となく察し、同時に二人だけで踊らせて良かったとも思った。
自分を上手に躍らせる事が出来ると思うのはお互い。
遠慮がいらなくて自由な心でステップが踏めるのはお互い。
最高のフィナーレを飾りたいと願うのはお互い。
そんな胸焼けしそうな姉妹の愛と絆があったからこそ、ふしぎ星を救えたのだと最後を飾るこのパーティーで示す事が出来る。
ならば二人の為にも最後まで完璧に演奏してみせようじゃないか。
((それにしても悔しいなぁ・・・))
シンクロするように心の中で苦笑交じりの溜息を吐くのはシェイドとブライト。
自分達以上にあのファインやレインと良い雰囲気で踊れる者などいないと自惚れていたのに、まさかそれぞれの大切な片割れという強力なライバルの出現によって呆気なくその地位から突き落とされてしまうとは。
でもいつかきっと、次こそは何かを記念する大きなパーティーでダンスに誘ってライバル以上に躍らせてみせると誓うのだった。
「「はいっ!!」」
手を繋ぎ、空いている方の手を大きく横に広げて花のような笑顔で二人はポーズを決め、それと同時に演奏も終わりを迎える。
平和の象徴であるふたごのプリンセスによるダンスとそれを彩る各国のプリンスとプリンセス達による演奏は会場にいる全ての者の心に衝撃と感動を与え、会場いっぱいの拍手喝采を浴びた。
その拍手は止む事を知らず、一同は最高のグランドフィナーレを飾れたと鼻高々に笑うのだった。
続く