ピースフルパーティーと虹の蜜 第六章~しずくの国~

ピースフルパーティー開催から数日前のしずくの国。
虹の花を育てるべくファインとレインとプーモはしずくの国に訪れてナルロをベビーカーに乗せたミルロの案内の元、しずくの国で一番澄んでいるとされる湖に来ていた。
湖はしずくの国の城から離れた場所にあり、また、パーティー当日は少し慌ただしくなる事もあってこうして日にちをズラして来た次第である。

「ここがしずくの国で一番澄んでる水の湖よ」
「わぁ、すっごく綺麗!」
「見て!青く光る魚がいるわ!」
「こっちには水の中でオレンジ色に咲く花があるよ!」
「本当だわ!素敵!」
「ファイン様レイン様、はしゃぐのは良いでプモが目的を忘れていないでプモか?」
「わ、分かってるって~!」
「だ、大丈夫よ~!」

二人揃って苦笑いをするが半分忘れかけていたのをプーモは見透かしていた。
ファインは持って来ていたコップに湖の水を汲むとそれを虹の花の根元の土に優しく流していった。
水は瞬く間に土にしみ込んでいき、植木鉢の下からゆっくりと余分な水が溢れていく。
それから三十秒程経過すると小さかった蕾はみるみるうちに大きく膨らんで白かった花弁は美しい虹色に彩られた。

「わぁ!みてみて!」
「蕾が大きくなったわね!」
「成功でプモ!」
「まぁ、凄い・・・!」
「ガビーン!」

ファインの虹の花の成長にミルロとベビーカーの中から顔を出していたナルロも喜ぶ。
そんな中でミルロが微笑みながら悪戯っぽく言う。

「虹の花も育ってシェイド様とも仲直り出来て・・・ファインってば色々順調ね」
「い、色々って何!?」
「色々は色々よ。ねぇ、レイン?」
「ええ。そういえばね、この間ファインってばシェイドとデートしてきたのよ!」
「まぁ!それって本当?」
「違う違う違う!!ミルキーも一緒にいて遊んでただけだって!レインも変な嘘つかないでよ~!」
「あら~?好きな人と楽しい時間を過ごして来たんだからこれは立派なデートよ!」
「ち、違うってば!ね、プーモ!?」
「違わないわよね?プーモ?」
「途中までシェイド様と二人で街を巡っていましたからこれはデートにカウントしますでプモ」

すすっとプーモがレインの側に浮遊するとファインは「なんでよ~!」と泣き叫び、一同の笑いを買った。

「大体本当のデートをしてきたのはレインの方じゃん!」
「あら?レイン、ブライト様とデートしたの?」
「そうなの!ファインのお陰でブライト様とピクニックに行ってきたのよ!」
「まぁ、良かったわね。それってファインがシェイド様とデートした日と同じ日に?」
「そうよ!」
「だからデートじゃないってば~!」
「二人揃って同じ日に好きな人とデートだなんてロマンティックね。折角だから将来は二人同時に結婚式を挙げるのなんてどうかしら?」
「「け、結婚式~!!?」」

二人揃って顔を赤くして大きな声を上げる。
しかしそこからの反応は全くの正反対だった。

「二人同時に結婚式って事はダブル挙式って事よね!?素敵!!」
「けけけけ結婚だなんてまだ付き合ってすらないのに気が早いよ!!」
「私は勿論青のウェディングドレスを着てファインは赤のウェディングドレスを着て~!」
「それにアタシもレインもまだ片想いの段階だし!!」
「控室で私のドレス姿を見たブライト様が言うの!素敵だね、レイン。キミはまるで女神のようだ!ブライト様、やっと私達、結ばれるんですね!ああ、そうさ。今日、僕達は永遠に結ばれるのさ!幸せにするよ、レイン!」
「無理無理~!!」
「なーんてなーんてキャー!もうどうしましょ~!!」

両手で頬を抑えて興奮気味に妄想を炸裂させるレイン。
両手で顔を覆いながら恥ずかしがるファイン。
双子なのに全く違う反応にミルロはおかしそうに笑い、プーモは呆れたように息を吐く。

「二人共、恋愛に関しては全く反応が違うのね」
「両極端でプモ」
「そうだわファイン!折角だから誕生日にケーキを渡すついでに告白したらどうかしら!?」
「え~っ!?こ、告白~!!?」
「この間の仲直りの時とか凄く良い雰囲気だったからいけるわよ~!」
「いやいやいやいや!流石に告白はいきなりすぎるよ!もっとお互いの事をよく知ってからの方がいいって!!」
「聞いたミルロ?これってつまりファインはシェイドの事をもっとよく知りたいって事よね?」
「ええ、間違いないわ。しかもお互いの事をよく知ってから告白ってファインってば乙女なのね」
「そうなのよ!もうとっても甘酸っぱいの!」
「もうやめてよ~!!」

涙目になって叫ぶファインにミルロとレインはまた笑う。
他人の恋愛話は今日も甘くて美味しいく、いじられる方はしょっぱい。
からかいの延長でミルロはアドバイスも含めて話を続ける。

「いきなり告白は冗談にするとしてもそれなりに距離を詰めておいた方がいいんじゃないかしら。でないと学園に入学した後、大変だと思うのだけれど」
「大変って?」
「私達が入学するロイヤルワンダー学園には宇宙の色んな星のプリンスやプリンセス達が集まる学校だから・・・多分シェイド様、モテると思うの。ファインが言うように優しいしクールで素敵だから」
「うえぇっ!?」
「まぁ確かにシェイドみたいなタイプはモテるわね~。中身知ったらまた別だと思うけど」
「ブライト様もモテると思うわ。ブライト様も同じように優しくて紳士で素敵だから凄い人気になると思うの」
「ええっ!?そ、それって・・・!」
「レイン様もウカウカしていられないでプモ」
「ライバルが増えて・・・」
「競争率が上がるなんてそんなの・・・」
「「イヤイヤイヤ~ン!イヤイヤ~ン!イヤイヤイヤ~ン!イヤイヤ~ン!」」

想像もしていなかった少し先の未来にファインとレインは悲しみのイヤイヤダンスを踊る。
言われてみればそうだ、シェイドもブライトもまず外見がいい。
そしてまず、シェイドはぶらっきらぼうと言えど基本は優しいのでそれがギャップとなって良い方向に働く。
加えてクールな性格も相まって女性受けは抜群だろう。
次にブライトは人当りが良く優しく丁寧で紳士的でダンスも上手で・・・とプリンスの王道を行くプリンスだ。
女性慣れしている事もあって女性の扱いは言うに及ばず、剣の技術も宝石の国らしく美麗なものでその手の部活などに入れば大人気間違い無しだろう。
入学したら瞬く間に他の星のプリンセス達に囲まれて容易に近付けられなくなるのが目に浮かぶ。
それを想像して二人のイヤイヤダンスはより深みを増していくのだった。

「ガビ~ン!」
「あら、ナルロ。二人のイヤイヤダンスが面白いのね」
「アタシ達は全然面白くないよ~」
「今の内にブライト様を取られないように婚約の申し込みをしなきゃダメだわ~」
「婚約の申し込みは告白以上にハードルが高いと思うけど・・・」
「むしろドン引きされて一気に距離が開く未来が視えるでプモ」

涙ながらに嘆く二人にプーモが呆れたコメントを溢す。
そんな二人を見てミルロはしばし考えた後、何かを閃くと「そうだわ」と手を叩いてある提案をした。

「ファインとレインが招待してくれた今度のお祭りでペアになってお化け屋敷に入るのはどうかしら?同封されてたチラシに『お化け屋敷有り』ってあったと思うんだけど」
「ええ~!?お化け屋敷~!!?」
「さんせー!!」
「賛成しちゃうの~!?」
「考えてもみなさい、ファイン。暗い通路の中を若い男女が歩いていると突然お化けが飛び出して来て―――」
「ひっ!?」
「キャーブライト様!お化け怖~い!大丈夫だよ、レイン。僕がキミを守ってあげるよ。あぁブライト様、恐怖で竦み上がって体が震えて思うように動けないわ。それなら僕の腕の中でその身を預けるといい。キミの体の震えが止まるまで僕が抱き締めていてあげるよ・・・なんちゃってそんな事になったらどうしましょ~!!」
「レイン様のスイッチがまた入ってしまったでプモ・・・」
「でもレインの言うようなシチュエーションになれば距離が少し縮むと思うの。ファインなんか特に怖がりだからシェイド様の中でファインを守りたいっていう気持ちが強くなって特別に一歩近づくんじゃないかしら」
「それでもお化け屋敷はヤだよ~!」
「駄目よファイン!折角のチャンスなんだから最大限に活かさないと入学した後に他の女の子達に埋もれて難易度が高くなっちゃうわよ!」
「でも~!」
「それにこれは合法的にシェイドに抱き付けるチャンスよ!長い時間手を繋ぐのだって夢じゃないわ!」
「うぅ~」

ファインは顔を赤くしながら迷うような呻き声を上げる。
お化け屋敷は嫌だがシェイドと手を繋ぎたい。
抱き付くのは無理だが手を繋ぐくらいならギリギリなんとか耐えれると思う。
しかしそうは言ってもやはり怖いのは苦手だ。
そうして悩んでいるファインを見てミルロはまた少し考えると別の案を提示した。

「なら、みんながお化け屋敷を楽しんでる間にファインはシェイド様と二人きりでお祭りデートをするのはどうかしら?」
「ででででデートぉ!?」
「いいわね、それ!お祭りデートだなんて素敵じゃない!」
「ですがもしもシェイド様もお化け屋敷に入るという流れになったらどうするでプモか?もしかしたらミルキー様を心配して一緒に入るかもしれないでプモ」
「ミルキーは賢い子だからそこは空気を読んでシェイドについてこないでって言う筈よ」
「それでもシェイド様が心配するようなら私がついて行くわ。ナルロもプリンセスミルキーと一緒に入りたいだろうし。ね、ナルロ?」
「ガビーン!」
「後はお祭りデートをする口実ね。シェイドの事だからみんなが出てくるまで出口で待つぞ、くらいの事は言うと思うわ」
「確かに言いそう」
「だからお使いに行くのはどうかしら?私達の食べたい物をシェイドと一緒に買いに行くの。ちょっと大変かもしれないけど二人でお祭りデートする良い口実になると思うわ。どうかしら?」
「うん、いいと思う!アタシも美味しい物食べれるかもしれないしね〜!」
「もうファインったら、メインはシェイドとのデートなんだからあんまり食べ物に気を取られちゃダメよ?」
「分かってるって!それよりもレインもミルロもプーモもありがとうね。アタシの為に色々考えてくれて」
「この間私の為にブライト様とのピクニックをセッティングしてくれたでしょう?そのお礼よ」
「私も友達の恋を応援したいだけだから気にしないで。むしろ楽しいから」
「えへへ、そっか」

ファインは照れたように笑うと両膝を抱えて虹の花の蕾を眺めて微笑んだ。
大きく膨らんだ蕾は柔らかな風に吹かれてゆらゆらと楽しそうに揺れている。
少し前までは見ていても複雑な気持ちになっていたが今では穏やかな気持ちで見ていられる事が出来る。
シェイドと仲直りが出来て本当に良かったとファインは心の底から思うのだった。
そんな風に虹の花を前に微笑むファインの姿にミルロの中で絵心が働き始め、ナルロのベビーカーの外側ポケットに入れていたスケッチブックとペンを取り出すと白紙のページを開いて筆を走らせ始めた。

「あら?ミルロ、もしかして―――」
「しーっ」

ファインを描くのかと尋ねようとしたレインにミルロが優しく自分の口元に指を立てた。
やはりそうなのかと頷くとレインはプーモを手招きし、二人に「シェイドの話題を続けて注意を逸らしましょう」と密かに耳打ちをする。
二人は心得たとばかりに頷くとミルロが最初に話を振った。

「当日は浴衣で参加よね?」
「ええ、勿論よ」
「ブライト様とシェイド様、褒めてくれるといいわね」
「その為にも気合を入れておめかししなくっちゃ!」
「ブライト様は素直に褒めてくれそうでプモがシェイド様は微妙な所でプモね」
「そうねぇ。皮肉屋なシェイドの事だから『馬子にも衣裳だな』とか失礼な事を言いそうだわ」
「でもそれもシェイドらしいよ。想像つくなぁ」

頭の中に思い浮かべたのだろう、くすぐったそうにファインは笑う。
その間、ミルロの手元のスケッチブックは大まかな全体像が完成しており、配色のメモも書きこまれ始めている。

「皮肉屋と言われるシェイド様でもきっとファインからの虹の蜜を使ったケーキは喜んで素直に受け取ってくれると思うわ」
「だといいなぁ」
「まぁ照れ隠しに多少の憎まれ口は叩くかもしれないけど喜んでくれるのは間違いないわよ。もしもケチをつけてきたら私が怒ってあげるわ」
「えへへ、ありがとう、レイン」

微笑むファインがミルロのスケッチに気付いた様子はない。
そのお陰もあってスケッチは順調に進んでいた。

「シェイド様の誕生日までまだ時間はあるとはいえ、早くパウンドケーキ作りを上達させないといけないでプモね」
「ケーキ作りの練習、始めたのね」
「シェイド様と仲直りしてから漸く始めましたでプモ。まだまだレイン様と一緒に失敗してばかりでプモが」
「レインも作ってるの?」
「ええ、私はブライト様の為に葡萄とマスカットのシャルロットケーキを作ってるの。全然上手くいってないけど」
「でも頑張って練習を重ねればきっと上手に出来るようになるわ。だから諦めないで頑張ってね」
「ええ、勿論よ!ね、ファイン?」
「うん!」
「フフ、ブライト様もシェイド様も幸せ者ね。こんなにも一途に想って頑張ってくれている女の子がいるのだから」
「シェイドなんかこうやって手間と時間と愛情をたっぷり込めた蜜を使ったケーキを食べられるんだから世界一の幸せ者よ」
「ケーキを作ってプレゼントするまでがゴールでプモ。ファイン様、最後までたっぷり愛情を込めて頑張るでプモ」
「うん!」

弾むように頷くファインの表情は笑顔で、そこから溢れる愛情は真っ直ぐに虹の花に注がれていた。
その瞬間を逃さずミルロは素早くペンを走らせつつ丁寧にファインの横顔を描き込んでいく。
幸せな表情をしている友人の絵を描くのは楽しく、ペンが躍るように動いた。

「出来たわ」
「まぁ」
「プモ~」
「ガビーン」

声を潜めてレイン達はミルロの描き上げたスケッチブックを覗き込む。
蕾の状態の虹の花の前に座って微笑むファインの絵はまさに愛と幸せの瞬間を切り取ったようなものであった。







続く
3/6ページ
スキ