ピースフルパーティーと虹の蜜 第四章~タネタネの国~

当初、サッカーをする予定が急遽雪合戦に種目を変更したピースフル『スポーツ』パーティー。
天気予報で雪が降る事が予想されており、せっかちなキングは開催日を前倒しにしてパーティーを開こうとしていたのだが王妃であるフラウアがそれをやんわりと制止して雪が降ったら雪合戦に種目を変えようと提案した。
そんな事もあり、各国のプリンス・プリンセス達の元に雪が降った場合は雪合戦になるという事前通知をしており、そして見事に雪が降った為に完璧な防寒対策をしてそれぞれはパーティーに臨んでいた。
ちなみにチーム決めはあらかじめクジで決めており、赤チームがおひさまの国・宝石の国・メラメラの国。
白チームが月の国・かざぐるまの国・タネタネの国・しずくの国である。
チームの人数的に偏りがあるものの、チームのパワーバランスとしては丁度良いだろうという事で決め直しや面倒な話し合いという事態は避けられた。

「それでは!ピースフル『スポーツ』パーティーを開催するダネ!よーい―――」
「その前にルールの説明をしましょう」

開催宣言と共に開戦宣言を始めようとするキングを遮ってフラウアが雪合戦のルール説明を始める。

「各国のプリンス並びにプリンセスの皆さん、事前通知した通り本日は雪が降り積もった為、サッカーから急遽雪合戦を行います。ルールは相手チームの方に雪玉を当てたらポイントを取得出来るポイント制です。制限時間は一時間。それまでの間に多くポイントを手に入れたチームの勝ちです。スポーツマンシップに則って正々堂々とプリンス・プリンセスらしく戦いましょう」
「それではよーい―――」
「する前にプリンスとプリンセス達に位置についてもらいましょう」
「早くするダネ」
「防壁として造った雪の壁から出て雪玉を当てに行くとルール違反になるので注意しましょう。雪はチームの陣地に積んでありますが雪は適宜追加していきます。勿論自分達で近くの雪を持って来て使っても構いません。また、あらかじめ玉を作ってありますので最初はそれを使いつつ後は手分けして玉を作って下さい。それでは皆さん、それぞれの陣地の位置について下さい」

フラウアの指示に従ってそれぞれは赤の旗と白の旗が建てられている防壁の内側にしゃがみこむ。
それを確認してフラウアはキングにGOサインを出した。

「それではなあなた、どうぞ号令をかけて下さい」
「漸くダネ!それでは位置についてよーいドン!ダネ!」

キングが空砲を鳴らすとそれぞれのチームで簡単な作業割り振りの為の作戦会議が始まった。
まずはブライト達のいるチームだ。

「玉を投げるのは僕とファインとリオーネ。玉を作るのはレイン、アルテッサ、ティオ、プーモでどうかな?」
「いいと思うよ!」
「私もです!」
「私も!」
「このティオ、全力で雪玉を作りますぞ!」
「僕も頑張るでプモ!」
「お兄様、余裕があったら私も攻めに回っても宜しいかしら?」
「ああ、勿論だ」
「アルテッサは薔薇投げるの得意だもんね~」
「その要領で投げれば雪玉もきっと当てられるわよね!」
「当然ですわ!私がダークホースとなって赤チームを勝利に導きますわ!」
「それじゃ、優勝目指して!」
「頑張ろー!」
『おー!!』

一致団結する白チーム。
一方のシェイド達のいる赤チームでは・・・。

「俺とアウラーとタネタネプリンセスとソロが玉を投げる。ミルロとナルロとミルキーは雪玉作り。ソフィーは雪玉を作りつつケースバイケースで攻めに回ってくれ」
「私がですか?」
「ベストスポーツプリンセスを決めるパーティーでアルテッサのカゴに玉を当ててたから投げるのは得意だろ?」
「まぁ!しっかり見ていたんですね、プリンスシェイド!流石元怪しいストーカー!」
「お前はそれは褒めてるのか?貶してるのか?」
「ごめんね、シェイド。ソフィーに悪気はないから許してあげて・・・」
「バブバブバブ~!」
「タネタネプリンセスが使う雪玉はミルキーが担当してくれるそうだ」
「ありがとう、ミルキー」
「雪玉はこのくらいの大きさのを作ってもらっていいかしら?」
「バブ!」
「じゃあ、私とナルロはシェイド様達が使う雪玉を作るわ」
「ガビーン!」
「私もナルロも玉を投げるのは得意ではないけど作るのだったら何とか出来るから」
「ああ、頼んだ。早速―――」

ヒュッという空を切る音と共にシェイドの真横を雪玉が飛行する。
それはシェイドの後ろにある木に当たり、打ち付けられると共にバラバラと砕け落ちた。
明らかなその挑発行為にシェイドは目つきを鋭くして赤チームの方を見やるとファインが敵意に満ちた顔でこちらを睨んでいた。

「・・・良い度胸だ」

それを宣戦布告と受け取ったシェイドは雪玉を手に取ってファインの頭上すれすれ目掛けて投げる。
その絶妙なコントロールが逆にファインの神経を逆撫でしてファインは無言で怒りの炎を灯し、負けじと再び雪を投げる。
二人の挑発が開戦の狼煙となり、両チームはそれぞれに雪玉を投げ始めた。
白い玉が飛び交う中、各所で雪合戦を見守る審判達がポイント取得の宣言をする。

「赤チームリオーネ様、1ポイント!」
「白チームアウラー様、1ポイント!」
「白チームシェイド様、1ポイント!」
「赤チームファイン様、1ポイント!」

両者の力の差は拮抗しており、ポイントを取られても取り返すといった行為を繰り返していた。
そんな時、ソフィーが悲鳴にも似た声を上げる。

「大変よ!プリンスシェイド!」
「どうしたソフィー!?」
「雪玉を作ろうと雪をかき集めていたら大量に積まれた小石が出て来たわ!これは雪玉に石を詰めるギャグをしろという神のお告げだわ!!」
「アウラー、お前の妹なんとかしろ」
「駄目だよソフィー!幻のかざぐるま式宴会芸を勝手に披露したら父上に叱られてしまうよ!」
「物凄く体を張った宴会芸ですね!?」

ソフィーを止めようとするアウラーとそんなアウラーにツッコミを入れていたソロに突如として雪玉が飛来し、直撃する。

「「うわぁっ!?」」

アウラーに当たった雪玉は砕け散り、ソロは雪の壁から落ちてしまう。
二人に見事雪玉を直撃させたのは―――アルテッサだった。

「赤チームアルテッサ様、2ポイント!」
「おーっほっほっほっ!アウラーもソロも油断していたら私の雪玉の餌食になりましてよ!」

「うぅ、油断してしまいました・・・」
「流石僕のアルテッサ!雪玉も的確に華麗に投げられるなんて素敵だなぁ!!」
「言ってる場合か」

「あーら?余所見してて良いのかしら?」

シェイドがアウラーの方を見てツッコミを入れているとアルテッサの剛速球が飛んでくる。
しかし戦闘慣れしているシェイドは体を僅かに後ろに傾ける事で辛くもそれを避ける事に成功した。
回避された事を悔しく思いながらもアルテッサの攻めの手は緩まない。
今度は雪玉を運ぼうと油断して立ち上がったミルロに向けて力を調整して雪玉を投げる。
それに気付いたシェイドがミルロに警告する。

「ミルロ、危ない!」
「っ!?」
「バブー!」

ミルロに雪玉が直撃しそうになった瞬間、星型の歩行器に乗ったミルキーが立ちはだかって雪玉を一口で食べてしまう。

「あっ!?」
「プリンセスミルキー・・・!助けてくれてありがとう!」
「バブ!・・・ゥゥ・・・」

しかしミルキーは頭を抱えてフラフラと墜落してしまう。

「プリンセスミルキー!?」
「ミルキー!雪玉は食べるなってお兄様と約束しただろ!いきなり冷たい物を食べると頭がキーンって痛むって!」
「え?衛生面とかお腹が痛くなるとかそっち方面の注意じゃなくて?」

微妙にズレてるシェイドの叱責に今度はミルロがツッコミを入れる。
真面目なのかボケてるのか分からないのがまた困る所である。

「敵が混乱してる今が好機!このティオも攻めに転じまする!」
「あ、ティオ!」

雪玉を両手に攻撃に回ろうとするティオをリオーネが止めようとする。
しかし―――

「雪玉準備!」
「かまえー!」
「発射!」

イシェルが指示を出し、ハーニィの声で構え、ゴーチェルの号令でタネタネプリンセス達が雪玉を一斉にティオ目掛けて投げ始める。
隊列は三人編成の4列、一番前の列が雪玉を投げるとすぐに一番後ろの列に回って雪玉を準備、次の列の隊が矢継ぎ早に投げたらまた一番後ろに回って・・・を繰り返すタネタネプリンセス達。
タネタネの国秘伝の作戦が始まった事を姉達の号令で悟ったソロは慌てて起き上がって二人しかいない列に加わり、同じように雪玉を構えて投げる。

「うひゃー!?」
「ティオ!!」
「白チームタネタネプリンセス様一同並びにソロ様、12ポイント!」

小さな玉と言えど沢山投げられてしまえばひとたまりもない。
ティオは一瞬にして撃沈してしまった。
慌ててリオーネが駆け寄って抱き起こすがティオは「む、無念・・・」と呟いて力尽きるのであった。
タネタネプリンセスの見事な戦術をシェイドが褒め称える。

「凄いぞ、タネタネプリンセス、ソロ!」
「これぞタネタネ式秘伝の戦術・四段構えです!」

ソロが誇らし気に答える。
タネタネの国らしい知恵を働かせた戦術と一気にポイント差を開けられた事に赤チームのブライト達に焦りが走る。

「くっ、一気に差を開けられてしまったようだね」
「私に任せてお兄様!私のこの技でもう一度巻き返して―――」

「ガッビーン!!」

「ほぁっ!!!?」

突然のナルロのガビーン咆哮にトラウマを強く刺激されたアルテッサは断末魔の叫びを上げて雪の上に倒れた。

「アルテッサ!!」
「しっかりしてアルテッサ!ガビーンはメラメラの国を救った一発ギャグだから全然恥ずかしくないよ!」
「そうよ!あのボードラゴンを笑わせた究極のギャグなんだからそんなにショックを受けないで!!」
「ふぁっ!!?」
「ファインレイン!それは止めを刺す言葉よ!!」

ファインとレインによるフォローになってないフォローでとうとうアルテッサの意識は遥か遠くの彼方に飛んでいってしまうのだった。
一方でミルロの方はナルロの傍に寄って「くしゃみしたのね、大丈夫ナルロ?」とティッシュを取り出してナルロの鼻水を拭ってあげていた。
どうやらナルロのガビーンはワザとではなくただのくしゃみだったようである。

「よ~し!こうなったらブライト、リオーネ!ティオとアルとテッサの仇を取ろう!」
「ああ!」
「アルテッサに止めを刺したのは厳密にはファインとレインだけどそうね!頑張りましょう!」
「レイン、プーモ!雪玉作りお願いね!」
「任せて!」
「全力でお作りしますでプモ!」
「いっくよ~!とりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
「それ!!」
「はい!!」

ファインの数打てば当たる戦法に紛れて的確に投げられるブライトとリオーネの雪玉。
無数に投げられるファインの雪玉を避けるだけでも手一杯なのにそこにブライトとリオーネの一球も混ざってくるものだから白チームはどんどん被弾していった。

「赤チームファイン様、ブライト様、リオーネ様、それぞれ2ポイント取得の合計6ポイント!」

「くっ、不味いぞシェイド!こっちの攻撃する隙が無い!」
「慌てるな、必ず反撃するチャンスはある!」

雪の防壁に隠れて焦るアウラーをシェイドが落ち着かせる。
ティオとアルテッサが撃沈したものの、雪玉が無限のように投げられるのは偏にレインとプーモの連携技にあった。
レインは運動が得意ではない。
しかしその分だけこういった事では後ろでフォローをしようと全力を出す。
今でもそう、プーモが玉のタネとなる小さな雪玉を作り、レインがそれを手際良く雪の上に転がして雪玉を大きくしてストックを量産していっている。
両者のその動きに無駄はなく、また、玉をすぐに掴めるようにというレインの機転によって玉は素早くファイン達の手元に滑るように転がされていた。
その所為で攻撃が止む事がないのだが、それでも一瞬の隙があるとシェイドは踏んでいた。
その理由は―――

「大変でプモ!雪の補充が間に合ってないでプモ!」
「任せて!私がすぐに近くの雪をかき集めて来るわ!」

(ここだ!)

雪不足。
そう、無限に雪玉を製造出来ると言っても所詮は限りある物。
いつかは不足し、途絶え、無くなる。
いくら順次雪が補充されると言ってもそのスピードには限度がある。
ストックの雪がなくなってきた事もあってファイン達の総攻撃が僅かに緩くなっていく。
その隙を逃さずシェイドはレインの被っている青いニット帽子を目で追ってその行き先にある木に目掛けて陽動の雪玉を素早く投げる。

「きゃっ!?」
「レイン!?」

レインの危機に条件反射でファインが振り返ったその一瞬の隙を突いてシェイドはファインに雪玉を投げつけた。
雪玉はボスッという鈍い音を立ててファインの二の腕に当たって砕け、ボロボロと地面に崩れ落ちる。

「白チームシェイド様、1ポイント!」

ハッとなってファインはシェイドの方にすぐに視線を戻す。

「フンッ」

シェイドはまるで「油断したな」とでも言いたげに勝ち誇った瞳で不敵に笑う。
陽動の為にレインを利用しただけでなく明らかに見下したような態度で挑発してくるシェイドにファインがブチギレない筈がなかった。

「とりゃ~~~~~~~!!!」

怒りに任せてファインが残りの雪玉を全力でシェイド目掛けて投げつける。
しかしシェイドはそれを涼しい顔で全て避けるものだからそれが益々癇に障ってファインの中で怒りが募っていく。
けれど投げ過ぎて流石に疲れて来た。
ファインは息を切らして少し休憩しながらも怒りに拳を震わせる。

「ぬ・ぬ・ぬ・ぬ~~~~!!」
「大丈夫だよ、ファイン」

怒りに打ち震えるファインを落ち着かせるような爽やかで穏やかな声が横からかけられる。
声をかけてきたのはブライトだった。

「ブライト・・・?」
「ファインの仇は僕とレインが取るよ。ね、レイン?」
「えっ!?私ですか!?でも私は玉を投げるのは・・・」
「いいや、レインは変わらず玉を作っててくれないか?キミの作る玉はとっても掴みやすくて投げやすいんだ。そうだろう?リオーネ、ファイン?」
「ええ、そうね!」
「うん!レインの作る玉はとっても具合が良いよ!」
「そ、そんな、プーモのタネの作り方が良いからだわ・・・!ねぇ、プーモ?」
「ですがそのタネを上手に雪玉に完成させているのは紛れもなくレイン様のお力でプモ」
「や、やだわ、もう!」
「そういう訳だからレイン、引き続き雪玉作りをお願いしていいかい?」
「ええ!」
「一緒にキザでカッコつけのシェイドをコテンパンにやっつけてやろう!」

「誰がキザでカッコつけだって?」

ヒュッと雪玉が鋭く投げつけられ、ブライトはそれを「おっと・・・!」と若干の焦りを見せつつもギリギリで避ける。
雪玉を投げつけた主を見やればそれはそれは不機嫌そうな顔でこちらを睨みつけており、続けざまに嫌味を言い放ってきた。

「上品気取った坊ちゃんに言われたくないな。お前如きが俺を倒せるとでも思ってるのか?」

「勿論さ。レインの危機にファインが絶対に反応するのを利用して攻撃するような卑怯なキミに負ける筈がないだろう?」

ブライトがお返しと言わんばかりに雪玉を投げ、シェイドがそれを避ける。

「これも立派な作戦だ。ま、品行方正のお坊ちゃんなお前には出来ないし思いつかないだろうがな」

とことん嫌味を織り交ぜつつシェイドがまた雪玉を投げつける。
ここからはシェイドとブライトの一騎打ちだ。
周りは手を出さず静かに見届ける。

「キミみたいに卑怯じゃないからねぇ。そりゃ思いつかないよ」

「そうか。上品な坊ちゃんは兵法も碌に学んでいないらしい」

「そういうキミこそさっきから坊ちゃん坊ちゃんってそれしか語彙力がないのかい?よく本を読んでるって聞くけど児童書なんじゃないの?」

「そんなに別の呼び方をして欲しいなら呼んでやるよ―――ブライトサンバ」

「ぐはぁっ!!!」

ボソッと囁かれたシェイドの急所突きにブライトは血を吐いて伏せる。
やはり弱点だったかと一人にやりと笑っていると復帰したアルテッサがシェイドを責め立てる。

「ちょっとプリンスシェイド!私でも庇いきれないお兄様の黒歴史を口にするなんて卑怯ですわよ!!」
「ごはぁっ!!!」

「今お前が強烈な追い打ちをかけたぞ」
「ブライトサンバって何だ、シェイド?」
「ああ、アウラー。ブライトサンバっていうのはな―――」

「アウラー聞くなぁああああああ!!!!」

首を傾げて尋ねるアウラーに真実を告げようとするシェイドを口封じしようとしてブライトが全力で雪玉を投げる。
それを難なく避けたシェイドは雪玉を手に取ってブライト目掛けて再び投げ合いを始めた。

「ハッ!何が弱い自分を受け入れて素直になっただ!結局は受け入れられてないじゃないか!!」

「黙れ!弱さと黒歴史は違う!!」

「黒歴史と認めてるだけマシかもな!」

「煩い!シェイドだってメラメラ演芸会でレジーナのウンコ踏んだだの鞭とバナナを間違えただの恥ずかしい過去を暴露した癖に!!」

「恥ずかしいと思ってないから愚痴っただけだ!」

「ウンコ踏んだ事が恥ずかしくないって言うのか!?」

「じゃあお前はウンコ踏んだ事ないのか!?やっぱり坊ちゃん育ちだな!!」

「僕だってルビー号のウンコ踏んだ事あるさ!でも恥ずべき事だと思ってあまり言わないようにしてるんだ!!」

「ウンコ踏んだ事を言えなくて恥ずかしいって思ってる時点でやっぱりお前はお坊ちゃんなんだよ!」

「何をー!?」

「どっちも恥ずかしいです・・・」
「二人共プリンス失格だよ・・・」

まるで子供のような口喧嘩にソロとアウラーは呆れたように呟く。
面白そうにしているソフィー以外は苦笑いだ。
しかしここでブライトが思わぬ反撃の言葉を紡ぐ。

「なんだ!シェイドなんてふしぎ星の平和を祝うパーティーでファインをダンスに誘ったもののケーキに負けた癖に!!」

一瞬、何が横切ったのか分からなかった。
冷たい物体が髪の毛を掠めて後ろの木に衝突してパァンッ!!という破裂音を響かせて砕け散る。
僅かに振り返れば雪玉が粉になって舞い落ちており、隣で漸く復帰したティオが戦慄していた。
それからただならぬ殺気を感じて恐る恐る視線を戻すとそれだけで人を殺せるのではないかと思うくらい鋭く睨みつけてくるシェイドと目が合った。

「もういっぺん言ってみろ」

地の底から響くような声。
しかしブライトは怯むどころか弱点見出したりと言わんばかりにニヤリと笑って雪玉を投げ返す。

「あれごめんね?地雷だった?そうだよねぇ、あの完璧で優秀でクールなプリンスシェイドがたかだかケーキに負けただなんてプライドが許さないよねぇ!?」

「黙れブライトサンバ!ダンス断られ続けてスタートラインにすら立てなかった奴に言われたくないんだよ!!」

「ぐはっ!またブライトサンバって言ったな・・・ケーキ以下の癖に!!」

「良かったらブライトサンバの歌を歌ってやろうか!?空に輝くシャイニングスター!」

「やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

ブライトは絶叫して全力で雪玉を投げてシェイドの歌を遮ろうとする。
そしてそこからブライトの「ケーキ以下の癖に!」という悪口とシェイドの「ブライトサンバ!」という悪口と雪玉の応酬が始まり、周りは唖然とする。
その中であってケーキの中心人物であるファインは顔から湯気を出す程真っ赤にして俯いていた。

「~~~!」
「普段の食い意地が災いしたでプモ。これを機にもう少し改めるでプモ」

(最初のピースフルパーティーで大好きなケーキを食べ忘れる程シェイドの事を見つめてたから本当はケーキに勝ってるんだけど・・・黙っておこうっと)

一人だけ真実を知っているレインはしかしそれを胸にしまっておく事にした。
その方が面白いのと何よりシェイドのブライトへの黒歴史ほじくり返しへの仕返しとシェイドの弱点を知れたからだ。
いざという時に使えるかもしれない必殺技は大切にとっておくものである。

「そろそろ決着を付けようか・・・!」

「上等だ、これで決めてやるよ・・・!」

ブライトとシェイドは自分の顔よりも一回り大きい雪玉を両手で持ち上げる。
ちなみにこれを作ったのはレインとミルロで、目で会話して作ったものである。
二人は渾身の力を込めて大きな雪玉を同時に投げ合う。

「はぁああああああ!!」

「おぉおおおおおお!!」

二つの大きな雪玉は宙を舞い、雪の防壁で隔てられた二つのチームの間にあるスペースの丁度真ん中でぶつかり合う。
投げる勢いが強かったのか二つの雪玉はぶつかり合うとボコンッという鈍い音を立てて砕け、バラバラと大きな欠片を残しつつ舞い散った。
悪口の応酬と雪玉をずっと投げ合っていた所為もあって二人は体力を消耗し、肩で息をしていてその呼吸音が静寂に響く。
そこに―――

「っ!」

ボスッという音と共にシェイドの肩に雪玉が当たる。
玉の軌道を辿れば変わらない敵意と呆れを含んだジト目で見つめて来るファインがそこにいた。

「・・・ふふんっ」

「・・・っ!」

でも忘れずに勝ち誇ったように鼻で笑ってきたのでシェイドは静かにこめかみに青筋を立てた。
そんなファインを横目で見て仇を取れたと内心喜んでいたブライトの肩に同じようにして雪玉が当たる。
視線を感じて目を向ければアウラーが呆れたようにブライトを見ていた。

「落ち着きなよブライト」

「ああ、うん、ごめん・・・」

どうやら戒めの一球だったらしい。
ブライトは苦笑いを浮かべて謝罪した。
そのすぐ直後にホイッスルが鳴り響く。

「タイムアウト!ゲーム終了!白チームの勝利!!」

とりあえず、といった感じでまばらな拍手が送られる。
白チームは勝利出来たものの誰も素直にその勝利を喜ぶ者はいなかった。
これはたとえ赤チームでもそうだっただろう。
この戦いに勝者などいない。
いるのはシェイドとブライトの悪口合戦を見て楽しそうに笑顔を浮かべているソフィーだけであった。






続く
2/3ページ
スキ