かくれんぼの魔女

さて、一足早くミラード星に到着したファインとレイン、シンディーはシンディーの住処に寄って舞踏会に参加する準備をしていた。
シンディーの住処は森の奥にあり、城下町からは遠く離れており、木の遮りがありながらも城が目に入る位置にあった。

「さ、準備をしましょうか。そこに立って」
「「はーい」」

シンディーに言われるままにファインとレインは並んで指定の場所に立つ。
するとシンディーはまたあの白いステッキを取り出すとくるくると小さく振り回しながら呪文を唱えた。

「ラララン♪ラララン♪キラキラキララン♪綺麗に可愛らしくドレスアップよ~♪」

何だか気の抜けるような呪文だがふたごは全く気にならない。
むしろ取り入れたいとすら思ったほど。
そんな事よりもシンディーが呪文を唱え終えるとステッキの先端から赤と青の二つの光が放たれ、二人の頭上で旋回を始めた。
光からは粉雪のような光の粒が舞い降りて二人を包んでいく。
すると二人の着ているものや身に付けているものは光に包まれ、パッとその光が飛び散るとそれらは真っ白で立派なドレスやデコールに姿を変えていった。
更には二人の髪型もパーティーに相応しいものへと整えられ、一瞬にして可愛らしいプリンセスへと変身した。

「すご~い!」
「一瞬でパーティードレスになったわ!」
「後はこれを被ってね」

にこやかに微笑みながらシンディーは白のベールを二人の頭に被せた。
ファインが首を傾げる。

「どうしてこれを被るんですか?」
「見つかりにくくする為よ。そのドレスやベールは私の魔法がかかっていて気付かれにくくなったり近寄りにくくする力が宿っているの」
「じゃあ周りを気にする事なくお料理が食べられるね!」
「会場の風景もゆっくり眺められるわね!」
「さて、私も準備しないと」

シンディーは再びステッキを構えると「ほいほい、と」っと呟いてステッキの先端から真っ白な光を出した。
光はシンディーの真上で同じように旋回すると光の粉を降らし、シンディーを美しくドレスアップさせた。
その姿にファインとレインはまたしても見惚れてしまう。

「シンディーさん、綺麗・・・!」
「本当ねぇ、私達以上にプリンセスって感じがするわ」
「そんな事ないわ。私はしがない魔女よ。本物のプリンセスとはそもそものオーラが違うわ」
「でもアタシ達」
「ふしぎ星始まって以来プリンセスらしくないプリンセスって言われてるからオーラなんてねぇ?」
「それでも本当のプリンセスであるかどうかって結構違うものよ。私からしてみれば貴女たちこそ本物の輝きを放っていて羨ましいくらいよ」
「いや~シンディーさんにそう言われちゃうと」
「照れるわ~」

そう言ってテレテレダンスを踊り始める二人。
ここにプーモやキャメロットがいたら「そういう所がプリンセスらしくない」と小言を言われただろうが今ここにいるのはシンディーのみ。
そのシンディーはというと、微笑ましそうに二人のダンスを見ていた。

「さて、準備も出来たしそろそろ舞踏会に行きましょうかね。笑顔の準備はいいかしら?」
「「はーい!!」」
「それじゃあ行くわよ」

シンディーに促されてファインとレインは再びあのカボチャの馬車に乗り込んだ。
カボチャの馬車は今度は空中に浮く事なく一定の軽やかなリズムを刻みながら城への道を目指し移動を開始した。
綺麗なドレスを着て可愛らしい馬車に乗り込みお城へ、なんてシチュエーションはプリンセスであってもあまり経験する事がなかったので二人はそれだけでもう大満足だった。

「そういえば私達、馬車ってあまり乗った事がなかったわよね」
「そうだね。おひさまの国は空にあるし街には徒歩で行くから馬車なんて乗らないしね」
「ああ、これでブライト様がお城にいたらもう言う事ないのに・・・!」
「いるわよ、多分」
「ええっ!!?」

思ってもみなかったシンディーからの返しにレインは驚きに目を見開く。

「それからファイン、貴女の特別な人もきっと来てるわ」
「ええっ!?と、特別な人って・・・!?」
「シェイドでしょ?」
「いいいやいやいやいやシェイドは別にそんな・・・!!」
「あら、素直にならないとシェイドが怒るわよ?」
「あ、アタシがシェイドを特別に思ってるって言う方がシェイド怒るんじゃないかな!!?」
「やっぱり特別に思ってるのね」
「ふぁっ!?れ、レイン~!」

レインに上手く乗せらて認めてしまったファインは顔を真っ赤にしてレインの腕をポカポカと叩く。
それに対してレインは「照れないの~」なんて言いながら笑って流していた。
そんなふたごの姉妹の可愛らしいやり取りにクスリと笑みを溢してシンディーは口を開く。

「実はね、街で貴女たちと話してる時に二人の男の子がこっちに向かって歩いて来るのが見えてたの」
「「男の子?」」
「ええ。綺麗な茶色の髪をしたこれぞ王子様っていう見かけの男の子と、紫色の髪をしたクールな見かけの男の子なんだけど」
「それブライト様だわ!」
「それシェイドだ!」

二人同時に答えたのでシンディーはまたクスリと笑った。
簡単な特徴しか言っていないのにすぐに特定の人物の名前が出て来る辺り二人の中で特別な相手なのは間違いなさそうだ。

「やっぱり知り合いだったのね。なんとなくそんな気がしてたわ。だから貴女たちに早く馬車に乗るように言ったのよ」
「どうしてですか?」

レインが首を傾げて尋ねる。

「目の前で二人のプリンセスが見知らぬ馬車に乗ってどこかに行ってしまったらあの王子様たちは追いかけて来るのかしらと思ってね。たとえもしも貴女たちにとって特別な人じゃなかったとしてもきっと貴女たちの特別な人に知らせるだろうし。貴女たちも気にならない?」
「それは・・・」
「ちょっと気になる、かも・・・?」
「でしょう?それにね、私を探してる王子様も近くに来てたの。だから多分彼と合流して今回の舞踏会に参加するんじゃないかなーって、そんな気がするの。私の勘って結構当たるから」
「じゃ、じゃあこれから行く舞踏会にブライト様が・・・!」
「シェイドが・・・!」
「はい、突然ですがここでゲームを始めようと思います!」

特別な相手であるブライトとシェイドがいるかもしれないという期待に胸を膨らませようとしていた時にシンディーがパンッと手を叩いて二人を驚かせる。
シンディーはまるで悪戯っ子のような笑顔を浮かべて言った。

「ゲームは前半戦と後半戦の二つに分けて始めます。前半戦は舞踏会、後半戦は私のお家でやります。ルールは簡単!王子様たちに捕まえられないようにして下さい。見事前半戦も後半戦も王子様たちから逃げきる事が出来たら私からとっておきのご褒美を差し上げます」
「「とっておきのご褒美!?」」

二人同時に瞳を輝かせて詰め寄ると「楽しみにしててね」とシンディーはにっこりと笑った。

「とっておきのご褒美ってなんだろ~?と~っても美味しいお菓子かな~?」
「と~っても素敵なドレスやデコールかもしれないわ~」

『とっておきのご褒美』に二人は想像を膨らませて表情をこの上なく緩ませる。
ファインの頭の中ではケーキやクッキーなどのおやつが、レインの頭の中ではオシャレなドレスやデコールが思い浮かんでいた。

「とっておきのご褒美の為にも!」
「絶対にブライト様たちに見つからないようにしましょう!」
「「えいえいおー!」」

仲良く同時に拳を振り上げる二人にシンディーは心の中で「連れて来て良かった」と楽しそうに呟くのだった。
やがて馬車は城に到着し、三人は会場入りを果たした。
外見の大きな城はダンスホールも広く、沢山の招待客で賑わっていた。
それをファインとレインは楽しそうに眺める。

「いっぱい来てるね~」
「結構規模が多きいのね」
「さ、前半戦の開始よ。二人共、王子様に捕まらないようにね。捕まったらベールは効力を失って欺けたり近寄りにくくさせる事が出来なくなるから」
「「はーい!!」」
「それからタイムリミットは0時よ。捕まらない限りは好きな事してていいから。私はお料理食べてるわね」
「アタシも食べるー!」
「じゃあ私は近くで会場の中を眺めていようかしら」

結果的に固まっているが各々好きなように行動を始める。
勿論この会話も三人の行動も周りの人々の耳に入ってもいなければ目にも入っていない。
人知れず魔女とプリンセスによるゲームが開始されるのであった。






パーティーが始まる少し前のこと。
シェイドとブライトはアッドに連れられてミラード国に訪れていた。
ロイヤルワンダー学園の寮で暮らしているという事もあり、正装である王子服はなく、学生服しかなかった二人だったがアッドが『OBの治める国の舞踏会の見学』という名目で押し通した為、学生服での参加が許された。
それでも場違い感で強く、きっと悪目立ちするだろうと思っていた二人だったが、二人の溢れ出る王子オーラのお陰もあってか招待客の女性陣は歓迎ムードだった。
アッド共々囲んでくる女性の招待客に辟易しながらもシェイドが確認するよう尋ねる。

「この中にファインとレインがいるんだよな?」
「その筈だけど・・・」
「頑張って探してくれたまへ・・・ちなみに魔女さんは魔法が使えるからきっとキミたちの探してるプリンセスたちもドレスアップしてると思うんだ。何か分かり易い特徴があったりしないかい?」
「ファインは赤い髪をしてる。それから食べ物が何よりも好きだ」
「レインは綺麗な青い髪をしてるよ。それからお花とかオシャレなものが好きだよ」
「分かった。魔女さんの特徴はさっき見せた通りだからそれぞれらしい人を見かけたら知らせ合うようにしよう」
「分かった」
「お互い頑張ろう」
「じゃ、健闘を祈るよ」

そんな訳で三人の王子による魔女とふたごのプリンセス探しが始まるのであった。
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