ピースフルパーティーと虹の蜜 第三章~宝石の国~

ピースフル『スイーツ』パーティーの開催内容はプリンス・プリンセスが一丸となってスイーツを作り、振る舞うというもの。
スイーツと言えばブライトとアルテッサの宝石の国の兄妹。
アルテッサなんかは大張り切りをしており、ブライトと共に事前に作るスイーツの計画や段取りを組み、現在では現場総監督が如く厨房でテキパキと指示を出していた。
お菓子作りは大変だが賑わっており、皆が笑顔を浮かべている。
それはアルテッサもそうだった。
ふしぎ星を救う旅で様々な村や街に訪れたがその度にファインが寄り道をして美味しいお店のご飯からスイーツまで何でも食べていた。
その姿に呆れつつもお菓子作りの参考にとアルテッサもスイーツを買って食べた事で各国のスイーツ事情を学んで取り込み、自己流のアレンジや各国のプリンセスの提案を取り込んだバラエティー豊かなスイーツのレパートリーを生み出してそれが現在進行形で遺憾なく発揮されているのだ、楽しくない筈がない。
他のプリンセス達もアルテッサ考案のスイーツに斬新さやインスピレーションを与えられ、楽しそうに作っている。
残念ながらファインとレインはスイーツの腕前も壊滅的な為、味見と不味くなりようがない果物潰しやチョコレート刻みなど味付けを必要としない雑用担当だ。
ちなみにプーモはそんな二人の補佐である。
犠牲者を出さない名采配と言えよう。

「リオーネ、ファインとレインがイチゴを潰し終わったからここに置いておくわよ!足りなかったら言ってちょうだい!また二人に潰してもらうわ!」
「ええ、分かったわ!」
「アルテッサ、味見をしてくれないかしら?」
「・・・うん、バッチリよ!流石ね、ミルロ!」
「アルテッサ、次は私達の作ったジャムの味見してくれないかしら?」

ミルロの作ったクリームにアルテッサが満足そうに微笑むと手作りのジャムが入ったボウルをゴーチェル達タネタネプリンセスが運んでくる。
アルテッサはジャムの方も喜んで味見をす。

「アタシ達も~」
「味見を~」
「バブ~」
「あ・な・た・た・ち・は!サボってないで作業に戻りなさい!」
「「は~い・・・」」
「バブゥ・・・」
「後でストロベリーチョコソースを作ってそれの味見をさせてあげるから頑張りなさい」
「「はーい!!」」
「バブー!」

油断ならない上に分かり易いふたご姫とミルキーにアルテッサはわざと大きく溜息を吐く。
とはいえ、味見の約束をする辺りそれはアルテッサなりの優しさでもあった。
そんな妹と友人のやり取りを微笑ましく思いながらブライトは友人達を見やる。
プリンセス達ほど騒がしくないもののそれなりの賑わいはあり、お菓子作りもそつなくこなしていた。
ティオなんかは顔中餡子だらけにしながらもメラメラ名物ピリ辛あんまんを楽しそうに綺麗に作っている。
味の方が心配になるがリオーネがティオの作るあんまんは美味しいという保証があったので大丈夫だろう。

「ガビーン!」
「ああ、ありがとう、ナルロ」

オーブン見張り係のナルロがマドレーヌの焼き上がりを報せてくれてブライトは笑顔で礼を述べる。
姉のミルロの言いつけを守っているからか、それともミルキーもいてお菓子作りをしているからか、ナルロは悪戯をする事なく大人しくオーブン見張り係の使命を全うしている。
オーブンを開ければマドレーヌの甘い香りが鼻腔を見たし、様々なトッピングが施された見た目が視界を楽しませる。
マドレーヌの次はマフィンだ。
ブライトがマフィンを焼く準備をしていると背中からシェイド達の会話が耳に入った。

「シェイドってもしかしてお菓子作るの慣れてる?」
「ミルキーによくせがまれるからな」
「ミルキーも食いしん坊だもんなぁ」
「本を持って来てこれが食べたいって指定してくるんだ。しかもどれもこれも手の込んだ物ばかり」
「でも作るんだろう?」
「仕方なくな」
「シェイドは優しいな。僕なんか力仕事を手伝う以外はよく食べさせてもらってる側だよ」
「僕もそうですよ。ていうかそもそも僕が手伝う隙なんてないですが」
「このティオ、手伝いから失敗作を食べる後処理までやっておりますぞ!」
「あはは!失敗作も食べてあげてるんだ?」
「色んな意味で優しいな、お前は」
「むしろ立派ですね」

「も~ティオ!!」

遠くからリオーネが顔を赤くしながら怒る。
その様子に周りは微笑ましそうに笑い、ファインとレインもおかしそうに笑った。
ブライトも小さく笑いながらマフィンのセットを終えるとケーキのデコレーションをするべく作業台に戻った。

「ブライトもお菓子作るの得意だけどキッカケは?」

アウラーがブライトに話を振って来る。
ブライトはクリームを塗りながら少し考えると柔かに答えた。

「シェイドと似たようなものでアルテッサが僕の作るお菓子は世界一美味しいからってよくおねだりをしてきたんだ」

「も、もう!お兄様!恥ずかしい昔話はやめてくださるかしら!?」

今度はアルテッサが顔を赤くして怒ってくる。
妹の可愛らしい反応にまた周りが笑い、ブライトも笑う。
チラリとシェイドを見ると小さく笑っていた。
こういう話題が好きなのだろうかと探りつつブライトは話を続ける。

「飾り付けも豪華なものとか可愛いものがいいってねだられて気付いたら得意になってたって感じかな」
「プリンスブライトもお優しいのですね」
「ぼ、僕もアルテッサの為にお菓子作りが得意になれるように頑張るよ!ソフィー、今度特訓に付き合ってくれないか!?」

「ええ、いいですよ、お兄様。一緒にアルテッサのハートを鷲掴みにしましょう!」
「え?一緒?ソフィーも掴んできますの?」

「よければレシピとか教えようか?」
「ああ!頼むよブライト!」
「バブバブィ!バビ〜!」
「え?なんだい、プリンセスミルキー?」

突然星型の歩行器で横に浮遊してきたミルキーに内心驚きながらもブライトは首を傾げる。
しかし相変わらずミルキーの言葉を理解する事は適わなかった。

「バブバブバブ、バブ!」
「ええっと・・・?」
「ミルキー、イチゴだぞ」
「バブ〜!」

シェイドが固い声で大きなイチゴを摘んで見せるとミルキーは途端に目の色を変えてシェイドの側に寄った。
そしてシェイドは小皿にチョコレートソースを注ぐとその小皿とイチゴをミルキーに持たせた。

「落とさないようにな」
「バブ!」

ミルキーは元気よく頷くとイチゴの先端をチョコレートソースに浸し、それはそれは美味しそうに齧ってしゃくしゃくと食べ始めた。
方やシェイドは疲れたように溜息を吐き、やや不機嫌とも取れる表情でお菓子作りを再開する。
何か気に触るような事でも言ってしまっただろうかとブライトが内心不安に思っているとファインのポツリとした呟きが耳に届いた。

「あ、ミルキーが買収された」

「買収?どういう事だい、プリンセスファイン?」

ブライトが尋ねるとファインは飾り付け用のフルーツを乗せたバットを運んできて作業台に置くとブライトの方を見上げた。

「ミルキーはね、ブライトのお菓子のレシピをシェイドにも教えてって言ってたんだよ。で、シェイドは面倒な事になりそうだからチョコレートソース付きのイチゴで手を打たせたってわけ」
「ああ、なるほど」
「シェイドもケチケチしないで作ってあげればいいのに〜」
「毎日作ってくれってせがまれる俺の身にもなれ」
「プリンセスミルキーに教育係はいらっしゃないのですか?いるのでしたらお任せしたらどうでしょうか?」
「違うよソロ。ミルキーはシェイドが作ったお菓子がいいんだよ」
「なるほど!そういう事でしたか!これは失礼しました!」
「ファイン、スイカとパイナップルとメロンを十個ずつカット、それからチョコを十枚刻んで来い。今すぐ」
「ええっ!?」
「お前一人で」
「アタシ一人で!?」
「三十分以内に出来なかったらお前にだけ味見のお鉢は回ってこないと思え」
「そんな〜!!?」
「早く持ち場に戻ったらどうた?カウントはとっくに始まってるぞ」
「大変大変!!」

ファインは飛び上がると大慌てで持ち場に戻り、指定された材料を揃えて光速で包丁を動かし始めた。
その速度たるや達人も目を剥く程のもので流れるようにどんどん皿に積み上がっていく。
隣に立つレインは呆然とそれを眺め、プーモはやれやれと両手を肩の位置まで上げて首を横に振る。
照れ隠しとからかわれた仕返しの代償は大きかったようだ。
相変わらず容赦がないと思いつつもブライトはそこで少し迷った。
このまま自分もファインに続いてシェイドをからかうか、それとも何事もなかったかのように作業に戻るか。
ブライトとしては前者を選びたかったがどうしてもその一歩を踏み出せない。
変に踏み込み過ぎてシェイドに不愉快な思いをさせたくない。
かといって後者を選んでは何も進まない。
どうしたものか。

「何だ?」
「あ、ううん、何でもないよ」

慌てて笑顔で取り繕って作業に戻る。
シェイドから訝しむような視線を一瞬感じたがそれ以上は何もなかったので内心安堵の息を吐く。
結局後者の選択肢を選んだ自分が情けなかった。










それからしばらくしてお菓子作りがひと段落してきた頃。
出来上がったスイーツを会場に運ぶべく、アルテッサが銀のワゴンにスイーツを乗せた皿を置いていく。
沢山乗せられるように考えて乗せられたスイーツは多く、キラキラと輝いていてまるで宝石のようだ。

「レイン、悪いけどこのワゴンを会場に運んでくれないかしら?」
「分かったわ!」
「あ、ワゴンは僕が押して行くよ。ケーキもあって重いだろうからね。レインはこっちのクッキーを乗せたトレーを運んでくれないかい?」
「はい!喜んで!」

レインは目をハートにさせるとルンルンになりながらトレーを手に持ち、ブライトと共にキッチンを出て行った。

「調理お疲れ様、レイン。力仕事ばかりで大変じゃなかったかい?」
「いいえ!あのくらい全然平気です!ブライト様こそ色んなお菓子の飾り付けしてて大変じゃなかったですか?」
「僕も全然平気だよ。お菓子を作るのは楽しいからね」
「流石です、ブライト様!」
「それほどでもないよ。ところでレイン、これを置いて来たら少しだけ付き合ってもらってもいいかな?」
「え?いいですけど?」

レインが首を傾げてみるもブライトはそれ以上の事は何も話さなかった。
それから程なくして会場に到着し、レインとブライトは手分けしてスイーツを並べて行った。
手伝いを申し出て来たメイドにはブライトがテキパキと指示を出してスイーツを配置させ、レインは密かに見惚れるのだった。

「こちらへどうぞ、プリンセスレイン」

作業を終えたレインはブライトに案内されて彼の寝室・・・ではなく、専用キッチンに通された。

(そりゃ流石にブライト様のお部屋に案内されてあんな事やこんな事な展開にはならないわよね)

自分の妄想が呆気なく砕かれた事にレインはブライトに気付かれないように小さく溜息を吐く。
ファインやプーモがこの場にいたら当たり前だと言って呆れていただろう。
それはさておき、ブライトが案内した専用キッチンは以前訪れたアルテッサの専用キッチンとは構造や部屋の内装のデザインなどが全く異なる為、恐らくブライトの専用キッチンなのだろう。
壁やキッチンの作業台などはよく使い込まれているのか、綺麗でありながらもどこか年季が入っている。
レインは失礼だと分かりながらもキッチンを眺めるのをやめなかった。

「ここってもしかしてブライト様の専用キッチンですか?」
「そうだよ。小さい頃はアルテッサと一緒に使ってたんだけどその内にアルテッサが自分も専用のキッチンが欲しいって言って今の別の場所にあるアルテッサ専用のキッチンが出来たんだ」
「そうだったんですね」

その時の光景が目に浮かんでレインはクスッと小さく笑う。
アルテッサの可愛い一面をまた見た気がした。
レインがそうして一人小さく笑っている間にブライトは壁際に置かれた簡易テーブルとセットにして置かれている椅子を引いてレインに座るように促す。

「レイン、ここに座って」
「はい!」

簡易テーブルと椅子と言えど宝石の国仕様、デザインは良く、座り心地も中々のものだった。
ずっと厨房で立っていた事もあって丁度足が疲れていた所だ。
ほうっと一息吐いているとレインの前にコトリ、と上品で繊細な意匠のグラスが置かれる。
グラスには綺麗な台形のプリンとそれを飾る生クリームやフルーツがふんだんに添えられていた。
突然のスイーツの登場にレインは数度瞬き、ゆっくりと首を傾げる。

「ブライト様、これは・・・?」
「レインにだけ特別。みんなには秘密だからね?」

ぱちっとブライトが悪戯っぽくウィンクするとレインは「はうっ!?」とハートを打ち抜かれて卒倒しかける。
背もたれのない椅子だったら完璧にひっくり返っていただろう。
ダイヤの宝石が嵌め込まれたスプーンをレインの前に置いてブライトが少し不安そうに尋ねる。

「もしかしてプリンアラモードは嫌いだった?ファインにはレインはプリンが好きって聞いていたから作ったんだけど・・・」
「も、勿論大好きです!いただきます!!あ、でもどうしてファインから?」
「レインにはよく助けられているからそのお礼がしたくて聞いたんだ」
「お礼だなんてそんな・・・!」

レインは頬を抑えながら照れるがブライトにとっては真面目だった。
闇から解放された後、己の犯した過ちに押しつぶされそうになった時、レインは親身になって寄り添ってくれた。
それこそほぼ毎日ファインを伴って様子を見に来てくれる程に。
勿論妹のアルテッサや親友のアウラー、他のみんなの支えもあったからこそ立ち直って前を向けたがブライトにはレインによる支えが大きかった。
レインの口癖の『大丈夫大丈夫』。
この言葉が膝を付きそうになるブライトをいつでも支えてくれた。
そしてその言葉は立ち直った今でも心の支えとなっている。
不安になった時、挫けそうになった時、泣きそうになった時、密かに呟くのだ。
レインのおっとりとした優しい声を思い出しながら「大丈夫、大丈夫」と。
そのお礼がこんなプリンアラモード一つで済むとは思っていないがそれでも自分の作った物で幸せそうな顔をするレインを見たかった。
ちゃんと自分の手で大切な人を笑顔に出来るのだと確認したかった。
ズルい事に実は他にも作った理由があるのだが。

「それと相談に乗ってもらいたくて用意したってのもあるんだ」
「相談?相談って何ですか?」
「この間ファインにも相談したんだけどシェイドについてちょっとね」
「シェイドですか?」

聞き返しながらもレインは生クリームが乗るようにプリンをひと匙掬って口に運ぶ。
プリンは冷蔵庫で冷やされていた事もあり、とても冷たくてとろけるように甘かった。
生クリームなんかはプリンの邪魔をしない控え目な甘さでそれがプリンの美味しさ・甘さを引き立たせている。
ブライト専用のキッチンでブライトと二人きりでブライトが作ったプリンアラモードを食べる、なんて贅沢なシチュエーションだろう。
数多の幸せを内包しているプリンをゆっくりじっくり味わいながらレインはブライトに話の先を促すとブライトは反対側の席に座って話し始める。

「実は僕、シェイドとも仲良くしたいと思っているんだけどなんだか上手くいってる気がしなくて・・・」
「どういう風に上手くいってないんですか?」
「なんだろう、なんていうか本音で話し合えていないっていうか。彼との会話に少し躊躇いを持ってしまうんだ。こんな事言っていいのか、不愉快にさせないだろうかって」
「ブライト様は優しいですね。でもシェイドには遠慮なんかしなくていいんですよ。私もファインもアルテッサだって言いたい事は何でも言ってますし」
「それはキミ達がそういう関係を築けているからだよ。僕はまだ・・・壁があるように感じて・・・お互いに腹の内を見せられてないっていうか・・・今までが今までだった分、僕は彼とも分かり合いたいんだ」
「じゃあ、ブライト様はシェイドに腹の内を見せた事はあるんですか?」
「え?」

真っ直ぐで純粋な質問を投げかけられてブライトは俯かせていた顔を上げてレインを見返す。
レインはスプーンを持ったままエメラルドグリーンの瞳に純粋な疑問の色を宿してブライトを見つめていた。
その瞳と言葉を受けてブライトは少し考え、そして言葉を選ぶようにして答える。

「多分・・・ない、かな・・・会う回数はそんなに多くはないと思うし」
「だからこそ会った時に本音で話すべきよ。前にお母様が言っていたわ。自分の心を見せない人には誰も心を見せないって。心を見せないっていう事は相手を信用してないんだって」
「信用・・・」
「あと、自分が傷付くのが怖いから見せないんだって。でもブライト様に限ってそんな―――」
「ううん、あるよ」

レインの言葉を遮ってブライトは苦笑しながら緩やかに首を横に振る。
我ながら情けない返答と姿だが、信用しているレインだからこそ見せられるのだと思うと自己嫌悪感は薄れていった。

「僕は彼に痛い所ばかり突かれてたからきっとまた痛い所を突かれたくなくて心を見せるのを躊躇っていたんだ」
「ブライト様は悪くないわ!ずけずけ物を言うシェイドが悪いのよ!シェイドはもっと口を慎むべきだわ!」
「でもああいう存在も大切だよ。時には冷たくされたり突き放される事で自分を見直すキッカケにもなるし」
「そういうものですか?」
「そうだよ。痛い所を突かれるって事は要は言われた人にとっては図星で正論なんだ。とはいってもやっぱりレインの言う通りシェイドは言い方が少しキツイけどね」
「本当よ!オマケにデリカシーもないし!どうにかならないかしら!?」
「シェイドも色々あって今みたいなぶっきらぼうになったって感じだしこれは時間の問題だね。でも僕は頑張って彼と本音で話し合えるような仲になってみせるよ。僕の心を見せてね」
「ブライト様・・・」

ポツリと呟くレインのスプーンを持つ手を握ってブライトは真っ直ぐにレインを見つめて口を開く。

「また大切な事に気付かせてくれてありがとう、レイン。キミはいつだって僕に正しい道を示してくれるね。僕にとってはレインの存在も大切で貴重だよ」
「へ、あ、え・・・!?」

ルビーの瞳に真っ直ぐに見つめられ、心から紡がれる言葉にレインの顔は一気に沸騰する。
慌てるレインのエメラルドグリーンの瞳を見つめながらブライトはこれまでの事を思い返す。
言われてみれば自分は確かにシェイドの事を信用出来ていなかったのかもしれない。
シェイドに対する発言の不安はシェイドを信用していなかった心から来ていたのだろう。
それにエクリプスを名乗っていた頃からの彼には痛い所ばかりを遠慮なく突き刺されていた。
それが軽くトラウマになっていて苦笑を禁じ得ないがこれを乗り越えない事にはシェイドに心を見せて本音で語り合うなど不可能だろう。
こんな時こそレインやファインを見習って前向きに捉えるのが一番だ。
確かに痛い所を遠慮なく突き刺されたがそれはつまりブライトにとって未熟な部分であり、将来の為にも克服せねばならない弱い部分であったのだ。
大人になってこれでは国は愚か民を導く事すら適わないだろう。
そう考えるとシェイドは早くからブライトの至らぬ点を指摘してくれたのだと思うと悪い気はしなくなった。
やはりシェイドのような真正面から自分の欠点を指摘してくれる存在は貴重で、自分とアウラーの関係がそうであるようにブライトはシェイドとも腹を割って話せるような関係でありたいと心からそう思った。
自分の中で見つけられていなかったシェイドとの関係の答えに至ってブライトは笑みを浮かべ、心からもう一度レインに感謝の言葉を述べた。

「本当にありがとう、レイン」






続く
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