ピースフルパーティーと虹の蜜 第三章~宝石の国~

三回目のピースフルパーティーのテーマは『スイーツ』。
要はお菓子作りなのだが製作に時間がかかる為、早い時間からプリンセス・プリンス一同で作り始める為にファインの虹の蜜計画を行うには時間があまりなかった。
パーティーが終わった後にでも、と考えたが疲れてそれどころではなくなるだろうとなり、ならばシェイドの為に作るケーキの打ち合わせも兼ねてとファインとレインはパーティーの数日前に宝石の国に訪れていた。
ブライトは用事で留守にしている事もあって今日この日になった所もある。
さて、七色に光る宝石を求めてファイン達はアルテッサに連れられて宝石の国の王宮からそう遠くはない鉱山を訪れていた。
土や岩山から剥き出しになっている宝石の山の中に七色に光る巨石があり、その周りには七色に光る小さな宝石が沢山散らばっていた。
その七色の巨石や宝石に目を奪われながらレインがうっとりしたように呟く。

「凄く綺麗だわ、本当に七色に輝いてる・・・!」
「でも実際は宝石としては売られず、絵具として加工されていますのよ」
「そうなの?」
「七色の宝石はどれだけカットしたり研磨しても宝石として売り出す基準を満たす事の出来ない宝石なの。けれど絵具としてなら他の宝石にも引けを取らない綺麗な色を出せるから積極的にそっち方面に加工されてるわ」
「へ~そうなんだ!」
「この七色の宝石にもちゃんと使い道があって良かったわ!」
「とはいえ、まさか七色貝とかいう元は貝なのに植物として成長する珍妙で貴重な物を育てるのに必要だとは私も知りませんでしたわ」

アルテッサが苦笑交じりに溢すとファインとレインもつられて苦笑する。
一方でプーモは手頃な大きさの七色の宝石を見つけるとそれをファインの前に差し出した。

「ファイン様、これなんてどうでプモか?」
「あ、いいねそれ!ありがとうプーモ!」

ファインは植木鉢を置くと真っ白な芽に向けて七色の宝石を掲げておひさまの恵みを反射させた。
その様子を後ろから眺めながらアルテッサがやや不思議そうに呟く。

「まさかファインがあのプリンスシェイドをねぇ・・・」
「ビックリでしょう?」
「ええ。ファインとは全くの正反対な方ですし皮肉屋の憎まれ口ばっかり。好きになる人なんているのかしらなんて思ってたら・・・」
「ここにいたのよねぇ」
「い、いいじゃん別に・・・!」
「まぁ人の好みは人それぞれですし?別にいいですけど?それよりもどういう所が好きになったのかしら?」

アルテッサは好奇心に満ちた瞳を隠そうともせずニヤリと笑ってファインに詰め寄る。

「あ、私もそれ聞きたい!優しいからってだけじゃないわよね?」

アルテッサに続いてレインも瞳を輝かせてずいっとファインに詰め寄る。
二人の顔には『話すまで逃がしてやらない』と書いており、ファインは赤い顔でしばらく唸ってから観念したようにポツリポツリと語り始める。

「・・・アタシとしては優しいっていうのが一番なんだけど・・・」
「「うんうん?」」
「その・・・ほっとけないっていうのもあるかな」
「ほっとけない?」
「シェイドが?」
「うん。シェイドも結構無茶するしアタシ達に心配かけないように怪我を隠したりするし、あと一人で何でも抱え込んじゃうからさ」
「確かに月の国にいた悪い大臣の事、ふしぎ星の危機の事など全部お一人でなんとかしようとしていたでプモ」
「ふしぎ星の事はともかく悪い大臣の事は仕方ありませんわ。自国の家臣が謀反を企てているなんて大っぴらに出来ませんもの」
「それに私達も途中であの大臣は悪い人って分かって警戒したじゃない。その頃のシェイドはまだエクリプスを名乗ってて協力は出来なかったけど」
「それでも凄く大変だったと思うんだ。だって誰にも相談出来なかったんだよ?ムーンマリア様はお体が弱いからそんな事言えなかっただろうしミルキーは赤ん坊だから巻き込めないし」
「「「あ・・・」」」

言われてみればそうだ、と思い至ってレイン達は眉を下げる。
もしも同じような立場になった場合、アルテッサにはブライトや両親がいる。
レインにはファインやプーモ、両親やキャメロットにルルにオメンドなど相談出来る人が沢山いる。
けれどシェイドには病弱な母親と赤ん坊の妹というむしろ守らなければならない対象がおり、プリンスという立場上、他の家臣達を安心させる為にも城の暗い内部事情を軽はずみに口にする事は出来なかった筈だ。
しかも相手が大臣となると要らぬ混乱を招いて状況は更に複雑になり、下手をすれば大臣の目論見通りムーンマリアが失脚となっていた恐れもある。
それを思うとファインの言う通り、シェイドは大変苦しい状況にあっただろう。
本人はそれをおくびにも出さなかったが常に気の抜く暇もなかったのは想像に難くない。
そう考えるとあの冷たい態度もいくらか納得出来るものがあった。

「そういう一人で何でもしちゃうの、寂しいけど・・・プリンスとしてカッコよくて立派だなって。勿論、みんなとは仲良くなれたしこれからは遠慮なく相談して欲しいなって思うけど。みんな力になってくれるだろうし、アタシもドジばっかりで頼りないかもだけどそれでも力になれたらいいなって」

頬を赤らめながら愛しさと慈しみの籠った瞳で語るファインのその姿は間違いなく恋する乙女そのもので、普段の活発でお転婆な姿も相まってかなりのギャップがあった。
そんなファインの深い思い遣りを前にプーモは神妙な顔つきで言う。

「ファイン様のそのお気持ちだけでシェイド様は大分救われると思いますでプモ」
「気持ちだけじゃダメだよ。ちゃんと行動で示して力にならなきゃ!」
「そうやってまた無茶して怒られても知りませんわよ?」
「そうよ、ファイン。ファインが無茶して怪我をしたりしてもシェイドは笑顔にならないわよ?」
「わ、分かってるよ・・・」

しっかり釘を刺されてファインは苦笑いを浮かべる。
落ち込むレインの為に、そして孤独なブライトを心配して単独行動したファインを怒鳴ったシェイドの姿は今も尚、レイン達の中では強く鮮明に記憶の中に残っている。
普段は冷静沈着に振る舞うシェイドが声を荒げてファインの単独行動を激しく咎めたあの出来事はファイン以外の誰もが驚き、そして意外に思った。
あのシェイドがこんなにも感情的になるとは、と。
レイン達が思っていた以上にシェイドもかなり心配していたという事が窺える。
とはいえ、レインからしてみれば今でも『怒鳴るなんてあんまりだ』という反発心が強いが。

「でもまぁ、感情表現が下手なシェイドも悪いわよ。心配したなら心配したって素直にそう言えばいいのに」
「器用に見えてそういう所は不器用なのね、あの方も」
「これまでの言動を振り返ってみても色々誤解されやすいタイプでプモね」

(((絶対にファイン(様)は苦労するわ(でプモ))))

三人の思考がシンクロした瞬間だった。

「まぁまぁ、そういう不器用な所もシェイドらしくていいじゃない」
「甘いわよ、ファイン。そうやって甘やかすとつけあがって益々言葉足らずになるわよ」
「レインの言う通りですわ。時には厳しくしないと貴女が苦労しますのよ?」
「でもシェイドって口煩く言われるの好きじゃないと思うし・・・それにほら、そういうのは口で表すよりも態度で示す方がムードがあるんでしょ?だったらアタシが頑張って察してそういう雰囲気を楽しまなきゃ!」

(((これはシェイド(様)も苦労するわね(でプモ)・・・)))

これまで自身に関係する恋愛に無頓着だったファインがそんな恋愛上級者の振る舞いが出来るとはとても思えなかった。
プリンセス一同とナルロにシェイドに片想いしている事を打ち明けた時なんかは初心な反応を示していたファインが果たしてシェイドの態度を察してムードとやらを味わう事が出来るのだろうか。
恋愛経験値が少ないが故に必ずスレ違い、或いは中々距離が埋まらず周りがじれったいとヤキモキするような鈍足恋愛をする様が目に浮かぶ。
シェイドは不器用なだけでいつかはファインの恋心に気付くかもしれないが、もしも関係を発展させようと考えた時に色々な意味で難航するのは間違いないだろう。
何だか今からこのカップルに不安が募る三人だった。

「まわりまわっていっそお似合いに思えてきましたわ・・・」
「お、お似合いだなんてそんな~!まだ付き合うどころか告白もしてないんだよ?」
「ファイン、アルテッサは褒めてる訳じゃないのよ・・・」
「え?そーなの?」
「『まわりまわって』という言葉がどんな意味か考えるでプモ・・・プモ?ファイン様、七色貝の芽が・・・」
「え?」

プーモに言われてファインが七色貝の芽に視線を向けると、真っ白だった芽はみるみるうちに植物として健康的な緑色に変色していった。
その様子にファインとレインの顔はぱぁっと明るくなり、アルテッサは驚きに瞳を見開く。

「みてみて!緑色になったよ!」
「ええ、大成功ね!」
「驚きましたわ、七色の宝石でおひさまの恵みを反射してただけなのに色が変わるなんて・・・」
「ねぇアルテッサ、シェイドの為に作るケーキなんだけど何がいいかな?シェイドはあんまり甘いのが好きじゃないからチョコ系がいいかなって思ってるんだけど」
「うーん、確かにチョコはいいかもしれないけどちょっと無難過ぎじゃないかしら?当たり外れがないのは良い事だけどもう少し捻りが欲しい所ですわね」
「そっかぁ」
「フルーツとかで何か好きな物はないかしら?それだったら色々選択肢も広がるわ」
「フルーツかぁ・・・確かバナナが好きってミルキーから聞いたかな」
「バナナですわね・・・」

アルテッサは自分の頭の中のスイーツレシピの本を捲ってバナナを使ったスイーツを探す。
甘い物をあまり好まないとなれば甘さ控え目に出来るものがいいだろう。
見た目の派手さもシェイドは恐らく気にしない筈だ。
むしろシェイドという人間の性格を考えたら派手な見た目よりも素朴だったり落ち着いた物の方が似合うだろう。
スイーツも一種のデコールと捉えているアルテッサはシェイドに見合うスイーツという名のデコールを探した。
ペラペラと捲られていた膨大な量のページは情報による絞り込みをすれば探すのも楽になるというもの。
その中で条件に見合ったスイーツを見つけて閃いたようにアルテッサは人差し指を立てた。

「そうだわ!バナナパウンドケーキなんてどうかしら?」
「バナナパウンドケーキ?」
「その名の通りバナナを混ぜたパウンドケーキでメープルシロップを混ぜて作る事もあるけどそれの代わりに虹の蜜を混ぜるのよ。甘さも控え目に出来るしどうかしら?」
「パウンドケーキも美味しいもんね~!いいかも~!」
「完璧に自分の基準で決めてるでプモ・・・」
「でもパウンドケーキならちょっとした読書のお供や休憩がてらのお茶をする時なんかに合いそうよね」
「そういうシチュエーションを考えるのも大切ですわね。誕生日当日はパーティーでゆっくり食べている暇はないかもしれないですし、日持ちするスイーツの方が良いと思うわ」
「あー、そっかぁ」

まだまだ先とはいえ、ファインのざっくりとした計画では誕生日当日にケーキを渡そうと計画していた。
しかしアルテッサの言う通り、一国の王子の誕生日となれば国を挙げての盛大なパーティーが行われるだろう。
そうなったら挨拶やら何やらでシェイドも受け取りはすれど食べる暇などないだろうし、日持ちが短いスイーツだと味が落ちてしまう上に急いで食べる事になってしまう。
折角想いを込めて作るのだからシェイドにはゆっくりじっくり味わって食べてもらいたいところ。
となればレインの言う通り、日持ちして読者や公務の合間に食べれるパウンドケーキが相応しいだろう。

(シェイドが読書しながら食べる・・・)

月の国の自室で、或いは植物園で本を読みながらフォークでパウンドケーキを一口サイズに切り分けて食べるシェイド。
飲み物はきっとブラックコーヒーだろう。
もしくは紅茶かもしれない。
本に注がれる綺麗な切れ長の目は横で見ているだけでも一日中飽きないだろう。
それらを想像してファインは自身の顔が熱くなるのを感じた。

「あ、ファインの顔が赤くなってる!!」
「ええっ!?いや、あの、これは・・・!」
「あらあら、何を想像してたのかしら?」
「べべべべ別に変な想像なんてしてないよ!!普通にカッコいいなって思ってただけで!」
「まぁ!カッコいいですって、レイン!」
「パウンドケーキ食べながら読書するシェイドが?それとも普段のシェイドが?」
「もう勘弁してよ~!!」

涙目で降伏宣言するファインにレイン達は声を揃えて笑った。
まさかファインの恋愛でこんな風に盛り上がる日がこようとは誰が想像出来ただろう。
だからこそファイン立案のサプライズプレゼント計画を成功させてあげようとアルテッサもその気持ちを強くした。

「こうなれば特訓ですわよ!レシピを書いてあげるからちゃんと自分のお城でも作る練習をするのよ?」
「うん!ありがとう、アルテッサ!本番も付き合ってくれるよね?」
「ええ、勿論ですわ。ファインはそそっかしいですから緊張して砂糖と塩を間違えたりオーブンを爆発させたりと失敗が目に浮かぶわ」
「うっ、否定出来ない・・・」
「それに貴重な虹の蜜を使うんですもの、絶対に失敗は許されませんわよ」
「そ、そうだね!一回きりのチャンスだもんね!」
「でもスイーツの天才のアルテッサがいれば大丈夫大丈夫!」
「当然ですわ!」
「とても心強いでプモ!」
「よーし、頑張るぞー!」
「「「「おー!!!!」」」」

四人は拳を空に向かって突き上げて決意を固めるのだった。







続く
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