ピースフルパーティーと虹の蜜 第二章~メラメラの国~
植木鉢をめぐみの炎に最も近い所に設置して戻って来たプリンセス一同はパーティーに臨んでいた。
パーティー会場のメラメライオン像のステージの上には王妃のニーナと王であるウォルがおり、ウォルが一歩前に出てパーティーの開催を宣言する。
「それではこれよりピースフル『デコール』パーティーを開催するぞ!開催するぞ!!開催するぞー!!!」
宣言と同時にメラメライオン像の炎がより一層大きく燃え上がる。
圧と勢いの強さは相変わらずのようで何よりである。
さて、そんなウォルに代わってニーナがパーティーの説明をした。
「会場には各国のプリンス・プリンセス達が持ち寄ったデコールが飾られています。ケースでカバーしておりますがお手を触れぬようお願い致します」
七つのテーブルの上に飾られたそれぞれが持ち寄った自慢のデコールはガラスのケースで覆われていた。
これは主に人為的なものによる盗難の防止とメラメラ鳥という野生動物による盗難の防止を図ったものだ。
かつてのプリンセスパーティーでアルテッサの宝石が消えた騒動の犯人はメラメラ鳥で、同じ轍を踏まぬようにという教訓から来た対策である。
「また、本パーティーではプリンス・プリンセス一同がそれぞれでデコールの素材を持ち寄り、この場で制作を致します。どうぞ温かく見守って下さい」
プリンス・プリンセス一同によるデコールの制作は少し離れたテーブルで執り行われる。
作業台たる小さなテーブルには白いテーブルクロスが敷かれており、その上にはファインとレインのデコールメーカーが置かれていた。
更に机の手前には皆で持ち寄ったデコールの素材である木の実や葉っぱなどが箱一杯に詰め込まれていた。
そして作ったデコールは飾られる予定で、作業台の近くには同じく白のテーブルクロスを敷いた長テーブルが設置されていた。
デコールメーカーの前に立つファインとレインにリオーネが制作を促す。
「ファイン、レイン、最初は貴女達からよ」
「うん!レイン、先にいいよ」
「ありがとう。それじゃあ始めるわね」
レインは木の実を掌に掬うとメーカーにセットし、ゆっくりとハンドルを回し始めた。
真心を込めて、想いを込めて。
ふしぎ星を、そしてそこに生きる友人を想って。
メーカーの中で木の実が銀色の光に包まれて坂を転がり落ちて良き、やがてはその姿を美しいデコールへと変えていく。
茶色や緑だった木の実や葉っぱに色が着き、輝きと煌めきを孕む。
そうしてものの数秒で出来上がった赤を基調としたデコールのネックレスを布で綺麗に磨くとそれを掲げてレインは言った。
「完成!私とファインが一番最初に友達になったリオーネの住むメラメラの国を想って作りました!」
おひさまの恵みをキラリと反射するレインの製作したデコールは見事な輝きを放っており、ファインと揃って普段がダメダメな分、参加者の関心を集めた。
それとは別に自分達を想ってデコールを作ってくれた事にリオーネは感激して瞳を潤ませた。
「ありがとうレイン!とっても嬉しいわ!」
「これからも宜しくね、リオーネ!」
「ええ!」
「じゃ、次はアタシが作るね!」
レインに場所を譲ってもらい、ファインも同じように木の実を掬って素材を補充する。
そうしてハンドルを握ってゆっくりと回し始めた。
愛情を込めて、祈りを込めて。
ふしぎ星を、この星を共に守った友人を想って。
ファインの作ったデコールは夜の色をした青を基調としたネックレスとなり、布で磨くと星のようにキラリと美しく光を反射した。
「出来上がり!いつも良くしてくれる月の国を想って作りました!」
ファインの作ったデコールもレインと同じように良く出来ており、こちらにも参加者達は感嘆の声を漏らした。
これにはミルキーが満面の笑みでファインの作ったデコールに感激する。
「バブバブ~!」
「ううん、こっちこそいつもありがとう、ミルキー。これからも宜しくね!」
「バブ!」
これを皮切りに続々とプリンセス達がデコールの製作を始めた。
リオーネとミルキーはファインとレインの住むおひさまの国を想って。
「レイン、ファイン、貴女達と友達になれてとっても嬉しいわ!ずっと友達でいましょうね!」
「バブー!」
「「うん!」」
アルテッサとソフィーはお互いの国を想って。
「まさかアルテッサとこんなに急接近するなんて思わなかったわ!これからも末永く宜しくね、アルテッサ!」
「色々引っ掛かる言葉がありますけれど・・・こちらこそ宜しくお願いするわ」
ミルロとタネタネプリンセスはお互いの国を想って。
「この間はお茶会に誘ってくれてありがとう、ミルロ」
「とても楽しかったわ!」
「いいえ、こちらこそとても楽しかったわ。また今度、一緒にお茶をしましょう」
プリンセス達の紡ぐ想いはデコールという尊い輝きを放つアクセサリーとなり、展示台の上を彩って見る者の心を躍らせ、明るいものにしていく。
そうしたプリンセス達によるデコール制作と展示は大反響を呼び、ファインとレインの提案は大成功を収めたと言えた。
これにはプーモもとても喜んでおり、密かにプリンセスグレイスにファインとレインは立派なプリンセスになったと心の中で報告したとか。
さて、プリンセス一同が一通り制作を終えた所で今度はプリンス一同が制作する番となった。
記念すべきトップバッターはティオだ。
ティオの作ったデコールは黄色を基調としたブレスレットだった。
「このティオ、師匠をイメージして作りました!師匠は私にとって永遠の師匠です!!」
「分かったから大声で師匠って言うな・・・」
ずずいっとデコールを差し出しながら曇りなき眼で師匠と連呼してくるティオにシェイドは呆れ半分、照れ臭さ半分で片手で顔を覆う。
周りの生温かい視線が痛かったのでそれを振り切るようにシェイドはやや強引にデコールメーカーの前に立った。
素材を補充して丁寧にハンドルを回す。
空回りしてばかりだがプリンスとしての誇りを持ち、誰よりもメラメラの国を想っているティオを考えながら。
そうして出来上がったブレスレットはオレンジを基調としたクールなデザインの物となった。
「ホラ、いつもめげずに頑張っていたお前をイメージして作ったブレスレットだ」
「こ、これは・・・師匠〜!!」
差し出されたブレスレットにティオは瞳に涙を溜め、感動からシェイドに体当たりするようにして抱きついた。
予想は出来ていたが避けるのも悪いのでシェイドは仕方なくもう好きにさせてやる事にした。
「シェイドったら優しいわね」
「しかも照れてる~」
「うるさいぞ、そこのお転婆姫」
ニヤニヤ笑いながらヒソヒソと話すふたご姫に釘を刺す。
流石にそろそろ恥ずかしいのでティオを引き剥がすとデコールメーカーの方から「プリンスシェイド」と自分の名を呼ぶ声を拾った。
誰だろうと思って視線を向けるとタネタネの国プリンスソロがシェイドを見上げていた。
「ソロか。どうした?」
「失礼ですが素材を補充していただけないでしょうか?」
「ああ、いいぞ」
箱から素材を掬って補充してやるとソロは「ありがとうございます」と丁寧にお辞儀をしてハンドルを掴み、ジャンプしながらそれを回し始めた。
その様子を眺めながらシェイドはちょっとした好奇心から誰に作るのか尋ねてみた。
「誰を考えながら作るんだ?」
「プリンセスアルテッサです」
「ええっ!!?」
ソロの返答に驚いたのはシェイドでもアルテッサ本人でもなくアウラーだった。
突然の大きな声にビックリしたソロは作業を中断すると後ろを振り返る。
するとそこには今にも泣き出しそうなアウラーの姿があった。
「ぷ、プリンスアウラー・・・?」
「もしかして・・・ソロもアルテッサの事が・・・!?」
「あ、いえ、以前姉上を助けていただいたのでそのお礼です・・・」
「本当!?良かった〜!」
心底ホッとしたと言わんばかりに息を吐くアウラーにソロも他も苦笑いを浮かべる。
ソロは作業を終えてデコールを磨くとそれをアルテッサの前に運んだ。
「あの時は姉上をお助けいただきありがとうございます、プリンセスアルテッサ!」
「当然の事をしたまでですわ。だからお礼なんていいのに。でもありがとう、プリンスソロ」
ニコリと微笑むアルテッサの表情は柔らかく、以前までの高飛車で意地悪な気配はどこにもなかった。
そんなアルテッサの横顔を見て成長したのだと感じ取ったブライトは兄として心からそれを喜んだ。
少し前までは自分にベッタリで意地とプライドから周りと対立しがちだったアルテッサが今では周りの皆と仲良く出来ている。
オマケにアウラーと恋仲と来たものだ。
少し寂しさはあるもののそれでもブライトにはアルテッサがまた一歩立派なプリンセスに近付いた事を祝福する気持ちの方が勝った。
それに弱かった自分が闇に堕ちたばかりにアルテッサには幾度となく辛い思いをさせてきたが、それをファインとレインを始め、各国のプリンス・プリンセス達が支えてくれたのだと思うとむしろこちらがソロやみんなに感謝したいくらいだった。
けれど一度に一気に感謝の意を表すのは難しい上に上手く伝わらないだろう。
だからまずは確実に一歩一歩出来る事から。
「次は僕が作るね」
デコールメーカーの前に立ってハンドルを握る。
本当だったらこれを使わせてもらう資格なんてない筈だ。
けれど。
「わ、わた、私!ブライト様の次にデコールを・・・!」
「レイン様、今はプリンスの皆様が制作する番でプモ」
「だから我慢だよ、レイン」
チラリと見やったおひさまの国の青いお姫様は変わらぬ憧れの瞳で熱視線を送ってくれていた。
過ちを犯した自分を叱りつけたりと色々幻滅する事が沢山あった筈だ。
それなのにレインは最後までブライトを見捨てず手を伸ばしていてくれた。
きっとあの手がなかったら自分はまた闇に取り込まれ、永遠に日の光を見る事はなかっただろう。
何か気持ちのこもったお礼をしたいがデコールの腕では敵わないだろう。
だから自分の別の得意分野でそのお礼をしようと決め、ブライトは現在進行形で作っているデコールを親友の為に作る事にした。
「出来た。アウラーをイメージして作ってみたんだけどどうかな?」
「凄く良く出来てるよ、ブライト!ありがとう!」
「お礼なんていいさ。それよりアルテッサの事をこれからも宜しく頼むよ」
深い意味を込めてウィンクをしてみせればアウラーは「ブライト・・・!」と感動に身を震わせる。
そしてウィンクの意味を汲み取ったのか、力強く頷いてデコールメーカーで真っ直ぐな想いを込めてデコールを作り始めた。
出て来るデコールの色は誰がどうみてもアルテッサをイメージしたもので、これからアルテッサが赤面するのが容易に目に浮かんだ。
妹と親友に同時に春が訪れたようで何よりだ、と思いながらふと視線を泳がせていると最近出来た友人が視界に入った。
「やぁ、シェイド」
無表情、或いは仏頂面。
シェイドは割といつもそんな顔だ。
ふしぎ星が救われる前の冷たいような張り詰めたような雰囲気はなくなり、幾分か表情は柔らかくなったものの彼が常時そんな表情なのはきっとそれが彼のデフォルトなのだろう。
それはいい。
しかし若干の距離感があるのをブライトは感じずにはいられなかった。
「何だ」
「折角だから軽食でも楽しみながらお喋りでもしないかい?」
「あったらな」
シェイドは呆れたように息を吐くとテーブルの方に視線を向けた。
それをブライトも追うとその先ではファインとミルキーが次々と料理の皿を空にしていた。
「美味しい~!このピリ辛が堪らないね!」
「バブバ~!」
「ミルキー、次はあっちのお料理食べよう!」
「バブ!」
受け皿とフォークを持って次なるテーブルへ移動する二人の食いしん坊プリンセスを見てもブライトは爽やかにポジティブなコメントをする。
「相変わらず食欲旺盛で元気だね、二人は」
「次のパーティーで摘まみ食いしないかよく見張っておかないとな」
「味見くらいはいいんじゃないかい?」
「そうやって甘やかして全部食べられても知らないからな」
そこで会話は途切れ、微妙な沈黙が走る。
この後どんな会話を繋げていいかブライトには分からなかった。
おひさまの恵みを巡る騒動より以前にシェイドと接触をした事は殆ど無く、騒動の最中はほぼ敵対していた為に良好な関係は築けず、全てが終わってからは漸く友人としてまともな関係を築く事が出来るようになった。
シェイドの皮肉に軽口を返すくらいの会話は出来るものの、それ以上の込み入ったような会話は出来ていない。
これまでの関係が良くなかった分、シェイドとも仲良くなりたいと考えているブライトはしかしどうすれば良いか分からないでいた。
シェイドがどういう会話を好むのか、どうしたらもっと深く分かり合えるのか。
しかしどれだけ考えても答えは出てこない。
そうこうしている内にシェイドの方は会話の終了を悟ったのか、何も言わず静かにファインとミルキーのいる方へと歩き出してしまった。
「ファイン、ミルキー、口の端にケチャップが付いてるぞ」
「ホント!?」
「バブッ!?」
ファインとミルキーは驚くと慌てて紙ナプキンで口の周りを拭いた。
しかしミルキーの方は上手に出来なかったようで取りこぼしがあり、それをシェイドが代わりに優しく拭ってあげた。
そんな二人の面倒を見るシェイドの表情は妹を想う兄のそれで言葉とは裏腹にとても柔らかいものである。
その後の行動を見守っているとミルキーがナルロに呼ばれ、ナルロお手製のデコールをプレゼントされて頬を赤らめていた。
それについてファインがシェイドに何やら話しかけるとシェイドは穏やかに微笑んで頷き、何か言葉を返してファインと会話を続けていた。
先程のブライトとの言葉のキャッチボールとは大違いだ。
(嫌われてはいないんだろうけど・・・シェイドは難しいなぁ)
「ブライト様、ブライト様」
ブライトがシェイドとの微妙な距離感に困っているとニコニコと笑みを浮かべるソフィーが名前を呼んで来た。
「ソフィー?どうしたんだい?」
「実は―――・・・」
ヒソヒソと耳元である事を囁かれ、数度頷いてブライトは顔を輝かせた。
「それは良い案だね!」
「アルテッサの提案なんですのよ!」
「へぇ、アルテッサが?」
「ソフィー!恥ずかしいからあまり言いふらさないでちょうだい!!」
アルテッサが顔を真っ赤にして抗議するがソフィーもブライトもクスクスと笑ってそれを流した。
それからソフィーはシェイドとミルキーを呼びに行き、ついて来ようとするファインを制してレインとその場に残るようにと言って戻って来た。
そしてアルテッサの隣に並んで嬉しそうにしながら話しかける。
「さぁアルテッサ、言い出しっぺの貴女が音頭を取って!」
「もうちょっと言い方どうにかなりませんの・・・まぁいいわ。さぁみんな、順番ずつ並んで!最初はレインで次はファインよ!」
アルテッサが号令をかけると皆は同時に頷き、順番にデコールの前に並んだ。
一番最初にアルテッサがデコールメーカーのハンドルを三回回し、その次にブライトが同じように三回回していく。
この工程を全員が行っていった。
皆が何をしようとしているのか分からずファインとレインは同じ方向に首を傾げる。
「みんな何してるんだろう?」
「さぁ?」
「とりあえず出来上がるのを待ってみるでプモ」
プーモも皆が何をするかは知らされておらず、静かにプリンセス・プリンス達の行動を見守った。
列の一番最後であるミルロがハンドルを三回回し終えるとデコールは出来上がったものの、それを隠すようにリオーネがすぐさま白い布で隠して磨く。
するとまた列が出来て同じようにアルテッサからハンドルを三回回した。
相変わらず何をしようとしているのか分からないが、それでもその工程を経る皆の表情はとても優しく穏やかで愛に満ち溢れていた。
見ているこちらの胸が満たされるようなそんな雰囲気だった。
最後にまたミルロの順番が回ってきてハンドルを回し終えると今度はアルテッサがデコールを回収して綺麗に布で磨いていく。
「準備は出来た?アルテッサ」
「ええ、勿論よ」
「それじゃあ」
リオーネとアルテッサは笑って頷き合うと両手で包み込むようにしてデコールを持ち、ファインとレインの前に進み出た。
「レイン」
「ファイン」
「「ふしぎ星を救ってくれてありがとう!!」」
『ありがとう!』
皆が声を揃えて言い終わるのと同時にリオーネは青のブローチを、アルテッサは赤のブレスレットを二人に差し出した。
「「え・・・?」」
思ってもみなかったサプライズに二人は固まり、呆然と言葉を失う。
作戦の成功を悟ったアルテッサとリオーネは悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべると二人をそのままに続けた。
「どんな時でも二人は笑顔を忘れずに最後まで諦めなかった。そのお陰で私達は今もこうして笑顔でいられている」
「改めて感謝の言葉を申し上げますわ。本当にありがとう。これは私達からの感謝の印よ」
「受け取って」とリオーネとアルテッサが差し出すブレスレットをファインとレインは尚も呆然としながら静かにそれを受け取る。
レインの青のブレスレットとファインの赤のブレスレットはちゃんと統一感のある色合いをしていながらもそのビーズの一粒一粒には皆の想いという名のそれぞれ違った色があり、二人にはそれが手に取るように伝わった。
デコールのブレスレットは軽い筈なのにとても重い。
けれどその分だけ温かい気持ちが伝わってくる。
皆の想いに思わず涙が零れそうになるが今この場面で相応しいのは涙ではない。
ファインとレインは顔を見合わせてぐっと涙を堪えるととびきりの笑顔を見せた。
「「みんな!ありがとう!!」」
途端に会場中に拍手の嵐が巻き起こる。
プリンス・プリンセス達の友情に誰もが感動しており、プーモも感動の涙を流しながら何度も頷いていた。
こうしてピースフル『デコール』パーティーは温かい友情に包まれて幕を閉じるのだった。
続く
パーティー会場のメラメライオン像のステージの上には王妃のニーナと王であるウォルがおり、ウォルが一歩前に出てパーティーの開催を宣言する。
「それではこれよりピースフル『デコール』パーティーを開催するぞ!開催するぞ!!開催するぞー!!!」
宣言と同時にメラメライオン像の炎がより一層大きく燃え上がる。
圧と勢いの強さは相変わらずのようで何よりである。
さて、そんなウォルに代わってニーナがパーティーの説明をした。
「会場には各国のプリンス・プリンセス達が持ち寄ったデコールが飾られています。ケースでカバーしておりますがお手を触れぬようお願い致します」
七つのテーブルの上に飾られたそれぞれが持ち寄った自慢のデコールはガラスのケースで覆われていた。
これは主に人為的なものによる盗難の防止とメラメラ鳥という野生動物による盗難の防止を図ったものだ。
かつてのプリンセスパーティーでアルテッサの宝石が消えた騒動の犯人はメラメラ鳥で、同じ轍を踏まぬようにという教訓から来た対策である。
「また、本パーティーではプリンス・プリンセス一同がそれぞれでデコールの素材を持ち寄り、この場で制作を致します。どうぞ温かく見守って下さい」
プリンス・プリンセス一同によるデコールの制作は少し離れたテーブルで執り行われる。
作業台たる小さなテーブルには白いテーブルクロスが敷かれており、その上にはファインとレインのデコールメーカーが置かれていた。
更に机の手前には皆で持ち寄ったデコールの素材である木の実や葉っぱなどが箱一杯に詰め込まれていた。
そして作ったデコールは飾られる予定で、作業台の近くには同じく白のテーブルクロスを敷いた長テーブルが設置されていた。
デコールメーカーの前に立つファインとレインにリオーネが制作を促す。
「ファイン、レイン、最初は貴女達からよ」
「うん!レイン、先にいいよ」
「ありがとう。それじゃあ始めるわね」
レインは木の実を掌に掬うとメーカーにセットし、ゆっくりとハンドルを回し始めた。
真心を込めて、想いを込めて。
ふしぎ星を、そしてそこに生きる友人を想って。
メーカーの中で木の実が銀色の光に包まれて坂を転がり落ちて良き、やがてはその姿を美しいデコールへと変えていく。
茶色や緑だった木の実や葉っぱに色が着き、輝きと煌めきを孕む。
そうしてものの数秒で出来上がった赤を基調としたデコールのネックレスを布で綺麗に磨くとそれを掲げてレインは言った。
「完成!私とファインが一番最初に友達になったリオーネの住むメラメラの国を想って作りました!」
おひさまの恵みをキラリと反射するレインの製作したデコールは見事な輝きを放っており、ファインと揃って普段がダメダメな分、参加者の関心を集めた。
それとは別に自分達を想ってデコールを作ってくれた事にリオーネは感激して瞳を潤ませた。
「ありがとうレイン!とっても嬉しいわ!」
「これからも宜しくね、リオーネ!」
「ええ!」
「じゃ、次はアタシが作るね!」
レインに場所を譲ってもらい、ファインも同じように木の実を掬って素材を補充する。
そうしてハンドルを握ってゆっくりと回し始めた。
愛情を込めて、祈りを込めて。
ふしぎ星を、この星を共に守った友人を想って。
ファインの作ったデコールは夜の色をした青を基調としたネックレスとなり、布で磨くと星のようにキラリと美しく光を反射した。
「出来上がり!いつも良くしてくれる月の国を想って作りました!」
ファインの作ったデコールもレインと同じように良く出来ており、こちらにも参加者達は感嘆の声を漏らした。
これにはミルキーが満面の笑みでファインの作ったデコールに感激する。
「バブバブ~!」
「ううん、こっちこそいつもありがとう、ミルキー。これからも宜しくね!」
「バブ!」
これを皮切りに続々とプリンセス達がデコールの製作を始めた。
リオーネとミルキーはファインとレインの住むおひさまの国を想って。
「レイン、ファイン、貴女達と友達になれてとっても嬉しいわ!ずっと友達でいましょうね!」
「バブー!」
「「うん!」」
アルテッサとソフィーはお互いの国を想って。
「まさかアルテッサとこんなに急接近するなんて思わなかったわ!これからも末永く宜しくね、アルテッサ!」
「色々引っ掛かる言葉がありますけれど・・・こちらこそ宜しくお願いするわ」
ミルロとタネタネプリンセスはお互いの国を想って。
「この間はお茶会に誘ってくれてありがとう、ミルロ」
「とても楽しかったわ!」
「いいえ、こちらこそとても楽しかったわ。また今度、一緒にお茶をしましょう」
プリンセス達の紡ぐ想いはデコールという尊い輝きを放つアクセサリーとなり、展示台の上を彩って見る者の心を躍らせ、明るいものにしていく。
そうしたプリンセス達によるデコール制作と展示は大反響を呼び、ファインとレインの提案は大成功を収めたと言えた。
これにはプーモもとても喜んでおり、密かにプリンセスグレイスにファインとレインは立派なプリンセスになったと心の中で報告したとか。
さて、プリンセス一同が一通り制作を終えた所で今度はプリンス一同が制作する番となった。
記念すべきトップバッターはティオだ。
ティオの作ったデコールは黄色を基調としたブレスレットだった。
「このティオ、師匠をイメージして作りました!師匠は私にとって永遠の師匠です!!」
「分かったから大声で師匠って言うな・・・」
ずずいっとデコールを差し出しながら曇りなき眼で師匠と連呼してくるティオにシェイドは呆れ半分、照れ臭さ半分で片手で顔を覆う。
周りの生温かい視線が痛かったのでそれを振り切るようにシェイドはやや強引にデコールメーカーの前に立った。
素材を補充して丁寧にハンドルを回す。
空回りしてばかりだがプリンスとしての誇りを持ち、誰よりもメラメラの国を想っているティオを考えながら。
そうして出来上がったブレスレットはオレンジを基調としたクールなデザインの物となった。
「ホラ、いつもめげずに頑張っていたお前をイメージして作ったブレスレットだ」
「こ、これは・・・師匠〜!!」
差し出されたブレスレットにティオは瞳に涙を溜め、感動からシェイドに体当たりするようにして抱きついた。
予想は出来ていたが避けるのも悪いのでシェイドは仕方なくもう好きにさせてやる事にした。
「シェイドったら優しいわね」
「しかも照れてる~」
「うるさいぞ、そこのお転婆姫」
ニヤニヤ笑いながらヒソヒソと話すふたご姫に釘を刺す。
流石にそろそろ恥ずかしいのでティオを引き剥がすとデコールメーカーの方から「プリンスシェイド」と自分の名を呼ぶ声を拾った。
誰だろうと思って視線を向けるとタネタネの国プリンスソロがシェイドを見上げていた。
「ソロか。どうした?」
「失礼ですが素材を補充していただけないでしょうか?」
「ああ、いいぞ」
箱から素材を掬って補充してやるとソロは「ありがとうございます」と丁寧にお辞儀をしてハンドルを掴み、ジャンプしながらそれを回し始めた。
その様子を眺めながらシェイドはちょっとした好奇心から誰に作るのか尋ねてみた。
「誰を考えながら作るんだ?」
「プリンセスアルテッサです」
「ええっ!!?」
ソロの返答に驚いたのはシェイドでもアルテッサ本人でもなくアウラーだった。
突然の大きな声にビックリしたソロは作業を中断すると後ろを振り返る。
するとそこには今にも泣き出しそうなアウラーの姿があった。
「ぷ、プリンスアウラー・・・?」
「もしかして・・・ソロもアルテッサの事が・・・!?」
「あ、いえ、以前姉上を助けていただいたのでそのお礼です・・・」
「本当!?良かった〜!」
心底ホッとしたと言わんばかりに息を吐くアウラーにソロも他も苦笑いを浮かべる。
ソロは作業を終えてデコールを磨くとそれをアルテッサの前に運んだ。
「あの時は姉上をお助けいただきありがとうございます、プリンセスアルテッサ!」
「当然の事をしたまでですわ。だからお礼なんていいのに。でもありがとう、プリンスソロ」
ニコリと微笑むアルテッサの表情は柔らかく、以前までの高飛車で意地悪な気配はどこにもなかった。
そんなアルテッサの横顔を見て成長したのだと感じ取ったブライトは兄として心からそれを喜んだ。
少し前までは自分にベッタリで意地とプライドから周りと対立しがちだったアルテッサが今では周りの皆と仲良く出来ている。
オマケにアウラーと恋仲と来たものだ。
少し寂しさはあるもののそれでもブライトにはアルテッサがまた一歩立派なプリンセスに近付いた事を祝福する気持ちの方が勝った。
それに弱かった自分が闇に堕ちたばかりにアルテッサには幾度となく辛い思いをさせてきたが、それをファインとレインを始め、各国のプリンス・プリンセス達が支えてくれたのだと思うとむしろこちらがソロやみんなに感謝したいくらいだった。
けれど一度に一気に感謝の意を表すのは難しい上に上手く伝わらないだろう。
だからまずは確実に一歩一歩出来る事から。
「次は僕が作るね」
デコールメーカーの前に立ってハンドルを握る。
本当だったらこれを使わせてもらう資格なんてない筈だ。
けれど。
「わ、わた、私!ブライト様の次にデコールを・・・!」
「レイン様、今はプリンスの皆様が制作する番でプモ」
「だから我慢だよ、レイン」
チラリと見やったおひさまの国の青いお姫様は変わらぬ憧れの瞳で熱視線を送ってくれていた。
過ちを犯した自分を叱りつけたりと色々幻滅する事が沢山あった筈だ。
それなのにレインは最後までブライトを見捨てず手を伸ばしていてくれた。
きっとあの手がなかったら自分はまた闇に取り込まれ、永遠に日の光を見る事はなかっただろう。
何か気持ちのこもったお礼をしたいがデコールの腕では敵わないだろう。
だから自分の別の得意分野でそのお礼をしようと決め、ブライトは現在進行形で作っているデコールを親友の為に作る事にした。
「出来た。アウラーをイメージして作ってみたんだけどどうかな?」
「凄く良く出来てるよ、ブライト!ありがとう!」
「お礼なんていいさ。それよりアルテッサの事をこれからも宜しく頼むよ」
深い意味を込めてウィンクをしてみせればアウラーは「ブライト・・・!」と感動に身を震わせる。
そしてウィンクの意味を汲み取ったのか、力強く頷いてデコールメーカーで真っ直ぐな想いを込めてデコールを作り始めた。
出て来るデコールの色は誰がどうみてもアルテッサをイメージしたもので、これからアルテッサが赤面するのが容易に目に浮かんだ。
妹と親友に同時に春が訪れたようで何よりだ、と思いながらふと視線を泳がせていると最近出来た友人が視界に入った。
「やぁ、シェイド」
無表情、或いは仏頂面。
シェイドは割といつもそんな顔だ。
ふしぎ星が救われる前の冷たいような張り詰めたような雰囲気はなくなり、幾分か表情は柔らかくなったものの彼が常時そんな表情なのはきっとそれが彼のデフォルトなのだろう。
それはいい。
しかし若干の距離感があるのをブライトは感じずにはいられなかった。
「何だ」
「折角だから軽食でも楽しみながらお喋りでもしないかい?」
「あったらな」
シェイドは呆れたように息を吐くとテーブルの方に視線を向けた。
それをブライトも追うとその先ではファインとミルキーが次々と料理の皿を空にしていた。
「美味しい~!このピリ辛が堪らないね!」
「バブバ~!」
「ミルキー、次はあっちのお料理食べよう!」
「バブ!」
受け皿とフォークを持って次なるテーブルへ移動する二人の食いしん坊プリンセスを見てもブライトは爽やかにポジティブなコメントをする。
「相変わらず食欲旺盛で元気だね、二人は」
「次のパーティーで摘まみ食いしないかよく見張っておかないとな」
「味見くらいはいいんじゃないかい?」
「そうやって甘やかして全部食べられても知らないからな」
そこで会話は途切れ、微妙な沈黙が走る。
この後どんな会話を繋げていいかブライトには分からなかった。
おひさまの恵みを巡る騒動より以前にシェイドと接触をした事は殆ど無く、騒動の最中はほぼ敵対していた為に良好な関係は築けず、全てが終わってからは漸く友人としてまともな関係を築く事が出来るようになった。
シェイドの皮肉に軽口を返すくらいの会話は出来るものの、それ以上の込み入ったような会話は出来ていない。
これまでの関係が良くなかった分、シェイドとも仲良くなりたいと考えているブライトはしかしどうすれば良いか分からないでいた。
シェイドがどういう会話を好むのか、どうしたらもっと深く分かり合えるのか。
しかしどれだけ考えても答えは出てこない。
そうこうしている内にシェイドの方は会話の終了を悟ったのか、何も言わず静かにファインとミルキーのいる方へと歩き出してしまった。
「ファイン、ミルキー、口の端にケチャップが付いてるぞ」
「ホント!?」
「バブッ!?」
ファインとミルキーは驚くと慌てて紙ナプキンで口の周りを拭いた。
しかしミルキーの方は上手に出来なかったようで取りこぼしがあり、それをシェイドが代わりに優しく拭ってあげた。
そんな二人の面倒を見るシェイドの表情は妹を想う兄のそれで言葉とは裏腹にとても柔らかいものである。
その後の行動を見守っているとミルキーがナルロに呼ばれ、ナルロお手製のデコールをプレゼントされて頬を赤らめていた。
それについてファインがシェイドに何やら話しかけるとシェイドは穏やかに微笑んで頷き、何か言葉を返してファインと会話を続けていた。
先程のブライトとの言葉のキャッチボールとは大違いだ。
(嫌われてはいないんだろうけど・・・シェイドは難しいなぁ)
「ブライト様、ブライト様」
ブライトがシェイドとの微妙な距離感に困っているとニコニコと笑みを浮かべるソフィーが名前を呼んで来た。
「ソフィー?どうしたんだい?」
「実は―――・・・」
ヒソヒソと耳元である事を囁かれ、数度頷いてブライトは顔を輝かせた。
「それは良い案だね!」
「アルテッサの提案なんですのよ!」
「へぇ、アルテッサが?」
「ソフィー!恥ずかしいからあまり言いふらさないでちょうだい!!」
アルテッサが顔を真っ赤にして抗議するがソフィーもブライトもクスクスと笑ってそれを流した。
それからソフィーはシェイドとミルキーを呼びに行き、ついて来ようとするファインを制してレインとその場に残るようにと言って戻って来た。
そしてアルテッサの隣に並んで嬉しそうにしながら話しかける。
「さぁアルテッサ、言い出しっぺの貴女が音頭を取って!」
「もうちょっと言い方どうにかなりませんの・・・まぁいいわ。さぁみんな、順番ずつ並んで!最初はレインで次はファインよ!」
アルテッサが号令をかけると皆は同時に頷き、順番にデコールの前に並んだ。
一番最初にアルテッサがデコールメーカーのハンドルを三回回し、その次にブライトが同じように三回回していく。
この工程を全員が行っていった。
皆が何をしようとしているのか分からずファインとレインは同じ方向に首を傾げる。
「みんな何してるんだろう?」
「さぁ?」
「とりあえず出来上がるのを待ってみるでプモ」
プーモも皆が何をするかは知らされておらず、静かにプリンセス・プリンス達の行動を見守った。
列の一番最後であるミルロがハンドルを三回回し終えるとデコールは出来上がったものの、それを隠すようにリオーネがすぐさま白い布で隠して磨く。
するとまた列が出来て同じようにアルテッサからハンドルを三回回した。
相変わらず何をしようとしているのか分からないが、それでもその工程を経る皆の表情はとても優しく穏やかで愛に満ち溢れていた。
見ているこちらの胸が満たされるようなそんな雰囲気だった。
最後にまたミルロの順番が回ってきてハンドルを回し終えると今度はアルテッサがデコールを回収して綺麗に布で磨いていく。
「準備は出来た?アルテッサ」
「ええ、勿論よ」
「それじゃあ」
リオーネとアルテッサは笑って頷き合うと両手で包み込むようにしてデコールを持ち、ファインとレインの前に進み出た。
「レイン」
「ファイン」
「「ふしぎ星を救ってくれてありがとう!!」」
『ありがとう!』
皆が声を揃えて言い終わるのと同時にリオーネは青のブローチを、アルテッサは赤のブレスレットを二人に差し出した。
「「え・・・?」」
思ってもみなかったサプライズに二人は固まり、呆然と言葉を失う。
作戦の成功を悟ったアルテッサとリオーネは悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべると二人をそのままに続けた。
「どんな時でも二人は笑顔を忘れずに最後まで諦めなかった。そのお陰で私達は今もこうして笑顔でいられている」
「改めて感謝の言葉を申し上げますわ。本当にありがとう。これは私達からの感謝の印よ」
「受け取って」とリオーネとアルテッサが差し出すブレスレットをファインとレインは尚も呆然としながら静かにそれを受け取る。
レインの青のブレスレットとファインの赤のブレスレットはちゃんと統一感のある色合いをしていながらもそのビーズの一粒一粒には皆の想いという名のそれぞれ違った色があり、二人にはそれが手に取るように伝わった。
デコールのブレスレットは軽い筈なのにとても重い。
けれどその分だけ温かい気持ちが伝わってくる。
皆の想いに思わず涙が零れそうになるが今この場面で相応しいのは涙ではない。
ファインとレインは顔を見合わせてぐっと涙を堪えるととびきりの笑顔を見せた。
「「みんな!ありがとう!!」」
途端に会場中に拍手の嵐が巻き起こる。
プリンス・プリンセス達の友情に誰もが感動しており、プーモも感動の涙を流しながら何度も頷いていた。
こうしてピースフル『デコール』パーティーは温かい友情に包まれて幕を閉じるのだった。
続く