ピースフルパーティーと虹の蜜 第二章~メラメラの国~

ピースフル『スマイル』パーティーから一ヵ月後。
次なるパーティーはメラメラの国で開かれるピースフル『デコール』パーティーだ。
みんなとの話し合いの結果、それぞれの国でデコールを用意してくるのは勿論、ファインとレインがエルザから継承したデコールメーカーを使ってみんなでデコールを作ろうという事になった。
勿論この提案をしたのはファインとレインだ。
平和を記念し、仲良くする事を目的としたこのパーティーで皆でデコールメーカーを使ってそれぞれを想いながらデコールを作るのだと提案した所、反対する者は誰一人としていなかった。
むしろプリンセス一同からは是非ともデコールメーカーでデコールを作らせて欲しいという申し出があったくらいだ。
二人のこの提案にはプーモも大満足であったのは言うまでもない。
材料についてはそれぞれで集めて持参しようという事になり、ファインとレインも今日はその為の材料集めをする日となっていた。

「それじゃ、デコールの材料を集めに行きましょー!」
「おー!」
「でプモ!」

三人で拳を挙げて意気込み、エレベータのボタンを押そうとしたその時、キャメロットがやってきて呼び止めて来た。

「ファイン様レイン様」
「あ、キャメロット」
「どうしたの?私達今日はデコールメーカーで使う素材を採りに行くって伝えてたと思うけど」
「勿論存じ上げております。ですがお客様がお見えですよ」
「お客様?」
「月の国のプリンスシェイド様とプリンセスミルキー様にございます」
「ええっ!?シェイドとミルキー!?」

思ってもみなかった客人の名前にファインは飛び上がり、レインも驚く。

「シェイドとミルキーが?一体どうしたのかしら?」
「何か事件かな?」
「まさかでプモ」
「デコールメーカーで使う素材をおひさまの国の森で採取したくて来たそうですよ」
「おひさまの国で?」
「それでご一緒に如何かと仰られておりましたよ。今は謁見を済ませて応接室にいらっしゃいます」
「応接室だって!行こう、レイン!」
「ええ!」
「ああ!ファイン様レイン様!廊下を走ってはいけませんよ~!」

思い立ったら即行動が信条のふたご姫。
走り出すのなんか当たり前だ。
そんな二人のプリンセスらしくない振る舞いに今日もキャメロットの注意する声が城内に響き渡るのであった。








風の如く走った二人は応接室の扉を見つけると満面の笑顔で扉を開け放った。

「シェイド!ミルキー!いらっしゃい!」
「早速木の実を採りに行きましょう!」
「いいか、ミルキー。入ってくる時はちゃんとノックをして『失礼します』と言ってから入るんだぞ。挨拶も忘れずにな」
「バブ!」
「「うっ・・・」」
「ほらほら、やり直すでプモ」

二人は何事もなかったように応接室の扉を閉めると改めて静かにノックをし、淑やかに「失礼します」と声を重ねて扉を開けた。
そして二人揃ってお辞儀をしながら挨拶をする。

「ファインです」
「レインです」
「「本日はお越しいただきありがとうございます」」
「まぁまぁだな」
「何よ!私達の仲なんだから細かい事気にする事ないじゃない!」
「『親しき仲にも礼儀あり』という言葉を知らないのか」
「押しかけといて何言ってるのよ!」
「そーだよ!何の連絡も無しに来るなんてさぁ!」
「アポ無し常習犯がなんだって?」
「「うっ・・・」」
「日頃の行いは大切でプモ。ところでどうしてまたおひさまの国に木の実を採りに来たのでプモ?」
「月の国の土地は基本砂漠だろ?木の実なんて早々に採れるもんじゃない。それでミルキーと話し合ったらおひさまの国で採りたいって言ったんだ」
「あら、そういう事だったのね」
「だったら大歓迎だよ!丁度アタシ達も今日採りに行く所だったし!」
「そうと決まったら早速行きましょう!」
「ああ」
「バブ!」

意見がまとまり、一行はエレベーターに向かう。
ボタンを押せばエレベーターは丁度やっきた所ですんなりと乗り込む事が出来た。
城から城下までは少しばかり距離があり、到着するまで時間がかかる。
そんな中、ミルキーが鼻をひくひくさせながらファインの周りを浮遊し始めた。

「バブゥ・・・」
「どうしたの?ミルキー?」
「あ、もしかしてこれ?」

首を傾げるレインの横でファインは何かを思いつくと懐からピンクのリボンで口を閉めた小さな青い袋を取り出した。
ファインと言えばお菓子、お菓子と言えばおやつ。
そう、お馴染みの携帯用おやつだ。
中身は勿論ファインお気に入りのサニードロップ。
袋の口を開ければバリエーション豊富な色と形のサニードロップが甘い香りを漂わせて顔を出し、ミルキーの瞳を輝かせた。

「バァ~!」
「ちょっと早いけどこれから木の実を採りに行くし、気合いを入れる為にって事で一つあげるね!」
「バブ!?バブバ~ブ!」
「良かったな、ミルキー」

星の形のドロップを貰ったミルキーは大喜びしながらそれを頬張るとほっぺを抑えてその美味しさを惜しみなく表現した。
勿論、それを見ているだけのファインではない。

「あむっ!あ~美味しい~!」
「ファイン様も一緒になって食べてどうするでプモか」
「まぁまぁ、一つくらいいいじゃない。ファイン、私にも一つちょうだい?」
「うん、いいよ!シェイドも食べる?」
「ああ、なら―――」

言いかけて熱視線を感じ、それを辿ってみるとミルキーが期待に満ちた瞳でシェイドを見つめていた。
可愛い妹に弱いシェイドは苦笑するとそれを譲ってあげた。

「俺の分はミルキーにあげてくれ」
「だって。良かったね、ミルキー」
「バブバブバーブ!」

ファインから花の形のドロップを受け取って大喜びするミルキー。
たった一つのドロップで妹がここまで幸せそうに笑うのであればそれもいいだろう。
けれどやはり、少しだけ惜しいという気持ちはあった。

(そういえば貰い損ねたのはこれで二回目だな)

一回目は満月亀を捕まえる時にファインが気分転換をしようと提案してきたあの時。
あの時のシェイドは満月亀を捕まえられず焦っていたのだが、そんなシェイドの気持ちを察してファインが励ましてくれたのだ。
そのお陰で肩の力が抜けて冷静になれたのと同時にファインを見直したのを覚えている。
それまでは騒がしいイメージしかなかったのが、周りの気持ちを察してさりげなく気分転換を図ったり息抜きをさせようとする気遣いがあるのだと気付いた。
差し出されたサニードロップもそんなファインなりの気遣いと優しさの証なのだと思い、驚きで戸惑いつつも素直に受け取ろうとしたら満月亀が現れて貰い損ねたのだ。

(ツイてないな)

そんな風に思う自分が不思議で、エレベーターを最後に降りる時にシェイドは密かに苦笑するのだった。






おひさまの国は常に温暖な気候が保たれており、街も森も常に適度な温度と湿度が保たれている。
寝るのが大好きなニャムル族が生まれるのも頷けるくらい穏やかで過ごしやすく、本を読みながらうたた寝をするにはうってつけだ。
もっとも、この騒がしいふたご姫が近くにいるとなればそれも無理な話なのだが。

「あー!松ぼっくりはっけーん!」
「こっちにはどんぐりが沢山あったわ!」
「バブバブー!」
「その葉っぱ綺麗だねミルキー!それも使えるよ!」

女三人寄れば姦しいとはこの事か。
耳に心地良い鳥のさえずりもなんのその、甲高い少女達のキャアキャアと騒ぐ声が全てを遮る。
散策がてらの素材集めを考えていたのだがそんなものは儚い夢でしかないとどうしてここに来るまでの自分は気付けなかったのだろう。
すっかり平和ボケしたな、とシェイドは苦笑とも呆れともつかない溜息を吐く。

「あー!シェイドサボってるー!」

そんなシェイドの溜息を耳聡く拾ってファインが非難してくる。
一人が気付けば他も気付く。
レインとミルキーも佇んだままでいるシェイドを責めた。

「シェイドもちゃんと探しなさいよ!」
「バブー!」
「それだけ集めておいて何を言ってるんだ。俺の分なんていらないだろ」

ファインもレインもミルキーも木の実や葉っぱを詰め込み過ぎている所為で袋ははち切れんばかりにパンパンに膨らんでおり、いつ穴が空いてもおかしくない状態だった。
それなのにまだ拾い集めようとしていて、一体いくつデコールを作るつもりなのだと内心呆れる。
しかしそんなシェイドの考えなどお構いなしにファインが尚も咎めて来る。

「シェイドも一緒に作るんだからちゃんと集めないとダメだよ!」
「そうよ!みんなで材料を持ち寄る事に意味があるんだから!」
「バブバブ!」
「分かったから大きな声を出すな。そこの枝にいるリスが逃げるぞ」
「「リス!?」」
「バブ!?」
「どこどこ!?リスどこ!?」
「あっちかしら!?こっちかしら!?」
「バブブイ!」

リスの姿を求めてまたもや騒ぎ始める三人だが、その騒がしさの所為でリスがいなくなったのは教えない事にした。
やれやれと溜息を吐いていると横からどんぐりを拾ってきたプーモが同じように溜息を吐きながらシェイドの持つ袋に入れて来てくれた。

「あの御三方が風情というものを楽しむ日はまだまだ遠そうでプモ」
「大人になってもあのままの気がする」
「有り得なくはないので今から頭が痛いでプモ。それにしてもミルキー様も同じようにお転婆に育ってしまったら申し訳が立たないでプモ」
「心配するな、元々その気質はある。が、あの二人以上にはならないだろうな」
「むしろファイン様とレイン様が異常なまでにお転婆なだけでプモ」

「「プーモなんか言った!?」」

地獄耳なふたご姫が目を吊り上げて問うとプーモは「何も言ってないでプモ」とやや投げやりに言い放つ。
ふたご姫のお世話係も楽ではないようだ。

「お転婆と言えばまさかこの森に落とし穴だの罠だのは仕掛けていないだろうな?」
「ご安心下さい、全力で止めましたでプモ」
「やろうとはしていたのか」

呆れを通り越していっその事逞しいと感心してしまった。
あの二人がいる限りおひさまの国は色々な意味で大丈夫だろうと。
人を疑うという事をしないのが気掛かりではあるがそれはきっと周囲の人間がなんとかするだろう。
だが、ふたご姫の巻き起こす旋風にへとへとになるプーモや教育係のキャメロット達の姿が目に浮かんで彼らには悪いが同情よりも笑いの方が込みあがって来た。

「だがまぁ、お転婆じゃない二人なんて二人らしくないかもな」
「そんな残酷な事を言わないでほしいでプモ。でないと僕の胃が保たないでプモ」
「好きな奴が出来たり結婚したりすれば或いは変わるかもな。レインなんかブライトの前だとしおらしくなるだろ」
「別方向に暴走するだけで何も変わらないでプモ」
「そういえばそうだったな・・・」

レインはブライトを前にすると目がハートになる。
か弱い乙女になるかと思えばすぐに己の世界に浸って妄想を炸裂させる。
しかしそれはブライトがいない時もそうで、プーモは何度ファインと共にそれを見せつけられてきたか。
シェイドも何度か見た事があり、それについてブライトが気にしていないのはある意味でブライトが純粋なのと女性に囲まれているのに慣れているからだと観察していて分かった。
けれどブライトが女性慣れしている分、レインの恋が成就するのも相当の時間がかかるだろうと思っていたのだが、最近になってその風向きが変わったと感じる出来事が起きた。
それはふしぎ星が救われた事を祝ったパーティーでのこと。
ブライトは第一回目のプリンセスパーティーの時からファインの事を気に入り、何かとあれば積極的にアプローチをし、闇に落ちた後もそれは続いていた。
ところがファインとレインのプロミネンスの力によって救われたのを機にブライトの視線はレインに向くようになり、件のパーティーではとうとうレインを真っ先にダンスに誘うようになったのだ。
きっとあの闇から救われる中でレインの真っ直ぐな気持ちに気付く何かがあったのだろう。
レインはきっと、このまま順調に上手く行けばブライトと恋人関係を築く事が出来るだろう。
それよりも二人がそういった関係になって二人だけの時間を作るようになった時に取り残されるであろう片割れがシェイドは気になった。

「・・・ファインはどうなるんだろうな」

レインがブライトと一緒にいるようになったら、という意味だった。
けれどそれはシェイドが自分の中で考えていた事で口には出していないので当然プーモにその意図は伝わっておらず、プーモは先程の続きでファインの結婚後の身の振り方の事だと思ってファインを見ながら溜息を吐いた。

「プモ・・・恐らくファイン様も何も変わらないでプモ」
「そう、だな」

プーモの発言と自分の発言の意味の違いに気付いてシェイドはすぐに話に合った受け答えを返す。
ややぎこちなかったがプーモが気にした様子はなかった。

「ファイン様は行動力がある分、そっち方面で暴走しがちでプモ」
「ああ」

レインの為に。
その一心で単身ブライトに会いに行ったファイン。
本人の話だと様子を見に行っただけとの事だがどちらも似たようなものだ。
結果的にブライトと接触した事に変わりはない。
気遣える奴だと分かったものの、あそこまでの行動力を発揮するとは思わなかった。
それ程までにファインのレインに対する愛情は強いのだろう。
そしてその中にはブライトを心配する気持ちもあった。
行動原理はレインだがそれでもファインにとってはどちらも放って置けず、最短且つ最適解の『ブライトに会いに行く』という結論に至ったのだろう。
しかしファインとレインが二人揃っていなければプロミネンスが使えないのに対してブライトは一人でブラックプロミネンスが使える。
そんな状況でたった一人でブライトの元に行くのは無謀以外の何者でもなかった。
現にファインを守ろうとするプーモが襲われかけて絶体絶命のピンチに陥る状況にまでなった。
あの時もし間に合うのが少しでも遅かったらどうなっていたか、考えるだに恐ろしい。

「躊躇いなく飛び出すからな、アイツは」
「その癖いつもファイン様は転ぶでプモ。アレはどうにかならないものでプモか」

また自分とプーモで言葉の意味が違った。
シェイドのは誰かの為に躊躇いなく飛び出すという意味だったのだがプーモのはそそっかしいという意味での憂いだった。
しかし今更訂正するのも面倒な上に説明するのはこの上なく恥ずかしい。
それにあのそそっかしさも確かに気にするべき点だ。
フォローする方の身にもなって欲しい。

「もう少し落ち着きを身に付ければ回数も減ってくるだろ。身に付ければ、だが」
「嫌な強調をしないで欲しいでプモ・・・それまではシェイド様にフォローをお願いするしかないでプモね」
「俺をフォロー係にするな」
「何を言うでプモか。先月のピースフルパーティーの準備の時に転びそうになったファイン様を華麗に受け止めたでプモ。あれはシェイド様だからこそ成しえた業」
「ただの偶然だ。俺を胃痛の道連れにするな」
「道連れにする依然にシェイド様は既に胃痛持ちな気がするでプモ」
「何か言ったか?」
「さ、さぁ僕はファイン様とレイン様のお傍に戻るでプモ!」

鋭く睨んでやったらプーモは慌ててファイン達の元に飛んで行った。
確かに気苦労は多いがそんな事で胃痛を患う程軟じゃない。
それにあの騒がしいふたご姫達とふしぎ星の為に旅をしたのだ、むしろもっと鍛えられてお陰様でちょっとやそっとの事じゃ胃が痛むなんて事はもっとなくなった。
それにしてもプーモのあの減らず口は二人の影響だと思うとまた一つ溜息が零れる。
ミイラ取りがミイラになるとはこの事か。
ファインとレインのお転婆が治らずむしろ悪化する一方である理由が何となく分かった気がした。

(それにしても俺がフォロー係か)

想像して少し面倒だなと思った。
けれど他に適任が思いつかなくてやっぱり自分がフォローに回るのだと思うと大概自分もお人好しだと溜息を吐いた。









お転婆姫達となるべく離れないように注意しながら材料の採取をして一時間が経過した頃。
シェイドの持つ袋もすっかり大きな膨らみを持ち、これだけあれば十分だろうと一人納得する。
そろそろファイン達の所に戻ろうかと考えていたら丁度レインが後ろからやってきて声をかけてきた。

「シェイド、材料は集まった?」
「これだけあれば十分だろ」

膨らんだ袋を見せればレインが「ええ、合格よ!」と笑顔で頷いてくれた。
となればファインやミルキーからも咎められる事はないだろう。
シェイドは内心ホッと一息吐いた。

「丁度良いわ、そろそろ戻りましょう」
「お前達も材料を十分集められただろうしな」
「それもそうだけどファインがおやつの時間だからお城に戻るって言ってるの」
「戻る理由そっちか」

相変わらずだなと呆れつつもそれもファインらしいと思い、シェイドはレインと共にファイン達の元に戻る事にした。
ファインはミルキーと何やらおやつについて楽し気に話していたようで、そんな二人をプーモが傍で見守っていた。

「シェイドを連れて来たわよ!」
「ありがとうレイン!早くお城に戻ろう!」
「バブー!」

スキップを踏みながらファインはミルキーと共にパンケーキの歌を歌う。
その横でプーモが転ばないように気を付けろと注意をするがファインはそれを軽く流すだけでキャメロット特製ホットケーキの美味しさと素晴らしさをミルキーに存分に語っていた。
それを聞かされているミルキーもはしゃいだり瞳を輝かせたりと嬉しそうだ。
ホットケーキで盛り上がる三人から数歩後ろをシェイドとレインが並んで歩く。

「お茶はしていくでしょう?ホットケーキだからシェイドとミルキーの分も余裕で用意してもらえるわ」
「悪いな。ミルキーのは何段重ねでもいいからな」
「じゃあファインと同じ十段にしてもらいましょうか。ルルもいるからきっとすぐに出来上がるわ」
「お前達の所の教育係は大変だな」
「でも作り甲斐があるっていつも張り切ってるのよ。レパートリーが増える度にキャメロット秘伝のレシピノートが埋まってって楽しいって言ってたし」
「それなら近い内にミルキーの教育係が弟子入りに来るかもしれん」
「歓迎するわ。ミルキーの好きな物ってファインと殆ど同じだと思うし」
「助かる。ミルキーもあの通り食べ物には煩いんだ。しかしファインの大食いがこんな所で役に立つとはな」
「その上同じ食いしん坊同士、通じ合うものがあってミルキーの話してる事も分かる所もね」
「ある意味そこが一番助かるポイントだな」

赤ん坊のミルキーの話している事はシェイドと母親のムーンマリアにしか分からない。
軽い意思表示や感情表現くらいなら他の者にもそれなりに伝わるのだが詳細な会話となるとそれは困難を極める。
仕方のない事とはいえ、その点に関してはミルキーはもどかしさを覚えており、また、それが原因で他のプリンセスたちと距離や溝が生れたりしないかとシェイドは密かに心配していた。
けれど同じ食いしん坊仲間であるからか、ファインはミルキーの話す言葉をシェイドやムーンマリアと同じように詳細に理解しており、そして通じ合う事が出来ていた。
共通の興味と可能な会話、この事からミルキーは一気にファインと意気投合し、とても仲の良い友達となった。
それだけでなくファインとレインが中心となって他のプリンセスたちと友情の輪を築いた事でミルキーも他のプリンセスたちと仲良くなる事が出来た。
妹想いのシェイドにとってそれらに関しては本当に感謝しかなかった。

「話してる事が分かると言えばミルキーはナルロとも仲良しよね。ていうか仲良しを越えた仲だけど」
「一体いつあんな関係になったんだろうな」
「え?シェイドも知らないの?」
「一番不思議に思ってたのは俺だ。ミルキーを連れてしずくの国に行く事なんて殆どなかった上にプリンセスパーティーでもミルキーはお前達とばかりいて最後のプリンセスパーティー以外でそんな雰囲気は微塵も感じなかったぞ」
「ふ-ん。まぁ女の子っていうのはそういうものよ。むしろ男の子の方が鈍感なのよ」
「お前とブライトみたいなものか」
「何か言った?」
「言ったぞ。もう一度言ってやろうか?」

レインははしたなくもワナワナと拳を震わせてシェイドを睨みつけたが当てつけのように大きな溜息を吐く事でその拳を降ろした。

「私はシェイドのそういうとことん意地悪な所が好きじゃないわ」
「そりゃどうも」
「赤ん坊だろうとミルキーは早くから恋を知って正解ね。今の内に異性の事を学んでおくのはとても重要だわ」
「何だ、その含みある言い方は」
「色々あるの。それよりもシェイド、意地悪で性格がひん曲がってて捻くれてるのは別にいいけど―――」
「お前は俺に喧嘩を売りたいのか会話をしたいのかどっちかにしろ」
「真面目に聞いて」
「真面目に話せ」
「私は至って真面目よ!」
「そうか、真面目に喧嘩を売ってた訳か」
「そりゃ売りたくもなるわよ。でも、それでも私は応援するって決めたんだから!」
「誰の何を応援するんだ?」
「知らなくていいわよ、今はね。それよりもつい意地悪したり皮肉を言うのはいいけど嬉しい時とか幸せだなって思った時はちゃんと素直になるのよ?」
「はぁ?何だ急に」
「いいから覚えておいて。世の中にはシェイドみたいな捻くれた人が笑う事で幸せになる人だっているのよ」

言いたい事を一方的に並べ立てたレインは最後にそれだけ言うと走ってファインの隣に並んでホットケーキの話題に加わった。
一人残されたシェイドはレインの言葉の意味は理解出来たものの、しかしその真意は理解出来ずにいた。
けれどきっと重要な事なのだろうと思わずにはいられなかった。

(一応は覚えておくか)

しかし喧嘩を売られたのが気に入らなかったので頭の片隅に残しておく程度に留める事にした。






続く
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