ピースフルパーティーと虹の蜜 第一章~おひさまの国~
各国のプリンス・プリンセス一同による催し物は大反響を呼び、会場は笑顔に溢れていた。
レインとの約束で食べて良いと言われていた分のケーキを食べ終えてしまっていたファインはテーブルの上にズラリと並ぶ料理に熱視線を送りつつも何とか己を律して水の入ったコップを運んでいた。
届け先はあのシェイドだ。
「シェイド、お水持ってきたよ!」
「ああ、悪いな」
ハープの演奏を終えたシェイドは一時休憩となり、席から離れて壁際に一人立っていた。
そんなシェイドを気遣ってファインが何か用意しようかと話を持ち出した所、シェイドがリクエストしたのが水だったのである。
シェイドは水を受け取るとそれを一口飲んで一息ついた。
「お疲れ様。ずっと演奏してて大変じゃなかった?」
「参加者の相手をする事に比べたらずっと楽だ」
「もしかして相手をしたくなくて演奏にしたの?」
「否定はしない」
「あはは、じゃあここだけの秘密にしといてあげるね」
「そうしてくれると有難い。そういえば・・・」
「ん?」
シェイドは視線をあちらこちらに向けると、ケーキが三段積み重なったテーブルに目を留めてそれを指差して尋ねた。
「プリンセスパーティーでリオーネにプロミネンスを使った後にお前はあそこのテーブルに行ったよな?」
「ん~、そうだったっけ?」
「そうだった」
「うん?それで?」
「あそこから斜めの柱に俺は隠れてたんだ。お前は俺の視線に気付いて振り向いただろ?」
「・・・あっ!」
詳細に説明されてファインの過去の記憶が呼び起こされる。
確かにあの周辺のテーブルでご馳走に手をつけようとした瞬間、視線を感じて振り向いたのだ。
しかしそこには誰もおらず、不思議に思った覚えがある。
その時の事を思い出してファインは思わずシェイドを見返した。
「あれシェイドだったんだ!?」
「そうだ。おひさまの国を色々探る為に見に来てたんだがプロミネンスの力も見れるとは思わなかったな」
「やっぱり気の所為じゃなかったんだ・・・」
「正直あの時は焦った。いきなりこっちを振り向くんだからな」
「だってなんか視線を感じたんだもん。誰か見てる?って」
「恐ろしい奴だなお前は。思えばあの時から警戒しておくべきだったな。最終的には正体まで嗅ぎ付けられた訳だしな」
「もしかして気付かれたのも正体バレたのも悔しかった?」
「それなりにな。よりにもよってお前らなんかにバレるとは思わなかった」
「なんかって失礼だな~!」
「だがまぁ、あのタイミングでバレて良かったと思ってる。俺も動きやすくなったし、何よりも母上の為に満月草を採るのにお前達に協力を求める事が出来た。感謝してるよ」
優しい眼差しで感謝の意を述べられてファインの胸が高鳴る。
しかしそれよりも『シェイドの力になれて良かった』という気持ちの方が上回って恋心による熱よりも温かいものがファインの胸を満たす。
「えへへ、どういたしまして!でもエクリプスのままでもアタシ達は助けてたよ?困っている人を助けて笑顔にするのがアタシ達の使命だったんだから」
「そうか?レインやプーモが警戒してたから難しかったと思うぞ」
「それでもアタシは助けようって説得してたと思う。少なくともアタシは助けたいよ」
「・・・お前、何度かレインやプーモに釘刺されてなかったか?エクリプスには気を付けろって」
「え?うん。何で?」
「そりゃ言われる訳だ」
「?」
シェイドの溜息の意味が分からずファインは首を傾げる。
プロミネンスの力を狙って付き纏って来る男がいるというのに警戒するどころか友好的に接するだけでなく、いざとなれば助けるつもりでいたなどとレインやプーモが危なっかしく思って釘を刺すのも頷けるというもの。
シェイドが二人の立場でもファインに同じように釘を刺していただろう。
しかし大臣とその手下に対しては悪人だと認識していた辺り、直感で悪人と善人の区別をつけているのだろうが善人と直感で判断した時の無防備さ、警戒心の無さにはシェイドも心配になった。
「人を信じるのも良いが程々にな」
「程々じゃダメだよ。しっかり信じなきゃ!」
「信じて裏切られた時のショックは大きいぞ。耐えられるのか?」
「確かに裏切られたら辛いかもだけど、でも信じた通りの結果になったらとっても嬉しいよ?エクリプスの正体がシェイドで悪い人じゃないって分かった時とか・・・そうだったし・・・」
「え?」
「あ、えっと、アタシそろそろ他の所に行くね!!」
ファインは顔を赤くしたまま背を向けると逃げるようにしてシェイドの元を立ち去った。
残されたシェイドはコップを片手に呆然とファインの背中を見送る事しか出来ず、頭の中では先程の言葉が反芻していた。
『でも信じた通りの結果になったらとっても嬉しいよ?エクリプスの正体がシェイドで悪い人じゃないって分かった時とか・・・そうだったし・・・』
最後の方は殆ど声が小さくなっていて聞き取るのが難しかったが確かそんな風に言っていたように思う。
「・・・・・・嬉しかったのか・・・とっても・・・」
口にした途端、何だかむずがゆい気持ちになった。
一言で言うなら『満更でもない』。
そんな言葉がシェイドの思考を支配する。
同時に胸の中が温かくなった。
(・・・相変わらず変わった奴だ・・・)
などと思いながらもどんどん嬉しさはこみあげてくる。
エクリプスとして活動していた時、ファインにも冷たい態度を取った事があった。
それだけでなく、正体がバレる前は品行方正のプリンスを演じて騙していた。
ガッカリされたり幻滅されたりする事はあれど嬉しいと思われる要素があるとはシェイドも驚きだった。
(まぁ・・・悪い気はしないが・・・)
照れ臭さを鎮めるようにコップの水を飲み干す。
けれど胸をくすぐるむずむずとした感じは収まってはくれないのであった。
第一章~おひさまの国~ END
レインとの約束で食べて良いと言われていた分のケーキを食べ終えてしまっていたファインはテーブルの上にズラリと並ぶ料理に熱視線を送りつつも何とか己を律して水の入ったコップを運んでいた。
届け先はあのシェイドだ。
「シェイド、お水持ってきたよ!」
「ああ、悪いな」
ハープの演奏を終えたシェイドは一時休憩となり、席から離れて壁際に一人立っていた。
そんなシェイドを気遣ってファインが何か用意しようかと話を持ち出した所、シェイドがリクエストしたのが水だったのである。
シェイドは水を受け取るとそれを一口飲んで一息ついた。
「お疲れ様。ずっと演奏してて大変じゃなかった?」
「参加者の相手をする事に比べたらずっと楽だ」
「もしかして相手をしたくなくて演奏にしたの?」
「否定はしない」
「あはは、じゃあここだけの秘密にしといてあげるね」
「そうしてくれると有難い。そういえば・・・」
「ん?」
シェイドは視線をあちらこちらに向けると、ケーキが三段積み重なったテーブルに目を留めてそれを指差して尋ねた。
「プリンセスパーティーでリオーネにプロミネンスを使った後にお前はあそこのテーブルに行ったよな?」
「ん~、そうだったっけ?」
「そうだった」
「うん?それで?」
「あそこから斜めの柱に俺は隠れてたんだ。お前は俺の視線に気付いて振り向いただろ?」
「・・・あっ!」
詳細に説明されてファインの過去の記憶が呼び起こされる。
確かにあの周辺のテーブルでご馳走に手をつけようとした瞬間、視線を感じて振り向いたのだ。
しかしそこには誰もおらず、不思議に思った覚えがある。
その時の事を思い出してファインは思わずシェイドを見返した。
「あれシェイドだったんだ!?」
「そうだ。おひさまの国を色々探る為に見に来てたんだがプロミネンスの力も見れるとは思わなかったな」
「やっぱり気の所為じゃなかったんだ・・・」
「正直あの時は焦った。いきなりこっちを振り向くんだからな」
「だってなんか視線を感じたんだもん。誰か見てる?って」
「恐ろしい奴だなお前は。思えばあの時から警戒しておくべきだったな。最終的には正体まで嗅ぎ付けられた訳だしな」
「もしかして気付かれたのも正体バレたのも悔しかった?」
「それなりにな。よりにもよってお前らなんかにバレるとは思わなかった」
「なんかって失礼だな~!」
「だがまぁ、あのタイミングでバレて良かったと思ってる。俺も動きやすくなったし、何よりも母上の為に満月草を採るのにお前達に協力を求める事が出来た。感謝してるよ」
優しい眼差しで感謝の意を述べられてファインの胸が高鳴る。
しかしそれよりも『シェイドの力になれて良かった』という気持ちの方が上回って恋心による熱よりも温かいものがファインの胸を満たす。
「えへへ、どういたしまして!でもエクリプスのままでもアタシ達は助けてたよ?困っている人を助けて笑顔にするのがアタシ達の使命だったんだから」
「そうか?レインやプーモが警戒してたから難しかったと思うぞ」
「それでもアタシは助けようって説得してたと思う。少なくともアタシは助けたいよ」
「・・・お前、何度かレインやプーモに釘刺されてなかったか?エクリプスには気を付けろって」
「え?うん。何で?」
「そりゃ言われる訳だ」
「?」
シェイドの溜息の意味が分からずファインは首を傾げる。
プロミネンスの力を狙って付き纏って来る男がいるというのに警戒するどころか友好的に接するだけでなく、いざとなれば助けるつもりでいたなどとレインやプーモが危なっかしく思って釘を刺すのも頷けるというもの。
シェイドが二人の立場でもファインに同じように釘を刺していただろう。
しかし大臣とその手下に対しては悪人だと認識していた辺り、直感で悪人と善人の区別をつけているのだろうが善人と直感で判断した時の無防備さ、警戒心の無さにはシェイドも心配になった。
「人を信じるのも良いが程々にな」
「程々じゃダメだよ。しっかり信じなきゃ!」
「信じて裏切られた時のショックは大きいぞ。耐えられるのか?」
「確かに裏切られたら辛いかもだけど、でも信じた通りの結果になったらとっても嬉しいよ?エクリプスの正体がシェイドで悪い人じゃないって分かった時とか・・・そうだったし・・・」
「え?」
「あ、えっと、アタシそろそろ他の所に行くね!!」
ファインは顔を赤くしたまま背を向けると逃げるようにしてシェイドの元を立ち去った。
残されたシェイドはコップを片手に呆然とファインの背中を見送る事しか出来ず、頭の中では先程の言葉が反芻していた。
『でも信じた通りの結果になったらとっても嬉しいよ?エクリプスの正体がシェイドで悪い人じゃないって分かった時とか・・・そうだったし・・・』
最後の方は殆ど声が小さくなっていて聞き取るのが難しかったが確かそんな風に言っていたように思う。
「・・・・・・嬉しかったのか・・・とっても・・・」
口にした途端、何だかむずがゆい気持ちになった。
一言で言うなら『満更でもない』。
そんな言葉がシェイドの思考を支配する。
同時に胸の中が温かくなった。
(・・・相変わらず変わった奴だ・・・)
などと思いながらもどんどん嬉しさはこみあげてくる。
エクリプスとして活動していた時、ファインにも冷たい態度を取った事があった。
それだけでなく、正体がバレる前は品行方正のプリンスを演じて騙していた。
ガッカリされたり幻滅されたりする事はあれど嬉しいと思われる要素があるとはシェイドも驚きだった。
(まぁ・・・悪い気はしないが・・・)
照れ臭さを鎮めるようにコップの水を飲み干す。
けれど胸をくすぐるむずむずとした感じは収まってはくれないのであった。
第一章~おひさまの国~ END
