ピースフルパーティーと虹の蜜 第一章~おひさまの国~

ブラッククリスタルが浄化され、平和となったふしぎ星。
そんなふしぎ星の中心に位置するおひさまの国のうららかな午後、ファインは窓を開け放ってぼうっと空を見上げていた。
今日はお稽古も用事もないので好きな事を出来る筈なのだが彼女はそれをしようとせず、ただぼんやりとするのだった。
時折吐かれる溜息は何か悩みがある、というには少し熱が籠っているようで。
いつになく珍しいファインのその様子にレインとプーモは部屋の入り口の影からじっと見守っていた。

「ファイン様、少し様子がおかしいでプモ」
「そうね。ぼんやりと遠い空を見上げて時折溜息を吐く・・・あれはきっと恋煩いね!」
「あの男性に興味のないファイン様がそんな―――」
「いいえ、きっとそうに違いないわ!私の恋愛センサーがそう言ってるもの!確かめてみる価値はあるわ!!」

レインは瞳を太陽以上に輝かせるとステップを踏みながら部屋に入って行った。
果たしてその恋愛センサーとやらがどこまで当てになるのやらと呆れながらプーモもその後について行く。

「ファイン」
「あ、レイン」

レインがファインの隣に並び立つとファインは視線をレインに向けた。

「ねぇファイン、さっきから溜息を吐いてるけど何か悩み事でもあるの?私で良かったら聞くわよ?」

レインは務めて優しく尋ねた。
いくら恋愛話が好きだからと言っても先程のような興奮気味且つ好奇心全開で聞くような事はしない。
ファインは繊細であるから変に盛り上がると傷付けてしまう恐れがあるし、何よりもこういった話題はどんな乙女にとってもセンシティブだ。
恋愛話の作法を心得ているレインは慎重になりつつファインの悩みを探る事にした。

「悩みっていうか・・・なんだろう、何て言えばいいんだろう」
「話しにくい事?」
「そういう訳じゃないんだけど・・・うーん・・・」
「嬉しい事?悲しい事?」
「嬉しい事、かな。うん、嬉しいと思う」
「どんな風に嬉しいの?」
「えっと、その・・・」

ファインは途端に頬を赤く染め上げると徐々に俯き始めた。
そのいじらしい仕草にレインは予想が的中したと内心で確信し、プーモはレインの予想が当たったと内心驚くのだった。

「・・・笑わないで聞いてくれる?」
「勿論よ!プーモも出来るわよね?」
「当然でプモ!」
「ほら、大丈夫だから言ってみて?」
「うん・・・あのね」
「なぁに?」
「レインはブライトの事を考えるとどんな気持ちになる?」
「ブライト様の事?そりゃあ胸がドキドキしてフワフワしてときめいて嬉しくて幸せな気持ちになってあ〜ブライト様〜!!」
「レイン様、落ち着くでプモ・・・」
「とにかくとっても幸せで温かい気持ちになるわ!」
「そっか。じゃあアタシのもそうなのかな?」
「何々?考えると胸がドキドキする人がいるの!?」
「う、うん・・・ドキドキして顔が熱くなるんだ・・・」

人差し指と人差し指をツンツンとぶつけ合う仕草にレインはこれ以上ない程瞳を輝かせて興奮気味にその先を促した。

「誰々!?どんな人の事を考えるとドキドキするの!?ブライト様?アウラー?それとも―――」
「・・・・・・シェイド・・・・・・」

蚊の鳴くような声で呟かれた名前に一瞬沈黙が走る。
そしてプーモは絶叫し、レインは落胆の声を漏らした。

「プモー!?」
「えぇ・・・」
「あれ!?プーモとレインで温度差が違うんだけど!?」
「レイン様?何でそんなにガッカリしてるでプモ?」
「だって相変わらずファインの男の人の趣味が悪いんだもの。ガッカリもしたくなるわ」
「ええっ!?」
「あのー、レイン様?」
「あんな粗野で乱暴でぶっきらぼうで素っ気なくて冷血な人なんてやめてもっと他に素敵な人を探しましょう?その方が絶対に良いわ」
「めちゃくちゃボロクソに言ってるでプモ・・・共にふしぎ星を救う為に旅をした仲間でプモ。レイン様も何度か助けられたでプモ?」
「それはそれ、これはこれ。ファインの将来を考えたら有り得ないわ」
「何もそこまで言わなくても・・・」
「そ、そうだよ!シェイドはちょっと意地悪なだけで本当はすっごく優しいんだから!責任感が強くて国やふしぎ星の為に一生懸命頑張ろうとしたり体張ってアタシ達の事を守ろうとしてくれてたんだからそんなに悪く―――」

言わないでよ!と言いかけて微妙に空気が変わった事に気付いたファインは改めてレインの顔を見た。
するとレインは口を開けて呆然としており、その隣ではプーモが興味深げにファインの事を見つめていた。
二人のその反応にファインは困惑する。

「ど、どーしたの二人共?」
「だってファインが男の人の事でここまで言うの初めてだから・・・」
「驚く程詳細にシェイド様について熱弁してたでプモ」
「うぇっ!?」

実は恥ずかしい事をぶちまけていたのだと気付いたファインは途端に顔を茹蛸のように沸騰させると頭を抱えて背を向けながらしゃがみこんだ。

「いいいいい今のナシ!聞かなかった事にして!!忘れて!!!」
「ここまで聞かされたら」
「ナシにしない訳にはいかないでプモ」
「そんな~!」

絶叫して涙目になるファインにレインはクスッと笑うとその小さな背中の隣に並んでしゃがんでファインの顔を優しく覗き込んだ。

「そこまでシェイドの事が好きだったなんて知らなかったわ。悪く言ってごめんね?」
「ううん・・・」
「でも旅をしてる間はそんな風には見えなかったけどいつから好きになったの?」
「えーっと・・・初めて会った時から気になってはいたんだけど・・・」
「そういえば言ってたわね、ずっと気になるって。でも好きっていう自覚はなかったの?」
「うん。一緒にいると胸がドキドキしたりホッとしたりするんだけどアタシの勘違いかもしれないって思ってたんだ」

ファインは他人の恋愛に興味はあれど自身に纏わる恋愛には全くと言って良い程興味がなかった。
それ故に恋愛経験値が少なく、家族や友人に向ける愛と特別な異性に向ける愛の区別が出来ていなかったのである。
そこへきてシェイドというファインにとって特別な異性が出来て未知の感情に戸惑っていたのだ。
それらを察してレインは先を促す。

「でも勘違いじゃないって気付いたのね?キッカケは?」
「ふしぎ星が救われたお祝いのパーティーで転んだアタシにシェイドが手を差し出してくれたでしょ?その時のシェイドが笑顔でさ。雰囲気も柔らかくて優しくて・・・アタシその時に思ったんだ。シェイドの事好きだなぁって」
「なるほどね~」
「でもこれって恋って呼んでいいのかな?ちょっと自信ないんだよね・・・」
「じゃあ私がとっておきの方法を教えてあげる」
「とっておきの方法?」
「まず最初に目を瞑って」
「うん?」
「シェイドの事を考えて」
「・・・うん?」
「ドキドキする?」
「・・・する」
「一緒にいたい?」
「・・・いたい」
「いっぱいお喋りしたい?」
「・・・したい」
「手、繋ぎたい?」
「て、手ぇ!!?」

とうとう尻餅をついてファインはすぐ後ろの壁に後退る。
そのあまりに初心で乙女のような可愛らしい反応にレインのテンションは急激に上がった。

「キャー!ファインったら手を繋ぐのを考えるだけでそんなに動揺するなんてとってもピュアなのね〜!」
「だ、だってぇ〜!」
「でもダンスを踊った時は手を取り合っていたでプモよ?」
「それはそれ、これはこれよ!ダンスで手を取り合うのと意識して手を繋ぐのは全く違うんだから!」
「でしたらその後のみんなで輪になって踊ったアレはどうなんでプモ?ファイン様はシェイド様と手を繋いでたでプモ」
「アレはふしぎ星が平和になったのが嬉しくてそんなに意識してなかったんだもん」
「私もブライト様と手を繋いだけどファインと同じでふしぎ星が平和になったのが嬉しくてそれどころじゃなかったわ」
「プモ・・・乙女心とは複雑でプモ」
「それより、さっきまで溜息を吐いてたのはシェイドの事を考えてたからなのね?」
「うん。あと、誕生日どうしようかなって」
「誕生日?」
「この間のお茶会でミルキーに聞いたんだ。まだまだ先だけど何をプレゼントしようかなって」
「好きな物は聞かなかったの?」
「聞いたよ。珍しい物が好きなんだって。特に歴史的に珍しい物とか価値のある物とか」
「これまた難題でプモ」
「珍しくて歴史的に価値のある物ねぇ」

シェイドの好きな物について三人は頭を捻りながら考え始める。
十分、二十分と考える。
しかしどれだけ考えても思いつかないし思い浮かばない。
ファインとレインがベッドの上に転がったり床の上を歩き回ったりしても何をしても思いつかない。
終いには二人して頭から湯気を出してベッドの上にパタリと倒れる始末。

「思いつかない・・・」
「さっぱりだわ・・・」
「しかもシェイド様はフットワークの軽いお方でいらっしゃるでプモ。僕達が簡単に思い付く物なんてとっくに自分で探してそうでプモ」
「有り得る」
「腹立つわ」
「こうなったら図書室で探してみるでプモ。何かヒントが見つかるかもしれないでプモ」
「「それだ!!」」

プーモの提案に二人は瞳を輝かせると早速図書室に向けて駆け出した。







おひさまの国の図書室は大きく広く、ジャンルごとに棚分けをされていても研究者達が雑多に床に放り投げる為、その棚分けもあまり意味を成していなかった。
しかしそこはガッツのあるふたご姫。
なんだろうと目的の為ならばと図書室のあちこちの本を見て回った。
時には積み上げられた本の背表紙と同じ方向に首を傾けて眺めたり、ある時は梯子に登って高い位置に収納されてる本を確認したり。
しかし目的の為と言えど寄り道してしまうのもまたふたご姫なり。

「あっ!」
「見つかったでプモ!?」
「綺麗なデコールの本だわ〜!」
「後にするでプモ!!」
「あっ!」
「あったでプモか!?」
「美味しそうなお料理の本だ〜!」
「もっと真面目にやるでプモ!!」
「「だってぇ〜」」

自分達の興味のある物、好きな物の本をペラペラと捲りながらファインとレインは顔を蕩けさせる。
と、そこでファインはとあるページが目に入ってそのページで手を止めた。

「ん?幻の『虹の蜜』を使ったケーキ?」
「『虹の蜜』?」
「何でプモ?」

聞いた事のない物に興味を惹かれてレインとプーモもファインが見ているページに視線を落とす。
本には虹色の花や茶色の実のような物が実っている写真、そしてその実からは虹色の蜜が採取出来るという事まで細かく掲載されていた。
『虹の蜜』についての説明をファインが読み上げる。

「『虹の蜜』は極稀にコーラルビーチで採取できる『七色貝』を植木鉢に植えて基本はおひさまの恵みがよく当たる所に置いて毎日水をあげる。その後、どのタイミングでも構わないので下記育成工程を必ず順番ずつ行う事。また、十分な量の蜜を採取したい場合は各工程の間隔を少なくとも一ヶ月は空けること。
①メラメラの国のめぐみの炎の近くに置いて芽が出るまで放置する
②宝石の国で七色に光る宝石で芽が緑色になるまでおひさまの恵みを反射させる
③タネタネの国で一番栄養のある木の実の蜜を土にかけて成長させる
④月の国でフルムーンの光を一番浴びれる場所に置いて蕾が出来るのを待つ
⑤しずくの国で一番澄んでいる水をあげて蕾を膨らませる
⑥かざぐるまの国の七枚羽のかざぐるまの風を当てて花を咲かせる
以上の工程を経る事で一週間後には花びらが全て枯れ落ちて代わりに茶色の実が出来上がる。実は2、3日で大きくなり、その後実の重さで茎がしなだれかかったら収穫時である。実の中には『虹の蜜』が詰まっており、これを使う事で究極のケーキが出来上がるのである・・・だって」
「なんだか色々凄いわね」
「でもすっごく美味しそう〜!どんな味がするのかなぁ?」
「それをシェイド様へのプレゼントにするのはどうでプモか?」
「え?」

虹の蜜の味を想像して涎を垂らしそうになったファインにプーモが提案をする。
一瞬にして現実に戻ったファインが軽く首を傾げるとプーモは柔らかい眼差しでファインを見つめながら説明した。

「この本を読む限り、虹の蜜はとても貴重な物のようでプモ。歴史的価値があるかはともかく、珍しい事に変わりはないでプモ。これでケーキを作ってシェイド様に贈るのはどうでプモか?」
「でもアタシ、お菓子作りなんて全然出来ないし・・・」
「だったらアルテッサに一緒に作ってもらうのはどうかしら?アルテッサはスイーツを作るのが得意よ」
「それいいね!早速アルテッサにお願いしなきゃ!」
「その前に七色貝を見つけるのが先決でプモ。極稀にしか見つからないと書いてあるから時間がかかるかもしれないし、提案しておいてなんでプモが場合によっては別の物に変更した方が良いかもしれないでプモ」
「でも出来ればアタシはこの虹の蜜を使ったケーキがいいなぁ。凄く美味しいケーキをご馳走してシェイドに笑って欲しいんだ・・・」

心細気にファインの顔が下向いていく。
ファインの脳裏に浮かぶのは切長の目を細めて難しい事を考えるシェイドの横顔。
ふしぎ星が救われた事を祝うパーティーで漸く彼の笑顔を見る事が出来たとはいえ、それでもファインの中のシェイドは笑っていない印象が強かった。
この印象はきっと自分が彼に何かをして笑顔にさせる事で塗り替えられるとファインは直感していた。
確かにふしぎ星を救った事でシェイドの母親であるムーンマリアを目覚めさせる事が出来てシェイドは笑顔になったがこれらは全てファインとレイン、そしてプーモの決死の覚悟のプロミネンスの力があったから。
そんな切羽詰まった状況且つプロミネンスという特別な力ではなく、自分の力でシェイドを笑顔にしたいのだ。
それにこそ意味があるのだから。
しかしいきなり立ちはだかった大きな壁を前にファインは不安になり、縋るような瞳をレインに向ける。

「七色貝、見つかるかなぁ?」
「大丈夫大丈夫!私もプーモも一緒に探すからきっと見つかるわ!」

レインの「大丈夫大丈夫」はファインにとってどんな不安も吹き飛ばす魔法の呪文だった。
大好きなレインに励まされてファインは一転して表情をぱぁっと明るくさせると「そうだよね!」と嬉しそうに大きく頷いた。

「それにいざという時はパールちゃんに相談しましょう。パールちゃんは海の国のプリンセスだからきっと何か知ってる筈だわ」
「そっか、パールちゃんに相談するって手もあったね!」
「とりあえずは自分達の力で探してみるでプモ」
「「おー!!」」

ファインとレインは拳を上げて気合を入れ、早速コーラルビーチに向かうのだった。







コーラルビーチは生憎の天気だったがゆっくり海岸を探索するには丁度良かった。
しとしとと雨が降る中、三人は傘を差して七色貝を探した。
シャベルで軽く掘り返したり波打ち際を注意深く見て回ったりなどしたが見つかる気配は一向になく。
探索を始めてから一時間くらい経過した所で三人は七色貝の特徴をおさらいすべく一旦集まった。

「七色貝、全然見つからないね~」
「極稀は伊達じゃないわね」
「文字通り七色の貝なんだよね?」
「そうでプモ。そして浜辺に落ちている可能性が高いらしいでプモ」

本を所持していたプーモが雨に濡れないように注意しながら本を広げてファインとレインに見せる。
掲載されている写真の七色貝を三人はもう一度よく眺めて記憶に刻み付けると同時にこれまで浜辺で見かけた貝と照合する。
しかしどれも一致するものはなく、予想通り探索は長期戦の様相を呈していた。
だがこんな事でへこたれる三人ではない。

「ビーチは広いわ。もっとよく探してみましょう!」
「うん!」
「僕はあっちの方を探してみるでプモ!」

『ハーイ!パールちゃんもお手伝いしまーす!』
『ブモー!』

プーモの後に突然続いた高い声と低い声に驚いて三人は周囲を見回す。
すると海の中から大きな貝殻が浮かんできてパカッと開き、中から海の国のプリンセスパールとその横からブウモが顔を出した。

「パールちゃん!?」
「ブウモ!?」
「ハーイ!お久しぶりデースふたご姫!」
「相変わらず間抜け面でブモな~」
「二人共久しぶり!」
「元気にしてた?」
「勿論デース!パールちゃんはこの通り元気デース!ふたご姫が来ていると聞いて会いに来たのデスが探し物をしてるみたいデスねぇ」
「うん。実は七色貝っていうのを探してるんだけど二人共知らない?」
「七色貝デスかー?」
「もしかしてお前ら、虹の蜜でも採取するつもりでブモか?」
「え?ブウモ知ってるの?」
「当然でブモ!グレイスに封印される少し前に口にした事があったでブモがほっぺが落ちそうになる程美味かったでブモ~!」

ブウモが自分の頬を抑えながらその時の事を思い出して顔を蕩けさせる。
闇から解放されて改心したブウモのこの反応からして嘘ではないのだろう。
それらの情報に対してファインの胸は期待で膨らみ過ぎて涎が出る始末だった。

「そんなに美味しいんだ~」
「涎が出てるわよ、ファイン」
「でもまさかそれが最後の晩餐になるとは、でプモ」
「悪い事って出来ないよね」
「そうね」
「煩いでブモ!!」
「ところでパールちゃんは七色貝について何か知らない?」
「どこに落ちてるとか見つけ方のコツとか知らないかしら?」
「七色貝は深い海溝から時々何かの拍子に浮き上がってきてこのコーラルビーチに流れ着く事がありマース。なので辛抱強く探すしかないデース」
「そっかぁ・・・」
「でもパールちゃんも探しマース!ふたご姫のお手伝いをするのデース!」
「パールちゃん・・・!ありがとう!」
「仕方ないからこのブウモ様も手伝ってやるでブモ」
「あはは、ありがとう、ブウモ」
「それじゃあ手分けして頑張って探しましょう!」
「「「「おー!」」」」

五人は拳を天に向けて突き出すと七色貝の探索を再開した。
パールとブウモは海に住んでいる事もあってか、雨に濡れる事を気にせず浜辺を探してくれていた。
そんな二人にも感謝しつつ絶対に見つけようとファインは内心で決意をしてより真剣により注意深く七色貝を探し回る。
そうしてファインが一人離れた所を探しているタイミングでパールとブウモがレインとプーモに七色貝を探す理由を聞いた。

「物凄く真剣に探しているようデスが誰かにプレゼントでもするのデスか?」
「ええ、そうよ。シェイドっていう男の子、覚えてないかしら?月の国のプリンスなんだけど」
「前に助けに来てくれた人デスね、覚えてマース!」
「あのスカしたいけ好かない野郎がどうしたでブモ?」
「そのスカしたいけ好かないぶっきらぼう人間のシェイドにファインが虹の蜜を使ったケーキを誕生日に贈ってあげたいって言ってて」
「まぁ!特別な方なんデスね!」
「アイツも変わった趣味をしてるでブモな」
「そうなのよ~」
「レイン様、ファイン様にシェイド様を悪く言うなと怒られたばかりでプモ」
「だって本当に面白くないんだもの。そりゃいつかはファインだって好きな人が出来て私から離れる事になるけどその相手がよりにもよってあのシェイドってのが・・・」
「もしかしてシェイド様がファイン様に怒鳴ったあの時の事を根に持ってるでプモ?」
「そりゃそうよ。だってファインは私の為に無茶してくれたんだもの。それを知っていながらあんなに怒鳴りつけるなんてあんまりだわ」
「それほどファイン様を心配なさっていたという事でプモ」
「そうだけどシェイドは怒りっぽいのよ。あれじゃあファインが大変だわ」

はぁっと忌々し気にレインは溜息を吐く。
レインは生まれた時からずっとファインと一緒でファインがレインの事を大好きなようにレインもファインの事が大好きだった。
しかしだからと言っていつまでもずっと一緒にいられる訳ではない。
プリンセスという立場もあり、どこかの国に嫁いで血を繋いでいかなければならない。
レインは勿論ブライトと結婚するという野望もとい夢があるが為にファインとの別れは避けられないものだと早くから理解していた。
怖がりで臆病で、それなのに無防備で他人の為に危険を顧みず飛び出す危なっかしくも可愛い片割れを任せられる相手を早くから探して自分がいなくても大丈夫なようにしてあげようと思っていたがまさか探す前にファインが見つけてしまうとは。
しかもそれがよりによってあのシェイドだなんて、とレインは頭を抱える。
勿論ファインやプーモが言うようにシェイドが優しいのはレインも理解している。
しかし大切なファインの一番を将来的に自分から取り上げるだけでも気に入らないというのに、ブウモが言うようにスカしていていけ好かない態度がもっと気に入らなかった。
エクリプスの正体が明かされる前の猫被った品行方正のプリンスシェイドであればまだ任せる気にもなれたが全てを知った今ではその気は全くなくなっていた。
加えてまだブライトが闇に堕ちていた頃、レインを気遣い、ブライトを心配して一人でブライトの様子を見に行ったファインをシェイドが怒鳴ったあの件がそれらに拍車をかけていた。
心配していたのは分かるが怒鳴るのはあんまりだ。

「心配しなくても大丈夫デース!好きな人が出来たら人は変わるという話がありマース!」
「俺様みたいにな!」
「アナタが言うと本当に説得力が違うわね・・・」
「おひさまの恵みを巡る騒動で露骨に劇的変化があった奴でプモ・・・」
「何とでも言うでブモ。俺は毎日パールちゃんといられて幸せでブモ。お前も悔しかったら好きな人の一人や二人作ってみるでブモ」
「う、うるさいでプモ!僕にはファイン様とレイン様を見守るという使命があって恋人を作っている暇なんか―――」

「あった!!!」

負け惜しみの言い訳を並び立てようとしているプーモの言葉をファインの歓喜に満ちた声が遮る。
みんなで驚いてファインの方を見るとファインは空に向かって何かを翳していた。
もしやと思い、駆け寄ってファインが翳している物を見るとそれは七色に輝く貝であった。

「ファイン、もしかしてそれって・・・!」
「うん!七色貝だよ!ね?プーモ、パールちゃん!これ七色貝だよね!?」

翳していた七色貝を掌に載せてプーモとパールに見せる。
プーモは本を開いてそれを確認し、パールは自分の記憶と照らし合わせてそれが本物の七色貝であると頷いた。

「間違いないでプモ!本に載っている七色貝そのものでプモ!」
「おめでとうございマース!これも愛の力デース!」
「あ、愛!?」
「まだシェイドなんかとは何も始まってもないんだからワンランク下の恋の力よ!」
「レイン様、大人気ないでプモ」
「ていうかランクがあったでブモか」
「好きな人の為にも頑張って下サイ!パールちゃん達も応援してマース!」
「うん!ありがとう!!」

ファインは満面の笑みを浮かべると七色貝を大事に握り締めるのだった。







それからおひさまの国に戻ったファインは早速茶色の小さな植木鉢を用意すると本の通りに七色貝を植えて水をやり、空中庭園の一番日当たりの良い場所にそれを置いて鼻歌を歌いながら眺めていた。
シェイドの為、というのが癪だがそれでもファインの幸せそうな顔を見ているとレインも自然と笑顔になり、ファインに優しく語りかけた。

「立派に育つといいわね」
「うん!」
「ファイン様、ちゃんと毎日水やりをするでプモよ?」
「分かってるよ!ところでメラメラの国から始める育成はピースフルパーティーに合わせてやる感じでいいかな?」
「いいと思うでプモ。ピースフルパーティーは約一ヶ月毎に行われる予定でプモから丁度良いでプモ。それに最後のパーティーが終わって二週間後にシェイド様の誕生日があるでプモ」

ふしぎ星が救われた記念、そして改めて各国仲良く手を取り合ってふしぎ星の平和を守っていこうという意向から『ピースフルパーティー』というものが開かれる運びとなった。
ちなみに内容はプリンセスパーティーの仕切り直しのようなものである。
一年を通して開催されたプリンセスパーティーはどれ一つとして平和に滞りなく終わった試しがない。
そこで今度は競争性を抜きにし、また、プリンス勢も参加して各国のプリンス・プリンセス達が協力してパーティーを盛り上げるというものに決まったのだ。
しかし1年後にはミルキーとナルロを抜いたプリンス・プリンセス一同がロイヤルワンダー学園に入学する事もあり、時間が押している関係もあってパーティーのテーマと順番はプリンセスパーティーと同じであり、一ヶ月毎に行うというやや駆け足なスケジュールとなっている。
本当はゆっくり行いたい所だが学園への入学とふしぎ星の平和をどうしても祝いたい・願いたいという各国の強い意志で決まった次第である。
元々聞き分けがよく、そしてふたご姫の影響もあって各国のプリンス・プリンセス一同からは全く異論が出なかったのがせめての救いなのかもしれない。

「レインもプーモもシェイドには内緒だよ?あっ!て驚かせたいんだ!」
「勿論よ!」
「必ず成功させるでプモ!」

頼もしく頷いてくれる二人にファインも笑顔を返す。
庭園に吹く人工の暖かい風が三人の頬と心を穏やかに撫で付けるのだった。






続く
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