毎日がプリンセスパーティー

前回までのあらすじ!
おひさま領を管理する公爵一家のふたごの令嬢のファインとレインは古い時代の令嬢レディグレイスより闇の宝石の浄化と回収の使命を与えられる!
その為に『サニーストーン』と呼ばれるハートの石のペンダントを授かった二人は『怪盗レディ・ツインズ』に変身し、二人のサポーターとして遣わされた精霊プーモと共に日夜活躍するのであった!
しかしいく先々に現れる謎の青年エクリプスに警戒するレインとプーモ、気になって仕方ないファイン。
それとは関係なしに今日も今日とて宝石領の令息ブライトに思いを馳せすぎて妄想が暴走するレイン。
二人の運命や如何に!?

「ねぇレイン。今回が初めてで読み切りの予定なのに何で前回のあらすじなんてのがあるの?」
「そういうのをやってる作品があったからやってみたかったのよ」
「裏話はここまでにして本編を始めるでプモ!」






ここはおひさま領を管理する公爵一家のふたごの令嬢の部屋。
仲良しの二人は部屋も一緒だ。
二人は今、予告状を準備している真っ最中である。

「ねぇねぇレイン!次の予告状はこの水玉模様のにしようよ!」
「あら、こっちの三角模様のも可愛いわよ!」
「こんなにも遊び感覚で予告状を書く怪盗もそういないでプモ・・・」

キャッキャと楽しそうに予告状の柄を選ぶファインとレインを前にプーモは呆れたように呟く。
普通なら緊張感を持ってシリアスにするものであるがこの二人はそんなものとはまるで縁がないらしい。
今だって三角模様の予告状に決めたかと思えばどの色のペンで書こうか、などと話し合っている。
ちなみに字体はクールでオシャレな筆記体等ではなく、可愛らしい女の子全開の柔らかな線の字体である。

「今夜『炎の涙』をいただきます。怪盗レディ・ルビー」
「レディ・サファイア」
「「出来たー!!」」

予告状を書き上げて嬉しそうにハイタッチする二人。
ちなみにレディ・ルビーはファインの、レディ・サファイアはレインの怪盗に変身した時の別名である。
そのままの名前を呼ぶのは流石に不味いのでプーモが別名を提案し、二人で考えたのだ。
ちなみに二人が怪盗に変身するとプーモの見た目も怪盗衣装に変わり、語尾も「プモ」から「ゼニ」に変わる。
その事からプーモの別名は「ゼーニ」と命名されたのだが、本人はあまり納得がいっていない。

「それじゃプーモ!」
「予告状届けるのお願いね!」
「分かりましたでプモ。テレプーモーション!」

プーモは移動の為の呪文を唱えると薄黄色の光と共に姿を消した。
それから少しの間を空けてファインがポツリと呟く。

「・・・今回もエクリプスは来るのかな?」
「きっと現れるに違いないわ!注意しなくっちゃ!」

途端に眉を吊り上げて強く言い放つレインにファインはやはりか、と苦笑いを溢す。
行く先々で現れる謎の青年エクリプス。
特に何かをしてくる訳ではないが何故か二人に付き纏って動向を探ってきている。
これをレインとプーモは不審に思って警戒しているのだがファインはその逆で悪い人じゃない、話をしてみたいという気持ちを抱いていた。

「で、でも今の所は何もしてきてないよ?」
「甘いわよファイン!ああやって隙を窺って私達を油断させようとしてるのよ!」
「油断させて何するの?」
「浄化した闇の宝石を横取りしたり或いは私達を手籠めにしようとしているのかもしれないわ!」
「う~ん、そんな事をするようには見えないんだけどな~」
「とにかく!またエクリプスが現れても不用意に近付かない事!いいわね!?」
「う、うん・・・」

レインを納得させるだけの材料がない為にファインは渋々と頷く事しか出来なかった。







そしてその日の夜、時計が21時を報せる鐘を部屋に響かせる。
ミッション開始の合図だ。

「「プロ~ミネンスドレスア~ップ!!」」

ファインは赤いサニーハートに、レインは青いサニーハートにキスをして石に秘められた力を解放する。
いつもの動きやすい服装は光に包まれると一瞬にして怪盗に相応しい真っ黒なマントや帽子、マスクの着いた衣装へと様変わりする。
変身を終えた所で三人は出発前のブリーフィングを始める。
進行役はプーモだ。

「今回のターゲットはメラメラ領を収める公爵一家の令嬢リオーネ様が身に付けている『炎の涙』と呼ばれるネックレスでゼニ。どうやらいつの間にやらリオーネ様の所有する宝石箱の中に紛れていたらしく、何も知らずにリオーネ様はそれを身に付けてしまったようでゼニ」
「それで、リオーネは?」
「活発で明るい方であったのが一変して暗い顔で俯いて泣き続ける方になってしまったようでゼニ」
「あんなに明るいリオーネがそんな事になってるなんて・・・」
「アタシたちで何とかしなくちゃね!」
「ええ!早速行きましょう!」
「それでは行きますでゼニ!テレプーモーション!メラメラ領の公爵一家の屋敷へ!」

プーモが移動魔法を唱えるとファインとレインは今朝のプーモと同じように薄黄色の光に一瞬にして包まれた。
そして―――

「「とーちゃく~!って、屋根の上~!!?」」

無事にメラメラ領を治める公爵一家の屋敷に到着した二人。
しかし屋根の上という事もあって絶叫するとプーモがすぐさま注意をした。

「静かにするでゼニ。屋敷の人に気付かれるでゼニ」
「ごめんなさ~い」
「ん?ねぇ、あれ・・・」

レインが苦笑しながら謝罪している横でファインが何かに気付いてそちらを指差す。
何だろうと気になってレインとプーモもそちらに目を向けるとそこには一人の少女が佇んでいた。
月の光を浴びてただ静かに涙を流す少女―――リオーネ。
その姿は儚くも可憐で、しかし今にもその身を夜の闇に捧げてしまいそうな危うさがあった。
そしてその雰囲気を助長するように不気味に輝く胸元の赤い『炎の涙』のネックレス。
ただならぬその様子にファインとレインは顔を見合わせる。

「あれって!?」
「もしかして!?」
「闇の宝石でゼニ!」

「リオーネ!リオーネ!どこにいるの!?返事をしなさい!」
「うぉおおお!リオーネ!どこだ!どこだ!!どこだー!!!」
「返事をするのだ、リオーネ!」

屋敷の中からリオーネの姿を探す公爵夫婦とその息子であり長男のティオ、その他に使用人たちの慌てたような声が轟く。
恐らくリオーネが姿を消した事に気付いて探しているのだろう。
一刻も早くリオーネを闇の宝石から解放して家族の下に返さねばと二人は頷き合ってサニーストーンに手を翳した。

「「カモン!サニーステッキ!」」

その瞬間、サニーストーンから可愛らしい装飾が施された宝石のステッキが現れた。
ファインのはルビーが、レインのはサファイアがメインのステッキだ。

「トゥインクル・スティール・ダークネス!」
「トゥインクル・ライトオブ・ピュアフリ!」

ファインの持つステッキの先から赤く煌めく光が放たれてリオーネを蝕む『炎の涙』に宿る闇を浚う。
続けざまにレインの持つステッキの先から青く輝く光が放たれてファインの光が浚った闇を包んで浄化し、白い光に変えて霧散させた。
するとどうだろう、リオーネの流していた悲しみの涙は止まり、虚ろだったリオーネの瞳に光が戻った。

「・・・あ、あれ?私・・・何をして・・・って!?ええっ!!?」

意識を包む白い靄が晴れて自我を取り戻したリオーネは呆然としながら状況を把握しようと辺りを見回す。
しかし自身が今いる場所が屋敷の屋根の上である事、眼下に広がる遠い地面に気付くとパニックを起こして体勢を崩して落下しそうになる。

「「あぶな~い!!」」

そこをギリギリの所でファインとレインが駆け寄って片方ずつ腕を引っ張って後ろに引き寄せて事無きを得る。

「ふぅ!危なかった~!」
「大丈夫?リオーネ?」
「あ、ありがとう・・・貴女達は?」
「やだなーリオーネ!アタシ達だよ、ファ―――」
「ルビー様!!」
「あ、じゃなくて!!アタシは怪盗レディ・ルビー!」
「私は怪盗レディ・サファイアよ!」
「怪盗ルビーとサファイアって・・・もしかしてあの『怪盗レディ・ツインズ』?」
「「そうそう!」」
「あのもっとも怪盗らしくない怪盗って言われてる?」
「「そ、そうそう・・・」」
「否定出来ない所がまた悲しみを誘うでゼニ・・・」

可愛らしい予告状、可愛らしい字体、盗みに来た筈なのにシリアスな雰囲気になるかと思いきやピクニックに来たような陽気なテンション、などなど上げたらキリがないくらい怪盗らしくない振る舞いをしていた結果、二人はそんな不名誉な呼び方をされているのであった。
ちなみに言うと公爵令嬢でありながら令嬢らしくない振る舞いが多い為、『もっとも令嬢らしくない令嬢』とも呼ばれている。
表と裏で不名誉な呼び方をされるなんてこのふたごの令嬢くらいしかいないとプーモは情けなさから肩を落とすしかなかった。

「と、ところでリオーネ!お願いがあるんだけど」
「その『炎の涙』を私達に譲ってくれないかしら?」
「このネックレスを?」
「そうそう!」
「それは『闇の宝石』と言われるとっても危ないデコールなの」
「今はアタシ達が浄化したから安全になったけど、またいつ闇に染まるか分からないの」
「また闇に染まったら今みたいにリオーネはその『闇の宝石』に操られて危険な目に遭うかもしれないわ」
「だからお願い!」
「私達にそれを譲って!」
「ええ、いいわよ!」
「ええっ!?」
「本当にいいの!?」

快く即答したリオーネにファインもレインも自分達で言っておきながら驚きのあまり思わず聞き返す。
しかしリオーネは自分の発言を覆さなかった。

「勿論よ!だって二人は私を助けてくれたんだもの」
「でもでも!もしかしたらアタシ達が嘘をついてるかもしれないんだよ?」
「本当はそんな事ないのに騙してるのかもしれないわよ?」
「そんな風に言う人が悪い人だなんて思わないわ。それに悪い人なら乱暴に奪ってる筈でしょう?」
「それは・・・」
「そうかもしれないけど・・・」
「それに二人が言う通り、私もこのネックレスは持っていても良くない気がする。小さい頃にお婆様が絶対にこのネックレスに触ってはいけないって言ってて、でもそれが何故か私の宝石箱の中に入ってたの。どうして?って思って手にしたら突然悲しい気持ちになって・・・」
「闇の宝石の力でゼニね」

闇の宝石は持ち主の心に強い負の感情の影響を与える。
影響の内容は様々で怒りに囚われたり善人から一変して悪人にしてしまう事もある。
今回のリオーネは悲しみの感情に囚われたとみて間違いないだろう。

「後はもう二人の知っての通りよ。気付いたら私はここにいたわ。二人が助けてくれなかったら今頃私は・・・だから同じような事が起きない為にもこの宝石をお願いしていいかしら?」
「うん、勿論だよ!」
「私達がしっかり管理しておくわね!」
「ありがとう。二人も気を付けてね」
「「うん!!」」
「さぁリオーネ、大きな声で家の人を呼んだ方がいいわ。降りられないでしょう?」
「そのくらい大丈夫よ。見てて!」

リオーネは得意気にウィンクすると真っ直ぐに立ち上がり、深呼吸を一回すると足場を蹴って飛び上がった。

「「「あぁっ!!?」」」

予想外の行動にファインもレインもプーモも揃って驚きの声を上げる。
もしや闇の宝石の影響がまだ残っていたのか?
そう思って慌てて手を伸ばそうとするがリオーネは空中で素早く体を丸めた。
そしてそのままくるくると回転すると華麗にテラスに着地して両手を横に大きく広げて「はいっ!」とポーズをとって見せた。
まるで曲芸のようなその技に三人は揃って拍手と歓声を送る。

「すごいすご~い!」
「まるで新体操みたいだわ~!」
「お見事でゼニ!」
「ありがとう!家の中の騒ぎは私が上手く片付けておくから二人はその間に逃げて!」
「「うん!ありがとう、リオーネ!!」」

リオーネはファインとレインに笑顔で手を振るとそのまま屋敷の中へ入って行った。
その後に僅かであるがリオーネの家族が酷く心配していたといったセリフが漏れ聞こえ、ファインとレインは顔を見合わせて笑顔を浮かべる。

「これで一件落着だね」
「そうね。私達もそろそろ帰りましょうか」
「うん!」

ファインが頷いたその瞬間、ヒュッという空気を切り裂くような音が鋭く響き、次いで蛇ような何かがファインの持っていた『炎の涙』に絡みついた。
それからぐいっと引っ張られて『炎の涙』はあっという間にファインの手から離れてしまう。

「あっ!?『炎の涙』が!!?」

驚きながらファインは『炎の涙』を目で追う。
その先には満月を背に同じく屋根の上に立つエクリプスなる青年が佇んでいた。
エクリプスの手の中で『炎の涙』が月の光を受けてキラリと輝く。

「「「エクリプス!!?」」」

声を上げて驚く三人にしかしエクリプスは反応を示さない。
マイペースなのか単に興味がないだけなのか、三人には目もくれず『炎の涙』をあらゆる角度から眺めていた。

「いつからそこに!?」
「今来た」
「本当にそうかしら!?リオーネが危険な状態だったのを眺めてたんじゃないの!?」
「そんな訳ないだろ」
「信用出来る訳ないじゃない!」
「まぁまぁ落ち着いて、レイン。ずっといたならアタシが気付いてるよ。ほら、アタシは野生の勘が強いからさ」
「そうかもしれないけど・・・って、ファイン!?」

未だ不満を露わにするレインをそのままにファインは無防備にもエクリプスに歩み寄って本気で心配するように手を差し出す。

「ねぇエクリプス、それ返してくれる?それは闇の宝石って言って凄く危ない物なんだよ。エクリプスも闇に囚われたら大変だよ。だから、ね?」
「元々闇の心を持っている奴が身に付けたらどうなる?」
「え?」

射抜くような夜空色の瞳に真っ直ぐに問われてファインは固まる。
綺麗な瞳だ。
そこに映る自分が怪盗姿なのが少し残念だが。
などと心の片隅で思いながらファインはプーモの方を振り返ってエクリプスからの質問に対する答えを求める。

「プー・・・じゃなくてゼーニ、どうなの?」
「闇の心を持つ者が闇の宝石を身に付けると闇の共鳴が起きて他人に不幸をもたらすでゼニ」
「そうなんだ・・・」
「他人にって事は闇の心を持つ人には不幸は降りかからないの?」
「闇をコントロールする者、或いは闇の王となればその限りではないでゼニ」
「闇の王・・・」

噛み締めるようにエクリプスはポツリと呟くと持っていた『炎の涙』を静かにファインに差し出した。

「もう十分だ。返すぞ」
「あ、うん。ありがとう」
「元々エクリプスが奪ったんだからお礼を言う必要なんてないわ!」
「あはは、言われてみればそうだね」
「じゃあな」
「あ、待ってエクリプス!」

踵を返して背を向けるエクリプスの手をファインは咄嗟に掴む。
一応話を聞いてくれる気があるのか、エクリプスはチラリとファインに視線を流して何事かを暗に尋ねる。

「・・・」
「ねぇ、もしかして闇の宝石の事で何か困ってない?もしそうだったらアタシ達、力になるよ?」
「ルビー!」
「ルビー様!」

ファインの言動をレインとプーモが咎める。
敵か味方かもわからない不審者同然のエクリプスに手を差し伸べるなどレインもプーモも受け入れられる筈がなかった。
しかしファインはそれには耳を貸さず真っ直ぐに純粋な瞳でエクリプスを見つめる。
そらから永遠にも感じられるような三十秒程の時が流れるとエクリプスは瞳を閉じて緩くファインの手を振りほどく。

「利用はさせてもらう」

それだけを言い残すとエクリプスはフワリと屋根から飛び降りた。

「あっ!エクリプス!!」

慌てて追いかけて屋根の下を覗き込むもエクリプスは既に砂トカゲのレジーナに跨っており、黒い影がひしめく森に向かってその身をくらませてしまった。
暗闇の中に溶け込んでしまった姿をファインが呆然と見つめる後ろでレインが頬を膨らませて怒る。

「もう何よ!折角ルビーが助けてあげるって言ってるのに利用するだなんて!」
「ルビー様、いくら何でも無防備過ぎでゼニ。不用意に近付いては危険ゼニ」
「でもそんな言う程悪い人じゃないと思うんだ・・・」
「だとしても!今後はもっと慎重になって行動するでゼニ!」
「う、うん・・・」

頷きながらもファインはエクリプスが悪人であると自分に言い聞かせる事が出来ないのであった。








あれから数日後、宝石領を治める公爵一家のホームパーティーにお呼ばれされる事となったファインとレイン。
宝石領を治める公爵一家と言えばレインの憧れの令息ブライトがいる家。
招待状が届いた日から浮かれており、当日となった今に至っては大はしゃぎであれこれと着ていくドレスやデコールなどを何度も悩みながら選んでいた。
時間が迫っていたのとあまり気合いを入れ過ぎて浮いてしまうのも良くないという事で結局は普段と変わらない装いとなったがブライトに会えるというその一点だけでレインは気にしなかった。
しかし悩みが一つ。

「はぁ・・・」
「どうしたのレイン?」
「先程まであんなにはしゃいでいたのに溜息を吐いてどうしましたでプモ?」

馬車に揺られている道中、眉を下げて重く息を吐くレインの顔を覗き込みながらファインとプーモが心配する。
レインは複雑そうな表情を浮かべると素直に悩みを口にした。

「最近知ったんだけどね・・・」
「うん?」
「ブライト様、怪盗に変身した私の事が好きみたいなの」
「えっ!?そうなの!!?」
「でも私にはさっぱりでしょう?それがもどかしてくて・・・」
「変身前のレイン様ではなく変身後のレイン様の方を好きになられるとは中々に複雑でプモ」
「そうなの~。ねぇプーモ、ブライト様にだけ私の正体を話してもいい?」
「駄目に決まってるでプモ!!」
「お願~い!そこをなんとか!!」
「駄目って言ったら駄目でプモ!!」
「そんな~!」

涙目で嘆くレインに苦笑いしながらファインはその肩を優しく叩いて励ます。

「まぁまぁ、レイン。そんなに落ち込む事ないって。前向きに考えれば変身後のレインを好きになったって事は変身前のレインでも十分可能性はあるよ。だって中身は同じレインなんだからさ」
「それもそうね!どっちも私なんだし!流石ファイン!」

先程までの悩みはどこへやら、ケロっと明るくなったレインの切り替えの早さにプーモは最早脱帽するほかなかった。
それから程なくして馬車は到着し、扉が開かれると同時にレッドカーペットが敷かれると件のブライトが二人を出迎えてくれた。

「ようこそ、レディレイン、レディファイン」
「ブライト様!!」
「やっほー、ブライト」
「お迎えいただき感謝致しますでプモ」
「さぁ、こちらへどうぞ。他のみんなも来ているよ」
「はぁ~い!」

本当にさっきまでの悩みはどこへやら、レインは目をハートにして背中に羽が生えたかのような軽やかな足取りでブライトの後について行く。
レインが幸せで気にしないのならもうそれでいい、とやや呆れながらプーモとファインもその後について行って中庭へと足を運んだ。
そこでは他の領土を治める公爵一家の令嬢と令息が集まっており、飲み物を片手に賑わっていた。
長くて大きいテーブルの上には豪華で見た目の盛り付けも綺麗な料理が沢山並べられており、瞬く間にファインの目を奪う。

「わぁ~!美味しそう~!」
「まだ食べちゃ駄目でプモよ」
「分かってるって!・・・ん?」

ふと視界に入った人物にファインは目を向ける。
木に背を預けて遠くを眺めるグレーのスーツを着た夜空色の髪と瞳をした青年。
切れ長の目と横顔が一瞬だけエクリプスと重なる。

(あれ・・・?)

一度重なってしまったものはもう切り離す事が出来ず、ファインは青年を真っ直ぐに見つめ続けた。
しばらく見つめていた所為で視線に気付いたのか、青年はファインの方を向くとそれまでの静かな雰囲気から一転して人当りの良さそうな柔らかい笑みを浮かべると歩み寄って来た。

「僕の顔に何か付いてますか?」
「あっ!?い、いえ!大丈夫です!ごめんなさい・・・!」

まさか話しかけられるとは思わずファインは慌てて謝った。
しかし青年は特に気に障った風もなく物腰柔らかに微笑むと自己紹介をする。

「いえ、お気になさらず。僕は月の領土を治める公爵家の長男シェイドです」
「あ、アタシはおひさまの領土を治める公爵家の次女ファインです!」
「どうぞ宜しく」
「こちらこそ・・・」

握手を交わしてファインは青年―――シェイドの瞳を見つめる。
エクリプスと同じ色の瞳。
違うのは優しいか冷たいか。
けれど目の前の瞳が称える優しさは仮面のような偽りに見えてならない。
どうにも気になってファインは無意識に首を傾げる。

「どうかしましたか?」
「いえ・・・あの、アタシ達・・・会うのは今日が初めてですよね?」
「ええ、その筈ですが」
「だよ、ね・・・」
「それでは僕はこれで。他にも挨拶をしなければならないので」
「うん・・・じゃあね?」

静かに踵を返して立ち去る背中。
それすらもファインの心を占めるエクリプスと重なる。

「ファイン様、どうしたでプモ?」
「う、うん・・・ちょっとね・・・」

心配するプーモに、しかし何と説明すればいいか分からずファインは曖昧に濁すのであった。






終われ!
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