毎日がプリンセスパーティー

グレイスストーンを探す為のヒントを得る為におひさまの国の図書室で調べ物をしていた一行。
大量にある書物の中から情報を集めるのは中々に骨の折れる作業で、該当しそうな書物を全て読み漁るのに夜までかかった。
その最中にファインとレインが脱線しそうになってはプーモとアルテッサが叱って軌道修正し、ティオがドジを踏んで本の雪崩に遭ってはシェイドの溜息を買っていた。
シェイドはシェイドで真面目に探してはいたものの、個人的に気になった書物は今度借りようとさりげなく本のタイトルをメモしていたがそれに気付いた者はいなかった。

「やっと全部読み終わった〜」
「疲れたわねぇ」
「こっちは貴女達の軌道修正するのもプラスして倍疲れましたわ・・・」
「全くでプモ」

積み上げた本を枕代わりにへたりこむファインとレインに対して大きな溜息を吐きながら座り込むようにして本棚に寄りかかってアルテッサとプーモが愚痴を溢す。

「だがまぁ、大体情報は集まったな。これを元に明日からまたグレイスストーンを探すとしよう」
「はい!」

情報を記録したメモと共にさりげなく借りる本のリストを懐にしまったシェイドに頭にタンコブを沢山作ったティオが元気に頷く。
そこにエルザとトゥルースが図書室の入り口に立って顔を出す。

「調べ物は済んだかい?」
「そろそろお夕飯の時間ですよ」
「ご飯!!」
「もうお腹ペコペコだわ」

夕飯と聞いて一番最初に反応したのはやはりファインで、その後に笑顔で続いたのがレインだった。
変わらず元気な愛娘達に微笑みつつエルザはシェイドとティオの方を見て声をかける。

「プリンスシェイドとプリンスティオもいらっしゃって。二人の分も用意してありますよ」
「いえ、お構いなく。僕はこれで―――」
「えー!?シェイドも一緒に食べようよ!」
「みんなで食べましょう?」
「遠慮はいりませんでプモ」
「エルザ王妃の折角のお誘いを無碍にするのは失礼ですわよ」
「プリンセスアルテッサの言う通りです師匠!ご馳走になりましょう!」

控え目に遠慮しようとしたシェイドを五人が引き止める。
ファインは寂しそうに、レインはニッコリと微笑み、プーモは礼儀正しく人懐こそうな笑顔で、アルテッサは叱るような表情で、ティオは純粋で真っ直ぐな瞳でそれぞれ見上げて来る。
元々根が優しくて何だかんだお人好しなシェイドはそんな五人からの視線に勝つ事が出来ず、仕方ないといった風に小さく溜息を吐いて「では、お言葉に甘えて」と頷くのだった。

「「決まり!みんなでごはーん!!」」

シェイドの同席も決まり、ファインとレインは嬉しそうにハイタッチを交わすとエルザとトゥルースの後ろを足取り軽くついて行く。
その後にアルテッサ達も続いて皆で夕食と相成った。







食事の風景というのは家庭ごとに違うのは当然の事。
例えば宝石の国の王宮だと優雅な風景、月の国だと静かな風景、メラメラの国だと賑やかな風景である。
ではおひさまの国はというと、温かな風景であった。
主にファインとレインが中心となって外での出来事を話し、それにトゥルースとエルザが驚いたり笑ったりして楽しそうにしている。
そこにアルテッサも加わって二人の話に呆れたコメントを入れたりツッコミをしたりしていて恐らく今現在はこれがいつもの風景になっているのだろう。
スープを口に含みながらシェイドは横目にファイン達を観察してそんな風に考える。
ちなみに席の並び順はレイン・ファイン・アルテッサ・シェイド・ティオとなっている。

「それでね、みんなで躓いて泥に突っ込んじゃったの!」
「そうそう!どてーんって!」
「あの時は盛大に泥を被って散々でしたわ・・・」
「その後にアタシ達を助け起こそうとしたティオが滑って同じように泥に突っ込んでね」
「シェイドに『お前ら何やってんだ』って呆れられちゃったの」
「そしてトドメに土砂降りの通り雨に降られて踏んだり蹴ったりでしたでプモ」

プーモの締めくくりにまた大きな笑いが巻き起こる。
泥を被った時の事を思い出して溜息を吐いていたアルテッサもなんだかんだ言って笑っており、ティオも楽しそうに笑う。
そしてシェイドも、リラックスしたような表情で静かに笑みを浮かべるのだった。

「この間、所々泥だらけだったりびしょ濡れで帰ってきたのはそう言う事だったんだね」
「大変だったみたいですけどみんなが楽しそうで安心しましたよ」
「でもでも!ちゃんと真面目にグレイスストーンも探してるよ!」
「そうよ!他にもみんなを笑顔にする為に頑張ってるわ!」
「ええ、分かっていますよ」
「頑張っていると言えばプリンスティオとプリンスシェイドも結構体を張って頑張っていると聞くね。大丈夫かい?無茶はしていないかい?」
「なんの!プリンセスを守るのがプリンスの役目なれば!それに私めはドジばかり踏んであまりお役に立てておらず・・・」
「そんな事ないよ!アタシ達、ティオにはよく元気を貰ってるよ!」
「そうそう!凹んだり落ち込んだ時に元気なティオを見てると頑張らなくちゃ!って気持ちになるもの!」
「どれだけ失敗してもヘコたれないその不屈の精神はプリンスとして大切な素養ですわ。誇るべき美点でしてよ」

ファイン・レイン・アルテッサに励まされてティオの表情は落ち込んだようなものからすぐに明るいものに変わる。
失敗続きでヘコたれないとはいえ、時々こうして自信なさげにする姿をシェイドは何度か見ている。
それとなくフォローを入れても無理矢理元気になって奮い立とうとするのが気になってどうしたものかと考えていたが、こうしてファイン達に励まされて心から元気になった様子を見てシェイドも安心した。
しかし元気になったティオはそこで誇らしげにシェイドの自慢を始める。

「励ましのお言葉、有り難く頂戴します!このティオ、日々修練を積んでいつかシェイド師匠のような立派なプリンスになってみせます!」
「へぇ、プリンスシェイドはプリンスティオの師匠なのか」
「いえ、ティオが勝手に言っているだけで僕は師匠と呼ばれる程のものでは―――」
「何を仰いますか!鮮やかな鞭捌き、素早い判断と論理的思考、高いスキル、どれをとっても師匠は完璧でございます!」
「やめてくれ、ティオ。俺はそこまでの人間じゃない」
「そうですわよ。知っていまして?トゥルース様。こうやって猫被ってますが普段は口の減らない皮肉屋で憎たらしい態度ばかり取るんですのよ」
「そういうお前も猫被ってるだろ。いつもの我が儘放題の生意気な本性はどうした」
「何ですって!!?」
「まぁまぁ、アルテッサ」
「怒らない怒らない」
「それにシェイドの本当の猫被りはこんなもんじゃないしさ」
「そうそう。その気になったら別人レベルよ」
「煩いぞ、お転婆1号2号」
「あっははは!プリンスシェイドはクールで落ち着きがあると聞いていたが中々面白い人物じゃないか」
「ファインとレイン達が頼りにするのも頷けますね」
「この通りお転婆な二人だが色々大変じゃないか?」
「ちょっとお父様!」
「失礼しちゃうわ、もう!」
「大丈夫です、慣れました。良くも悪くも」
「シェイド!そこは猫被ってよ!」
「そうよ!嘘でもそんな事はありませんって言えないの!?」
「嘘は良くないだろ」
「そこだけは同意ですわ」
「「そんな〜!!」」
「ただ最近は生意気なお転婆姫も加わって負担が倍増しましたが精神修行と思って頑張って耐えてます」
「誰が生意気なお転婆姫ですって!?」
「まったくもって同意でプモ」
「プーモ、何か言いまして?」

ギロリ、と突き刺すような視線でもってアルテッサは振り返りながらプーモを睨む。
さながら蛇に睨まれた蛙の如くプーモは竦み上がって「何も言ってませんでプモ!」と謝罪すると慌ててレインの影に隠れた。

「大体現地集合してるから貴方は知らないでしょうけど移動中や貴方がいない間にどれだけ私が苦労してると思ってますの!?お陰でツッコミに磨きがかかってしまいましたわ!!」
「いや〜それほどでも〜」
「褒められると照れるわぁ」
「褒めてないの怒ってるの!!」
「あっはは!苦労をかけるね、プリンセスアルテッサ」
「たまにはプリンセスアルテッサがファインとレインを振り回してもいいんですよ?」
「二人を振り回す方法なんてありますの?エルザ様」
「簡単ですよ。例えばファインならおやつの管理をするとか、レインならコーディネートを管理してレインの好みとは正反対の服を選んであげるとか」
「やめてお母様!」
「そんな事されたら明日からそれをされちゃうわ!」
「明日と言わず今からそうさせていただきますわ。メモメモっと」
「お転婆二人を制御する術はしっかりメモしておかないとな」
「このティオ、参考までにメモに認めさせていただきますぞ!」
「僕も今後の為にメモさせていただきますでプモ」
「「なんでみんなメモるの~!?」」

泣き叫ぶファインとレインに皆は一斉に笑いだす。
シェイドも思わず小さく噴き出した。
そこでふと思った、こんな風に楽しく笑って喋りながら食事をするのは久しぶりだと。
月の国での食事風景は基本は静かなものであったが自分も母親のムーンマリアも基本が静かな方なので別にそこに異論はなかったしその雰囲気の方がシェイドは好きだった。
それに全く会話がない訳ではない。
自分が外で見聞きしてきた事をムーンマリアやミルキーはいつも楽しそうに聞いてくれていた。
けれどそれをしなくなって食事も外や自室で済ませるようになったのはあの大臣が加わるようになってから。
牽制と情報収集の為にたまに顔を出す事もあったが国を乗っ取ろうとする奴なんかと同じ席で料理を食べるなど虫唾が走って料理の味など到底分かる気がしなかった。
だからこんな風に賑やかな食事をしたのは久しぶりだった。

「元気を出して、二人共。今日はデザートに私が作ったグレイスミルフィーユを用意してありますよ」
「「本当!?」」
「まぁ!エルザ様お手製のグリスミルフィーユが食べられるなんて・・・!」
「それはどんなものなのですか?プリンセスアルテッサ」
「グレイスミルフィーユはあのプリンセスグレイスが誕生した年に品種改良によって生まれ、プリンセスグレイスの名前から取ったグレイスストロベリーという苺をふんだんに使ったミルフィーユですの。プリンセスグレイスが愛した事もあってグレイスミルフィーユと名付けられたとっても甘くて美味しいミルフィーユなのよ!」
「おお!聞いているだけで涎が出てきそうですな!」
「プリンセスグレイスの名前がふんだんに使われたミルフィーユという事だけは分かった」
「しかもエルザ様お手製よ!とっても美味しいんだから!」
「も~アルテッサってば~」
「そんなに褒められると照れちゃうわ~」
「どうしてファイン様とレイン様が照れるでプモ」
「だってお母様の事を褒められたんだもん!」
「嬉しくない筈がないわ!」
「それなら仕方ないでプモね」
「プリンスティオとプリンスシェイドもどうぞ召し上がっていって。甘い物はお好きかしら?」
「勿論です!」
「はい、いただきます」

二人は頷き、デザートもご馳走になる事にした。
グレイスミルフィーユの味はアルテッサが絶賛するのも頷ける程の美味しさで、隣に座るティオは「ほっぺたが落ちそうです!」と子供のように無邪気な笑顔を浮かべながら尻尾をパタパタと振っていた。
美味しいのは勿論だがシェイドは何よりもグレイスミルフィーユに『温かさ』を感じた。
それは直接的な温かさではなく、愛情がこもった気持ち的な意味の温かさで、ふとムーンマリアの事を思い出す。
幼い頃、時間が出来た時にムーンマリアはよくバナナムーンケーキを作ってくれていた。
それがとても美味しくてリクエストを聞かれてもバナナムーンケーキと答えていたものである。
甘い物はあまり進んで食べない性質だがムーンマリアの作るお菓子だけは喜んで食べるのはきっと愛情が込められていたからなのだろう。
似たような温かさを持つこのグレイスミルフィーユにはきっとエルザの愛情が込められていて、自分はそれを感じ取ったのだと思う。

(・・・そういえば最近食べてないな)

ムーンマリアの政務による多忙と体調不良による休息、加えてシェイドによる大臣の陰謀阻止とふしぎ星を救う手段の奔走で長い事バナナムーンケーキを食べていない。
体調の事を考えるとムーンマリアに作ってもらうのは無理だろうから今度帰ったら自分で作ってみるのもいいかもしれない。
ミルキーは絶対に喜ぶだろうし、ムーンマリアも喜んでくれるだろう。

(ケーキ作るの楽しみだな)

最後の一口のグレイスミルフィーユの美味しさと少し先の未来の楽しみを思いついたのとでシェイドは口の端に笑みを浮かべるのだった。







賑やかで楽しい夕食会は恙なく幕を閉じ、シェイドとティオはお暇する事にした。
出立する二人をファイン・レイン・プーモ・アルテッサ、そしてトゥルースとエルザが見送る。

「じゃあね、シェイド、ティオ」
「また明日会いましょう」
「お気をつけくださいでプモ」
「集合場所に遅れないようにファインとレインの事は私とプーモで何とかしておきますわ」
「切実に頼む」
「切実にじゃな~い!」
「一言余計よ!」
「皆様、明日お待ちしておりますぞ!」
「本当に泊まって行かなくていいのかい?」
「今からでもお部屋は用意出来ますよ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが一足早く現地の情報を集めておきたいので」
「プリンスに休む暇などありませぬ故!」
「そうか、頼もしい限りだな」
「無茶をしてはいけませんよ。困った事があったらすぐにいらして下さいね」
「我々はいつでもキミ達の力になるよ」
「はい、ありがとうございます」
「それではお休みなさいませ!」

挨拶もそこそこにシェイドとティオは出発する。
地上に降り立った後、次なる目的地に向けてシェイドはレジーナを、ティオはサンダーボルトを走らせる。
フルムーンが照らす月夜の道は青白く明るかった。

「・・・楽しかったな」

思わず口を突いて出た柄にもない言葉。
でも聞いていたのはティオだけで、彼は真っ直ぐにその言葉を受けて純粋に頷く。

「ええ!久しぶりに賑やかな夕食を楽しめましたな!」
「俺達の事を頼りにしてくれてるトゥルース王やエルザ王妃の為にも頑張るぞ」
「はい!」

今日のような楽しい時間を守る為にも、そして未来に予定してる小さな楽しみの為にも二人のプリンスは月の光が刺す道を行くのだった。


後日、この食事会の事をシェイドはミルキーに、ティオはリオーネに何気なく話すとそれぞれ「ズルい!」と不満を言われるのであった。







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