かくれんぼの魔女
雪が降りしきる夜のロイヤルワンダープラネット。
本日学園はお休みで思い思いの休日を満喫していた生徒たち。
それはあのふたご姫も例外ではなく、日中は友人たちと元気いっぱいに遊び、現在は二人仲良く両親に宛てた近況報告の手紙(内容は殆ど友達と遊んだというものばかりだが)をポストに出しに行った所である。
外は寒いのとすぐに終わる用事なので天使たちはプーモに預けていた。
サクサクと雪を踏みしめ、寒さを確かめるようにファインは白い息を吐いて呟く。
「今年も雪降ったね~」
「そうね~。夜に見る雪ってとってもロマンチックよね」
「でもすっごく寒いや。ねぇねぇ、帰りに肉まん買って―――」
ハッとしてファインは言葉を打ち切ってすぐ横を振り向いた。
視線の先には雪を被った木の下で真っ白なローブを纏い、フードを被った女性が佇んでいてファインとレインの方をじっと見つめていた。
女性の傍には何故かカボチャが一つだけ置いてある。
ファインがぼんやりとその女性を見つめているとレインが不思議そうに声をかけてきた。
「どうしたの?ファイン」
「あの人、アタシたちの事見てない?」
「え?」
ファインの視線を辿ってレインも木の下に佇む女性に目を向ける。
言われてみれば他とは異なる雰囲気を放つ女性がこちらを見つめているようだった。
しかしローブを着てフードを被っているというのに全く視界に入らなければ気付きもしなかった事をレインは不思議に思った。
いくらファイン程の直感がないとはいえ、これだけの異質な要素を持ち合わせている人物を見逃すだろうか。
「本当だわ、全然気づかなかった。ファインは相変わらず鋭いわね」
「でもアタシも視線を感じるまで全然いる事にすら気付かなかったよ。突然感じたっていうか」
「それにしてもどうしたのかしら?私達に何か用があるのかしら?」
「ちょっと声かけてみよっか」
「ええ、そうね」
二人は何の警戒もする事もなく女性に近付く。
ファインが最初に声をかけた。
「あの、すいません。失礼ですが何か御用でしょうか?」
「先程からずっと私達の事を見ているようですが」
「・・・貴女たち、私に気付いたのね?」
口を開いた女性の声は透き通るように高く美しい。
しかし質問を質問で返された内容にファインとレインは首を傾げる。
「え?」
「気付いたって?」
「フフ、やっぱりふしぎ星から来たって言うふたご姫はどうやら本当に面白いプリセンスのようね」
「あの・・・?」
「ねぇ、一緒に舞踏会に参加しない?ドレスは私の方で用意するわ。それに―――」
女性は一旦言葉を切ると視線をどこかへと一瞬だけ泳がせた。
「きっと貴女たちにとっても楽しい夜になると思うわ」
フードを被っている所為で女性の全体的な表情は読み取れなかったが真っ赤な口紅を引いた形の良い唇は笑うように弧を描いていた。
しかし女性の突然の誘いにファインもレインも戸惑うばかりだ。
「舞踏会、ですか?」
「どこで開かれるんですか?」
「ナイティー星のミラードっていう国よ。とても大きなお城で豪華な舞踏会が開かれるの。一緒に行きましょう?」
女性はそう言うと懐から白くて細長い棒―――ステッキを取り出すとカボチャに向けてくるくるとそれを振り回した。
するとステッキの先端から銀色に光る小さな粒が舞い落ちてカボチャを包み込み、一瞬にして大きなカボチャの馬車へと姿を変えた。
これにはファインは驚きの表情を浮かべ、レインは瞳を輝かせた。
「わぁっ!?カボチャが馬車になった!?」
「すごーい!素敵だわ!」
「さぁ乗って?時間はそんなに多くは残されていないわ」
女性が馬車の扉を開けて促すとファインとレインはお互いに顔を見合わせた。
しかし不思議なもの珍しいものに興味があり好奇心旺盛なふたごのこと、二人は満面の笑みで頷き合うとはしゃぎながら馬車に乗り込んだ。
「「宜しくお願いしまーす!!」」
「フフ、良い返事ね。元気な子は好きよ」
女性は楽しそうに優雅に笑うと自身も乗り込み、ドアを閉めて二人の向かい側に座った。
そしてパンパンと手を二回叩くとカッポカッポと馬の蹄が音を立て、馬車を動かし始める。
するとどうだろう、窓から覗く街の景色はどんどん下の方へ遠のいていき、馬車は空の道なき道を走り始めた。
「凄い凄い!街が遠くなって行くよ!」
「空を飛ぶ馬車なんてロマンチックね~!」
「でもこんな事が出来るなんて貴女は魔法使いか何かですか?」
純粋な疑問をファインは女性に向けて真っ直ぐにぶつける。
女性はクスリと涼やかに笑うと頷いて自己紹介を始めた。
「ええ、そうよ。私の名前はシンディー。ミラード国に住む『かくれんぼの魔女』よ」
ふわり、とフードを外して女性―――シンディーは素顔を晒す。
絹のようにサラサラとした長い金髪、宝石のように美しい銀の瞳、透き通るような白い肌、整った顔立ち。
その美貌は少女であるファインやレインですらも見惚れてしまう程のものだった。
「それで、貴女たちはふしぎ星のおひさまの国のプリンセスファインとプリンセスレインよね?」
「え!?」
「どうして私達の名前を知ってるんですか?」
「あの宇宙の平和を救ったとされる双子のプリンセスだもの。知らない筈がないわ。会えて光栄よ」
「光栄だなんてそんな・・・!」
「シンディーさんはさっき、ご自分の事を『かくれんぼの魔女』と仰っていましたがどういう意味なんですか?」
レインが質問をするとシンディーは簡単な説明をしてくれた。
「私はね、魔法によって人の目を欺けるのが得意なの。誰かに気付かれにくくしたり、近寄りにくくしたりする事が出来るの。たまにファインのように私に鋭く気付く人もいるけど。でもそれが楽しいのよね」
「ファインは勘が凄く鋭いんです」
「いやぁ、それ程でも〜!」
「ところでシンディーさんはあの木の下で何をしていたんですか?」
「私の事を探しに来た王子様がいつ私に気付くかなって笑いながら見てたの」
ニッコリと微笑みながらそう答えるシンディーにファインとレインは心の中で『シンディーさんってドSなんだな』と共通の感想を抱いた。
それは置いておくとして、王子様というワードに食いつかないレインではない。
「それよりも王子様がシンディーさんを探しに来てたんですか!?」
「ええ、そうよ」
「それってどんなラブストーリーがあるんですか!?どんなラブロマンスがあるんですか!!?」
「レイン、落ち着いて・・・」
「前にお城の舞踏会に招待された事があってね。それで暇してたから気紛れに参加したら王子様が私の事を好きになったみたいなの。どうしても忘れられないみたいで今も探してくれてるみたいなのよ」
「シンディーさんはその時も人の目を欺く魔法を使ったんですか?」
「ええ、そうよ。ゆっくりお料理を食べたかったしね」
「分かります~!誰にも邪魔されず夢中になって食べるご飯は最高ですよね~!」
「もうファインったら」
色気よりも食い気なファインにレインは呆れたように溢す。
そんな二人のやり取りに笑みを溢しつつもシンディーはその時の事を思い出したのか、嬉しそうに瞳を細めて語り始めた。
「でもね、あの王子様だけは私に気付いてダンスを申し込んで来たの。他の人には目もくれず真っ先にね。私、とっても嬉しかったんだけどつい意地悪をして名前を教えなかったし私に繋がる物も残さないで帰っちゃったの」
「どうして帰っちゃったんですか?そのままお話して仲良くなれば良かったのに」
「大事な用事があるのを思い出したの。どうしても遅れる訳にはいかないからそれで急いで帰ったの」
「そっか、用事なら仕方ないね」
「でも驚いた事に王子様ってば必死に私を探してるみたいでね。似顔絵を作ったり城下の人に聞き込みをしたりまたパーティーを開いたりってあれこれ手を尽くしてるの。しかもそれが結構良い線を行っててね、私がこの時期にロイヤルワンダープラネットに行く事を知ったみたいですぐそこまで追いかけてたみたいなの。でも全然私に気付けてなかったみたい。そこにたまたま通りかかった貴女たちが私に気付くかな〜って思って見つめてたら気付いてくれたってわけ」
「そういう事だったんですね」
「本当は今回の舞踏会は気分じゃなかったから参加しないつもりだったんだけど面白い事になりそうだからやっぱり参加するわ」
「面白い事って?」
「何ですか?」
「それはお城に行ってからのお楽しみ」
まるで悪戯っ子のように微笑むシンディーにファインもレインも揃って首を傾げる。
一体面白い事とはなんだろうか?
本日学園はお休みで思い思いの休日を満喫していた生徒たち。
それはあのふたご姫も例外ではなく、日中は友人たちと元気いっぱいに遊び、現在は二人仲良く両親に宛てた近況報告の手紙(内容は殆ど友達と遊んだというものばかりだが)をポストに出しに行った所である。
外は寒いのとすぐに終わる用事なので天使たちはプーモに預けていた。
サクサクと雪を踏みしめ、寒さを確かめるようにファインは白い息を吐いて呟く。
「今年も雪降ったね~」
「そうね~。夜に見る雪ってとってもロマンチックよね」
「でもすっごく寒いや。ねぇねぇ、帰りに肉まん買って―――」
ハッとしてファインは言葉を打ち切ってすぐ横を振り向いた。
視線の先には雪を被った木の下で真っ白なローブを纏い、フードを被った女性が佇んでいてファインとレインの方をじっと見つめていた。
女性の傍には何故かカボチャが一つだけ置いてある。
ファインがぼんやりとその女性を見つめているとレインが不思議そうに声をかけてきた。
「どうしたの?ファイン」
「あの人、アタシたちの事見てない?」
「え?」
ファインの視線を辿ってレインも木の下に佇む女性に目を向ける。
言われてみれば他とは異なる雰囲気を放つ女性がこちらを見つめているようだった。
しかしローブを着てフードを被っているというのに全く視界に入らなければ気付きもしなかった事をレインは不思議に思った。
いくらファイン程の直感がないとはいえ、これだけの異質な要素を持ち合わせている人物を見逃すだろうか。
「本当だわ、全然気づかなかった。ファインは相変わらず鋭いわね」
「でもアタシも視線を感じるまで全然いる事にすら気付かなかったよ。突然感じたっていうか」
「それにしてもどうしたのかしら?私達に何か用があるのかしら?」
「ちょっと声かけてみよっか」
「ええ、そうね」
二人は何の警戒もする事もなく女性に近付く。
ファインが最初に声をかけた。
「あの、すいません。失礼ですが何か御用でしょうか?」
「先程からずっと私達の事を見ているようですが」
「・・・貴女たち、私に気付いたのね?」
口を開いた女性の声は透き通るように高く美しい。
しかし質問を質問で返された内容にファインとレインは首を傾げる。
「え?」
「気付いたって?」
「フフ、やっぱりふしぎ星から来たって言うふたご姫はどうやら本当に面白いプリセンスのようね」
「あの・・・?」
「ねぇ、一緒に舞踏会に参加しない?ドレスは私の方で用意するわ。それに―――」
女性は一旦言葉を切ると視線をどこかへと一瞬だけ泳がせた。
「きっと貴女たちにとっても楽しい夜になると思うわ」
フードを被っている所為で女性の全体的な表情は読み取れなかったが真っ赤な口紅を引いた形の良い唇は笑うように弧を描いていた。
しかし女性の突然の誘いにファインもレインも戸惑うばかりだ。
「舞踏会、ですか?」
「どこで開かれるんですか?」
「ナイティー星のミラードっていう国よ。とても大きなお城で豪華な舞踏会が開かれるの。一緒に行きましょう?」
女性はそう言うと懐から白くて細長い棒―――ステッキを取り出すとカボチャに向けてくるくるとそれを振り回した。
するとステッキの先端から銀色に光る小さな粒が舞い落ちてカボチャを包み込み、一瞬にして大きなカボチャの馬車へと姿を変えた。
これにはファインは驚きの表情を浮かべ、レインは瞳を輝かせた。
「わぁっ!?カボチャが馬車になった!?」
「すごーい!素敵だわ!」
「さぁ乗って?時間はそんなに多くは残されていないわ」
女性が馬車の扉を開けて促すとファインとレインはお互いに顔を見合わせた。
しかし不思議なもの珍しいものに興味があり好奇心旺盛なふたごのこと、二人は満面の笑みで頷き合うとはしゃぎながら馬車に乗り込んだ。
「「宜しくお願いしまーす!!」」
「フフ、良い返事ね。元気な子は好きよ」
女性は楽しそうに優雅に笑うと自身も乗り込み、ドアを閉めて二人の向かい側に座った。
そしてパンパンと手を二回叩くとカッポカッポと馬の蹄が音を立て、馬車を動かし始める。
するとどうだろう、窓から覗く街の景色はどんどん下の方へ遠のいていき、馬車は空の道なき道を走り始めた。
「凄い凄い!街が遠くなって行くよ!」
「空を飛ぶ馬車なんてロマンチックね~!」
「でもこんな事が出来るなんて貴女は魔法使いか何かですか?」
純粋な疑問をファインは女性に向けて真っ直ぐにぶつける。
女性はクスリと涼やかに笑うと頷いて自己紹介を始めた。
「ええ、そうよ。私の名前はシンディー。ミラード国に住む『かくれんぼの魔女』よ」
ふわり、とフードを外して女性―――シンディーは素顔を晒す。
絹のようにサラサラとした長い金髪、宝石のように美しい銀の瞳、透き通るような白い肌、整った顔立ち。
その美貌は少女であるファインやレインですらも見惚れてしまう程のものだった。
「それで、貴女たちはふしぎ星のおひさまの国のプリンセスファインとプリンセスレインよね?」
「え!?」
「どうして私達の名前を知ってるんですか?」
「あの宇宙の平和を救ったとされる双子のプリンセスだもの。知らない筈がないわ。会えて光栄よ」
「光栄だなんてそんな・・・!」
「シンディーさんはさっき、ご自分の事を『かくれんぼの魔女』と仰っていましたがどういう意味なんですか?」
レインが質問をするとシンディーは簡単な説明をしてくれた。
「私はね、魔法によって人の目を欺けるのが得意なの。誰かに気付かれにくくしたり、近寄りにくくしたりする事が出来るの。たまにファインのように私に鋭く気付く人もいるけど。でもそれが楽しいのよね」
「ファインは勘が凄く鋭いんです」
「いやぁ、それ程でも〜!」
「ところでシンディーさんはあの木の下で何をしていたんですか?」
「私の事を探しに来た王子様がいつ私に気付くかなって笑いながら見てたの」
ニッコリと微笑みながらそう答えるシンディーにファインとレインは心の中で『シンディーさんってドSなんだな』と共通の感想を抱いた。
それは置いておくとして、王子様というワードに食いつかないレインではない。
「それよりも王子様がシンディーさんを探しに来てたんですか!?」
「ええ、そうよ」
「それってどんなラブストーリーがあるんですか!?どんなラブロマンスがあるんですか!!?」
「レイン、落ち着いて・・・」
「前にお城の舞踏会に招待された事があってね。それで暇してたから気紛れに参加したら王子様が私の事を好きになったみたいなの。どうしても忘れられないみたいで今も探してくれてるみたいなのよ」
「シンディーさんはその時も人の目を欺く魔法を使ったんですか?」
「ええ、そうよ。ゆっくりお料理を食べたかったしね」
「分かります~!誰にも邪魔されず夢中になって食べるご飯は最高ですよね~!」
「もうファインったら」
色気よりも食い気なファインにレインは呆れたように溢す。
そんな二人のやり取りに笑みを溢しつつもシンディーはその時の事を思い出したのか、嬉しそうに瞳を細めて語り始めた。
「でもね、あの王子様だけは私に気付いてダンスを申し込んで来たの。他の人には目もくれず真っ先にね。私、とっても嬉しかったんだけどつい意地悪をして名前を教えなかったし私に繋がる物も残さないで帰っちゃったの」
「どうして帰っちゃったんですか?そのままお話して仲良くなれば良かったのに」
「大事な用事があるのを思い出したの。どうしても遅れる訳にはいかないからそれで急いで帰ったの」
「そっか、用事なら仕方ないね」
「でも驚いた事に王子様ってば必死に私を探してるみたいでね。似顔絵を作ったり城下の人に聞き込みをしたりまたパーティーを開いたりってあれこれ手を尽くしてるの。しかもそれが結構良い線を行っててね、私がこの時期にロイヤルワンダープラネットに行く事を知ったみたいですぐそこまで追いかけてたみたいなの。でも全然私に気付けてなかったみたい。そこにたまたま通りかかった貴女たちが私に気付くかな〜って思って見つめてたら気付いてくれたってわけ」
「そういう事だったんですね」
「本当は今回の舞踏会は気分じゃなかったから参加しないつもりだったんだけど面白い事になりそうだからやっぱり参加するわ」
「面白い事って?」
「何ですか?」
「それはお城に行ってからのお楽しみ」
まるで悪戯っ子のように微笑むシンディーにファインもレインも揃って首を傾げる。
一体面白い事とはなんだろうか?