毎日がプリンセスパーティー

面倒な授業が終わった放課後。
シフォンが手帳を広げながら今日のファインのスケジュールを確認していた。
ちなみにレインは放送委員の仕事があると言って既に教室を出ており、プーモはキュキュの面倒見役として同行している。

「ファイン、今日も貴女には助っ人の予定が入ってるわよ」
「いつもありがとうね、シフォン。アタシのスケジュール管理してもらって」
「気にしないで。私も好きでやってるし案外楽しいから。それで今日の予定だけど」
「うん?どこの部活?」
「今日は庭園にいるシェイドの助っ人よ!」
「ええっ!?シェイドの助っ人!?」

明後日の方向から予想外のボールが飛んで来てファインは驚きに後退る。
ついでに顔は赤くなっている。
シフォンはパタンと手帳を閉じるとニッコリと笑って言った。

「新しい花の苗を植えるのを手伝って欲しいそうよ。頑張ってね」
「が、頑張ってねって・・・シフォンは一緒に来てくれないの!?」
「だって私は頼まれてないもの」
「でもアタシの部活の助っ人にはいつもついて来てくれてるじゃん!?」
「それは次の助っ人に遅れない為の時間管理をしてるからよ。でも今日は庭園の助っ人しか入ってないから必要ないでしょ?」
「で、でも~!」
「頑張ってね、ファイン。報告期待してるわよ?」

シフォンは意味ありげに笑うと鞄を持ってさっさと教室から出て行ってしまった。

「そ、そんな~!!」
「ピュピュ~・・・」
「行っちゃダメピュピュ!アタシを一人にしないで!!」

空気を読んでシフォンの後について行こうとしたピュピュをファインは素早く捕まえて縋った。
赤子の天使に縋るプリンセスというのも中々ない光景だろう。
ピュピュはやれやれといった風に溜息を吐くとファインと共に庭園に向かうのだった。





「シェイド―!」

ハッピーベルンを使ってガーデナーにコスチュームチェンジしたファインは庭園に赴いてシェイドの名を呼ぶ。
シェイドはちょうど花の苗を乗せたケースを運んでいた所で、ファインの姿を認めると穏やかに微笑んだ。

「ファインか」
「お待たせ!手伝いに来たよ!」
「おや?シェイド、助っ人というのは・・・」
「はい、ファインの事です」

薔薇の手入れをしていたクレソンはファインの登場に少し驚いたような表情をしたものの、嬉しそうに頷くシェイドを見て「ほうほう」と小さく笑いながら意味深に頷いた。

「頼もしくて可愛らしい助っ人を呼んだね」
「アタシ、重い物も運べるので任せて下さい!」
「そそっかしいですが」
「うっ・・・気を付けます」
「はっはっはっ!まぁまぁ、元気なのは良い事だ。早速―――」

「クレソンさーん!ちょっと宜しいでしょうか?」

庭園の入り口の方からタンバ・リンがクレソンを呼ぶ。

「今行きますよ。シェイド、悪いが二人で花の苗を植えててくれないかな」
「はい、分かりました」
「行ってらっしゃい、クレソンさん!」
「ああ、行ってくるよ」

クレソンは和やかな笑みを浮かべるとタンバ・リンの元に行き、そのまま打ち合わせの為にどこかへと行ってしまった。
残されたシェイドは「よし」と呟くとファインの方を見て指示を出した。

「早速だがこの花の苗をあそこの花壇に植えるのを手伝ってくれ。肥料はもう撒いてあるから植えるだけでいい」
「はーい!」
「ピュピュピュ?ピュ~?」
「うん、いいよ。鳥さんたちと仲良くね」
「ピュ~!」

特に自分に手伝える事はないと思ったピュピュは温室の屋根に停まっている鳥とお話をしてきていいかファインに聞いた。
ピュピュはファインが手伝いや花を眺める為に庭園に来てシェイドと仲良くしているのを見る度に空気を読んで大人しくしていたのだが最近は鳥の友達が出来たらしく、よくそっちに行ってお喋りをするようになっていた。
通じ合っているのかどうかは分からないが鳥もピュピュも楽しそうにしているので恐らくは仲良くしているのだろう。
ちなみにピュピュが話している内容の中にファインとシェイドを冷やかすものがあるのだが勿論ファインはそれを知らないし知る事もないだろう。

「確か土を少し崩して植えるんだよね?」
「そうだ。根を傷付けないようにな」
「はーい!」

ファインは元気よく返事すると苗の根元を抑えながらひっくり返し、黒のビニールの簡易的な鉢を外す。
鉢の形にそって土はガチガチに固まっており、これを崩す楽しみをファインは知っていた。
揉むようにして優しく固まっている土を解し、程よく解れてきた所でシャベルで造った穴の中に置いて優しく土をかけて馴染ませた。

「お前も大分慣れてきたな」
「でしょー?言ってくれればいつだってお手伝いするから!あ、勿論他の部活の助っ人と被ったら行けないけど」
「ああ、分かってる」
「でもシェイドのお願いなら何でも聞くから遠慮なく言っていいからね!」
「“何でも”か」

強調するように『何でも』の部分をシェイドが繰り返したのでファインは「えっ・・・」と言葉を詰まらせる。
本能的に嫌な予感が全力でした。

「あ、の・・・シェイド・・・?」
「覚えておけ、ファイン。『何でも』なんて言葉は軽々しく使うものじゃないぞ」
「じゃ、じゃあ今のは取り消し―――」
「ダメだ」
「あぅ・・・」

やはり無効だったそれにファインは項垂れ、冷や汗をかく。
一体何を言い渡されるのだろうと覚悟したファインだったがシェイドが言い放ったものは意外なものだった。

「早速だがファイン、俺から頼みがある」
「な、なに・・・?」
「今日から園芸部員になってくれ」
「・・・・・・へ?」

予想もしていなかった内容にファインは思わず呆気に取られて間抜けな声を漏らし、ゆっくりと首を傾ける。
シェイドは冗談を言っている風でもなく真剣な眼差してファインを見つめており、そのまま続けた。

「嫌か?」
「嫌・・・じゃない、じゃないよ!むしろ全然いいよ!!でも園芸部の部活申請ってしてたっけ?」
「非公式だ」
「非公式?」
「そうだ。だから他には言いふらすなよ。俺達だけの秘密だ」

シェイドが優しく笑うように言うとファインは顔を輝かせ、それから嬉しそうに「うん!」と頷いた。

「ピュピュー!ピュ~ピュ~?」
「ピュピュが自分も園芸部員か?だって」
「ピュピュも園芸部員だよ」
「ピュ~ピュ~!」

温室の屋根の上でピュピュは嬉しそうに飛び跳ね、隣にいた鳥が祝うようにチチチとさえずる。
喜ぶピュピュの姿にファインも笑顔を溢すとシェイドを見て言った。

「じゃあ部長はシェイドだね」
「そうなるな」
「で、顧問はクレソンさん!」
「異論はない」
「えへへ、これから宜しくね、部長さん!」
「しっかりな、期待の新人」

二人で笑い合ってそれからまた花を植える作業に没頭する。
シェイドと二人だけの秘密が出来てファインは心の中で花が咲くような温かい気持ちになるのだった。


実はこれをネタ探しに来ていたレインとその手伝いをしていたブライトがこっそり聞いていたのだがそれはレインとブライトだけの秘密となった。







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