かくれんぼの魔女
「うぅ・・・」
「手が止まってるぞ」
「たってぇ・・・」
ロイヤルワンダー学園の図書室でファインはシェイドの向かい側に座って薬草図鑑の書き写しをしていた。
薬草一種類につき絵や効能・特徴などが書かれた文章を五回書き写し、十種類分書き写したら今度はシェイドの用意した小テストに全問正解しなければならない。
一問でも間違えたら間違えた種類のものをまた五回書き写し、再度問題を微妙に変えた小テストを受ける必要がある。
そして見事全問正解する事でシェイドが用意した鍵付きの小箱の中にしまわれたファインのおやつが救出されるという仕組みだ。
ちなみにこれらをクリア出来なかった場合はその日のファインのおやつはピュピュとキュキュの胃袋に消えてしまう。
それがファインに課せられた罰ゲームであり、シェイドらしく意地悪で厳しい内容であった。
ファインとしてはシェイドと時間が共有出来る上にシェイドが熱心になって勉強しているものを自分も覚えられて嬉しかった。
実はファインもシェイドの影響で密かに薬草やハーブに対して興味を持っていたのだ。
しかし目の前でチラつかされる宝箱を前にしては素直に喜べるものも喜べなかった。
「ピュ~ピュ?」
「慰めなくていいぞ、ピュピュ。全部ファインの自業自得だからな」
「シェイドの鬼」
「よし、一週間お前のおやつは抜きだ」
「ウソウソ!冗談だからそれだけは勘弁して~!」
ファインは声を潜めてシェイドに涙ながらに懇願する。
声を潜めたのは図書室で大きな声を出すとマーチに減点されてしまうので気を付けた次第だ。
「泣いてる暇があったら手を動かして覚えろ。今日のおやつが食べられなくても知らないからな」
「はぁ~い・・・」
ファインは項垂れつつ言われた通り手を動かして薬草を覚えていく。
その最中、チラリとシェイドの方を盗み見た。
シェイドはファインが今書き写して読んでいる本の何倍も分厚くて大きい医学の本を広げて気になった点や重要なポイントを書き留めている。
真剣なその姿がとてもカッコよくてファインは知らず頬を染める。
「・・・シェイドは医学の勉強は順調?」
「それなりにな」
「そっか。シェイドは毎日真面目に勉強して頑張ってるから絶対に立派なお医者さんになれるよ。アタシに手伝える事ってある?」
「まずは薬草関係を全て覚える事だ」
「それって手伝いになってる?」
「俺が医療で他の対応をしてる時にお前に薬草関係の対応を任せられる。それでも十分助かる」
「分かった。じゃあ一生懸命覚えるね」
「頼んだぞ」
シェイドの口元に笑みが浮かんでファインも幸せそうに微笑む。
罰ゲームの期間は三ヵ月だけれども、その期間が終わってもこうしてシェイドと薬草や医学について勉強していきたいと思うファインであった。
「うぅ・・・」
「手が止まってるよ、レイン」
「だってぇ・・・」
同じ頃、ファインと同じようにレインは宝石をあしらった豪華な鍵付きの小箱を横目にサロンでデザイン関係の勉強をしていた。
レインへの罰ゲームはブライトと一緒に様々なデザイン関係の本を読み、それを元に自分でデコールや衣装などを考案して毎週末ブライトに提出すること。
ちなみにただ自由にデザインするのではなく、ブライトが出す課題テーマに沿ったデザインをしなければならない。
一週間の猶予はあるものの、テーマによってはすぐに出来上がる事もあれば難航する事もある。
難航した時も大変だが、すぐに出来上がる方もそれはそれで考えものな所があった。
それは目の前にある小箱が原因だった。
レインは毎週刊行される少女漫画雑誌を欠かさず購入し、ファインと一緒に読んでは感想を言い合ったり友人達とも話し合って楽しんでいる。
しかし今回の罰ゲームでレインが購入した少女漫画雑誌は一週間小箱の中に封印されてしまい、ブライトに作品を提出する週末になって漸く読めると言うシステムになっているのだ。
その為レインはほぼ一周遅れで漫画を読む状態となっている。
ちなみにネタバレはOK、見せてもらうのはNGというルールも設けられており、レインはネタバレを嫌う為、友人が話をする時は耳を塞いだり放送委員の活動やブライトと勉強する事でそれを回避していた。
また、ファインはそんなレインを気遣って自分もネタバレは聞かない・見せてもらわない、とレインが読む時になるまで一緒に我慢してくれている。
レインはそんなファインの優しさに感激して漫画を読む時はファインの為にファインの好きなお菓子を沢山用意しているのだとか。
「今週のお話、凄く気になるんです・・・主人公が好きな人の為に涙を呑んでバスケットボールを両手に持って綱渡りするか、妹の為にサッカーボールを両手に持って平均台を渡るか決断を迫られてるんです」
「それは読んでない僕でも別の意味で凄く気になる展開だね・・・」
「ちなみに今人気の純愛ラブコメなんですよ」
「愛ってなんだろう・・・」
愛には様々な形がある、というのはよく教えられて来た事だがこんなにも愛について色々考えさせられるものはないと思った。
それはさておき、ガックリと項垂れるレインの頭をキュキュが優しく撫でる。
「キュ〜キュ?」
「キュキュはレインに似て優しいね。でも時には厳しくする事も大切だから慰めてあげるのも程々にね」
「え〜ん、ブライト様の意地悪〜」
「それだけ僕も怒ってるって事だよ」
「ごめんなさ〜い」
「三ヶ月経つまでは許さないからね」
「ふぇ〜ん・・・」
いつになく厳しいブライトにレインは涙を流しながらノロノロと筆を走らせてデコールの設計をする。
今週のテーマは動物をモチーフにしたデコール三種類だがいまいち良いデザインが思い浮かばない。
パラパラと本を捲ってみるがヒントになるようなものは何もない。
チラリと窓の向こうを眺めてみるが可愛らしいスズメが戯れているものの何の閃きにも繋がらない。
そんな風にレインが躓いているのを察するとブライトがある提案をした。
「レイン、明日は放送委員の活動はあるかい?」
「えーっと明日はー・・・何もないです」
鞄の中から手帳を取り出してスケジュールを確認したレインは首を横に振った。
「なら丁度良いね。明日の放課後、僕と一緒にバードウォッチングしないかい?」
「バードウォッチング?」
「僕も明日は部活がお休みでね。友達からこのロイヤルワンダープラネットでバードウォッチングに最適な場所を教えてもらったんだ。レインは今、良いデザインが思い浮かばなくて筆が止まっているだろう?だからヒントにならないだろうかと思ったんだけど」
「い、行きます行きます!ブライト様とバードウォッチング行きたいです!」
「じゃあ決まりだね。明日二人で行こうか」
「はい!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべるレインにブライトも自然と口元を綻ばせる。
シェイドは罰ゲームでファインに薬草関係の知識をとことん覚えさせると聞いた時、自分の色に染める気満々だなぁ、と心の中で呟いたのと同時に自分もレインにそうした知識を教えて自分色に染めたいと思った。
そして様々な分野の中で自分が特化していて且つレインの興味があるものというとやはり宝石関連のものが真っ先に浮かんだ。
もっと言えば機械関係も得意なのだがレインはそちらにはあまり興味がなさそうなのでこちらはやめる事にした。
そうして現在、自分が学んできた宝石を使ったデコールや衣装などのデザイン関係を教えている訳だが、これが中々面白い。
人に教えるという行為は相手にどうやって学ばせるか、また教える内容はちゃんと正確なものかという考えや正確性が求められる。
そうなるとどうやって教えるか、ちゃんと間違っていないかなどの基礎の見直しが始まり、自分の知識や能力をより確かなものにすると知った。
それを他でもないレインによってその面白さを得られた事にブライトは密かに喜びを感じていた。
(三ヵ月の罰ゲームが終わったらどんな理由をつけて今のデザインの勉強を続けさせようか)
三ヵ月という長いようで短い幸せの期間。
それを長引かせる為の口実を探すのがブライトの現在の課題だった。
もっとも、ブライトが一言「これからも一緒に勉強しよう」と誘えばレインは喜んで頷く訳だが、そうだと気付くにはまだまだ時間が必要な二人であった。
END
「手が止まってるぞ」
「たってぇ・・・」
ロイヤルワンダー学園の図書室でファインはシェイドの向かい側に座って薬草図鑑の書き写しをしていた。
薬草一種類につき絵や効能・特徴などが書かれた文章を五回書き写し、十種類分書き写したら今度はシェイドの用意した小テストに全問正解しなければならない。
一問でも間違えたら間違えた種類のものをまた五回書き写し、再度問題を微妙に変えた小テストを受ける必要がある。
そして見事全問正解する事でシェイドが用意した鍵付きの小箱の中にしまわれたファインのおやつが救出されるという仕組みだ。
ちなみにこれらをクリア出来なかった場合はその日のファインのおやつはピュピュとキュキュの胃袋に消えてしまう。
それがファインに課せられた罰ゲームであり、シェイドらしく意地悪で厳しい内容であった。
ファインとしてはシェイドと時間が共有出来る上にシェイドが熱心になって勉強しているものを自分も覚えられて嬉しかった。
実はファインもシェイドの影響で密かに薬草やハーブに対して興味を持っていたのだ。
しかし目の前でチラつかされる宝箱を前にしては素直に喜べるものも喜べなかった。
「ピュ~ピュ?」
「慰めなくていいぞ、ピュピュ。全部ファインの自業自得だからな」
「シェイドの鬼」
「よし、一週間お前のおやつは抜きだ」
「ウソウソ!冗談だからそれだけは勘弁して~!」
ファインは声を潜めてシェイドに涙ながらに懇願する。
声を潜めたのは図書室で大きな声を出すとマーチに減点されてしまうので気を付けた次第だ。
「泣いてる暇があったら手を動かして覚えろ。今日のおやつが食べられなくても知らないからな」
「はぁ~い・・・」
ファインは項垂れつつ言われた通り手を動かして薬草を覚えていく。
その最中、チラリとシェイドの方を盗み見た。
シェイドはファインが今書き写して読んでいる本の何倍も分厚くて大きい医学の本を広げて気になった点や重要なポイントを書き留めている。
真剣なその姿がとてもカッコよくてファインは知らず頬を染める。
「・・・シェイドは医学の勉強は順調?」
「それなりにな」
「そっか。シェイドは毎日真面目に勉強して頑張ってるから絶対に立派なお医者さんになれるよ。アタシに手伝える事ってある?」
「まずは薬草関係を全て覚える事だ」
「それって手伝いになってる?」
「俺が医療で他の対応をしてる時にお前に薬草関係の対応を任せられる。それでも十分助かる」
「分かった。じゃあ一生懸命覚えるね」
「頼んだぞ」
シェイドの口元に笑みが浮かんでファインも幸せそうに微笑む。
罰ゲームの期間は三ヵ月だけれども、その期間が終わってもこうしてシェイドと薬草や医学について勉強していきたいと思うファインであった。
「うぅ・・・」
「手が止まってるよ、レイン」
「だってぇ・・・」
同じ頃、ファインと同じようにレインは宝石をあしらった豪華な鍵付きの小箱を横目にサロンでデザイン関係の勉強をしていた。
レインへの罰ゲームはブライトと一緒に様々なデザイン関係の本を読み、それを元に自分でデコールや衣装などを考案して毎週末ブライトに提出すること。
ちなみにただ自由にデザインするのではなく、ブライトが出す課題テーマに沿ったデザインをしなければならない。
一週間の猶予はあるものの、テーマによってはすぐに出来上がる事もあれば難航する事もある。
難航した時も大変だが、すぐに出来上がる方もそれはそれで考えものな所があった。
それは目の前にある小箱が原因だった。
レインは毎週刊行される少女漫画雑誌を欠かさず購入し、ファインと一緒に読んでは感想を言い合ったり友人達とも話し合って楽しんでいる。
しかし今回の罰ゲームでレインが購入した少女漫画雑誌は一週間小箱の中に封印されてしまい、ブライトに作品を提出する週末になって漸く読めると言うシステムになっているのだ。
その為レインはほぼ一周遅れで漫画を読む状態となっている。
ちなみにネタバレはOK、見せてもらうのはNGというルールも設けられており、レインはネタバレを嫌う為、友人が話をする時は耳を塞いだり放送委員の活動やブライトと勉強する事でそれを回避していた。
また、ファインはそんなレインを気遣って自分もネタバレは聞かない・見せてもらわない、とレインが読む時になるまで一緒に我慢してくれている。
レインはそんなファインの優しさに感激して漫画を読む時はファインの為にファインの好きなお菓子を沢山用意しているのだとか。
「今週のお話、凄く気になるんです・・・主人公が好きな人の為に涙を呑んでバスケットボールを両手に持って綱渡りするか、妹の為にサッカーボールを両手に持って平均台を渡るか決断を迫られてるんです」
「それは読んでない僕でも別の意味で凄く気になる展開だね・・・」
「ちなみに今人気の純愛ラブコメなんですよ」
「愛ってなんだろう・・・」
愛には様々な形がある、というのはよく教えられて来た事だがこんなにも愛について色々考えさせられるものはないと思った。
それはさておき、ガックリと項垂れるレインの頭をキュキュが優しく撫でる。
「キュ〜キュ?」
「キュキュはレインに似て優しいね。でも時には厳しくする事も大切だから慰めてあげるのも程々にね」
「え〜ん、ブライト様の意地悪〜」
「それだけ僕も怒ってるって事だよ」
「ごめんなさ〜い」
「三ヶ月経つまでは許さないからね」
「ふぇ〜ん・・・」
いつになく厳しいブライトにレインは涙を流しながらノロノロと筆を走らせてデコールの設計をする。
今週のテーマは動物をモチーフにしたデコール三種類だがいまいち良いデザインが思い浮かばない。
パラパラと本を捲ってみるがヒントになるようなものは何もない。
チラリと窓の向こうを眺めてみるが可愛らしいスズメが戯れているものの何の閃きにも繋がらない。
そんな風にレインが躓いているのを察するとブライトがある提案をした。
「レイン、明日は放送委員の活動はあるかい?」
「えーっと明日はー・・・何もないです」
鞄の中から手帳を取り出してスケジュールを確認したレインは首を横に振った。
「なら丁度良いね。明日の放課後、僕と一緒にバードウォッチングしないかい?」
「バードウォッチング?」
「僕も明日は部活がお休みでね。友達からこのロイヤルワンダープラネットでバードウォッチングに最適な場所を教えてもらったんだ。レインは今、良いデザインが思い浮かばなくて筆が止まっているだろう?だからヒントにならないだろうかと思ったんだけど」
「い、行きます行きます!ブライト様とバードウォッチング行きたいです!」
「じゃあ決まりだね。明日二人で行こうか」
「はい!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべるレインにブライトも自然と口元を綻ばせる。
シェイドは罰ゲームでファインに薬草関係の知識をとことん覚えさせると聞いた時、自分の色に染める気満々だなぁ、と心の中で呟いたのと同時に自分もレインにそうした知識を教えて自分色に染めたいと思った。
そして様々な分野の中で自分が特化していて且つレインの興味があるものというとやはり宝石関連のものが真っ先に浮かんだ。
もっと言えば機械関係も得意なのだがレインはそちらにはあまり興味がなさそうなのでこちらはやめる事にした。
そうして現在、自分が学んできた宝石を使ったデコールや衣装などのデザイン関係を教えている訳だが、これが中々面白い。
人に教えるという行為は相手にどうやって学ばせるか、また教える内容はちゃんと正確なものかという考えや正確性が求められる。
そうなるとどうやって教えるか、ちゃんと間違っていないかなどの基礎の見直しが始まり、自分の知識や能力をより確かなものにすると知った。
それを他でもないレインによってその面白さを得られた事にブライトは密かに喜びを感じていた。
(三ヵ月の罰ゲームが終わったらどんな理由をつけて今のデザインの勉強を続けさせようか)
三ヵ月という長いようで短い幸せの期間。
それを長引かせる為の口実を探すのがブライトの現在の課題だった。
もっとも、ブライトが一言「これからも一緒に勉強しよう」と誘えばレインは喜んで頷く訳だが、そうだと気付くにはまだまだ時間が必要な二人であった。
END