『レッドマテリア』

ずっと同じ体制で寝ていた所為か体が固くなっているのが分かる。
とりあえず腕を伸ばしてみようとするがすぐに固いものに当たって阻まれる。

「・・・?」

ベッドで寝ている筈なのに何故固いものがあるのだろうか。
どんなものか手でぺたぺたと触って探ってみる。
人間の肌のような質感、固いが少し柔らかみのある・・・筋肉のようなもの、そしてそれらに形を与えるように存在する筋のような溝。
ここまで探ってどんなものが今目の前にあるか分からないほどユフィは寝ぼけていなかった。

「・・・」

大体の想像がついてしまって焦るユフィ。

「・・・ぐぅ・・・」

とりあえず寝る事にした。

「初めての朝なのに狸寝入りとは冷たいな」
「むぎゃっ」

鼻を摘ままれて強制的に起こされる。
その拍子に一瞬目が合ってしまい、恥ずかしさからすぐに反らして毛布を被る。
毛布の隙間からシュシュシュっと片手を出して抗議をした。

「可愛い彼女の鼻を摘まむってどーいう事だよ!」
「初めての朝で狸寝入りするのもどうかと思うがな」
「恥ずかしいの!乙女心分かれ!!それからユフィちゃんの鼻を摘まむの禁止!!」
「早速束縛か?」
「束縛じゃないもーん。約束だもーん」
「なら私からも約束事がある」
「んー?何?」
「これからは任務の為であろうと誰かと模擬デートをするのは禁止だ」

ポカン、と口を開けてヴィンセントの顔を見つめる。
しかしヴィンセントの表情は真剣そのもので、視線を逸らさず見つめ返してきた。
まさかそんなセリフをヴィンセントから聞ける日がこようとは。
任務を遂行させる為なら、と言って割り切ってしまうのだろうかと思っていたがその正反対をきたので、密かな嬉しさも相まって思わず言葉を失ってしまった。
それからたっぷり数十秒してユフィは一言。

「・・・そっちだって束縛じゃん」
「そうだが?」

即答するヴィンセントにユフィはとうとう堪らなくなって噴き出した。

「プフッ・・・あっははははは!!ヴィンセントを嫉妬させるなんてアタシも罪作りだね
〜!」
「付き合っている男がいながら他の男と模擬デートをする方がどうかしている」
「心配しなくてもそんな事しないってば。この間のは本当になんていうか話の流れでそうなっちゃったっていうか・・・」
「今後も流されないか心配だな」
「何だよそれ!アタシはそんな尻軽じゃ―――」

ドン、と顔の両側にヴィンセントの手が強く置かれる。
その強さと衝撃に驚いて反論の言葉が喉の奥に引っ込んだ。
驚いてヴィンセントの顔を見れば、今までに見た事もないような表情を浮かべていた。

「・・・っ!?」

縛り付けたい、という純粋な欲望。
ユフィが他の男に目移りせずただ自分だけを一生見つめるようにしたいという欲望が包み隠さず表に出されていた。
紅い瞳には狂気が宿っており、初めて見るそれにユフィの背筋はゾクリと震えた。

「ヴィ―――」

唇を塞がれ、舌を深く絡め取られる。
早速発言権を奪われてしまった。
きっとこれから色んな権利を奪われ、束縛されるのだと思う。

でも、それも悪くない。
むしろ心地良いとすら思ってユフィは静かに目を閉じてヴィンセントに己の全てを委ねるのだった。







つづく
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