カードの精霊たちの日常

とある森に囲まれた平地。
ここはモンスターたちが己を磨く為の特訓を行うのによく使われる場所である。
そして本日の使用者はブラック・マジシャンとその弟子のブラック・マジシャン・ガール、ガガガマジシャンとその後輩のガガガガールの2組。
最近よくいるこのメンバーだが、今日は遊びに来た訳ではないようで。

「では、これより課外活動を始める。この活動によってお前たちの基礎魔力を伸ばすと共に一部の魔法を伝授する。マンツーマンでそれぞれに付き添って行う。ガール、お前は後輩の子に転移魔法を教えてやりなさい」
「はい!じゃあガガガちゃん、こっち来て!」

ブラック・マジシャン・ガールはガガガガールを手招きするとブラック・マジシャンたちとは少し離れた所に移動して転移魔法についての説明を始めた。
その二人を軽く見やった後、ブラック・マジシャンはガガガマジシャンの方を改めて向き直る。

「さて、お前の担当は私だ」
「・・・お願いします」
「見たところお前の魔力は後輩の子と同様、一般的な魔法使い族と変わらんようだな」
「それでも習得してる魔法の数は少ないので拳で補ってます」
「何故拳で補うのか・・・まぁいい。かけられた呪文を解除する魔法の習得は?」
「していません。ただ、気合いで解除した事なら数回あります」
「お前が戦士族として誕生しなかったのが不思議でならんのだが。とにかく、覚えておけばいざという時に役立つ。今日はそれを教えよう。まずはーーー」
「それー!」

ガガガマジシャンに魔法の教鞭を執ろうとしたブラック・マジシャンの前に突然魔法陣が現れてそこからブラック・マジシャン・ガールが飛び出して抱きついてくる。
予想していなかった展開にブラック・マジシャンは「のぁっ!?」と油断した声を上げてブラック・マジシャン・ガールを受け止める。
僅かによろめいて数歩後ずさったものの、なんとか倒れ込まずにすんだ。
これらの一連の光景から同じ事が己の身にも降りかかると察したガガガマジシャンだが時既に遅し。

「センパーイ!」
「っ!」

同じように突然現れた魔法陣から飛び出して来たガガガガールを受け止めるも勢いを殺せず後ずさる。
それでも倒れなかった事を褒めて欲しい。

「魔法陣を使った転移はこんな感じだよ!」
「はーい!」
「ガール!転移魔法のおかしな使い方を教えるんじゃない!!」
「でも最初は分かりやすい座標を指定してやった方がコツを掴みやすいってお師匠様言ってたじゃないですか!事実、私も最初はお師匠様を座標に指定する事でコツを掴んだ訳ですし」
「あれは他に手頃のものがなかったからだ!今は状況が別だからあそこの大岩を座標に練習しなさい!!」
「はーい。ガガガちゃん、次はあの大岩ね」
「はーい」

ブラック・マジシャン・ガールは面白くなさそうに唇を尖らせると杖を一振りして先程と同じ魔法陣を出現させ、そこを通って離れた所にある大岩の元へ転移した。
その後にガガガガールも続いて転移する。
「お師匠様ケチ〜」だの「照れてるんですよ〜」だの、かしましい声に聞こえないフリをしてブラック・マジシャンは皺の寄った眉間を伸ばすように指で抑えた。

「私の弟子が余計な事を教えて本当にすまない・・・」
「いえ、お弟子様が教えてなくてもアイツは多分やってました。それよりもブラック・マジシャン様を座標に指定して練習していた件について詳しく」
「話さんぞ」

一体何を聞こうとしているのか、この脳筋魔法使いは。
ていうかお前もこっち側の存在じゃないのか。
お前もツッコミをやめてボケに回るというのか。
言いたい事は山ほどあったが時は有限なり。
何の成果も挙げられず返してしまったとなれば他のモンスターたちへの示しがつかない。
だからブラック・マジシャンは一つ深呼吸をすると気持ちを切り替えた。

「まず魔法の解除の仕方についてだが、これには二通りある。まず一つは呪文による解除。もう一つはお前がよくやっているであろう気合いによる解除をよりスムーズに無駄な力を使う事なくやる方法だ。こちらは魔力を使って解除する。両者の使い分けとしては上級魔法に対しては呪文を、下級魔法に対しては魔力を使って解除する、といった感じだ。お前の言う気合いによる解除というのは力任せに、という事だろう?」
「はい」
「ただ力任せに強引に解除しても無駄な体力を使うだけだ。それに魔法によってはもがけばもがくほど体力を奪ってくるものがある。そうなっては益々こちらが不利になる。その為にはまず、己の魔力を使って解除を試みるんだ」
「魔力を使って?」
「習うより慣れろだ。これから私がお前に動きを封じる魔法をかける。どの魔法にも流れや動きというものがあり、それに対してお前は自分の魔力を馴染ませるんだ。そして馴染んで来た所で跳ね返すように魔力を放出し、解除する。やってみるぞ」

言ってブラック・マジシャンは杖から紫色に光る球体を出現させるとそれをガガガマジシャンに向けて放った。
球体はガガガマジシャンにぶつかると彼の体を取り囲むようにして魔法陣を出現させ、ゆったりと回転を始めた。
ほぼ条件反射で力を入れるガガガマジシャンにブラック・マジシャンが軽く手を上げて制する。

「待て、力を入れるな。それよりも己の魔力を馴染ませるのに集中するんだ」

言われてガガガマジシャンは目を瞑って一つ深呼吸をし、意識を集中させた。
するとどうだろう、僅かにだが己を縛る魔法陣の流れが感じ取れた。
瞼の裏に描かれる流れは右周りの緩やかな紫色の魔力の光。

「流れに沿って自分の魔力を流せ。だが強引に流れに合わせようとするな。歯車が綺麗に噛み合う場面を想像するんだ」

ブラック・マジシャンの指示に従って魔法陣の魔力の流れに自分の魔力を馴染ませるように沿わせる。
しかし強く流し込み過ぎたせいで魔力がぶつかり合って弾かれてしまったので弱く流し込んでみるが今度は自分の魔力が飲み込まれてしまった。

「微調整は難しいかもしれんが焦らずに落ち着いてゆっくりやれ」

ブラック・マジシャンの言葉を受けて焦っていた自分に気付き、また一つ深呼吸をして意識を集中させる。
そして魔力の流し込みの強弱を慎重に探っていくと、拒絶される事なく綺麗に馴染む瞬間に出会えた。
その瞬間を逃さず、そしてこの感覚を忘れまいとガガガマジシャンは脳と体と心にそれらを叩き込んで記憶する。
ブラック・マジシャンの魔力と自分の魔力が完全に一致する瞬間が何度か訪れる度に馴染む時間は増えていき、10回目くらいになった所である程度のコントロールが出来るようになった。
そして訪れた11回目でスムーズに自分の魔力を馴染ませる事に成功し、ガガガマジシャンはカッと瞳を見開くのと同時に己の魔力をもってブラック・マジシャンの魔力を跳ね返し、己を取り囲み呪縛していた魔法陣を破った。
破られた魔法陣は紫色の小さな光となって弾け飛び、やがて静かに消えていった。

「うむ、見事だ。それが魔力による魔法解除のやり方だ。最初は時間がかかるが修行を重ねればすぐに解除出来るようになる。時間のある時に練習するといい」
「分かりました」
「次に上級魔法と下級魔法の見分け方についてだが―――」

説明を続けようとしたブラック・マジシャンの元に突如として黒く光る魔球が飛んできて杖を握る手首に直撃する。

「!?」

驚いて素早く当たった手首の方を見た頃には時既に遅く、手首は何者かの意思によって高く上げられて徐々に締め上げられていく。
黒魔術を極めたブラック・マジシャンにはこれが上級魔法によるものだとすぐに分かった。
この魔法はブラック・マジシャンにもブラック・マジシャン・ガールにも使えるものだが、勿論ブラック・マジシャン・ガールによるイタズラなどではない。
彼女がイタズラをするにしてもこんな締め付けるような痛みを伴う魔法を使ったりはしない。
そうなると使う者はたった一人。

「その前にテメーで上級魔法を解除してみろよ。おししょーさま?」

聞き覚えのある嘲笑うような声。
視線を向ければ思った通り、そこには自分と同じ容姿でありながらもローブ・肌・髪の色が異なる男が佇んでいた。
彼の名はブラック・マジシャン。
通常のブラック・マジシャンとは違い、赤の魔術ローブ、浅黒い肌、銀色の髪の毛をしていて、通常のブラック・マジシャンが涼やかな笑みを浮かべるならこちらは邪悪な笑みを浮かべている。
そうした事から見分けをつける事も兼ねて邪悪な笑みを浮かべる方は『イービル』と呼ばれている。
ブラック・マジシャンは忌々しそうな表情を浮かべると早口に呪文を唱えて手首を締め付ける魔法を解除した。

「これで満足か?」

「おーおー、流石はおししょーさまだなぁ。すーぐに魔法を解きやがった」

「冷やかしなら後にしろ。今はお前に構っている暇はない」

「ガキのお守りなんざ落ちぶれたもんだなぁ?俺の名前も落ちるからやめてくれよ」

「私はガガガ学園からの依頼で講義をしている。ここにはいない他の生徒の指導は他の名だたるモンスターたちが担当している。逆に言えば声のかからなかったお前はその程度の存在という事だ」

「俺とお前を間違えただけだ」

「お前がイービルという名で通っている事を知らない学園ではない」

お互いに火花を散らして繰り広げられる舌戦。
傍にいたガガガマジシャンは口を挟む余地がないこの空気に対してとりあえず静観を決め込んでいたが、そこにブラック・マジシャン・ガールとガガガガールが寄ってきて話しかけてきた。

「先輩さん大丈夫?イービルさんに何かされなかった?」
「俺は何も。ブラック・マジシャン様も自力で魔法を解除されました」
「そっか、なら良かった」
「ガール先輩、あのイービルって人、もしかして噂の・・・?」
「うん、お師匠サマの2Pカラーだよ」

「ガールちゃんその言い方やめてくんね?」

「いつもああやって何かとあればお師匠サマにちょっかいかけてくるの」
「ふーん。そんなに1Pカラーに昇格したいんですかね?」
「2Pカラーは所詮2Pカラーだがな」

「張り倒すぞそこのクソガキ共!!」

「いい加減講義の邪魔だ。帰れ、イービル」

「ガールちゃんを寄越してくれんなら今すぐにでも帰ってやるぜぇ?」

一層意地の悪い笑みを浮かべて言い放つイービルにブラック・マジシャンの切れ長の瞳はより一層鋭く細められる。

「え?え?ガール先輩ってば実は面白い三角関係築いてたんですか?」
「全然面白くないよ〜。イービルさんには悪いけど私はお師匠サマ一筋だし」
「・・・つまり横恋慕か」
「勝ち目のない横恋慕とかよくやりますね〜。もしかしてドM?」

「言いたい放題言ってんじゃねーぞクソガキ共!それから俺はドMじゃねぇ!むしろドSだ!!」

「普通自分で言っちゃう?」
「自分の事をドSって言う人に限ってそうでもなかったりするよね」

「ガールちゃんまでそういう事言う!」

「これ以上心の傷が増えない内に帰ったらどうだ、イービル・M」

「オイテメェ、そのMってのは勿論マジシャンの略だよなぁ?」

「ドMそのままだ」

「ブチ殺す!!」

イービルは杖を構えると素早くその先端から攻撃魔法を放った。
それに対してブラック・マジシャンも同じように杖を構えて同じ攻撃魔法を唱えた。
当然の如くそれら二つの魔法はぶつかり合い、膨大なエネルギーを放ちながら鍔迫り合いをする。
バリバリバリ!とまるで雷鳴にも似たような音を響かせながら周囲を眩しく照らす紫と黒の魔法の球体。
やがてぶつかり合いに限界が訪れ、二つの球体は化学反応を起こしたかのように一瞬だけ混ざり合うと大きな爆発音を轟かせて爆ぜた。

「チッ、同じ技使うんじゃねーよ!パクんな!」

「うっかりお前を消してしまわないように合わせてやっただけだ。感謝するんだな」

「なんだと!?」

「・・・いつもこんな感じなんですか?」
「大体こんな感じかな。イービルさーん!私たち授業やらなきゃいけないんで今度にしてもらえませんかー?」

「ガールちゃんもつれないな~」

イービルはニヤリと笑うと杖の先から頭上に魔法陣を出現させる。
魔法陣はそのまま空中から地面に向かってイービルの全身を覆うように降りてその姿を消すと、流れるように地面を滑ってブラック・マジシャン・ガールの足元まで移動して今度は地面から空中に向かって上り始めた。
それと同時にイービルの姿が現れ、ブラック・マジシャン・ガールの片手を引いて背中を抱き寄せながら囁く。

「そんなもん、そこのおししょーさまにでも押し付けちまえばいいんだよ」

「駄目ですよ!曲がりなりにも私はお師匠サマの弟子なんだからちゃんとやらないとお師匠サマに恥をかかせちゃいます!」

「俺の弟子になればそんな事も気にしなくて済むぜ?」

「いい加減にしろ」

横からブラック・マジシャンの手が伸びてきてブラック・マジシャン・ガールの手を掴むイービルの手を強引に引き離し、ブラック・マジシャン・ガールを自分の背中に隠した。
そして毅然とした態度でイービルを真っ直ぐに見据えて言い放つ。

「ガールはお前には手が余る。お前如きが弟子として連れて帰ったところですぐに胃に穴が空く事請け合いだ」
「お師匠サマひどーい!」
「そんなガールの師匠を務められるのは私くらいのものだ。昔も、今も、そしてこれからもーーーガールは私の弟子であり、たった一人のパートナーだ」
「!!」

ブラック・マジシャンの言葉を受けてボンッ!という音が聞こえそうなくらい一瞬にしてブラック・マジシャン・ガールの顔は耳まで真っ赤に染め上がった。
ブラック・マジシャン・ガールは顔を両手で覆うとブラック・マジシャンに背を向けて言葉にならない悲鳴を上げる。
そんなブラック・マジシャン・ガールの顔を覗き込みながらガガガガールやガガガマジシャンが冷やかしてくる。

「ガール先輩赤くなってる〜!」
「今のお気持ちを一言で表すなら?」
「〜〜〜!!」

「チッ、オメーってやつはつくづくいけ好かねぇ野郎だ。今すぐ勝負しろ!そんで今日こそガールちゃんを貰って行くからな!!」

「お前も懲りない奴だな。いいだろう、講義のついでに付き合ってやろう。ガール」
「はい!?」
「『マジカルシルクハット』を使った実技をする。二人に説明を」
「はい!えっと、これからお師匠サマが『マジカルシルクハット』を出すから私とガガガちゃんはその中に入るの。で、先輩さんとお師匠サマたちは私たちがどのシルクハットの中に入ったか当てるの。勿論私とガガガちゃんはただ入るだけじゃなくてフェイクも仕込むから」
「フェイク?」
「ガガガちゃん、ハンカチとか持ってない?」
「ありますけど」

そう言ってガガガガールはどこからともなく可愛らしいドクロがプリントされたピンクのハンカチを取り出した。
それを確認すると同じようにブラック・マジシャン・ガールもスケープ・ゴートがプリントされた可愛らしいハンカチを取り出すと説明を始めた。

「このハンカチに自分の魔力をじっくりと込めるの。それこそ自分と一体になったと思うくらい。そんなに難しくないからやってみて?」
「はーい」

軽く返事をしてガガガガールは目を瞑って自分のハンカチに片手を翳して魔力の注入を始めた。
魔力の注入自体は学校の授業でもやった事はあるが簡単に注入したりする程度のものが殆どだった。
ただ授業をサボる事も多々あったのでその時にじっくり注入する内容の授業があったかもしれないが。
とにかくガガガガールはハンカチに己の魔力を注入する事に集中した。
最初はただ手に持っているだけという感覚だったハンカチ。
やがてそれは次第に物としての感触の境界線が曖昧になっていき、自分はちゃんとハンカチを持っているだろうかと確認する頃にはそれは己と一体化する程の魔力を宿すようになっていた。

「出来ました、ガール先輩」
「うん、バッチリだね!じゃあこれをシルクハットの中に入れて、と」

ブラック・マジシャンが出現させたマジカルシルクハットの四つのうち二つの中に自分とガガガガールのハンカチを忍ばせるとブラック・マジシャン・ガールはガガガガールを手招きした。

「後は私たちがここに入るだけだけどなるべく魔力は放出しないようにね。すぐにバレちゃうから」
「はーい。ガガガ先輩、絶対に当てて下さいね?」
「お師匠サマ!またいつものように当ててくれるの待ってますから!」

二人のガールはそれぞれの愛する者に手を振るとそのままマジカルシルクハットの中に潜り込んで行った。
するとマジカルシルクハットは魔法の力で重なり合いながら左右に動いて混ざり合うと元の横一列に並んだ。
このマジカルシルクハットに限っては当たりのシルクハットを目で追っても無駄である。
重なり合う瞬間に中身も魔法の力で入れ替わっているので目視など当てにならないのだ。
ブラック・マジシャンはガガガマジシャンの方を向くと説明を始めた。

「次にやるのはガールたち二人の魔力の見極めだ。コツは精神を集中させ、魔力の流れや性質を見極めること。それからガールたちが己と一体化する程に魔力を注いだハンカチとの見極めについてだが、指導者として言うべき事ではないと思うが、お前にだけしか感じられない勘で当てるんだ。どういう意味かは自ずと分かる筈だ」
「分かりました」
「ではまずはお前からだ。私達は後から選ぶ。イービルもそれで問題はないな?」

「ねーよ」

「よし、では選んで来い。間違えると後が面倒だから慎重にな」

苦笑交じりに冗談っぽく言い放つブラック・マジシャン。
しかしそれの意味するところを知らないガガガマジシャンではない。
いくら後輩と言えど怒らせたりしたら厄介なのは百も承知だ。
だからガガガマジシャンは静かにゆっくりと深呼吸して精神を落ち着かせるとマジカルシルクハットの中から感じ取られる魔力の気配の見極めを始めた。
まず最初に左二つのシルクハットはすぐに違うと分かった。
ガガガマジシャンが普段感じ慣れてない魔力が放たれており、これはブラック・マジシャン・ガールのもので間違いないだろう。
そうなると残り二つのシルクハットについてだが、こちらからは普段から馴染みのある魔力が感じ取られていた。
よく自分の傍にいる魔力だ、間違うはずがない。
しかしどちらも同等の魔力を放っている為、見分けるのがやや困難となっている。

(俺にしか分からない勘、か・・・)

あのブラック・マジシャンにしては珍しく曖昧なアドバイスをするものだと思ったが今ならそういう風に言ったのがなんとなく分かる。
どちらも同じ性質の魔力と流れを放っている。
だが、何かが違う。
右から二番目のシルクハットの中の魔力は微妙に何かが違う。
上手く説明出来ないのだがこれがあの後輩の放つ魔力とはどうしても思えないのだ。
それよりも一番右端のシルクハットの方に気を引かれる。
自分の中のもう一人の自分がこれだと囁く。
ガガガマジシャンは静かに右端のシルクハットの前に立つとそれを見つめた。

「お前が選ぶのはそれか?」
「・・・はい」
「では次は私達だな」

言ってブラック・マジシャンとイービルは何も迷う事なく左から二番目のシルクハットの前に並び立った。

「真似すんな、他のシルクハットの方に行け」

「それはこちらのセリフだ。お前は本当にこのシルクハットでいいのか?」

「ったりーめだ。オメーこそ大丈夫かぁ?間違ってねーって自信あんのか?」

「当然だ。今それを証明しよう―――出てきていいぞ」

ブラック・マジシャンが合図を出すとそれぞれの前に立ったシルクハットが一気に翻ってその姿を現す。

「せんぱーーーい!!」
「お師匠サマーーー!!!」

瞳を輝かせ、満面の笑顔で飛び出して抱き付いて来るガガガガールとブラック・マジシャン・ガール。
突然の抱擁ではあるが、それにはもう慣れている二人は反動で小さく仰け反りつつも難なく二人のガールを受け止めて、けれども照れから小さく引き離した。

「流石私の先輩!一発で正解を当てちゃうなんて私達シンクロしてますね!」
「・・・俺達はエクシーズ由来のモンスターだ」
「も〜!照れなくていいんですよ〜!」

「今回も一発で当てるなんてさっすがお師匠サマ!私、とっても嬉しいです!!」
「何回もやっているのだからそこまで喜ぶ程のものでもないだろう」
「何回やっても嬉しいんです!」

「ガールちゃん、俺の胸にも飛び込んで来いよ」

「ダメです、私が飛び込むのはお師匠サマの胸だけです」

「そんなきっぱり言わなくてもいいだろ〜?」

「イービル、いい加減帰ったらどうだ」

「うるせーな、まだ勝負はついてないだろ!なんたって今のは引き分けだったんだからな!それより種目を変えるぞ!」

「全く・・・」

そうして始まる魔法合戦。
攻撃魔法による激しい攻防に巻き込まれないようにとブラック・マジシャン・ガールたちは離れた場所に移動して二人のブラック・マジシャンの魔法合戦を眺めていた。

「ガール先輩、いっつもこうなんですか?」
「うん。最後は大体魔法合戦になるかな」
「いつもどっちが勝ってるんですか?」
「勿論お師匠サマだよ!」
「2Pカラーの人が勝った事はあるんですか?」
「ないよ」
「あ、ブラック・マジシャン様が勝った」

最後に派手な魔法がぶつけられてイービルは派手に吹き飛ばされた。

「うぉああああああああああ!!!」

二回、三回と転げ回って断末魔の叫びを上げるイービル。
勝敗は決まった。

「お師匠サマの勝ち~!」
「うぐっ」

勝利の抱擁という名の体当たりにブラック・マジシャンのライフが削られる。
今回イービルとの対決で削られなかったライフが唯一削られた瞬間と言えよう。

「分かったから離れなさい。人前だぞ」
「だってだって!今回もお師匠サマが勝って嬉しいんだもん!」
「弟子や生徒たちが見ている前で負けられる訳がないだろう」
「さっすがお師匠サマ!」

「チッ、目の前で惚気やがって・・・」

起き上がったイービルだが、転げ回った所為か頬に擦り傷を負っていた。

「あ、イービルさん、ほっぺたに傷が・・・」

「あ?こんなんほっときゃすぐに治るだろ」

「ダメですよー、もう!」

ブラック・マジシャン・ガールは魔法でポンッと可愛らしいハートの飾りが付いた救急箱を出すとイービルの元に駆け寄った。
そして「いいって!」と言って手当を拒むイービルに「だーめーでーす!」と拒否を却下するとやや強引に傷の手当を始める。
思ってもみなかったその光景にガガガガールは呆然とし、それからブラック・マジシャンに尋ねた。

「いいんですか?あれ?」
「まぁ、手当くらいならな。イービルも根っからの悪人という訳ではない」
「でもああいう事するから2Pカラーの人もどれだけ振っても言い寄ってくるんじゃないですか?」
「これには色々複雑な事情があってな・・・私とアイツが初めてデュエルで戦う事になった時、イービルは持ち主たるマスターに捨て駒扱いされた挙句墓地に送られたんだ。しかもアイツ自身のカードはイカサマの為に切り刻まれていた」
「うわ・・・色々酷いですね」
「ああ。そしてガールのモンスター効果は墓地にいる『ブラック・マジシャン』の数だけ攻撃力がアップするというもの。召喚される際にガールは墓地にいた私とイービルの想いを聞き届けてくれたんだが、その時にガールがイービルの話を親身になって聞いていてな。外見も中身も違うが、私と同じ名を冠するモンスターだから放っておく事など出来ないと言ったんだ」
「あ~なるほど~。だからああやって優しくしちゃうんですね。で、2Pカラーの人はその時の事が忘れられなくてこうやってちょっかいをかけてくると」
「そういう事だ」
「あ、ブラック・マジシャン様。お弟子様が・・・」
「ん?」

「ガールちゃんさぁ、そんな大層なもの使わなくてもいいぜ」

「でも消毒しないとバイ菌が・・・」

「古来より傷は舐めたら治るって言うだろ?だからガールちゃんが俺の頬に―――」

「フンッ」

ブラック・マジシャンは自身の使用している杖を投擲、イービルにダイレクトアタック!
ブラック・マジック(物理)!!
杖は見事にイービルの傷を負っている頬に命中した。

「おぼぁっ!!」

「ついでだ、杖の使い方についても教えておこう。杖は魔力の調整や蓄積をするのに必須だがこうやって遠隔で操る事でそのまま物理攻撃に使う事も出来る。遠隔魔術を習得しておけばいざという時に役立つから覚えておいて損はないぞ」

説明しながらブラック・マジシャンは片手で杖を操ってガンガンとイービルを物理で攻撃しまくる。
イービルのライフもガンガン削られて行くのであった。



その日、ガガガマジシャンとガガガガールが提出したレポートに『杖は殴った時に、壊れにくくダメージが大きい物を使った方がいいと思いました』と書かれていたとかいないとか。





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