「ありがとうございました！それだけ聞ければ十分です」
おじさん「いや‥それはいいんだが、君のその恰好はもしや」

何か言いかけたところで僕は全力で走り出す。
後ろで制止の声が聞こえるが耳に入らなかった。

ただ…ものすごく面倒なことに巻き込まれたという認識はした。
走り続けるうちに自分がした結論は正しかったと思い知る。
土で出来た碁盤目上の道。
高さの低い木造の町屋。
先ほども思ったように歩く人たちは皆着物や袴を着ている。
刀を差して歩く男たちもいる。

今の時代に僕みたいに洋装した人間なんていない。
異国人と思われているのか警戒心が強く視線が痛い。
心がちくりと痛くなる。
そしてじわりと涙が眼尻からあふれてくる
溢れだそうとする涙を必死に袖で拭って止めようとこする。

どうして…？どうして…？
こんなことになってしまったんだろうか！！

只管走り続けてから何分経ったのだろうか限界まで来たところで悲鳴を上げる足を少しだけ休めるべく足を止めた。

「‥‥はぁ…はぁ…」

目線を横向けると女子供が男数人に囲まれて絡まれていた。
俗にいうナンパである…。

女性「どうか…ご勘弁を…この子も悪気があってしたとちゃうんです！！」

因縁をつけられたらしい母子。またよくある時代劇の場面で迫力も満点だ…とか呑気に考えながら様子を見る。

男１「いやいや…落ち着け。よく見ると中々の上玉だぜ」
男２「刀の錆にするのは惜しいのぉ…」
男３「まったくだ…」

男たち4，5人がニヤニヤと笑いながらじろじろと母を見ている。
男１「おい、女！ここは勤王の志士様が情けをかけてやる。
俺らの癪をしてくれるっていうんならこのガキのことは見逃してやる‥‥ありがたく思え…」

女性「そんな！」

酌ですむとは思えないけどね…どうせ酔った勢いで襲う気なんだろう態度だけででかい面下げている武士と名乗る奴らが僕は一番嫌いだ‥‥。
浪士たちはその腕を無理やり掴んで連れ去ろうとする。

男の子「母ちゃんを離せ！！」

男１を男の子が足にとびかかってきた。
すらりと刀を抜いた労使が大上段に構えた刀をいっきに振り下ろそうとした…

ガシッ

僕は咄嗟に身体が動いていて相手の手首を掴んでそれを止めた。
「‥…」

男1「何だ！？お前‥‥」

「‥…ほんと、大の大人が女子供相手に何をしてんだ
男として武士として名乗るのなら恥ずかしくないわけ？」

男２「なんだと！この野郎！」

「早く逃げろ」
と声を出すと我に返った女性が男の子を抱えて走り出す。
それを見届けて僕は安どのため息を吐いた。

男3「相手は優男だ！やっちまえ！」

優男？僕はあいてが何を言っているかわからず首を傾げ今の服装を見ると…何故か袴を着ていた。
あの時は洋装をきているからと焦っていて自分の服装を確認していなかったが…

まさか袴をはいていたとは気づかなかった
色は薄紫の袴だね…何て呑気に考えているとしびれを切らした不逞浪士たちが攻撃を仕掛けてきた

男1「でやぁああ！」

僕は掴んでいた手首をばっと上に放り投げて掴んでいた男の鳩尾を食らわせて気絶させた
同時に男は「かはっ」と空気を吐き地面に伏せた。

僕は空手の構えを取る。
意識を集中させる‥‥‥

男２「何っ！！この野郎！！！でやぁあー」

刀を振り下ろしにかかるが僕はそれを避けて刀を持つ手首をグーで突き回し蹴りを繰り出した。

男が倒れて今度は一斉に襲ってくる

男たち「…がはっ！！」
　 「うぐっ！！」
　 「ぐあっ！」

刀を持たない少女に威張り腐っていた不逞浪士が一瞬で倒れたのだ
それをみて周りの見ていた野次馬たちは「ぉおおー」と感嘆の声を上げながら拍手を送られた。

先ほどまで粋がっていた浪士たちはあっけなく倒れ橋の上で伸びていた。
剣道は中学一年生で全国大会優勝の経験があったため不逞浪士ぐらいなら倒せる自信はあった…。

それはおじいちゃんが剣道を教えてくれたからだ。
「‥‥ありがとうおじいちゃん…剣道を続けてたのは無駄じゃなかった」

男の子「ありがとう！お兄ちゃん！」
女性「本当に何とお礼を申し上げていいか…」

礼を言う親子に微笑みかけながら続けてよかったと心から思った
まさかこんなところで役に立つとは思ってもいなかったからだ。




そして今僕は全速力で京の町を走ってます
…ッチ、今日は走ってばかりだ
毎日鍛えていたとはいえさすがにずっと走り続けるのはかなりきつい。

足が悲鳴を上げそうになっている…。
何故こうも走り回っているのかというと…浪士を倒した僕のところに浅葱色の羽織を着た男たちがやってきたのだ。


街の人たちは「壬生朗」だとか「新選組」という母子たちの怯えた表情を見て直感的に僕がいたらまずいと判断して逃げるようにその場から逃げた。