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あなたの願いを叶えましょうっ!



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 あなたは罪のない顔で、私の目の前で私の作ったごはんを食べる。
 『ねえ、おいしい?』すると初めてそれに気付いたかのようににっこり笑って『うん』とだけ答える。
 それでも顔が笑っているから、本当はどうなのかわからない。
 でも、美味しいはずがない。
 私の手料理なんて食えたものじゃないって、弟も、前のカレシも言ってたから。
 なのに、何も言わないの?
 黙って食べてくれるの?
 今までそれがとても嬉しかった。
 ……だけど。
「ねぇ、今日彼女となに話してたの? ほら、昼休みに……」
「ん? ……ああ、別に大したことじゃないよ。仕事の進み具合。」
「……あぁ、そっか……。」
 そう言われたらもう聞けない。
 でも、ねえ、それは本当なの?


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「で、今日取った契約ってどんな?」
「……」
「でもあれだよねえ。ホラ、お金持ちにしてくれとかさ、美人にしてくれとかさ、叶えるほうもやんなっちゃうよねえ。」
「……そんなんじゃなかったよ。」
「へーえ、どんなん?」
「……。そーゆーの、ベラベラしゃべってもいいのかよ?」
「なんで? 何かいけない理由でもあんの?」
「いや……契約者の秘密とかさ、他言無用。」
「なんか医者とか弁護士みたいな……。別にいいんじゃないの? アンタも真面目だねえ……」
「……言いたくない。」
「そんなっ、たったひとりの母親に、隠し事なんてっ!」
「バカ。そんな厄介なモンがふたりも三人もいてたまるかよっ!」
「はいはい、母親は僕しか考えられないってことだね、うんうん。」
「前から聞いてみたかったことなんだけど、眺女。お前、おかしいのは耳のほうなのか、それとも頭か?」
「どっちも正常なはずだけど……」
「両方か。」
「アンタの頭がおかしいことなら、非はおとーさんにあるからね。僕を恨むのは筋違いだよ。」
「そんなこと言ってねーだろっ。もういいっ。」
「あ、隔世遺伝ってゆーことも……」
「だから、もういいっての……」


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 生まれて初めて<悪魔>と契約した。
 正直怖い。
 でも私にはもうそれしか残されていなかったのだ。
 馬鹿と言われればそれまでだ。
 それはその通りだし。
 自分でもそう思う。
 そう、わかってる。
 <悪魔>と契約なんかしてもいいことないって。
 だけどもう、耐えられなかったのだ、悲しみに。



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「わかってないなぁ……」
「何が?」
「だからさ、好奇心じゃなくて、僕は心配してるんだよ。」
「おあいにくさま。とってもしっかりちゃんっとできましたー。」
「だからあ、アンタじゃなくって。契約者のほうだよ、心配なのは。」
「何を? なんで?」
「後悔することにならなきゃいいけどなぁ……」
「願いが叶うってのに、何を悔やむってんだよ?」
「……失う、ものを、さ。」



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 人混みの中から現れた少年は、想像していたのよりずっと若く、普通だった。
 普通の高校生みたいだった。
 見て、違うと思ったのに、彼は真っ直ぐ私に近付いてきた。
「あなたが……?」
「呼び方は自由だ。まぁでも、<悪魔>ってのがポピュラーかな。願い事叶えるからそう呼ばれてんだ。アンタも想像力欠けてるってクチならそれで呼んでも構わないぜ。手っ取り早くな。」
 私は『ここで味方になってくれる人と出会える』との占い師の言葉が間違っていなかったことに感激して<悪魔>に駆け寄った。
「お願いっ……!」



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「別に命なんか取らねーぞー。」
「わかってるよ、許さないよ、そんなこたぁ。命より大事なものもあるでしょっ!」
「ねぇよ。」
「まーねっ、確かにねっ、それはそのとーりだ、ちくしょうっ!! まったくこれだから生意気なガキってのはっ。夢がないんだから。でもだね、何かを失くしてから手に入るものなんか、ろくなもんじゃないんだからねっ!!」
 

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 私たちの間に、大切だったもの、もういらないもの。
 『嘘』と引き換えに、あの人をください。



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「それでぇ? あげたの、その人に?」
「うん……。別に、悪かないだろ。もともと両想いなんだし……」
「ふう~ん。悪くないんなら、どうして自分に言い訳してるの?」
「だからっ、眺女がそーゆー言い方するからだろ。オレは別にっ!」
「ふう~ん、あそぉお。だけどさぁ、いくらもどかしーからって、嘘を失くして人間関係円滑にいくかねぇ?」
「知るか。関係ねぇよ。」
「うわっ、サイテー。性格悪ーい。いんけーん。そんな子に育てた覚えはないわっ。アンタは鬼子よっ!」
「育てたァ? 放ったらかしだったくせに、よく言うぜ。」
「その子もこんなのに騙されて、かーわいそーにねぇーえ。」
「……っつ、てめぇ……。いーよ、好きなように言えよ。どうせ、オレ、<悪魔>なんだし。」
「やだなぁ、何そのいじけた言い方ー。仕事には誇りを持たないといけないよ。」
「……まあな。それもその通りだ。眺女、お前も母業に自信持てよ。こーんな素直ないい息子を持てて、こーの幸せ者ぉ。」
「なに言ってんの? 僕はいつも自分は完璧だと思ってるよ。」
「あー、そうですか、はいはい。」
「お父さんだって強かったのに。」
「非情なだけだろ。」
「ま、完璧な親から完璧な子が生まれるとは限らないしね。仕方ないか。おバカな子ほど可愛いっていうし。少し情けないけど。」
「なんだそりゃ……」
「……本当は、かわいそうなことしたと思ってるんでしょう?」
「バッ……な、何が。」
「やーいやーい、赤くなってんのー。それは、照れかな? まだまだ青いねえ。いや、赤いけど。」
「……って、いったい何が言いたいんだよっ!?」
「うん。つまりねえ。やっちゃったことはもう仕方ないから。後悔すればそれでいいってもんでもないし。次の時もその次の時だって、人から何かを奪うのは、それがどんなにつまらなく見えるものだってきっと同じようにつらいから。我慢しなさい。必要悪になることを決めたんなら、人から嫌われることを恐れずにいなさい。お母さんだけは変わらずあんたを愛してるからね。」
「……うるせぇよ。」
「でも、バカなことやったら怒るからね。」
「うるせっ、てっ、痛っ! なんだよ、オレ、何したよ?」
「ほっほっほ。偉大なる母に向かって生意気な口をきいた。」
「いてぇよ、引っ張んな!」
「そうそう、タシカ。気になるなら見に行けば? アフターケアって手もあるからね。いつだって最善を尽くすことだよ。」
「最善? <悪魔>なのにィ?」
「いいのいいの、物は言いようなんだから。でしょ?」
「……。嫌だよ。オレもう関係ないし。」
「わかんないよお? 次のご利用があるかもしれないから。それにいい印象を与えておくにこしたことはないからね。悪人だとむやみに警戒されたりするけど、善人だと思われていると簡単にだまされてくれるかもだし。ここらで恩でも売っときなさい。」
「詐欺じゃねーかっ!!」
「何がだね?」
「言っとくけど、何かあったとしてもその原因を作ったのはオレなんだぞ?」
「大丈夫、気付かないって、そんなこたぁ。」
「気付くっての!! みんながみんな、お前みたいな間抜けだと思うなよ!?」
「……誰がなんだって?」
「てめぇがっ……いや、うん。なんでもない。ごめんなさい。だからそんな目でオレを見るなっ!」
「罰として行きなさい、すぐ行きなさい、今すぐ行きなさい。」
「……あー、はいはい、わかりましたよっ。せいぜい有り難がられてくるよっ。ありがた迷惑、余計なお世話ってこともあるけどなっ!」
「そんなに相手のことを気にして……。なんだかんだ言ってもいい子だね、タシカ……」
「だからうるせーってのっ!! ついでにもー帰って来ないからな、こんな家! 何か言い残したことがあるなら今のうちに言っとけよ!」
「あ、夕飯は六時だよ。」
「だから帰って来ねーっつの!!」


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