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あなたの願いを叶えましょうっ!




 死者の魂が次の生を受けるまでの期間、仮の体をもらって過ごす場所。
 天国とも地獄とも呼べるそこに、オレは生まれた時からいた。
 それはオレの母親が生きている時にこちらの世界に移ってきたからだ。
 普通、生きている者はこっちには来られない。
 その存在に気付くこともない。
 ところがオレの母親は変な女で、昔から視ることができた上に、こっちの世界の住人の男と恋に落ち、自分の生まれた世界を捨てて男に連れられるままここに移住してきてしまった。
 その男がオレの父親なわけだが、わけあって今はここにいない。
 それはともかく。
 生きている母、死者である父。
 その間に生まれたオレは、生きているとも死んでいるとも言えない、中途半端な存在なのだった。



 いわゆる死者の世界といっても、だから重要じゃないという事実はない。
 表と裏のように、こっちが表なら向こうが裏になる。
 実際、魂にふさわしい形で体を与えられ、本当の姿になるこっちの世界のほうが重要だという見方も存在する。
 ここに住む人たちは、時の止まったようなそこで大抵が退屈していて、みんな自分に合ったなんらかの役目を自ら選んで背負う。
 それを仕事にして、生まれ変わるまでの間、暇を潰して過ごす。
 <天使>や<悪魔>ってのがそれだ。
 存在自体曖昧なオレは、それを確かなものにするべく、自分を父親と同じ<悪魔>に当てはめ、その仕事をしようとはるばる<もうひとつの世界>に出かけたわけである。



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「あ。お帰り、タシカ。ご飯食べる?」
「……食べっ……けど、なんだよ? 待ってたのか?」
「そりゃねぇ。息子の初仕事だもんねぇ。気になるよ。」
「ただの好奇心だろ。うるさく聞くなよ。疲れてんだから。」
「そうか、疲れたか。うんうん。がんばったねえ。」
「……なんっか、ムカつくんだよな、そーゆーのって。」
「そお? で、どーだった? ちゃんと契約できたぁ?」
「だからうるさく聞くなっつってんだろ。」
「あー、はー、ふーん、あっそお。」
「……なんだよ?」
「うまくいかなかったんだあ。だからそーゆーふうに母親にあたるんだあ。うわー、なっさけないなぁ。男らしくないよねえ。」
「つっ……ちゃんとできたよ。当たり前だろ。それよりメシ。」
「はいはい。」



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 オレの初仕事の犠牲者となった相手は、ひとりの若い女だった。
 悩んでいたらしいことだけは確かだ。
 オレを見たとたんに飛びついてきた。
 しかし、オレは見てハッキリそれとわかる格好はしていない。
 たんなる趣味で黒っぽい服を着ているが、だからといって黒い服を着ていれば<悪魔>というわけじゃない。
 それでも女は近付いてきたオレが誰かわかったらしい。
 役所で紹介されたんだからちゃんとした客であるらしいことは間違いない。
 話を聞き、オレが差し出した紙、<契約紙>に女はサインした。
 驚くほど呆気なかった。
 オレのやることはもうなく、後はこの紙がなんとかしてくれる。
 そう、これは魔法の紙なのだ。



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「なんだよ、これ?」
「お・い・わ・い。一緒に食べようと思って。」
「待てよ。お祝いってふつーあげるもんだろ。一緒に食ったりしないだろ。」
「なに意地汚いこと言ってんの。ケーキはみんなで食べるもんだよ。」
「ケーキなら、な。なに、この巨大まんじゅう?」
「巨大まんじゅう。」
「じゃなくて、」
「だって他に言い表す言葉ないもん。」
「だから、そーいう意味じゃなくてだなーっ」
「お祝いといえば、紅白まんじゅう。」
「誰が決めた?」
「僕が決めた。」
「……。」
「嘘だよ、一般的にそーなんだよっ。だって結婚式にはこれもらって帰るくらいだし?」
「……いたいけな子供だまして楽しーか?」
「失礼なっ。ホントだよっ。結婚式に訪れた人はみんなこれ背負って帰るんだ。赤と白でおめでたいんだ。だから。お祝いに。」
「いらねー。ってゆーか、オレで遊んでるだろ? 眺女。」
「こら、ちゃんとおかーさんと呼びなさい。それはそーと、被害妄想だよ、タシカ君。」
「ぜってーウソ。つーか自分が食いたいだけなんだろ?」
「ひどいな、母の純粋な気持ちを疑うなんて。」
「はいはい。純粋に、食いたいって気持ちだろ。わかってるよ。いいから食えよ。オレ食わねーから。」
「む、それじゃせっかく買ってきた意味がないのだ。半分コ。」
「嫌すぎる……」



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