あなたのミカタ。
「ウエくーん。ぽけっとしてないで、お弁当はー? 食べないのー?」
横島の声にハッと我にかえると、もう須田も席に着き、訝しげな顔でいつまでたっても突っ立ったまま動かないアガリを見つめている。
しまった。
アガリは慌てて、しかしぎこちなく、いつもの食事の際に座る席に近づく。
お弁当の包みをのんびり開けながら、横島が上目遣いにアガリを見て尋ねる。
「そーんなにエロ本がショックだったー?」
(エロ本……)
先ほどの写真集はエロ本に入るのだろうか。いや、それよりも、見ていたことをしっかり見られていたらしい。
アガリは努めて落ち着いて返した。
「あれ、大内は授業中に見てたのか」
「うん。らしいよ。ちょっとだけど見ちゃった。僕はねー、昨日の夜、漫画描いてたからすっごく眠くってー。授業、途中から寝てたよー」
「漫画……今、なんの締め切りがあるんだ?」
確かなんにもなかったはずだと問うと、『自分の投稿用ー』という返事がかえってくる。
目が赤かったのは、たんに眠れなかったらしい。
(なんてことだ……)
昨日のことで泣いていたと思ったのはアガリの勘違いらしい。少し裏切られたような気分になってしまう。
横島は、とてもさっぱりしているのだろう。昨日、手を握ったことで、仲直りをしたつもりだったらしいし。というか、嫌われていないことの確認、だろうか。それですっきりして漫画に取り組んでいたらしい。アガリには少しうらやましい。
弁当を机に置き、椅子に座り、その包みをほどきにかかる。
内心では、つぶやきが漏れる。
(なんだ)
自分は横島のことが好きらしい。かばったり、守ろうとしたりするほど、好きらしい。人として。
ただ、それだけのことなのだ。
いろいろと言ったところで、結局、答えは、自分は横島が大切なのだ。自分にとって。
(そうか、そうなのか……)
要するに自分は横島の味方なのだ、とにかく。
(なんだ、そんなことだったのか……)
わかってしまえば、悩んだのがくだらない。
ふふふふふ……と含み笑う。
くっつけた席から『ひーっ』という声があがる。
「なに笑ってんだよ、チョー不気味ーっ」
「うわぁ、ウエ君が怖いよー!」
なんとでも言うがいい。そういう気持ちだった。今、アガリは答えを見つけたのだ。自分にとって大切な答えを。
そういうものを守っていけたらいいのだ。
(おわり)
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