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あなたのミカタ。




 弁当とパンを持って横島の席に向かう。クラスメイトの高橋雪広が、アガリの後ろの席の深町礼真と食事するためにアガリの席を動かしていて、勝手にごめんとかなんとか謝られ、別にいつものことだからとかなんとかごちゃごちゃ話しているうちに、遠くから『キャッ』という悲鳴が聞こえ、振り向くと、その女の子のような甲高い声はやはり横島で、隣の机をアガリたちのためにくっつけようとしていた横島がそれをひっくり返してしまったようだった。ちなみにその席は、大内実という水泳部の期待の星のもので、運動部とはいえきゃしゃで背が低くひょろりとしているので、横島同様問答無用で黒板に近い席にされてはいるが、特に勉強熱心というわけではない。
 ひっくり返した机を慌てて横島が直している。
 大内はにこにこして、苦労している横島にかわって自分が机を直し、荷物を拾う横島を手伝って……自分のものだが……それを机にしまっている。
 アガリはもう己にできることはないだろうと思いながら近づく。
「あっ、大内くん、ごめーん。見つけちゃったぁ」
 横島の言葉にふっと見ると、その手にあるのは、なんとアイドルの写真集。うといアガリでさえ知っているような人気のアイドルで、もちろんヌードというほどではないが、表紙からして水着写真。当然、学校に持ってきていいようなものではない。
 大内は、照れたようにちょっと笑って、頭をかいて、『横ちゃん、知ってたじゃーん』と言う。
「授業中俺が見てるとき、寝たふりして横目で見てたくせにー」
 これはまた、大胆な。
 双方、大胆だ。いや、先ほどの授業は現代国語だったので、本を読むことも、寝たふりをすることも……本当に寝てしまうことも……叶だったが。なにしろ先生が注意しないもので。易しいことで、だから何が大胆かといえば、こっそり開くそれがアイドルの水着写真集だったり、それを寝たふりをして横から眺めたりするということであって、アガリには真似できそうにない、しないが。
「えーっ、ちゃんと寝てたよぉ。でも、ちらっとは見ちゃったけど。あー、本読んでるなーって。ね、貸して? 僕も見たいー」
「いっけどさー、横ちゃん好きなの?」
「好き好きーっ」
 弁当を持ったまま呆然と突っ立ち、やりとりを聞きながらアガリは思う。
(なんだ、ちゃんと友達できてるじゃないか……)
 いや、友達がまったくいないと思っていたわけではない。同人仲間はいるのだし、姉の友達とも仲良くしているようだし……というより可愛がられているそうである……それに、もちろんクラス中でいじめられているとかそういうことはなく、普通のやりとりはできていた。
 しかし。
 その、こどものような無邪気な笑顔に、大きな瞳を輝かせ、楽しそうに嬉しそうに話す横島は、なんというか、アガリにとって予想外だった。
 兄の言葉が頭にふと浮かぶ。
『横島くんは笑顔で人と接すればもっと友達も増えると思うけどー? おまえなんかいらなくなっちゃうかもね。そしたらどうする?』
 どうするもこうするも、いいことじゃないか。友達100人できるなら。
 チクッと胸が痛む。
(そうしたら、俺は……)
 横島の側にいたい。一番の親友だと思う。いや、親友かどうかは微妙なところだが、むしろ悪友といってよく、いつも嫌な目にばかり遭っているような気がするが、それでも。
(俺の友達なのにな……)
 それくらいの寂しさは持つ。中学からの仲良しなのだし。
 同時に、いらっとする。
(ああ、自分は馬鹿だった……)
 放っておけるはずないじゃないか、友達として。自分にとっても、大事な、大事な、なんというか……少なくとも一緒に弁当を食べたいと思っている相手なのに。



(つづく)
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