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あなたのミカタ。




「あっ、フン来た、フン!」
 その一言ですべてを察した。
 要するに待っていたのだ、アガリが口を出すのを。
 昨日の仕返しか……とも思わないではないが、いくらなんもそこまで低くないだろう。たぶん、横島が『金魚』なら、アガリはその『フン』だと、それまでに話していて、それを面白がって使いたがっていたのだろう。
 状態としてはむしろ逆なのだが、どちらにせよ、馬鹿らしいことに違いはない。
 まったく情けない話だ。『フン』『フン』と騒ぐふたりを見ていると、笑いさえこみあげてくる。隣で須田は本当に笑っている。『おい、フンだってよー』とアガリの脇腹をつつく。軽い殺意が芽生え、とりあえずどつき返した。
 それはともかく。
 横島はくるりと振り向くと、『本当に困っちゃったよー』といった感じで、首を傾け、大きな目をぎゅっと閉じ、眉根をよせて、しかめ面で『はー』といかにも疲れた様子でため息を吐いて見せる。
 気持ちはわかる。
 もちろん、なんとかしてやりたい。できれば、永遠に。
 昨日、兄はなんと言っていたか。どうすれば放っておいてもらえるのだったか。アガリは懸命に思い出そうとする。なにしろ長い会話をしたので。そう、確か……。
「俺のっ……」
 そうだ、確かそういうことを言っていた。だがしかし、待て、『女』は変だ……。
 アガリは言いかけてそこで止まった。
 口を開けたまま考える。
 横島は女ではないし、もちろん自分の女ではないし、そもそも女性ではない、当然だ。
 そうして改めて大きな声を上げる。
「俺の『男』に手を出すなぁーっ!」
 その場がシーンとなった。宗や柳川はもちろん、なぜか須田やほかの生徒たちまでも、アガリを見つめ、動きを止める。ぽかんとしている。雰囲気が妙だ。
(……ん?)
 自分は何か失敗をしただろうか。何かおかしなことを言っただろうか。何か間違ったことでも……。
 救いを求めて横島を見る。横島は呆れ顔で、疲れた様子で、のんびりと言った。
「……冷静になってよねー?」


 しばらくして須田が大笑いをして、宗たちに新たなからかいのネタを与えてしまったことに、アガリは気付かされた。
 もちろん、めでたく放っておいてもらえることには、ちっともならなかった。
 横島には、『お兄さんの言うことをなんでも信じちゃ駄目だよー』と、怒られた。
 うまくいかないのが人生だ。どうもそうらしい。



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(つづく)
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