あなたのミカタ。
「男にそんなこと言うほうが変だろ」
「だから、それくらいおかしいって言いたいの、オレは」
「そういうことになるんだから仕方ないだろ」
アガリはむっとして返す。
横島がいじめられるような性格でなければ、そしてそれをどうにかできるようならば……できそうなときは放っておいている……はじめからそんなことはしなくていいのだ。アガリのそれは緊急出動なのだ。どうしようもないと思ってから動いているのだ、一応。
で、そうやって常に様子を見てしまうほど気になる……心配していることは確かだ。
どうしても、そうなのだ。
「放っておけって」
そんな気持ちを知らぬげに、ユイイチはあっさりと言い放つ。
「んー、おまえの好きな言葉で言うとー、信頼……とかってやつ? 少しは横島くんの持つ力を信じてやってもいいんじゃないの? なんかそういう感じかな」
ちょいと首を傾げて空を見つめて続ける。
「『力』ってのは、腕力とか脚力とかそういうものだけじゃないんだ。他人に助ける気にさせのも立派な力だけど。でも、その機会を失ってばっかじゃ出ないし、上達もできないだろ? そういうのは使わないと。えーと、たとえば、『他力本願発動ー! ……とか」
「発動……とか?」
「ピンクの得意技」
「あいつピンクか」
『しかも得意技それか』とあきれてつぶやく。なんだか戦隊ものというより、少年漫画の、ヒロインのような……というほど戦隊ものを知っているわけではないが、少年漫画のヒロインはいつも悪者につかまったりして仲間の足を引っ張ることになっているような気がする。でも、自ら助けてくれとは言わないはずだが。なんにしろ、そんな戦い方はない。
「他力本願のピンク……横島が聞いたら怒りそうな」
「だから、それはたとえだって。横島くんがうまくやっていく、なんらかの力が本人にあるでしょーよ。なきゃあ、死ぬ」
「おい、兄貴っ……」
あっさり『死ぬ』なんて言われても。だが、兄は続けて言った。
「死んだら困る」
「……」
アガリは絶句して、ぽかんと兄を眺めた。兄はうんうんとうなずくと、ピッとアガリを指差した。
「それはおまえの問題」
「兄貴は、横島が死んでもいいっていうのか」
真剣に問う。ムカムカとする。人の命をなんだと思っているのか。
「よくないけど、ただ……じゃあおまえ、横島くんを一生守って生きていくつもりか? 卒業しても? 大学に入っても? 会社に入っても? 結婚しても? そんなのってなんか……いや、おまえがいいならいいけど、さ。横島くんはそれでいいの? ふたりきりで生きていこうって言われたとか?」
「……何かあったら助けてくれ、とは言われた」
中学のときのことを思い出してまじめに答える。
薬ケースからサプリメントを取り出したユイイチは、しかめ面をして、首をひねっている。しばらくして、サプリメントを口に入れ、噛み砕きながらぼそぼそと話す。
「……男なんだから、『おまえひとりの体じゃないんだ』とかそういうことは……」
いやいや、それを言ったら考え方次第ではみんな自分ひとりの体じゃないと言えるしなぁ……などとぶつぶつつぶやく。
そして、急にはっきりと言った。
「なんにせよ、横島くんはラッキーかな」
「……何が?」
アガリはきょとんとして返す。
ユイイチは今度は何も言わずに、また止まってしまっていたスプーンを指で示す。
あとほんの少し、オムライスが残っている。
「飯、食え」
「おう」
「残したら許さない」
「おう」
「針千本入れる」
「お……」
つい『おう』と繰り返そうとして、後の言葉を飲み込む。
飯を残さず食べることは構わないが、もし残した場合、なぜ罰が待っているのか。
「そんな約束をした覚えはないな」
「約束? そんなものはいらない」
ユイイチは真顔できっぱりと言い切った。
「オレがしたいからするだけ……どうしたの? さっさと食えよ、ほら」
アガリはすすめられるままに、しぶしぶスプーンを手にした。
残すつもりはないが、そう聞くと怖い。
(入っていても飲まなきゃいいんだ、飲まなきゃ……)
たとえ飲み物に針が入っていようとも、飲まなければ無事だ。
ところが、ユイイチが意地悪な笑みを浮かべて言った。
「飲んだら許す」
「そうか……」
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(つづく)