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あなたのミカタ。




(こういう……コウモリの格好した人が……?)
 兄の他には吸血鬼くらいじゃなかろうかと思う。
 羽の動きが止まった。ユイイチは両腕で己の身を抱きしめる。そうすると、なおいっそうコウモリっぽい。きちんとコウモリの羽っぽく骨に似せて筋が入っているのだ。細かい。
「いやまあ、店に出るつもりだったしね…… 友達とこないだ原宿に遊びに行ったときに黒系の店で一緒に買ってさぁ、向こうが着てくるから着てきてって言うもんだから。オレもどうかとは思ったけど」
「じゃあ、もう一匹いるのか」
「さあな、七匹はいるかもね! 店で売ってんだからっ」
 腹を立てた様子で投げやりに言う。アガリはもう一度こっそりため息を吐いた。
(ヤバイ店には行くなとあれほど……)
 どこからか真っ赤なろうそくだの聖水だのガイコツだの怪しげなペンダントだの手に入れてくる兄に、そういう店は危険だから出入りするなとさんざん言ったのにこれ。どうせろくな連中が訪れない場所なのに……そこまで思ったときに、ふと浮かんだ。
(目が覚めたら七匹のコウモリに囲まれているなんて恐ろしいな……)
 ユイイチの『七匹はいる』という言葉からだ。ベッドに寝ているアガリの周囲を黒いコウモリ姿の男たちが取り囲んで舞っている。目が覚めた瞬間に心臓が止まりそうだ。
 そのことについて考えていると、兄がじろじろと見ていることに気付き、顔をあげて見つめ返す。
 ユイイチは面白そうに口の端を持ち上げて言った。
「ハロウィンにはもっとすごかったよ。店のみんなで仮装大会やったんだ。おまえにも見せたかったな。でも、未成年立入禁止ーっ」
 別にうらやましくもない。アガリはむすっとして押し黙る。すると、ペロッと舌を出して、おどけた顔でユイイチが首をすくめた。
「ま、それはそれとして、この上にコート着てきたけど。ほら」
 指差す方向……椅子の上……に黒い布がかけられている。それはそうかと思いつつ、やはりホッとする。
 兄の目はそのまま枕元の時計に移った。
「さてと、もうすぐ8時だけど……おまえ何か食ってきた?」
「あ、いや……」
 すっかり忘れていた。というより寝ていた。思い出せば腹が鳴る。
 そんなアガリを振り返り、妙に真面目な顔をしたユイイチが尋ねる。
「せっかくだから、ごちそうしよっか?」
「いいのか?」
 ほくほくとして尋ねると、ユイイチはさっと立ち上がった。
「いーよ、もちろん」
 部屋を出ていく後ろ姿を見送り、アガリは起きようと布団をはがし、あくびをして、目をこすってハッとする。
 目の下にざらざらとした感触がある。
(そーいや少し泣いたんだっけか……)
 兄にバレなかっただろうかと、消えていった扉のほうを見る。背中はもうそこにない。ユイイチが気付いていたにせよ、いなかったにせよ、何も言われなかったのはありがたい。それについて問われたら、恥ずかしくて話すどころかとてもじゃないが顔も見られない。客用に使われている部屋ではなく、兄の使っている部屋で寝たことも、何も言われなかった。食事も作ってくれるつもりらしい。
 兄のそういうやさしさが好きだ。アガリはそう思う。
 ぼんやり思い返していると、目が覚める直前、誰かに手を握られたような気がしたことを思い出す。夢だと思ったし、今でも夢だと思うが、その夢をもたらしたものは、もしかしたら兄だったのかもしれない。
(けど、あれは兄貴の手じゃなかった……)
 やれやれと頭を振り、食事の前に顔を洗うために、アガリは立ち上がった。



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(つづく)
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