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神様のガラス。






兄貴は嘘を吐く。

「天国の床はガラスになっているんだよ。それはね、天国に住む神様や天使たちが、下の世界に住む人間たちが何をしているか、見えるようになんだ。ときどき曇って見えなかったりするけど、たいていお昼は神様や天使たちが人間を見守ってくれているんだよ。それがほら、あの太陽の光なんだ。あれは天国にいる神様なんだよ。ガラスを通して、僕たちにも神様のお姿が見えているんだ。ところがね、それじゃ夜はまぶしくて、人間たちが眠れないだろう? だから夜になると、神様のお家では床に黒い布を敷くんだ。いくつも重ねて、神様が見えないように。人間たちがよく休めるようにってね。でも、それじゃ夜は神様や天使たちが下の世界を見ることができなくて不安だろう? 神様や天使たちは心配になるよね。人間たちは大丈夫かなぁって。だからね、神様は布に穴を開けるわけ。それがほら、あの大きな月だよ。あれは神様が天国の床に敷いた布を切って作った覗き穴なんだ。神様はあそこから僕たちを見守ってくれているんだよ。周りの小さな星々は、天使たちの覗き穴なんだ。あそこからは天使たちが見てるんだよ。もちろん、昼間ほどはよく見えないんだけどね。神様の光が昼間ほど下の世界に届いていなくて、夜は暗いから。大きな月でも、昼の太陽ほどは明るくないだろう? だからさ。でもね、天使たちの小さな光はともかく、大きな神様の月の光は、毎夜見えているとやっぱり眩しいだろう? 真っ暗な中であんなに輝いていたらね。だから神様は、決まった順番で作る穴を大きくしたり、小さくしたり、まったく作らなかったりしているんだ。数日は小さな天使たちに任せて、自分では下の世界を見ないようにしているんだ。神様だって本当はいつも見ていたいんだよ。でも、仕方ないよね。神様は人間たちにはまぶしすぎるんだ。だから神様は、数日の間は、不安でも自分では決して下の世界を見ないようにして、朝になって布を外すのを待っているんだ。可愛いこどもたちを心配しながらね。だから、月のない夜は、神様の見ていない夜だから、外に出ちゃいけないよ。危ないんだよ。天使たちでは小さくて、神様ほど上手に人を助けられないからね。月のある夜でも、昼間ほど神様には下の世界のことがよく見えないんだから、夜はお家で眠るんだよ。いつもいい子で神様に守ってもらえるようにね」

 夜空を眺めながら、兄貴はそんな話をした。
 14の俺は、そのとき、くだらないホラ話だと思った。

 あれから10年。


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(つづく)
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