木と星。
携帯電話をジーンズのポケットから取り出し、暗闇の中、光る画面を確認する。
10時50分と少し。あれからさほど時間は経っていない。
メールが来てから、すぐに部屋着からジーンズに履き替え、着ていたシャツの上から手近にあったセーターを被り、壁にかけてあったダッフルコートを取って、携帯電話ととりあえずの小銭をポケットに突っ込んで家を出た。それまでに10分とかかっていない、はずだ……と、思う。
速足で歩いているのでさかんに白い息が空にのぼる。痛む鼻を手でこする。寒い。
もう少し何か着てくればよかった。少ししか持っていない服の中で重ね着などするとみっともないことにしかならないだろうけど、どうせ夜だし、あまり人もいないだろうし。第一、コートで中は見えないのだし。ただ、せめてマフラーを取ってくればよかった。途中で羽織ったコートから出た首元が寒い。
そんなことを考えつつ、もう一度届いたメールの内容を確認する。
兄から。無題。本文、『迎えにおいで』、以上。
これで会えたら奇跡だと思う。クリスマス間近の奇跡。運命とさえ思ってやろう。そう言ったらたぶん兄は嫌がるだろうけれども。
それくらいは認めてほしいくらいのありえなさだ。ぎゅっとケータイを握りしめる。そして乱暴にポケットに突っ込む。
(『迎えに来い』ってどこからだ? 今どこにいるんだ? どこへ行けばいいんだ?)
苛立ち、そう思う。だがそれでも出てきたのは、きっと家に近い駅からなんだろうと見当をつけて。いくらなんでも遠方からならそう言いそうな……というより、それ以外の言葉……あるいはまったく何も知らせないか……をしそうな兄だったから。
わざわざ知らせる理由は近くにいるからだ。そう思って、自分は向かえに出たわけで。
(寒い……)
茶色のコートの袖をのばして口元を覆う。鼻と口がひりひりと痛む。雪が降っているわけでもないのに。
目の前をひらと横切るのは……小さな雪片のようなそれは、実は生き物で、雪虫で、これが飛ぶと雪が降るとも言われているが、とりあえずこれはただの虫。
クリスマスを目前に雪が降れば、当日降らなくても、もしも雪が積もれば……なんて期待もできるのかもしれない。『ホワイトクリスマス』とやら。それは、そこにはまったく自分の希望は入っていないのだけれども。まあ、世間的にはそうなのだろうか、と思うくらい。それも、テレビやマンガなどの知識によって。クリスマスにとくに重要な予定も何もないこの身としては、どうでもいいのだ。降っても、降らなくとも。こどものいる家庭なら、こういう家族だんらんの機会に雪でも降ってくれればこどもが喜ぶからいいことなのかもしれないし、恋人同士にはロマンティック……が、どちらも残念ながら自分とは無縁なのだ。むしろ歩きにくくなるとかなわないので、降らないほうがと思ってしまう。降れば、それなりにわくわくする若い心は、残しているけれどもだ。
まあ、降らないだろう、積もらないだろう。空をにらみつつ、大股で道を急ぐ。
雪が降るかどうかよりも、もっと気になることがある。
(つづく)