球根と種。
夕方。
紙に染みこんだ水色に、赤にするか黄色にするか決めかねた色が薄く重ねられ出したような、あいまいな空。もう少しすれば、白い部分が茜色に染まる、それまでの合間。
散歩がてら、キワムのためのお菓子をふたりでスーパーに買いに行くのに、ユイイチが球根を探してくれるというのでアガリもついていった。
回り道をしてスーパーへ向かう途中、キワムと手をつないだユイイチが、知らない家の塀の向こうに見える高い木を指差して言った。
「ほら、見てごらん、きーちゃん。あれね、バナナなんだよ」
「ばななー?」
「うん、そう。きーちゃんがいつも食べてるあのバナナ」
つられて見上げたアガリもキワムと同様に『バナナ?』と心の中の声に疑問がついた。
それは、つるんとした棒にいくつもの黄緑の鳥の羽をさしたような、南国を思い出せる、そんな木(?)だった。しかし、すぐに折れてしまいそうにひょろっとしている。
(あれが……?)
とてもバナナには見えない。垂れ下がるバナナの重さに耐え切れそうにない。アガリは疑問を口に出した。
「バナナ、なってないじゃないか」
「うん、今はね。でもちっちゃいのがなってるの見たことあるよ、僕は。まあ、この辺じゃ食べられるほどには大きくなれないみたいだけど…… でも、バナナだったよ、ちゃんと」
ユイイチが口をとがらせてそう返す。
アガリは首をひねったが、キワムは兄の言葉だけで信じたのか、興奮に目を丸くして、木を指差して嬉しそうに『バナナ、バナナ!』と繰り返している。
ユイイチはそんなキワムに微笑んでやさしく言った。
「きーちゃん、実がなったら見にこようね」
アガリはそんな兄の背中をつついた。
「おい、兄貴。俺にも教えろよ、実がなったら」
振り向いた兄が『おや?』といたずらっ子のように目を輝かせて尋ねる。
「興味あるの?」
「なんでないと思うんだ」
「んー、なんでだろうっ」
わざとらしいしかめ面で言って、おどけてぺろりと舌を出すと、ユイイチはさっさと前を向く。キワムとつないだ手をほどき、その手をキワムの頭に置いて、ぱさぱさと軽く撫でる。
「さあ、きーちゃん。バナナ買って帰ろっか!」
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(つづく)