赤い時計と黒い時計。
結局、アガリは待ち合わせ時間に遅れて、横島は怒ったが、目覚まし時計にはそれをすぐに忘れさせるほどの……少なくとも表面的には、話題が遅刻から移るほどには……ものがあり、じゅうぶん一日のネタにはなった。横島に黙ってただプレゼントとして渡すことはだますようで嫌なので、アガリは出所も含め、最初からどういう物なのかきっちり話して聞かせた。『トメロー!』の音声も聞かせた。兄の話に興味を持ってもらえ…… やはり横島にとってユイイチには特別な価値がある…… 時計にはさらにそれを盛り上げる効果があった。むしろ目覚まし時計に食いつきがよかったのは、後で聞いた須田だった。おおいに笑って、周囲の人間を呼び集め、遊ばれた。あげく、時計はクラス中を放浪した。結局、横島の『目覚まし時計として使わなかったらいいんだよねー』という発言から、持ち主が決まった。
教室に、時計が増えた。1組を訪れる他のクラスの者へ提供する手近なネタとして、クラス替えまでの少しの間、トマト時計は活躍したのだった。
(おわり)