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セブンズレイ

『幼いあの日』





 公園。
 子供が一人、砂場で遊んでいる。
 小学校低学年くらいの、まだあどけない少年。
 少年は一生懸命スコップで周りから砂をかき集め、大きな山にする。
 それを固め、城を作っていた。
 熱心に、楽しそうに微笑んで。
 砂場の横にある大木から、同じくらいの年齢のこどもがするするとおりてくる。
「ひろ、ボール遊びしよーよ」
「あとで」
 振り向いて笑顔で答え、また作業に戻る。
 断られた子供は、つまらなそうにボールを蹴って離れていった。
 少年はその場に一人になってもやめずに城を作り続ける。一人でもじゅうぶん楽しそうに。
 熱心に自分の城を作っていく。
 濡らした砂を削って形を作る。土台まである砂の城。白はどんどん立派になっていく。塔が削り出された。おとぎ話に出て来るような、なめらかな曲線のお城。
 さらに塔に窓の形を作っていく。
 先ほど去って行った子供が戻ってくる。
「まだやってんの?」
 幼年の横に立って呆れたように言うと、退屈そうにボールを抱えてしゃがみこむ。不機嫌な顔で、じーっと少年の動作を見つめている。そのうち、ふっと立ち上がった。
 黙ってその子供の前に立つ。
 きょとんとして見上げている少年の前で、子供はおもむろにその砂の城を蹴った。
 唖然として見ている少年の前で、ザッザッと何度も蹴りつける。
 砂の城は、みるみるうちに崩れて、ただの砂になった。
 驚いて声も出せずにいる少年に向かって、子供は笑って言う。
「知ってる? ひろ。砂ってね、崩れるんだよ。どんなにがんばって作ったって、こんなものすぐに壊れちゃうんだよ。だから、こんなのムダなんだよ!」
 得意げに胸を張って少年を見下ろし、ボールを持ってタタタッと駆け去って行く。
 残された少年はうつむいて、自分が一生懸命作ろうとしていた砂の城を見つめ、しだいに顔を歪めていく。
 ポタポタと、砂に水滴が落ちた。
 うっ……えーんえーんっ……
 砂で汚れた手で顔を覆って、少年は泣き出した。
 顔をしわくちゃにして、小さく体を丸め、一人泣きじゃくる。


 自分が大切にしているものを、
 他人が簡単に壊すことができると、
 知ったあの日。



(終)
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