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セブンズレイ

『いぬ』





尋里「あーあ。犬飼いたいなー」
朝風「犬な。犬。犬いいよな」
尋里「うん。おれも犬、大好き。猫も好きだけど、犬のほうが」
朝風「お前もか!? おれもだよー。ま、生き物はどんなやつでも全部好きだけどな。でも、とくに犬はいいよなあ」
尋里「ホントホント。犬って可愛いよなあ」
朝風「だよなあ。すっごい忠実だもんなあ。絶対飼い主から離れないだろ、犬って。なんかいっつも傍にいてくれて、どっか行っても呼べばすぐ戻ってきてくれて、いつも一番に飼い主のこと考えてくれそうな気ィすんじゃん。あれってエライよな」
尋里「犬って穏やかだよな。ケンカとかあんましないし。するだろうけど、猫みたいにしょっちゅうはしないかなって。犬同士はさー。縄張りとか決まっちゃってるし。なんかわきまえてそう。相手を尊重してるっていうか。みんな仲良いし」
朝風「ああ。『ハチ公』とかっていたよなー。おれアレ泣けて泣けて」
尋里「あ、駅でずうっと待ってたやつ?」
朝風「あれってやっぱすげえ主人のこと大切にしてんじゃん。きっとひとりしかいないんだよ、頭の中に。ああいうふうに、懐くってーか信じてもらえるっつーか、信頼関係ってのがあるよな、犬には」
尋里「群れだからなぁ。もとは狼だっていうし。だからやっぱり規律があるんだよ。仲間同士のさあ。あーあ、仲間に入れて欲しいよなあ」
朝風「ああ、仲間にな。そうか、仲間になるんだよなあ」
尋里「一緒に遊んだり。走ったり、じゃれたり」
朝風「散歩させたりか。他の飼い主の人とも仲良くなれるもんなあ。あっ! 可愛い女の子と知り合いになっちゃったりな。可愛い犬いると集まってきてくれるだろうなー」
尋里「他の犬たちがね。いっぱいいるほうが可愛いよなあー。飼うなら二・三匹飼いたいなー。一匹じゃなんか淋しそう」
朝風「あー。いっぱいかあ。みんなちゃんと懐いてくれりゃいいけどな」
尋里「大丈夫だよ。犬は犬同士でなんとかするよ」
朝風「いや、おれに。うん、やっぱ一匹がいいな。お互いにお互いを信頼しあうっつーか、そのほうがなんかいいパートナーっぽい」
尋里「おれはいっぱいいてみんながじゃれあってるのとか見てみたいなあ。あったかい気持ちになるよな、そういうのって。お昼寝にはまぜてもらいたいけどね。みんなでくっついて寝たら気持ち良いだろうなあ。毛がふわふわだろ?」
朝風「ヒロだったらつぶれちまうだろー。おれは絶対ベッドにはあげないね。よりかかっちゃダメだ」
尋里「ベッドじゃなくてさー。ソファーとかだって。だいたいお前んちベッドじゃないだろ」
朝風「いいの。うるせぇなー。おれはベッドで寝ててその下に犬がいてくれるイメージなんだよ。フローリングの床でさ」
尋里「ああ。毛が抜けるからだろ? 気をつけなくちゃ」
朝風「違くてさあ。部屋に観葉植物とかあってさ……」
尋里「いっぱいいても一匹でも、毛が長いとどうしてもなーぁ」
朝風「待て、ヒロ」
尋里「んー?」
朝風「……大型犬か?」
尋里「……う、うん」
朝風「そうか! そうだよなあ。犬はやっぱでかくなくちゃな!」
尋里「え、おれは別に小型でもいいけど……。ってか、ごめん。最後のほう小型犬だったよ、おれ。そっか、大型なら一匹しか飼えないもんなあ」
朝風「だろ? ヒロ、つぶれちまうもんな。一匹でも無理だよ、お前」
尋里「平気だよっ! ……でも、でっかいやつかあ」
朝風「そ! やーっぱ犬はでかくなくちゃなっ」
尋里「しつこい。一緒で『夢はでかくなくちゃな』って言うだろ?」
朝風「ったりめーじゃん。男はでかく! なんでもビッグに、どかんと生きる」
尋里「おれは慎ましく生きたいなー」
朝風「……ヒロ、弱々しいな、お前。そんなんでどうするよ?」
尋里「いいの! ところでなに犬がいい?」
朝風「おれはラブラドールレトリバー♪ すごいだろ、名前覚えてんだぜ。あ、黒いやつがいい。ほんで女の子」
尋里「ああ、メスのほうが優しそうな感じするもんね」
朝風「っつーか気持ち悪いだろー? オス同士って」
尋里「お前もオスに入るのか?」
朝風「オスでーす。だってさ、それで体洗ってやったり抱きしめたり抱きつかれたりなめあったりするんだぞ!?」
尋里「あー、まーね。そう考えるとねー。へーえ……お前、そんなことする気なんだ……?」
朝風「なんだよ。当たり前だろ。世話だよ、世話」
尋里「ふうん……」
朝風「ヒロは何? 犬」
尋里「おれもラブラドールいいなあ。あ、でも小さいのもいいなあ。小さくて可愛いの」
朝風「ああ、ケバケバの? 小さくてきゃんきゃん吠える犬なら傍にいるじゃん」
尋里「それってシーズー? いや、キャンキャン吠えるのはちょっと……って、え? 涼緒(すずお)のこと言ってる? もしかして」
朝風「あたーりィー。あいつまさに小型犬って感じじゃん。金持ちのおばさんがだっこしてるいつもふくれっ面の嫌味な犬」
尋里「……涼緒が今住んでいる家は、たぶんお前の思ってるのとは全然違ってる。だっこされるなんてプライドが許さないだろうし。それに必要以上には騒がないよ、涼ちゃんは。どっちかっていうと猫タイプだと思う。気まぐれな感じで」
朝風「そうかあ? まあ、印象なんて人それぞれだ。ほんで何がいいの?」
尋里「そうそう! 涼緒んちのウォルターって犬がチョー可愛いの! おれに懐いてくれてね」
朝風「ほほう。未来の旦那様だからな」
尋里「違うって。からかうなよ。真面目に聞けよ」
朝風「へいへい。で、シーズー?」
尋里「いや、柴犬」
朝風「柴犬!?」
尋里「そう。柴犬! これがもう可愛いのなんのって。おれを見ると走ってくるんだよ。そんなに頻繁に会うわけでもないのに、ちゃんと覚えてんの、おれのこと。目が黒くて真ん丸で、つぶらな瞳? そう。で、すごい尻尾ふって駆け寄ってきてさー。飛びついてきて、もうっ……」
朝風「柴犬飼ってんのか、あいつ……。似合わねえなあ……」
尋里「ま、涼緒の好みじゃないしね」
朝風「へえ……、だろうな。で、ヒロは柴犬がいいと?」
尋里「いやー、毛をとかしたりしたいから、毛の長いやつが。コリーとか、シェットランドシープドッグとか。あれ? 中型だよな、それって。大型なら……ゴールデンレトリバー、かな?」
朝風「ふうん。でもラブラドールでもいいんだよな?」
尋里「うん? ああ、いいよね。けどお前、なんでそんなに聞きたいの?」
朝風「……一緒に飼いたいな、と思ってさ」
尋里「ええっ!?」
朝風「そーんなに驚くかあ?」
尋里「一緒にってどうやって? どこで飼う気だよ? あ、お前自分ちで飼えないからっておれに押しつける気だな? そうなんだな」
朝風「違うよ、一緒にお前と住んでだよ。将来の話」
尋里「やだよ、だって世話とか全部おれがやるんだろー? っつーか勝手に一緒に暮らすって決めんなーっ」
朝風「おれお前の妹と結婚するんだぞ。弟じゃん、おれ」
尋里「それも勝手に決めんな! おれは許した覚えはないっ」
朝風「なぁんだよ~っ。ちぇーっ」
尋里「……」
朝風「うーん。兄貴を口説くほうが先か……」
尋里「おれはお前に口説かれんのかと思うと複雑だよ……」



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