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セブンズレイ

『そんな小悪魔』





 狭いアパートの一室。物の少ないわりに棚が多く、ごちゃごちゃしている。その棚を埋めるのは半分は調理器具。入り口付近には、一人暮らしの住まいには似つかわしくない、大きめの冷蔵庫が陣取っている。
 家主は今、唯一部屋と呼べるスペースで、小さなテーブルを挟んで客と向かい合って座っている。
「好きだ……」
 目を見てつぶやく。見つめられた尋里(ひろさと)はきょとんとして朝風(あさかぜ)を見つめ返す。
「お前が好きだ……。お前がお前であることがうらやましくてたまらない。おれにくれないか?」
 テーブルに身を乗り出して、ずいっと迫る。近付いてきた朝風の真面目な顔を目を見開いてまじまじと見つめ、尋里は顔を赤くして口を手で押さえる。そして、顔を背けると……『プッ』とふき出した。
「あっはははははっ」
 目に涙を浮かべて笑い転げる尋里に、朝風が憮然とした顔になる。
「ヒーロォー。笑うなよー」
「いや、だって、笑うだろ、そりゃ」
 しゃくりあげ、涙を指ですくいながら尋里が起き上がる。
「つまんねえなあ。遊びだぞ? 『好きだ』って言ってんだから『おれもだよ』くらい言ってくれ」
「言えるかよー。おれ笑っちゃうー。なんか、ゴメン、ムリだ。だって恥ずかしいしさー」
「あーあ。なんだよなんだよ。おれ口説くの結構自信あんだぜ? それを笑い飛ばしやがって。これは生涯の傷になるな、うん」
「ゴメンて。でも、おれ、口説かれんの好きだよ」
「おれも口説くのは好きだ」
 言ってふと真顔に戻る。尋里の目を真っ直ぐに見る。
「好きだよ、ヒロ」
「あーはははっ!」
 尋里は腹を抱えて身をよじる。
「ヤベ、腹いて。笑いすぎだ、こりゃ」
「チェッ。おれがからかわれてるだけじゃねぇか……」
 すねて向きを変える朝風に、後ろから尋里が訊く。
「え? もう終わり?」
 その言葉の残念そうな響きに、朝風はゆるりと振り向く。
「……なんだ、嬉しいのか? んじゃ、もっと言ってやる。おれにはお前が必要だ。好きだぞー、大好きだぞー、ヒロ」
 大きな声で調子よく言葉を投げかける。
「愛してるぞ」
「愛されてるよ」
 即座に言葉を返し、尋里は得意げに指をさして明るく笑った。
「あはははははははーっ!!」
 満面の笑顔で首を傾げて朝風を覗き込む。
「おしまい?」
 期待に輝く目を向けられ、朝風はかくっと頭を下げた。いまいましそうに地面をにらんで悔しそうにつぶやく。
「……小悪魔め……」



(終)
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