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お月さまのお話

『お月さまのお話』





 ふたりの猫が並んで仲良く手をつないで道を歩いていました。
 黒い帽子を被ったような模様の猫が言いました。
 『お月さまが僕についてきてるよ』と。
 すると、茶色のしましまの上着を着たような模様の猫が言いました。
 『いいえ、あれは私についてきてるのよ』と。
 すると、帽子猫が怒って言います。
 『いいや、僕についてきてるんだ』。
 すると、上着猫もまた怒って言います。
 『いいえ、私についてきてるのよ』。
 ふたりはそろって言います。
 『だって、いつも、自分についてきてるもの』。
 そこでふたりはケンカになりました。
 お月さまはどちらについてきているのか。
 ふたりとも、自分のほうだと言って、ゆずりません。
 しばらくしてケンカが止んでも、離れたふたりは、もう手をつなぎません。
 ふたりとも、黙ってとぼとぼと歩きます。
 そんなふたりの後ろを月が黙ってついていきます。
 背中を丸めてうつむいたふたりを平等に照らしています。
 その様子を見ていたカラスが、お月さまのところへ飛んでいって、たずねました。
 『お月さん、あんたはどうして、みんなについていっているんだね。かわいそうに、あの子たちはどっちについてくれているかで、ケンカをしてしまったよ』と。
 それを聞いたお月さま、にっこり笑って答えました。
 『私はここにいるだけです』。
 すごく遠いところで輝いているので、どこからでも見えるのです。
 けれど、カラスは納得できません。一生懸命羽ばたいて言います。
 『誰にでもいい顔をして、その態度はあんまりずるくはないかね』。
 カラスの非難に、眠たげに月は輝きます。ゆっくりゆっくり話します。
 『そう言われても、みんなが見るのですから、そうはいかないでしょう? ひとりのとき、ふたりのとき、みんなのときも見えるなら、それはみんなのものです。わたしはみんなのものなのです。みんなについてきているように見えるなら、みんなで一緒に眺めればいいじゃないですか』。
 そして、お月さまは少しおどけて、『私は減るものじゃありませんよ』と言います。
 それを聞いたカラス、あきれた様子で、冷たく言いました。
 『そんなだから、あんたはずっと空でひとりぼっちなんだ』と。
 月は明るく笑ってこう言いました。
 『ええ、そうです。だから私は、いつでも、誰のところにでも、いることができます。だから、誰もひとりぼっちにはなりません』。
 月はひとりぼっちですが、だから誰もひとりにはなりません。
 すべてのものは月に見守られています。
 孤独な、孤独な、月に。
 カラスはぽかんと息を吐いて、さっさと森に帰っていきます。
 いつしか、ともに歩くうち、ふたりの猫の手は元通り仲良くつながれていました。




(おわり)


あとがき。

 わざと書かない、
 ・・・すべてのものたちは月に見守られています。
 『誰かが月を眺めれば、月もひとりぼっちじゃありません』。
 ・・・
 そういう考え方もありますが、集団の中の孤独、その孤独のために書きません。
 みんながみんなのものを眺めるのと、自分ひとりの大切なものを眺めるのと。
 それはあまりにも違いすぎるからです。
 *この『ふたりの猫』『手をつないで』は、人間のように二本足で立つ猫を想像してください。童話ということで。
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