星見探偵事務所
「碧さん……そんなことで呼び出されたんですか、僕は」
「だってよォー、どうしても気になるっていうから。あ、ここおごりだから、好きなもの頼めば? おまえも」
「いえ……長居するつもりがありませんから」
「大変だねェ、大学かよ? また」
「いえ……事務所から呼び出しが」
「へーえ」
普通に会話していたふたりに割り込んで、火夏が身を乗り出す。
「ちょっ……そんなのなかったよ、あたしたち!」
『同じ事務所員なのにっ』と握りこぶしを作る。
星次はちらっと見て言った。
「いえ、個人的な頼み事みたいでしたから……六連さんの」
それでも火夏は『悔しいーっ』と騒いでいる。
「セージは正しくは事務所員じゃねーだろ。今は大学通ってんだから」
火夏と宗直の所属する星見探偵事務所は、碧の父親『六連』が所長、そこに今は星次もアルバイト扱いで入っている。一時期は本当に働いていたが、大学に入れた今は時々手伝うだけになっている。ちなみに、もともと事務所は六連の親友、星次の父親のもので、星次の父親が亡くなってから、事務所は六連が継いでいる。六連が父親がわりに星次を育てたようなもので、星次は年下である碧と友達だが、いつまでも敬語を使う。
そんな星次はひょうひょうとして言う。
「席はともかく、心はいつでも置いてますよ、事務所に」
「おい、心をいつも置き去りかい」
慣れたもので、碧はビシッと即座にツッコミを入れる。
「心、置き去りで大学行ってんのかよ。楽しいか? それ。友達いんのか」
「心の友はいつも碧さんって決めているんです」
「ヤだよ、そんな『おかずの友』みたいなのは」
じゃれ合っていると、前から冷たい視線と冷たい口調での言葉が投げられる。
「……ねぇ、結局」
「視えるんですか視えないんですか?」
ふたりに問われて、星次は口をへの字に曲げて、冷たい視線を返し、焦る碧の前で、あっさりと答える。
「関係ありません」
サァァァーッと冷たい空気が流れる。
かちんこちんに凍らされた火夏と宗直がそこにいた。
碧は『ドンマイ』とつぶやく。
(つづく)