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星見探偵事務所






「おばけですよ、だからおばけ!」

「そうだ、おばけ!」

 ダンダンッと火夏までテーブルを叩いてみせるからたまらない。

 碧は通りがかったウェイトレスを、指を鳴らすという今時キザどころか実際にやったやつ見たことないよおい的なやり方で呼び止め、ソーダを頼み、ついでに上がる『コーヒー!』『紅茶!』の声にそれも追加する。どうせ払うのは自分じゃない。おごりだ。

「で、セージが幽霊視えんのかって?」

 話題の主、星宮星次(ほしみやせいじ)。冗談みたいな名前だが、かわいそうに本名だ。なかなか痛い名前だと思う。碧も別の意味でからかわれる名前だけど、父親のことを考えれば何も言えない。星の名前らしいけど、『ムツラ』はさんざん『ムッツリ』とからかわれて辛い青春時代だったらしいし。おい、それで息子に女みたいな名前って嫌がらせかよ……と思ったこともないでもない。とはいえ、マシだ。

 碧はソーダの残りを全部すすって、そのストローを指でいじりながら話した。

「常に視えるってもんでもねーだろよォ。大変じゃん、毎日が。ってゆーか暮らせないね。それどこじゃないね。でもアイツ、平気でどこでも行ってるもんね、大学も」

 幽霊なんざ始終視えてたら授業どころじゃねェだろと吐く。

 何故だかどっちも残念そうな顔をした。叱られたように。

「でも、じゃあ、あれは、……そうっ、病気! 病気なんだ!」

 がくんと碧の体が片方へ傾く。

「おいおいー、俺のダチを病人呼ばわりか。そんなイタイ野郎じゃねェよ」

 宗直がちょいちょいと片手を振って注意を引いて、碧をとがめる。

「それは偏見ですよ、メロンくん。そういうこと言っちゃあいけません。病気はみんなどこか痛いものですからー……」

 どのような言葉だろうと、碧は『メロンくん』の段階でもう聞いていなかった。額に青筋で尋ねる。

「さりげに俺にムカついてんだろ。え? そーだろ?」

「親しみをこめて呼んだのに、心外ですね。僕の気持ちなんかわからないんだってゆーかわかるはずもないってゆーかわからないほうがいいんですよ、ええホント」

「何いじけてんの、宗直」

「いいえぇ。僕もちょっとイタイ人ですから……」

「だってさ、ミドリくん」

 火夏が明るい笑顔でパタパタと手を横に振る。

「まぁまぁ、ミドリムシって言われなかっただけいいじゃない」

「今怒っていいか? 今! 今!」

 ダンッ、ダンッ、ダンッと今度は碧がテーブルを叩く。あちこちから『あのテーブルうるさいなぁ……』という視線が来るが知ったことか。

「それより、星次くんのことは? 名前が『神時(カミトキ)』っていうくらいだから、神がこう、すぱーんっと、そう! 雷が落ちるときみたいに謎解きしちゃったりなんかしないの? 碧くん」

「何そのツッコミどころ満載? どっからツッコめばいいのかわかんねェ。とりあえず神がつけばみんな神ならこの国マジで八百万過ぎだし、だいたい時の字が違うしっ……っていうか、あんたが事務所員だろ俺ただの所長の息子だしってか俺の友人そんなにミステリアスじゃねェよッ……ハァハァ、ゼェ」

「碧さん、何か飲み物でも頼んだほうが」

「おうよ。もう頼んだってば、さ……」

 息を切らしたところに挟まれた言葉に、なにげなく答えて、碧は『あっ……』と横を見る。

 火夏も、宗直も、テーブルの横に立つ人物を見つめている。





(つづく)
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