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星見探偵事務所






 ズズズとクリームメロンソーダをすする。

「ぜえーったいに、嘘なんか吐いたことないと思う!」

「いや、ありますね。ずぇーったいにっ、ありますね!」

 神時碧(かみときみどり)は、右を見て、左を見て、今の状況を『不毛だなぁ……」なんて思う。メロンクリームソーダをすすりながら。否、クリームメロン……アイスクリームのメロンソーダなんだ、でもメロンのクリームみたいじゃないか、たまには間違えたっていいはずだ……とにかくソーダをすすりながら。

 据わった目で両方を交互に見やる。

 目の前で議論している男女。

 何が不毛かって、なんて言ったって話題が自分たちのことじゃない。右のことでも、左のことでも、碧のことでさえない。この場にいない第三者が嘘を吐くかどうかなんて……。

 はーっとため息を吐く。

 右、女性、木嶋火夏(きじまひな)が言う。

「星次くんはそんな子じゃないと思う! あたしの希望、願望、とにかくっ!」

 左、男性、梶葉宗直(かじのはむねなお)が言う。

「星次くんはそんな子じゃないといけないと思うんですよね、僕は」

「そんなのあんたがどう思おうとこのあたしが許さないっ!」

「それくらいじゃないとあの顔でっ、顔で世間は渡れないと思うんですよ、僕は!」

「それは世間が汚れているからであってあの子のせいじゃないんだから、絶対!」

「腹黒結構! いいじゃないですか、見た目通りじゃなくてもっ。火夏さんはギャップ萌えに走ればいんですよ、思う存分に!」

「ギャップ萌え……今まで装備したことないわぁー、残念ながら」

「これからでいいんですよ、人間誰しも『初めて』ってことがありますから」

 双方笑顔で落ち着いた。

 碧はここだとスウッと息を吸った。

「あーのーよーォー」

 はじめて口を開いた向かい側に座る少年にふたりの目が集まる。それは、どう思うかと間違いなく意見や考えを求めるものだったのだが。とにかく。

 碧は構わずに言った。

「帰ってもいーい?」

 もうすぐソーダもなくなるし。てゆーか今現在もうアイスは溶けちゃってるし。

 火夏と宗直は顔を見合わせ、興味津々といった様子で碧のほうに身を乗り出してくる。

「ミドリくん。メロンのジュース飲む気分ってどう?」

「まるで共食いみたいな気になりませんかどうですか」

「どうしてだよっ! 名前だけだよ! なんでそんなに息合ってんだ、おまえら!」

 ダンッとコップを置いて、ビシッと指をさす。それは望んだ反応を呼び起こさなかった。

 ふたりはさっきまでの熱論の熱はどうしたどこへいったというほどのんびりと言う。

「乱暴はいけませんよー。八つ当たっちゃ駄目です。でもこっちに来ても困ります……」

「そうだよ。人だけじゃなく物にもやさしくしないと、もったいなーいおばけが出るんだぞ、知らないのー?」

「おまっ……高校生にもなって言われるとは思わなかったぜ、『オバケ』ってよー」

 『ダッセェ』と片方の唇をつり上げて嫌な感じに鼻で笑ってみせる。頬杖をついて、上からで物を言う。それも許される。何故ならこのふたりは碧の父親である神時六連(かみときむつら)の事務所の事務員なのだから。いや、ちっとも許される理由じゃないが、だからって立派な成人男性あんど女性にきいていい口じゃないが、まあ、そういう関係だってことだ。

 オバケと聞いたとたん、また『それだ!』と宗直が食いついてくる。





(つづく)
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