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お題会第11回「涙」

「マリィちゃん、相談があるの」
「どうしたん?」
週末のスパイクタウンは随分と賑わっているようだ。
スマホ越しに聞こえる街の喧騒に一瞬、気を取られた。
「あのね、さっき…キバナさんに告白されたの」
「…うん」
思ったよりも驚いた様子はなかった。まるで、こうなることを予想していたかのような、そんな風だった。
「それで、ユウリはなんて答えたと?」
「んと…まだ好きだって実感はないけど、キバナさんの傍にいたら安心するって」
「それで?」
「今は、それでもいいって言ってくれた…」
「うん。よかったとね。ユウリ」
聞こえてきた声はとても柔らかくて、どこかほっとしたようだった。
今ではあの時、彼女に何も相談しなかったことを後悔している。
彼女になら話してもなんの問題もなかっただろうに、あの時はどうしても弱音を吐けなかった。
分かりきっていたことだと言われるのではないかと恐れていた。
しかし、いざ別れて事情を説明すると、彼女は今にもダンデの元へ行きそうなほど憤慨した。
スパイクタウンからシュートシティまで駆けつけてくれて、ダンデの部屋から引き上げた荷物の整理にも付き合ってくれた。
ボロボロと彼女の前で泣いて、涙が枯れるまで傍にいてくれたのだ。
「うん…」
「何か、問題あると?」
「ここ半年、割と近くにキバナさんがいてくれて、私は割と…すっと冷めちゃったからあんまり未練はなくて。だからなんていうか…ちょっと軽い気がしちゃって」
「そんなこと、なかよ?キバナさんを好きになっても何も問題ないと思うけど。ユウリはどうしたいと?」
「私、は…告白される前に、キバナさんが彼氏だったら…なって」
そう、思ってしまった。
きっかけは、ほんの少しのことだった。
どうして彼は、いつも連絡をくれるのだろうと不思議に思った。
休みが合えば一緒に出掛けて、ナックルシティに用事があって行くと、必ずご飯を一緒に食べる。
バトルをしたり、キャンプをしたりするのは楽しくて、少々の我儘にも付き合ってくれる。
自然体でいられると思った。
チャンピオンユウリではなく、ただのユウリとして一緒に過ごせる人だと思った。
「…キバナさんはユウリを幸せにしてくれると思う。ユウリがどうしたいかだと思う。…あ、ごめん。兄貴帰ってきたからいったん切るね」
ツーツーと電子音が響く。確かネズはしばらく国外に行っていたはずだ。ツアーが終わって帰ってきたのだろう。
スパイクタウンの喧騒も、もしかしたら歓迎の声だったのかもしれない。
「こういうのも、恋、なのかなぁ」
どうしたいか。
なんだか懐かしくて、傍にいるだけでほっとする。一緒にいて楽しい。ただひたすらに、甘えているような気もする。
それは友人の枠を超えているのだろうか。
彼とそういう関係になったとして、またあの時のようにならないだろうか。
最初だけ楽しくて、嬉しくて。
それが堪らなく怖かった。
でももし、そうでないとしたら?
自問自答は永遠と続けられそうだった。
着信音が鳴って、反射的に受話ボタンをタップする。
「はーい」
「ユウリ?家、着いたか?」
叫び声はなんとか口に手を当てて飲み込んだ。てっきりマリィがかけ直してきたのだと思って、発信者を見ずに出てしまった自分を恨む。
「…はい」
「さっき言い忘れてさ。再来週、ユウリと休み被りそうなんだ。キャンプでも行かないか?」
「行く!行きたいです!」
「はは、随分乗り気だな」
「だって、ここ最近雨ばっかりでキャンプできなくって」
「じゃあ、また近くなったら連絡する。おやすみ」
「おやすみなさい」
先ほど別れたばかりなのに、電話をしてくれたことが嬉しかった。
なんだか少し暑い。それに心臓の鼓動がいつもより少し早いような気がした。
それが何故なのか、行きつく先は一つで、自覚した途端に顔に熱が籠る。
「どんな顔して会えばいいんだろ…」
呟いた独り言に、うとうととしていたグレイシアが首を傾げた。
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