nclのmobシリーズ+他者視点
一つの棚にずらりと並ぶスイーツコーナーに小柄な女性が一人。
スマホを見ては商品を視線を戻し、唸っている。
かれこれ十分はスイーツコーナーにいる。
届いた商品をスキャンをして並べ、を繰り返しながらその様子を伺っていた。
もう少ししたら声をかけた方がいいだろうか、と悩みつつ、おにぎりを次々にスキャンしていく。
「あの、すみません。この商品って入荷してませんか?」
不意にかけられた声に顔をあげると、小柄な女性はガラルでは知らない者はいないというくらいの有名人だった。
「あ、えっと…こちらの商品は冷蔵ではなく冷凍なんです。なのであちらの冷凍食品のコーナーに…」
有名人に話かけられたことなんてない。
ここ、ナックルシティには彼女と同じくらい有名なジムリーダーがいるが、遠目に見ることはあっても、話したことはない。なんでも名前を呼んで手を振れば振り返してくれるらしい。運が良ければ写真や握手をすることもできるおか。
だとしても、話しかける勇気なんて持ちあわせてはいない。
どうにか平静を装って、彼女の後ろに並ぶ大きな冷凍庫を指す。
ほっとしたように笑んで、彼女は礼を言って冷凍庫へと向かった。
目当ての商品を2つ手に取って、彼女はお菓子コーナーへと消えていく。
今、レジには先輩であるパートの女性一人しかいない。
その彼女はレジの奥のフライヤーで、間もなくやってくる学生たちのために揚げ物を作っている。
スキャナーを搬送用のカゴに入れレジに入ると、彼女は小さな箱もいくつか手にしていた。
こちらも今日入荷したポケモンたちが小さなフィギュアになった商品だ。ランダムで入っている上に置いている街に寄ってポケモンも違うのだから集め甲斐もある。この店舗で扱っているのは勿論ドラゴンタイブだ。
「お願いします」
テーブルに置かれたそれらをレジに通していくと、揚げ物をしていた先輩がいつの間にか隣に立っていて、一緒に差し出されたマイバッグに詰めていく。
確かそのマイバッグもナックルジムが何かのイベントで配ったものだったはずだ。紺色にオレンジのライン。小さくジムのロゴが入っている。
欲しくて並んだけど、列のだいぶ前の方で無くなってしまったマイバッグ。
彼女はドラゴンストームに直接貰ったのだろうか。
だとしても不思議ではない。
彼女とドラゴンストームは兄妹のように仲がいいと昔から噂だ。
最後に新商品のメロンパンアイスを袋に入れ、彼女に取手を差し出した。
「お会計、2451円です」
プリペイドカードをかざして彼女は支払いを済ませると、ぺこりとお辞儀をして出口に向かっていった。
「…先輩、今のチャンピオンですよね」
「可愛らしいわよねぇ…私も息子じゃなくてあんな可愛らしい女の子、欲しかったわ」
「なんでナックルのコンビニに…?」
「たまに来るわよ?ほら、ここナックルジムにも近いし。キバナ様もたまーに。トレーナーさんたちはよく来るわよ」
凄い職場に勤めてしまったのかもしれない。
そんなに有名人に遭遇する率が高い職場なんて滅多にないだろう。ただなんとなく、求人を見て選んだだけだったのに。確かに少しは、ジムに近かったら見かけることも増えるかな、くらいの気持ちはあったけれど。
今度は中華まんを蒸し始めた先輩に声をかけ、途中にしていた作業に戻る。
思ったよりも時間がかからず、すべてを並べて終えるまでにそう時間はかからなかった。
搬入トレーを片付けてぐるりと店内の様子を見ながらレジへ戻ると、賑やかな声が外から聞こえた。
いつもの学生たちだ。
ワイワイと話しながら入ってきた学生たちは、腹が減っているのかお菓子、ジュース、パン、揚げ物を買っていく。
一人一人並ぶものだから、会計に時間がかかってしまう。
まとめて言ってくれた方が楽だが、ここで割り勘されても余計に時間がかかってしまうだろう。
店員としては商品が売れてくれればなんでもいい。迷惑行為さえしてくれなければ。
「お次の方、どうぞー」
「なぁ、お姉さん。これ、置いてるか?」
いつもより声が遠くに感じて見上げると、薄い光沢のある金色が目に飛び込んできた。
その先を更に見上げると、鮮やかなオレンジが目に入る。
紺と金色のパーカーに、オレンジのバンダナ。
思い当たる人物は一人しかいない。ドラゴンストームだ。
テレビ越しで聴く通り、低めなのによく通る声だ。
なんというか、耳障りのいい声。
端正な顔はまるでこの世のものとは思えない。青い瞳はただの青ではなく緑が混じったような、まるで海のような色をしている。これで芸能界が本業ではないというのだから、天は彼に二物も三物も与えたのだろう。全く、羨ましい限りだ。
二、三度瞬きをして我に返る。
今は仕事中だ。例え目の前の人物が憧れの人でも、今はただのお客様。
ふわふわとドラゴンストームの周りを飛んでいたスマホロトムがこちらに画面を向けた。
失礼します、とその画面に目を凝らすと、新商品、メロンパンアイスの広告があった。
「おいくつですか?」
「2つかな」
「少々お待ちください」
レジから出て冷凍庫からメロンパンアイスを2つ取る。さっきのチャンピオンにしろドラゴンストームにしろ、意外に庶民的なものも食べるのだなと勝手に思ってしまった。もっとシュートの有名店スイーツとか、ナックルの老舗の菓子店のものとか、そんなものばかりを食べているのだと思っていた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「お、サンキュー」
本日2度目の紺色とオレンジのマイバッグに2つを丁寧に入れて差し出す。
最後にちらりと見たドラゴンストームは、まる語彙力がなくなてしまったかのように、ただ格好いいとしか思い浮かばなかった。
見送る後ろ姿に、本当に背が高いんだなぁと感心しつつ、その手や足の長さにも驚く。
「先輩、ドラゴンストーム、生で見ちゃいました…」
「あら、初めて?ホントカッコいい人よねぇ。あなたは心配ないと思うけど、接客に必要な会話以外は禁止ね。多分もうプライベートだから」
「それは…勿論です」
「新商品のスイーツ出ると、たまに来るわよ。絶対2つ買っていくの」
「チャンピオンも2つ買ってましたね…?」
「そういえば、そうね〜」
まあ、1人で2つ、食べることもなくはない。買いだめということもある。
「さ、もうすぐ混みだすからそれまでにタバコの補充、お願いね」
はい、と返事をしてタバコの棚に視線を向ける。
夜のピークまであと少し。
コンビニは今日も忙しい。
スマホを見ては商品を視線を戻し、唸っている。
かれこれ十分はスイーツコーナーにいる。
届いた商品をスキャンをして並べ、を繰り返しながらその様子を伺っていた。
もう少ししたら声をかけた方がいいだろうか、と悩みつつ、おにぎりを次々にスキャンしていく。
「あの、すみません。この商品って入荷してませんか?」
不意にかけられた声に顔をあげると、小柄な女性はガラルでは知らない者はいないというくらいの有名人だった。
「あ、えっと…こちらの商品は冷蔵ではなく冷凍なんです。なのであちらの冷凍食品のコーナーに…」
有名人に話かけられたことなんてない。
ここ、ナックルシティには彼女と同じくらい有名なジムリーダーがいるが、遠目に見ることはあっても、話したことはない。なんでも名前を呼んで手を振れば振り返してくれるらしい。運が良ければ写真や握手をすることもできるおか。
だとしても、話しかける勇気なんて持ちあわせてはいない。
どうにか平静を装って、彼女の後ろに並ぶ大きな冷凍庫を指す。
ほっとしたように笑んで、彼女は礼を言って冷凍庫へと向かった。
目当ての商品を2つ手に取って、彼女はお菓子コーナーへと消えていく。
今、レジには先輩であるパートの女性一人しかいない。
その彼女はレジの奥のフライヤーで、間もなくやってくる学生たちのために揚げ物を作っている。
スキャナーを搬送用のカゴに入れレジに入ると、彼女は小さな箱もいくつか手にしていた。
こちらも今日入荷したポケモンたちが小さなフィギュアになった商品だ。ランダムで入っている上に置いている街に寄ってポケモンも違うのだから集め甲斐もある。この店舗で扱っているのは勿論ドラゴンタイブだ。
「お願いします」
テーブルに置かれたそれらをレジに通していくと、揚げ物をしていた先輩がいつの間にか隣に立っていて、一緒に差し出されたマイバッグに詰めていく。
確かそのマイバッグもナックルジムが何かのイベントで配ったものだったはずだ。紺色にオレンジのライン。小さくジムのロゴが入っている。
欲しくて並んだけど、列のだいぶ前の方で無くなってしまったマイバッグ。
彼女はドラゴンストームに直接貰ったのだろうか。
だとしても不思議ではない。
彼女とドラゴンストームは兄妹のように仲がいいと昔から噂だ。
最後に新商品のメロンパンアイスを袋に入れ、彼女に取手を差し出した。
「お会計、2451円です」
プリペイドカードをかざして彼女は支払いを済ませると、ぺこりとお辞儀をして出口に向かっていった。
「…先輩、今のチャンピオンですよね」
「可愛らしいわよねぇ…私も息子じゃなくてあんな可愛らしい女の子、欲しかったわ」
「なんでナックルのコンビニに…?」
「たまに来るわよ?ほら、ここナックルジムにも近いし。キバナ様もたまーに。トレーナーさんたちはよく来るわよ」
凄い職場に勤めてしまったのかもしれない。
そんなに有名人に遭遇する率が高い職場なんて滅多にないだろう。ただなんとなく、求人を見て選んだだけだったのに。確かに少しは、ジムに近かったら見かけることも増えるかな、くらいの気持ちはあったけれど。
今度は中華まんを蒸し始めた先輩に声をかけ、途中にしていた作業に戻る。
思ったよりも時間がかからず、すべてを並べて終えるまでにそう時間はかからなかった。
搬入トレーを片付けてぐるりと店内の様子を見ながらレジへ戻ると、賑やかな声が外から聞こえた。
いつもの学生たちだ。
ワイワイと話しながら入ってきた学生たちは、腹が減っているのかお菓子、ジュース、パン、揚げ物を買っていく。
一人一人並ぶものだから、会計に時間がかかってしまう。
まとめて言ってくれた方が楽だが、ここで割り勘されても余計に時間がかかってしまうだろう。
店員としては商品が売れてくれればなんでもいい。迷惑行為さえしてくれなければ。
「お次の方、どうぞー」
「なぁ、お姉さん。これ、置いてるか?」
いつもより声が遠くに感じて見上げると、薄い光沢のある金色が目に飛び込んできた。
その先を更に見上げると、鮮やかなオレンジが目に入る。
紺と金色のパーカーに、オレンジのバンダナ。
思い当たる人物は一人しかいない。ドラゴンストームだ。
テレビ越しで聴く通り、低めなのによく通る声だ。
なんというか、耳障りのいい声。
端正な顔はまるでこの世のものとは思えない。青い瞳はただの青ではなく緑が混じったような、まるで海のような色をしている。これで芸能界が本業ではないというのだから、天は彼に二物も三物も与えたのだろう。全く、羨ましい限りだ。
二、三度瞬きをして我に返る。
今は仕事中だ。例え目の前の人物が憧れの人でも、今はただのお客様。
ふわふわとドラゴンストームの周りを飛んでいたスマホロトムがこちらに画面を向けた。
失礼します、とその画面に目を凝らすと、新商品、メロンパンアイスの広告があった。
「おいくつですか?」
「2つかな」
「少々お待ちください」
レジから出て冷凍庫からメロンパンアイスを2つ取る。さっきのチャンピオンにしろドラゴンストームにしろ、意外に庶民的なものも食べるのだなと勝手に思ってしまった。もっとシュートの有名店スイーツとか、ナックルの老舗の菓子店のものとか、そんなものばかりを食べているのだと思っていた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「お、サンキュー」
本日2度目の紺色とオレンジのマイバッグに2つを丁寧に入れて差し出す。
最後にちらりと見たドラゴンストームは、まる語彙力がなくなてしまったかのように、ただ格好いいとしか思い浮かばなかった。
見送る後ろ姿に、本当に背が高いんだなぁと感心しつつ、その手や足の長さにも驚く。
「先輩、ドラゴンストーム、生で見ちゃいました…」
「あら、初めて?ホントカッコいい人よねぇ。あなたは心配ないと思うけど、接客に必要な会話以外は禁止ね。多分もうプライベートだから」
「それは…勿論です」
「新商品のスイーツ出ると、たまに来るわよ。絶対2つ買っていくの」
「チャンピオンも2つ買ってましたね…?」
「そういえば、そうね〜」
まあ、1人で2つ、食べることもなくはない。買いだめということもある。
「さ、もうすぐ混みだすからそれまでにタバコの補充、お願いね」
はい、と返事をしてタバコの棚に視線を向ける。
夜のピークまであと少し。
コンビニは今日も忙しい。
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