その他
「ソニア、何してるんだ?」
慎重に、右手のマニキュアを震える左手で塗っていると、背後から突然声をかけられて小さく飛び上がってしまった。
その拍子に爪から飛び出したオレンジのマニキュアに嘆く。
「いきなり来ないで、って何回言えばいいの!」
「すまない。その、声をかけたんだが」
悪いと本当に思っているのか怪しい雰囲気のダンデは謝罪を口にした。
ソニアは、はあ、と盛大なため息をついて、筆をボトルへと戻して、あと2本だったのに、と漏らして机に突っ伏す。
もちろん両手は空中にあげて。
「リザードンの色みたいなオレンジだな」
ボトルを手に取ってしげしげとマニキュアを見ているダンデを恨めし気に睨む。
「そりゃそうよ。だってポケモンのカラーがテーマだもん」
「ほう…じゃあこっちはピカチュウで…こっちは…絵柄からしてエーフィか」
ダンデは棚にインテリアのように飾られたマニキュアを一本一本手に取っている。
女性に人気のポケモンをテーマにしたマニキュアを集めるのが最近のソニアの趣味だった。
自身の爪に塗るのはもちろん、飾っているだけでも楽しいそれらは、日々の研究の忙しさの合間に眺めるだけでも息抜きになる。
「うん。今塗ってたのはヒトカゲ」
失敗した部分を綿棒でふき取って、もう一度色を重ねる。
「なあ、俺も塗ってみていいだろうか」
「ダンデ君が塗るの?」
仕上がった左手を光に翳してダンデの方を向くと、照れくさそうに頭を掻いていた。
「俺が塗るんじゃなくて、俺が君に」
怒られたワンパチみたいに小さくなっているダンデの姿が可笑しくて、ソニアは思わず笑ってしまう。
「いいよ」
残りは右手の薬指と小指だけだ。
一旦切れた集中力はしばらく戻りそうにない。
はい、と机の上に右手を置く。
まるでガラス細工を扱うようにそっと指を持ち上げて、筆をしごかずにそのまま爪に落とし、少々乱雑に塗っていく様子にソニアは吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「…笑わないでくれ。これも必死なんだ」
黄金色の瞳を見下ろすのも、初めての光景だ。
「ごめんごめん」
べったりと塗りつけられたマニキュアは、根本に溜まっている。縁は塗られていないし、ムラだらけだ。
「それで、今日はどうしたの?」
今度は小指を差し出して必死に塗っているダンデに問う。
「その…今日は…調べたいことがあってきたんだ」
「私はしばらく何も触れないから、好きに調べて」
ふう、とため息をついて、ダンデが離れていく。
「ふふ、ありがと」
まだ全く乾いていない、二本の指を太陽に翳す。
いびつに塗られたそれは、乾けば気泡ができるだろう。
それでも、ソニアはなんだか嬉しかった。
「ねぇ、ダンデ君。今度はこっちの色塗ってよ」
ひらひらと振ったそのボトルは、エーフィの紫色。
「遠慮するよ。俺にこういうのは向いていないみたいだ」
苦笑いしたダンデは研究資料をパラパラと捲っている。
本当は。
ピカチュウ印はワンパチ。
ヒトカゲはよく見慣れたリザードン。
エーフィはダンデの髪の色。
ミミロップのクリーム色は、マントのファーの色に似ていたから。
もちろん他にもたくさんあるけれど。
一つ一つ並べなおす右手の薬指と小指は、やっぱり気泡ができていた。
慎重に、右手のマニキュアを震える左手で塗っていると、背後から突然声をかけられて小さく飛び上がってしまった。
その拍子に爪から飛び出したオレンジのマニキュアに嘆く。
「いきなり来ないで、って何回言えばいいの!」
「すまない。その、声をかけたんだが」
悪いと本当に思っているのか怪しい雰囲気のダンデは謝罪を口にした。
ソニアは、はあ、と盛大なため息をついて、筆をボトルへと戻して、あと2本だったのに、と漏らして机に突っ伏す。
もちろん両手は空中にあげて。
「リザードンの色みたいなオレンジだな」
ボトルを手に取ってしげしげとマニキュアを見ているダンデを恨めし気に睨む。
「そりゃそうよ。だってポケモンのカラーがテーマだもん」
「ほう…じゃあこっちはピカチュウで…こっちは…絵柄からしてエーフィか」
ダンデは棚にインテリアのように飾られたマニキュアを一本一本手に取っている。
女性に人気のポケモンをテーマにしたマニキュアを集めるのが最近のソニアの趣味だった。
自身の爪に塗るのはもちろん、飾っているだけでも楽しいそれらは、日々の研究の忙しさの合間に眺めるだけでも息抜きになる。
「うん。今塗ってたのはヒトカゲ」
失敗した部分を綿棒でふき取って、もう一度色を重ねる。
「なあ、俺も塗ってみていいだろうか」
「ダンデ君が塗るの?」
仕上がった左手を光に翳してダンデの方を向くと、照れくさそうに頭を掻いていた。
「俺が塗るんじゃなくて、俺が君に」
怒られたワンパチみたいに小さくなっているダンデの姿が可笑しくて、ソニアは思わず笑ってしまう。
「いいよ」
残りは右手の薬指と小指だけだ。
一旦切れた集中力はしばらく戻りそうにない。
はい、と机の上に右手を置く。
まるでガラス細工を扱うようにそっと指を持ち上げて、筆をしごかずにそのまま爪に落とし、少々乱雑に塗っていく様子にソニアは吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「…笑わないでくれ。これも必死なんだ」
黄金色の瞳を見下ろすのも、初めての光景だ。
「ごめんごめん」
べったりと塗りつけられたマニキュアは、根本に溜まっている。縁は塗られていないし、ムラだらけだ。
「それで、今日はどうしたの?」
今度は小指を差し出して必死に塗っているダンデに問う。
「その…今日は…調べたいことがあってきたんだ」
「私はしばらく何も触れないから、好きに調べて」
ふう、とため息をついて、ダンデが離れていく。
「ふふ、ありがと」
まだ全く乾いていない、二本の指を太陽に翳す。
いびつに塗られたそれは、乾けば気泡ができるだろう。
それでも、ソニアはなんだか嬉しかった。
「ねぇ、ダンデ君。今度はこっちの色塗ってよ」
ひらひらと振ったそのボトルは、エーフィの紫色。
「遠慮するよ。俺にこういうのは向いていないみたいだ」
苦笑いしたダンデは研究資料をパラパラと捲っている。
本当は。
ピカチュウ印はワンパチ。
ヒトカゲはよく見慣れたリザードン。
エーフィはダンデの髪の色。
ミミロップのクリーム色は、マントのファーの色に似ていたから。
もちろん他にもたくさんあるけれど。
一つ一つ並べなおす右手の薬指と小指は、やっぱり気泡ができていた。