ランチボックスシリーズ
仕事を終え、今日は何を作ろうかと考えながら坂道を登っていく。
いつものスーパーに寄り、足りなくなった調味料や日用品をカゴへ入れていく。
たまにはオムライスが食べたいな、と思いついて、材料をカゴに入れて、最後に回った先のデザートコーナーで足が止まった。
たくさんのスイーツが並ぶ中、パッケージに入った2切れのケーキがやたらと美味しそうに見えて、それもカゴに入れた。
ユウリは甘い物を好む。
果物、ケーキ、焼き菓子、甘いコーヒー。
どれもこれも糖分たっぷりで、彼女は今日一日頑張ったご褒美だと三日に一度は何かしら食べている。
有名店のケーキではないけれど、おそらく目をキラキラさせて食後に食べてくれるだろう。
レジの女性が手早くバーコードをスキャンしていく様子をぼんやりと眺めて、そういえば最初、スーパーに来た時は会計の時間がとても居心地が悪かったことを思い出した。
まず店内に入ったときからちらちらと視線を感じるし、カゴの中身を見られるのも嫌だった。
それでも外食にはとうに飽きて食べたいものが思いつかなくなっていたし、なにより保存料の入っていない家庭的な料理が食べたかった。
個人の料理屋に行けば食べられるが、どこに行っても顔が知られているというのもなかなかに面倒だった。
たまには一人でゆっくりと食べたい。
周りの雰囲気を気にせず、好きな物を好きなだけ。
初めて作った料理は、野菜を洗って千切っただけのサラダと肉を焼いただけだった。
それをエールで流し込んで、ひたすら食べたいだけ焼いて食べた。
それから少しずつ調理器具や調味料が増えていって色々なものを作るようになった。
失敗も沢山した。火加減を間違えて焦がしてしまったり、肉が生焼けだったり。
幸い体調を崩すことはなかったが、味は言わずもがなだ。
一年もすれば慣れてきて、外食中心の食生活から自炊に変わった。
とりわけ料理が上手いとは思ってはいない。何年もしていればレシピサイトを見て、材料を揃えてその通りに作れば作れると言うと、ユウリは目を丸くして驚いていた。
けれど本格的に作るようになったのはここ最近。特にユウリと一緒に暮らすようになってからだ。
玄関に入ると、まだ夕日に照らされていて少しだけ明るかった。
廊下にビニール袋を置いて、手洗いを済ませてそのまま着替えをすませてリビングに入る。
まだ陽は落ちていないとはいえ、そのまま料理をするには少し薄暗く、照明をつけてカーテンを閉めた。
コンロの前に立ってひき肉と冷凍していたみじん切りの玉ねぎを油の敷いていないフライパンで炒める。塩コショウを振って弱火でじっくり炒め、バターを溶かしてマッシュルームと米を炒めていく。味付けはめんつゆを入れて、少し甘じょっぱいバターライスの完成だ。
別のフライパンにバターを溶かし、溶いた卵に牛乳と塩コショウを入れて熱したフライパンに流し込む。
すぐさま箸でぐるぐるとかき混ぜ、淵が固まったころにバターライスを盛り付ける。
店のようにふわふわのオムレツも好きだが、今日は固めの卵に包んだオムライスの気分だった。
取っ手を叩いて滑らすように巻いて、おろし醤油をかけて完成だ。
もう少しすればユウリも帰ってくるだろう。
「ユウリから電話ロト~」
料理中はテーブルに置いていたスマホロトムがゆったりと浮遊して着信を告げた。
「お疲れ様です、キバナさん。あれ?お夕飯作ってたんですか?」
画面に映ったユウリの髪は濡れていて、もこもことした薄手のパーカーを着ていた。
そこではた、と気がつく。
そういえば、今日は。
「お疲れ、ユウリ。そうか、今日だったな、実家帰るの」
「そうですけど…どうかしました?」
「いや、夕飯作っちゃったんだよ。ユウリの分も」
ダイニングテーブルに乗った二人分のオムライスを指すと、ロトムが角度を変えた。
「ケーキも買ってきた。スーパーのだけど」
苦笑いを零すと、ユウリからええ、と残念そうな声が聞こえた。
「私も食べたかったなぁ」
「悪いな、すっかり忘れてた」
昨夜も今日の朝もユウリから予定は聞いていた。
なのに、帰るころにはすっかり忘れてケーキを買い、二人分の夕飯を作っていたのだ。
「無意識って怖いな…」
それだけユウリと過ごす生活が、当たり前となっていたのだろう。
なんだかばつが悪くて、頬を掻いて誤魔化した。
「明日、午前中に帰るのでお昼ご飯で食べますね。あと明日の夜は私が作ります!」
「お、なに作ってくれるんだ?」
「それは、明日のお楽しみにしてください!」
うん、と答えながら、ユウリの分のオムライスにサランラップをかけ、冷蔵庫に片付けた。
味は落ちてしまうが、それでも食べてくれるというのなら作った甲斐はあるのだろう。
いつものスーパーに寄り、足りなくなった調味料や日用品をカゴへ入れていく。
たまにはオムライスが食べたいな、と思いついて、材料をカゴに入れて、最後に回った先のデザートコーナーで足が止まった。
たくさんのスイーツが並ぶ中、パッケージに入った2切れのケーキがやたらと美味しそうに見えて、それもカゴに入れた。
ユウリは甘い物を好む。
果物、ケーキ、焼き菓子、甘いコーヒー。
どれもこれも糖分たっぷりで、彼女は今日一日頑張ったご褒美だと三日に一度は何かしら食べている。
有名店のケーキではないけれど、おそらく目をキラキラさせて食後に食べてくれるだろう。
レジの女性が手早くバーコードをスキャンしていく様子をぼんやりと眺めて、そういえば最初、スーパーに来た時は会計の時間がとても居心地が悪かったことを思い出した。
まず店内に入ったときからちらちらと視線を感じるし、カゴの中身を見られるのも嫌だった。
それでも外食にはとうに飽きて食べたいものが思いつかなくなっていたし、なにより保存料の入っていない家庭的な料理が食べたかった。
個人の料理屋に行けば食べられるが、どこに行っても顔が知られているというのもなかなかに面倒だった。
たまには一人でゆっくりと食べたい。
周りの雰囲気を気にせず、好きな物を好きなだけ。
初めて作った料理は、野菜を洗って千切っただけのサラダと肉を焼いただけだった。
それをエールで流し込んで、ひたすら食べたいだけ焼いて食べた。
それから少しずつ調理器具や調味料が増えていって色々なものを作るようになった。
失敗も沢山した。火加減を間違えて焦がしてしまったり、肉が生焼けだったり。
幸い体調を崩すことはなかったが、味は言わずもがなだ。
一年もすれば慣れてきて、外食中心の食生活から自炊に変わった。
とりわけ料理が上手いとは思ってはいない。何年もしていればレシピサイトを見て、材料を揃えてその通りに作れば作れると言うと、ユウリは目を丸くして驚いていた。
けれど本格的に作るようになったのはここ最近。特にユウリと一緒に暮らすようになってからだ。
玄関に入ると、まだ夕日に照らされていて少しだけ明るかった。
廊下にビニール袋を置いて、手洗いを済ませてそのまま着替えをすませてリビングに入る。
まだ陽は落ちていないとはいえ、そのまま料理をするには少し薄暗く、照明をつけてカーテンを閉めた。
コンロの前に立ってひき肉と冷凍していたみじん切りの玉ねぎを油の敷いていないフライパンで炒める。塩コショウを振って弱火でじっくり炒め、バターを溶かしてマッシュルームと米を炒めていく。味付けはめんつゆを入れて、少し甘じょっぱいバターライスの完成だ。
別のフライパンにバターを溶かし、溶いた卵に牛乳と塩コショウを入れて熱したフライパンに流し込む。
すぐさま箸でぐるぐるとかき混ぜ、淵が固まったころにバターライスを盛り付ける。
店のようにふわふわのオムレツも好きだが、今日は固めの卵に包んだオムライスの気分だった。
取っ手を叩いて滑らすように巻いて、おろし醤油をかけて完成だ。
もう少しすればユウリも帰ってくるだろう。
「ユウリから電話ロト~」
料理中はテーブルに置いていたスマホロトムがゆったりと浮遊して着信を告げた。
「お疲れ様です、キバナさん。あれ?お夕飯作ってたんですか?」
画面に映ったユウリの髪は濡れていて、もこもことした薄手のパーカーを着ていた。
そこではた、と気がつく。
そういえば、今日は。
「お疲れ、ユウリ。そうか、今日だったな、実家帰るの」
「そうですけど…どうかしました?」
「いや、夕飯作っちゃったんだよ。ユウリの分も」
ダイニングテーブルに乗った二人分のオムライスを指すと、ロトムが角度を変えた。
「ケーキも買ってきた。スーパーのだけど」
苦笑いを零すと、ユウリからええ、と残念そうな声が聞こえた。
「私も食べたかったなぁ」
「悪いな、すっかり忘れてた」
昨夜も今日の朝もユウリから予定は聞いていた。
なのに、帰るころにはすっかり忘れてケーキを買い、二人分の夕飯を作っていたのだ。
「無意識って怖いな…」
それだけユウリと過ごす生活が、当たり前となっていたのだろう。
なんだかばつが悪くて、頬を掻いて誤魔化した。
「明日、午前中に帰るのでお昼ご飯で食べますね。あと明日の夜は私が作ります!」
「お、なに作ってくれるんだ?」
「それは、明日のお楽しみにしてください!」
うん、と答えながら、ユウリの分のオムライスにサランラップをかけ、冷蔵庫に片付けた。
味は落ちてしまうが、それでも食べてくれるというのなら作った甲斐はあるのだろう。