ランチボックスシリーズ
「お前はユウリのどこを好きになったんです?」
「全部」
即答した男は、さも当たり前と言わんばかりの顔をしている。
「もう少し具体的に言うでしょう。普通は」
作詞が行き詰って一週間。マリィは女子会があると言ってソニア博士の家に行ってしまった。
一人でパソコンに向き合うのも飽きていて、どうせ暇だろうと声をかけるとすぐにスパイクタウンまで飛んできた男に、歌詞の参考になるかと思って聞いてみたのが間違いだった。
昔の彼女の愚痴を聞いていたときはなるほど、と思っていたことを、今は全く言わない。
これではただの惚気を聞いているだけだ。
人選を間違えたと思ったのは、最初の質問の答えを聞いた時点で気がついた。
けれど、目を輝かせて具体的に考えているこの男を止めることはできないだろう。
誘った手前、席を立つのは友人でも失礼だ。
「勿論言えるさ。なんて言ったってあのギャップだな。ほら、バトルの時と普段の時じゃ全然印象が違うだろ。あの瞳に見つめられたらさ、もう何としてもねじ伏せてやりたいって思うんだよな。けど普段はほわっとしてて少し抜けてるし。あとは」
「もういいです。聞いてたら夜が明ける」
酒を煽ることも忘れて喋りだした男は、途中で止めなければいつまでも、もしかしたら夜が明けても本当にひたすらユウリのことをしゃべり続けているかもしれない。
だいたい『全部好き』なんていう奴は中身を見ていない奴が多い。
どこが好きか明確に言えないから『全部』なのだ。それは相手を利用していたり、何かしら自分に利がある場合。有名人と付き合いたいとか、金目当て、自慢。
そんな欲が人間、どこかにはあるのだと思っていた。
けれどもこの男の場合は、本当に『全部』なのだろう。
この男は富も名声も持っている。見目も良い。天が二物も三物も与えたというような表現がぴったりなこの男が、誰からも選ばれるような女性と付き合いたいと思うのは別に不思議なことではない。
もし、この男にもそんな欲があるのなら、自分たちよりも少し若くて、モデルや女優のような華やかな職業の女性か、もしくは家庭的な女性を選ぶだろう。
それが一回り近く年下の少女を選んだ。いくら成人するまで待ったとはいえ、妹と同い年の子と付き合うなんて、と思ったものだ。
けれどそれに異を唱える者はいなかった。
ずっと前からこの二人を見てきた者たちには不思議と、ごく当たり前のことのように思えたからだ。
それだけ、二人は恋人同士でなかろうと仲が良かった。
そこでふと、疑問が沸く。
二人は喧嘩をすることがあるのだろうか、と。
キバナのことだ。甘やかしているのだろう。だから喧嘩にもならないような気もするが、湧き出た疑問に答えが欲しかった。
「お前たちは、喧嘩をすることがあるんですか」
「喧嘩?……あー、あるぜ」
「あるんですか。例えば?」
へぇ、と驚きはしたものの、自分でも思ったよりも反応は薄かった。
グラスの淵を舐めるようにウイスキーを口に含んで、具体例を待つ。
「例えば……天気の悪い日にワイルドエリアに行こうとしたときとか。あとは……カレーばっかり食ってたときとか……」
「それって最近の話ですか」
「いや、ずいぶん前だな。ユウリと付き合う前かもしれねぇ」
キバナは顎に手を当てて必死で思い出そうとしている。
もう目の前のグラスは空だというのに、追加注文する気もないようだ。
「では付き合ってからは?」
「ない、な」
「なぜか聞いても?…兄妹ですら喧嘩するんですよ?」
「まあ、腹立つことはあるぜ。でもどうしても許せないってわけじゃねぇし…オレが譲歩すればいいだけかなと」
「それが出来たら世の中から争いは消えますよ」
「オレとユウリじゃ歳が離れすぎてるからな。オレが怒ったら大人げないじゃん?」
「……ごちそうさまでした」
結局、ただ惚気を聞いていただけだった。
◇◇◇
「ねえ、キバナのどこを好きになったの?」
ソニアさんの家で久々にルリナさんとマリィと集まって、楽しくピザを食べて缶チューハイを一本飲み終えたころに、ルリナさんは唐突に話題を振ってきた。
「えっと…」
好きなところはもちろん沢山ある。けれどもそれを言葉にするのは恥ずかしくて黙っていると、ソニアさんもにやにやと口角を上げ、身を乗り出して続きを待っているようだった。
「全部、なんてのはナシよ?」
考えれば考えるだけキリがなくて、いっそ『全部』という楽な言葉で切り抜けようとした時だった。
先手を打たれ、退路を断たれる。
「えっと…普段、皆さんの前でいるときのキバナさんも勿論なんですけど。一番はやっぱり察してくれるところかなぁ。なんでか言わなくても大体のこと、わかってるみたいで。それに甘えちゃいけないって思ってるんですけど、つい…」
「愛されてるのねー……」
優し気に微笑んだルリナさんの言葉にかぁっと頬が熱くなる。
続いてソニアさんからはいいなぁ、とため息交じりの声。
「察してくれるのは当り前やけん。ずっとユウリの傍におったし」
一人、ソファの端でモルペコにお菓子をあげながら缶チューハイをちびちびと飲んでいたマリィがぽつりと呟く。
「そうよね。二人はずっとセットってイメージだったし。付き合うことになったって聞いてもようやく、ってイメージしかなかったわね」
何も言えなくなって、温くなったチューハイを一気に飲み干す。体温が一気に上がったように体が熱を持ち始め、ふわふわとした心地が襲った。
「二人はさぁ、喧嘩ってするの?なんかイメージできないんだけど」
だらりと体勢を崩し、もう何本目かもわからない缶を開けるソニアさんの顔は赤い。
酔っぱらったソニアさんとルリナさんに捕らえられた私は答えるしかなかった。
「喧嘩…ですか。あんまりしないような…」
「キバナがユウリに怒るとこって本当に想像できないのよね」
「あ、でも昔ありましたよ。今なら私のためってわかりますけど、あの時は反発しちゃって怒られたこと、あります」
「そういうのじゃなくてさ、意見の食い違いとかお互いの生活スタイルで、とかは?」
「それはないですね。意見の食い違いはありますけど、どっちかが譲ります。どっちかって言うとキバナさんが譲ってくれるし…生活スタイルも同じですね。私が理由を話せば、納得…?してくれて終わりって感じで」
例えば、行きたい場所が全く違ったり、食べたいものが違うとき。どちらも行くし、どちらも食べれるような店に行く。
でもそれは稀なことで、大体は何が食べたいか、どこへ行きたいかと聞いてくる。最初こそ遠慮をしていたけれど、全く嫌な様子がなく、もう今では素直に答えるようにしていた。
元々、あまり食い違うことはないのだ。行きたい店もお互いが興味を持てる場所がほとんどで、退屈することはない。
けれど、よくよく考えてみれば、それはキバナさんがだいぶ譲ってくれているのだろう。
本当に甘やかされてばかりだと改めて気がついた。
ぼんやりと手元の缶を眺めていた視線を上に上げると、三人があまりよくない笑みを浮かべていた。
「なーんか面白くないからあの男がびっくりするようなこと、考えてみない?」
賛成、とソニアさんとマリィが声を上げる。
ぷしゅ、っと音を立ててまた缶が開いた。
「そうねぇ…これなんてどう?」
スマホの画面がくるりとこちらを向く。
ショッピングサイトのような画面に目を凝らすと、そこには色とりどりの下着が並んでいた。
ただ、どの下着もとても面積が小さく、透けている。
「ベビードールかぁ。ユウリだったらさー、こういう可愛らしい感じの似合いそうだよね」
「うーん…でもただのベビードールじゃ、なんかつまんない気もするのよね」
「ユウリはいつも色気の無い下着やけん、これでも十分じゃなかと?」
置き去りにされて次々と飛び交う会話に、頭の中がぐらぐらとした。
こんな下着をつけて、キバナさんの前に立つことが何を意味するかぐらいわかる。
マリィの言う通り、普段つけている下着はデザインより機能性重視だ。何年か前に買った可愛らしいデザインの下着も、気が付けばサイズが変わっていて捨ててしまった。キバナさんは何も言わないから甘えていたけれど、本当はこういう下着をつけて欲しいのだろうか。
「で、ルリナも買うの?」
「どうしようか迷ってたのよねぇ。送料的な意味で。だから今日ソニアの分も合わせてって思ったんだけど」
「私も買うの?うーん、こういうの着たってダンデ君、全然見てないしなぁ。ヤローさん、こういうの好きなの?」
「ヤローったら、泊まりに来たってソファーで寝るって言うのよ?たまにしか会えないのに!だからちょっと悪戯したみようと思ったのよ」
ふーん、と言いながら、ソニアさんはどんどん下へスクロールしていく。
「ダンデ君なんか、枕に頭つけたら3秒で寝ちゃうよ。……あ、私はこれにする~。マリィも買う?」
「うちは…相手がおらんけん」
「いいじゃない、買っておいても。ネズさんにさえ見つからなかったらだけどね」
ショッピングカートには深緑、紫、ピンクと黒の下着が追加されていた。
残るは私だけなのだろう。三人の視線が痛い。
「選べないんだったらおねーさんたちが選んであげよう」
完全に目の座ったソニアさんは鼻歌交じりに商品を選び出す。次々と飛び交う会話についていけなかった私に選ぶ権利は奪われてしまった。
「そうよね、ユウリが選んだんじゃ…あの男を驚かすことなんてできないだろうし」
「できるだけ…布面積が大きいのでお願いします…」
「はいはい」
もうどうにでもなれ、と、三本目の缶を煽った。
「全部」
即答した男は、さも当たり前と言わんばかりの顔をしている。
「もう少し具体的に言うでしょう。普通は」
作詞が行き詰って一週間。マリィは女子会があると言ってソニア博士の家に行ってしまった。
一人でパソコンに向き合うのも飽きていて、どうせ暇だろうと声をかけるとすぐにスパイクタウンまで飛んできた男に、歌詞の参考になるかと思って聞いてみたのが間違いだった。
昔の彼女の愚痴を聞いていたときはなるほど、と思っていたことを、今は全く言わない。
これではただの惚気を聞いているだけだ。
人選を間違えたと思ったのは、最初の質問の答えを聞いた時点で気がついた。
けれど、目を輝かせて具体的に考えているこの男を止めることはできないだろう。
誘った手前、席を立つのは友人でも失礼だ。
「勿論言えるさ。なんて言ったってあのギャップだな。ほら、バトルの時と普段の時じゃ全然印象が違うだろ。あの瞳に見つめられたらさ、もう何としてもねじ伏せてやりたいって思うんだよな。けど普段はほわっとしてて少し抜けてるし。あとは」
「もういいです。聞いてたら夜が明ける」
酒を煽ることも忘れて喋りだした男は、途中で止めなければいつまでも、もしかしたら夜が明けても本当にひたすらユウリのことをしゃべり続けているかもしれない。
だいたい『全部好き』なんていう奴は中身を見ていない奴が多い。
どこが好きか明確に言えないから『全部』なのだ。それは相手を利用していたり、何かしら自分に利がある場合。有名人と付き合いたいとか、金目当て、自慢。
そんな欲が人間、どこかにはあるのだと思っていた。
けれどもこの男の場合は、本当に『全部』なのだろう。
この男は富も名声も持っている。見目も良い。天が二物も三物も与えたというような表現がぴったりなこの男が、誰からも選ばれるような女性と付き合いたいと思うのは別に不思議なことではない。
もし、この男にもそんな欲があるのなら、自分たちよりも少し若くて、モデルや女優のような華やかな職業の女性か、もしくは家庭的な女性を選ぶだろう。
それが一回り近く年下の少女を選んだ。いくら成人するまで待ったとはいえ、妹と同い年の子と付き合うなんて、と思ったものだ。
けれどそれに異を唱える者はいなかった。
ずっと前からこの二人を見てきた者たちには不思議と、ごく当たり前のことのように思えたからだ。
それだけ、二人は恋人同士でなかろうと仲が良かった。
そこでふと、疑問が沸く。
二人は喧嘩をすることがあるのだろうか、と。
キバナのことだ。甘やかしているのだろう。だから喧嘩にもならないような気もするが、湧き出た疑問に答えが欲しかった。
「お前たちは、喧嘩をすることがあるんですか」
「喧嘩?……あー、あるぜ」
「あるんですか。例えば?」
へぇ、と驚きはしたものの、自分でも思ったよりも反応は薄かった。
グラスの淵を舐めるようにウイスキーを口に含んで、具体例を待つ。
「例えば……天気の悪い日にワイルドエリアに行こうとしたときとか。あとは……カレーばっかり食ってたときとか……」
「それって最近の話ですか」
「いや、ずいぶん前だな。ユウリと付き合う前かもしれねぇ」
キバナは顎に手を当てて必死で思い出そうとしている。
もう目の前のグラスは空だというのに、追加注文する気もないようだ。
「では付き合ってからは?」
「ない、な」
「なぜか聞いても?…兄妹ですら喧嘩するんですよ?」
「まあ、腹立つことはあるぜ。でもどうしても許せないってわけじゃねぇし…オレが譲歩すればいいだけかなと」
「それが出来たら世の中から争いは消えますよ」
「オレとユウリじゃ歳が離れすぎてるからな。オレが怒ったら大人げないじゃん?」
「……ごちそうさまでした」
結局、ただ惚気を聞いていただけだった。
◇◇◇
「ねえ、キバナのどこを好きになったの?」
ソニアさんの家で久々にルリナさんとマリィと集まって、楽しくピザを食べて缶チューハイを一本飲み終えたころに、ルリナさんは唐突に話題を振ってきた。
「えっと…」
好きなところはもちろん沢山ある。けれどもそれを言葉にするのは恥ずかしくて黙っていると、ソニアさんもにやにやと口角を上げ、身を乗り出して続きを待っているようだった。
「全部、なんてのはナシよ?」
考えれば考えるだけキリがなくて、いっそ『全部』という楽な言葉で切り抜けようとした時だった。
先手を打たれ、退路を断たれる。
「えっと…普段、皆さんの前でいるときのキバナさんも勿論なんですけど。一番はやっぱり察してくれるところかなぁ。なんでか言わなくても大体のこと、わかってるみたいで。それに甘えちゃいけないって思ってるんですけど、つい…」
「愛されてるのねー……」
優し気に微笑んだルリナさんの言葉にかぁっと頬が熱くなる。
続いてソニアさんからはいいなぁ、とため息交じりの声。
「察してくれるのは当り前やけん。ずっとユウリの傍におったし」
一人、ソファの端でモルペコにお菓子をあげながら缶チューハイをちびちびと飲んでいたマリィがぽつりと呟く。
「そうよね。二人はずっとセットってイメージだったし。付き合うことになったって聞いてもようやく、ってイメージしかなかったわね」
何も言えなくなって、温くなったチューハイを一気に飲み干す。体温が一気に上がったように体が熱を持ち始め、ふわふわとした心地が襲った。
「二人はさぁ、喧嘩ってするの?なんかイメージできないんだけど」
だらりと体勢を崩し、もう何本目かもわからない缶を開けるソニアさんの顔は赤い。
酔っぱらったソニアさんとルリナさんに捕らえられた私は答えるしかなかった。
「喧嘩…ですか。あんまりしないような…」
「キバナがユウリに怒るとこって本当に想像できないのよね」
「あ、でも昔ありましたよ。今なら私のためってわかりますけど、あの時は反発しちゃって怒られたこと、あります」
「そういうのじゃなくてさ、意見の食い違いとかお互いの生活スタイルで、とかは?」
「それはないですね。意見の食い違いはありますけど、どっちかが譲ります。どっちかって言うとキバナさんが譲ってくれるし…生活スタイルも同じですね。私が理由を話せば、納得…?してくれて終わりって感じで」
例えば、行きたい場所が全く違ったり、食べたいものが違うとき。どちらも行くし、どちらも食べれるような店に行く。
でもそれは稀なことで、大体は何が食べたいか、どこへ行きたいかと聞いてくる。最初こそ遠慮をしていたけれど、全く嫌な様子がなく、もう今では素直に答えるようにしていた。
元々、あまり食い違うことはないのだ。行きたい店もお互いが興味を持てる場所がほとんどで、退屈することはない。
けれど、よくよく考えてみれば、それはキバナさんがだいぶ譲ってくれているのだろう。
本当に甘やかされてばかりだと改めて気がついた。
ぼんやりと手元の缶を眺めていた視線を上に上げると、三人があまりよくない笑みを浮かべていた。
「なーんか面白くないからあの男がびっくりするようなこと、考えてみない?」
賛成、とソニアさんとマリィが声を上げる。
ぷしゅ、っと音を立ててまた缶が開いた。
「そうねぇ…これなんてどう?」
スマホの画面がくるりとこちらを向く。
ショッピングサイトのような画面に目を凝らすと、そこには色とりどりの下着が並んでいた。
ただ、どの下着もとても面積が小さく、透けている。
「ベビードールかぁ。ユウリだったらさー、こういう可愛らしい感じの似合いそうだよね」
「うーん…でもただのベビードールじゃ、なんかつまんない気もするのよね」
「ユウリはいつも色気の無い下着やけん、これでも十分じゃなかと?」
置き去りにされて次々と飛び交う会話に、頭の中がぐらぐらとした。
こんな下着をつけて、キバナさんの前に立つことが何を意味するかぐらいわかる。
マリィの言う通り、普段つけている下着はデザインより機能性重視だ。何年か前に買った可愛らしいデザインの下着も、気が付けばサイズが変わっていて捨ててしまった。キバナさんは何も言わないから甘えていたけれど、本当はこういう下着をつけて欲しいのだろうか。
「で、ルリナも買うの?」
「どうしようか迷ってたのよねぇ。送料的な意味で。だから今日ソニアの分も合わせてって思ったんだけど」
「私も買うの?うーん、こういうの着たってダンデ君、全然見てないしなぁ。ヤローさん、こういうの好きなの?」
「ヤローったら、泊まりに来たってソファーで寝るって言うのよ?たまにしか会えないのに!だからちょっと悪戯したみようと思ったのよ」
ふーん、と言いながら、ソニアさんはどんどん下へスクロールしていく。
「ダンデ君なんか、枕に頭つけたら3秒で寝ちゃうよ。……あ、私はこれにする~。マリィも買う?」
「うちは…相手がおらんけん」
「いいじゃない、買っておいても。ネズさんにさえ見つからなかったらだけどね」
ショッピングカートには深緑、紫、ピンクと黒の下着が追加されていた。
残るは私だけなのだろう。三人の視線が痛い。
「選べないんだったらおねーさんたちが選んであげよう」
完全に目の座ったソニアさんは鼻歌交じりに商品を選び出す。次々と飛び交う会話についていけなかった私に選ぶ権利は奪われてしまった。
「そうよね、ユウリが選んだんじゃ…あの男を驚かすことなんてできないだろうし」
「できるだけ…布面積が大きいのでお願いします…」
「はいはい」
もうどうにでもなれ、と、三本目の缶を煽った。
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